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首都11・希望の証言

 「それで、今日は君のスパイ疑惑を晴らせる証人を連れてきた、ということでいいのかね?」


 副総司令官が、黒月に確認する。まったく、まだ朝だというのに副総司令官の額には脂汗が光っていて、爽やかさの欠片もない。


 「ええ、そうです。彼が北方司令部参謀課のミケルチョフ参謀三段です。」


 黒月は毅然とした態度で答える。ミケルチョフは軽く「初めまして。お願いします。」と言い、会釈する。


 「それでは、二回公判を始める前に、新たに証人もいることだし、状況を整理しておこう。黒月北方参謀長は、今回の冬季全面攻勢において、北方軍中枢に対してその作戦情報を偽造・隠匿し、敵国・サンドリア公国に対して作戦情報を漏洩した。そして、その事実によりサンドリア公国、または第三国のスパイ容疑がかけられている。」


 副総司令官が現在の状況を改めて述べた。副総司令官の両サイドに座る他の面々は、相変わらずどこに焦点があるのだかハッキリしない目で、裁判の成り行きを流している。


 「それでは、早速証人に証言をしてもらおうか。分かっているとは思うが、被告である黒月北方参謀長および証人であるミケルチョフ参謀三段には黙秘権は無い。また、虚偽の証言をした場合には重大な刑罰が下るので、重々注意するように。」


 副総司令官はそう言うと、両手を組んで机の上に置き、上体を若干前傾させるようにして座り直した。まだ一言も証言していないのに、相手を追い詰めるような意気を感じさせる姿勢だ。


 ミケルチョフはその気に少しばかり押されながらも、口を開いた。黒月は、目で副総司令官を直視しながらも、耳ではミケ爺の発言に全集中を向ける。


 「はい。黒月北方参謀長は決して外国のスパイではありません。黒月北方参謀長は、攻勢前、とある部隊の救出作戦を終えた時、私に『帝国軍人としてやらなきゃいけないことは全うするよ。最小の資源で、最大の功績を出す。その為の作戦を考えるのが僕らの仕事だから。』と話しております。」


 副総司令官は「ふむ」と軽く息を吐いて、ミケルチョフの話を聞いている。


 「この発言は、明らかに帝国軍への忠誠が表れたものです。それに、この発言があったのは私と黒月北方参謀長ふたりきりの時です。この発言が持つ意味を考慮すると、そういったタイミングで黒月北方参謀長が言ったこの言葉は、本心であると考えられます。」


 「なるほど」と副総司令官。


 「そのうえ、私は『知の祝福者(ブレスド)』です。過去に見聞きしたことは、全てそのまま記憶しております。ですから、この黒月北方参謀長の発言は一字一句間違っておりませんことを保証いたします。」


 ミケルチョフが落ち着いた声で証言を言い切った。そのあまりに整然とした主張に、黒月の上がっていた心拍数も、少しばかり落ち着く。


 話を聞き終えた副総司令官は、なにか小さな納得をした顔をしている。そして、にちゃりと口を開く。黒月は、副総司令官の第一声に目と耳を集中させる。


 「なるほど。今の証言は嘘ではなさそうだな。」


 黒月の肺に詰まっていた空気が少しばかり漏れ出る。


 「あえて言わずにいたが、私は『(かく)祝福者(ブレスド)』だ。相手の呼吸音や心音などを、ある程度、詳しく聞き分けられる。それに尋問の経験を合わせることで、相手が嘘をついているのか、いないのか、ある程度分かる。その観察と経験に照らせば、いまのミケルチョフ参謀三段の証言は嘘ではないらしい。」


 「ご理解いただけて、何よりです。」とひとまず安堵のミケルチョフ。


 「嘘というのはな、案外、即席のもの、つまりその場でのハッタリなどは見分けにくいものだ。相手がそもそも平静を保っていないことが多いからな。それに比べ、綿密に練られた嘘ほど分かりやすい。練った嘘を口に出すとき、人には少なからず変な緊張が起こるからだ。ミケルチョフ参謀三段の話は、かなり具体的なものだった。それを考慮しても、今の証言は嘘ではないと判断できるな。」


 副総司令官の言葉を聞き、黒月の緊張の糸が緩んでいく。ミケルチョフも表情が緩み、気のせいか、伸びていた背筋も若干崩れたように見える。


 しかし、そんな弛緩も束の間、副総司令官はさらなる質問をミケルチョフにぶつける。


 「で、他の証言はあるのか?」


 「他の証言と言いますと?」


 「今のは、黒月北方参謀長の軍に対する思想的な証言だっただろう。他に、黒月北方参謀長自身の、内面的な、性格的な証言があれば、してくれ。それも判決の重要な参考になるからな。」


 副総司令官の右隣に座る参謀本部参謀長が、こくりこくりと頷く。ミケルチョフは数秒沈黙したあと、ゆっくりと答え始めた。


 「内面、といいますか、その人柄を推察できる発言はございます。『無駄に人殺してもかわいそうじゃないか。……軍人とは言え、死にたい奴なんていないだろうし。……敵にも家族はいるんだよ。死んだら悲しむ奴がさ。だから不必要には殺さないべきなんだ。人殺しなんて、恨みを買うだけだからね。いいことなんてありゃしない。』。先ほど証言した発言と同じ時に、黒月北方参謀長がおっしゃったことです。」


 再び「ふむ」と副総司令官。心なしか、先ほどよりも少しばかり音程が低い気もする。


 「この発言の通り、黒月北方参謀長は敵にも同情心を持ち合わせるような、心優しき人物であります。そんな人物が、国家を裏切るようなスパイ行為に走るとは到底思えません。」


 ミケルチョフが証言を述べ終わると、副総司令官は机の上に置いていた組んだ手をほどき、両ももの上においた。それに連動して、上体は前傾ではなくなり、椅子の背もたれに体重を乗せる状態になる。


 姿勢を変えると同時に、副総司令官は眼を若干細め、口角を上げた。何か、罠にかかった小動物を視線で舐め回すような表情だ。その表情に、黒月は本能的な危機を感じた。そして、その本能の答えは、コンマ数秒が過ぎないうちに出た。


 「なるほど、しかし、その証言、矛盾していないか?」

裏話コーナー


・まさかここで北2のシーンが生きてくるとは。いやー、私もびっくりですわ。別に最初から「この会話は後々使うぞ」と決めていたわけでも、この裁判編を書いているときに、遡って北2のシーンを書いたわけでもありません。テキトウに書いていたシーンが、たまたま話の流れ的に使えそうだったので使った感じです。

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