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首都7・変わったり、変わらなかったり

 「で、いきなりどうしたの?帰って来てくれたのは、めちゃくちゃ嬉しいんだけどさ。」


 黒月の手元に紅茶をコトンと置きながら、サリーが尋ねた。サリーもティーカップを持ち、机を挟んで反対側の席に座る。


 ここは、黒月の自宅の書斎。玄関前で衝撃の再会を果たしたふたりだったが、立ち話もなんだからと言って、サリーがこの書斎に引き連れてくれた。玄関からこの部屋に来るまでにちらっと室内を見まわして、だいぶ昔とは変わったな、と思っていたが、この書斎は黒月が家を出たその時から何も変わっていない。


 「いや、ちょっといろいろあってね、数日暇ができたから、久しぶりに帰ってきたんだ。」


 黒月は淹れたてでまだ飲むには熱い紅茶を、チビチビっと口に含んでから、喉に通す。


 「って言うか、僕の方が驚きだよ。サリーが修道女になってるなんて。昔の聞かん坊だった君からは想像できないや。」


 「聞かん坊って……失礼な。『軍人になる』って言ってこの町を出た後にさ、黒月君が『この家は教会の子供たちの住む家にしてあげてください』っていう手紙を送ってきたでしょ?それで、この家で子供たちの面倒を見ることになったんだけど、その子守役が私になって、そのまま教会に就職したのよ。」


 「なるほどねえ、この家も教会の役に立って何よりだよ。まだ教会には行ってないんだけど、神父さんは元気?」


 サリーも紅茶を飲みながら応える。淹れたてなのに熱くないのか、結構な量を飲み込んだ。


 「ええ、未だに元気よ。まだ行ってないなら、今から一緒にいきましょう!きっと神父さんも喜ぶわ。あ、でも子供たちの朝ごはんが終わってからね。朝早いから黒月君もまだ食べてないでしょ?一緒に食べましょ。」


 それから、黒月はサリーと、そして黒月宅で暮らす5人の子供たちと共に朝食をとった。卵を焼いたものにサラダ、小ぶりな魚にパンと、朝食にしてはしっかりしたメニューだった。教会に預けられ、今はサリーのもとで生活をしている子供たちも、おいしそうに食べていた。


 教会に預けられる子供というのは、大概にして両親を早くに亡くし、親戚にも引き取り先が見つからなかった子たちだ。南の戦線の長期化にともなって、両親を戦争で亡くした子供も増えているらしい。


 朝食の間、子供たちは珍しい来客である黒月に「あなたは誰?」とか「どこからきたの?」であるとか、質問の嵐を浴びせていた。黒月もかつて、自分たちやサリーと同じように教会に預けられていたと知ると、驚くと同時に親近感を覚えたようだった。最初に黒月を出迎えてくれた赤毛の少女は、黒月とサリーを見て「なんだか夫婦みたいね」と言って、黒月とサリーを困らせた。


 朝食をとり終えると、子供たちはサリーに手伝われながら学校へ行く準備を始めた。今日必要な教科書はなんだっけ、とか、お弁当を忘れないように、とか、サリーと子供たちの慌ただしくも微笑ましい「家族」の様子を、黒月は無意識の笑顔で眺めていた。


 「じゃあね、いってらっしゃい。気を付けていくのよ!」


 サリーが玄関で子供たちを送り出す。子供たちは元気に「はーい」と返事をして、駆け足で玄関を飛び出していった。


 玄関の扉が閉まると、サリーはふう、と小さく息を吐いて、黒月の待っているリビングへと戻ってくる。


 「お疲れ様。いつもあんな感じなのかい?大変だね。」


 黒月が声をかける。


 「ええ、やっぱりいつも朝は慌ただしいわね。でも、もう慣れたわ。」


 「へえ。なんだか、見ていて、本当にあのサリーがお母さんみたいに、しっかりしてるなぁって思ったよ。」


 黒月は、リビングの壁に掛けられている小さな木の時計を見ながらつぶやいた。あの時計は昔のまま、チクタクと味のある時を刻み続けている。


 「なにが”あのサリー”よ。変なこと言ってないで、私たちも教会に行きましょ?黒月君のこと見たら、多分神父さん驚いて、喜びすぎて死んじゃうわよ!」


 「いや、もう神父さんもいい歳なんだから、それ冗談になってないぞ……。」


 へへっ、と無邪気な表情を見せて笑うサリーは、先ほどまでのお母さんとしての面影は薄く、黒月の良く知る腕白で元気いっぱいの、子供の頃のサリーそのものだった。


 それから、黒月とサリーは教会へ向かった。この町で教会といえば、それが指すのは町の中心にある大きな教会だけだ。道中、やはり後ろを怪しげな(というか、明らかに軍の尾行)二人組の男がついてくるのを感じたが、気にしないでおく。


 歩いている間、サリーは黒月に今は軍で何をしているのかとか、もっと休みをとって頻繁に帰って来てくれればいいのにとか、現在の黒月の近況に関する質問だったり注文だったりをぶつけた。


 黒月が北方での攻勢のことを話すと、サリーはその活躍に驚いた。そして、「黒月君て、昔から不思議なところあったけど、今はそうやって活躍してるんだね。想像通りのような、そうじゃないような、そんな感じ。」と真っすぐ前を見ながら呟いた。


 サリーには、今その攻勢が原因で軍裁判にかけられていることは黙っておいた。裁判にかけられていることを誰かに話すこと自体は問題ないことなのだが、サリーに無用な心配をかけたくなかったのだ。


 黒月は「そうだね。僕もサリーも、変わったようで変わってないのかもね。」と返し、目前に迫った教会の天井にある三角形のモチーフを見つめた。


 教会で礼拝があるのは毎週日曜日。今日は日曜日ではないから、教会の前の広場もひとはまばらにしかいない。黒月とサリーはそんな広場を通って真っすぐ教会の扉へと向かう。そして、ふたりは、サリーはいつも通りという様子で、黒月はどこか緊張した面持ちで、大きくて重い教会の扉を開けた。


 

裏話コーナー


・明けましておめでとうございます。初日の出、見ましたか?黒月の幼馴染的存在であるサリーとの絡みが続きますが、私にそんな幼馴染はいないので全て妄想で描写しています。会話や流れに違和感があるかもしれませんが、それも全て「異世界だから」で片づけて下さい(作者の表現力不足)。

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