南4・説明は大事
「敵の主な鉄道駅は4つ、首都の駅を含めたら5つね。西部戦線と中央戦線の中央敵陣後方にひとつ、東部戦線敵陣後方にひとつ。この2つはそれぞれⅠ駅とⅡ駅と呼んでいるわ。そして、首都とⅠ駅の間にあるのがⅢ駅。Ⅱ駅の東南、半島東にある山脈の麓にあるのがⅣ駅ね。」
桂樹が地図のあちこちを指さして説明を続ける。
「で、まあこの地図を見てもらえば分かると思うけど、敵国の鉄道網は、全体としてはⅠ駅と首都駅を結ぶ路線を下底、Ⅱ駅とⅣ駅を結ぶ路線を上底とした、台形のような形をしているわ。つまり、首都から戦線後方のⅠ駅まで直通なのよね。この路線が直線かつ直通なもんだから、補給能力が高くて、Ⅰ駅ひとつで西部戦線と中央戦線の両戦線を維持していられるみたい。」
そこまで説明し終えると、桂樹はふう、と小さく息をついて、顔を上げた。そして、ソファーにちょっとだけ深く座り直す。
「なるほどね、ありがとう。だいぶ詳しく分かったよ。」
黒月も地図から顔を上げ、桂樹の目を見てお礼を言う。それにしても、大きな丸目だ。なんだか、数十秒見つめられたらその目の中に吸い込まれてしまいそうなほどに。
「鉄道の話はそれくらいかしらね。あとは今の展開状況と作戦かしら。」
そう言うと、桂樹は机の端に置いた資料を手に取り、黒月に手渡す。黒月は資料を受け取ると、ぱらぱらめくり、軽く目を通す。
「おおよそのことはその資料に書いてあるけど、一応、説明しておくわね。」
「ああ、ありがとう。」と黒月。
「既に言った通り、この戦争の鍵は鉄道なのよ。だから、お互いになんとか戦線を押し上げて、相手の鉄道駅を潰そうとしてるわ。まあ、戦線をすり抜けて工作して、相手の路線を爆破、そして補給能力を消失させるっていうのも、お互いに狙ってることね。」
黒月は、資料を見ながら桂樹の話を聞く。
「それで、今の自軍の作戦としては、まずは東部戦線を押し上げてⅡ駅を奪取、そこを拠点に中央戦線と西部戦線に圧力をかけて、Ⅰ駅も奪取。あとはこの2駅を利用しながら、首都にじりじり攻め寄るって作戦よ。まあ、Ⅰ駅とⅡ駅を奪った時点で勝利はほぼほぼ確定だから、そこでザック国は降参するだろうっていう算段だけどね。」
「なるほど。ザック国の主な戦略はどんな感じ?」
「ザックの奴らは、メインの戦線では塹壕を使った持久戦を行って、奇襲攻撃の隙を狙ってるって感じね。この前も、中央戦線の地下に中央駅に繋がるトンネルを掘ってたみたい。『覚の祝福者』がそれを感知して対処したから、それによる被害はなかったんだけどね。」
黒月は「ふんふん」と鼻で相づちを打つ。
「で、自軍の主な戦法は正面衝突のごり押しね。もちろん、ちょっとは工作も試みてはいるけど、どれも対策されてあまり成果が出ないのよね。だから、戦線に兵力を集中させているんだけど、相手が持久戦に持ち込んできてるのと、相手の奇襲対策にある程度人員をとられるせいで、イマイチ押し切らない感じね。」
「なるほどね。ありがとう。戦線の状況についてはだいたい分かったよ。」
桂樹の説明を聞き終え、黒月はそう返した。黒月のその返事を聞くと、桂樹は「じゃあ、次はこの南方司令部参謀課での細かい話ね。」と言って、また自分のデスクのあちこちを探し回り始めた。
桂樹のデスクは、書類でだいぶ散らかっているので、あれでは資料はすぐに見つからないはずだ。それに、散らかっているのはデスクだけではない。この参謀次長室の半分より奥側、つまりは桂樹のデスクがある方は全体的に物が散らかっている。
恐らく、黒月がここに赴任することになり、今まで一人で使っていたこの部屋をふたりで使うことになったので、急遽部屋を片付けて、黒月のデスクを置くスペースを作ってくれたのだろう。
黒月がそんなことを考えていると、桂樹のデスクの方から「あった!」と声がした。どうやら、机に積み上げられた書類の柱の、一番下に挟まっていたらしい。桂樹はその書類を持ってソファーに戻って来る。
「はい、これがこの南方司令部のあれこれね。建物の見取り図だったり、参謀課の毎週決まってる予定が書いてあるわ。」
黒月は書類を受け取ると、またしてもぱらぱらとページをめくって目を通す。そんな黒月を見ながら、桂樹は「読まなきゃいけない書類、多いね。えへへ」と笑っている。書類を読む黒月の視界の隅に映る彼女も、相変わらず可愛い。
「その書類に書かれていることで一番関係があるのは、参謀課の会議かな。毎週木曜の12時半からね。あとちなみに私は毎週金曜は休みだから、そこのところはよろしくね。」
「うん。分かった。ありがとう。」
黒月はそう返事をすると、書類をパタリと閉じた。必要なことがそれくらいなら、細かいところはあとでゆっくり読めばいいだろう。
「あ、あと毎週水曜日、つまり今日とかは、私は夜に偵察に行ってくるから。」
「え?」と聞き返す黒月。
「偵察よ偵察。夜間偵察。」
黒月は驚いた。偵察機を操縦できる参謀はほぼいない。それに、参謀次長クラスの人間が自ら偵察に出向くことは、それ以上にない。
「へえすごいね!桂樹さん、偵察機の操縦できるんだ。」
「え?できないわよ?」
黒月の感嘆は、桂樹の聞き返しに消されてしまった。黒月の頭には「?」が多数生まれる。偵察機を操縦できずに、参謀がどう偵察に行くのだろうか。
「え、じゃあ、どうやって偵察に行くの?」
黒月は素直な疑問をぶつける。
「それは、普通に飛んでよ。あ、まだ言って無かったわね。私、参謀だけど『空の祝福者』なのよ。だから、自分で飛んでくの。」
桂樹の答えを聞いた途端、黒月の頭の中の「?」は全て「!」に置換された。偵察機を操縦できる参謀よりも、自ら偵察に出向く参謀よりも、「空の祝福者」の参謀の方が、よっぽど存在しないからだ。
黒月は、「それ、一番説明必要なことじゃん!」と心の中でツッコミを入れる。
そんな黒月に、桂樹が笑顔で話しかける。
「黒月君、偵察に一緒に行く?」
裏話コーナー
・この話も図解がTwitterに載る予定ですので、どうぞご参考ください。ちなみに、桂樹の外見や行動は私の好みではありません。普通に片付けできるひとの方がいいです。




