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首都4・希望の証人

 証拠や証言……。それがあればこの状況が改善されるのか。黒月は、脳内で挙げることができそうな証拠を探す。しかし、そんなものは何一つ無かった。自分の行動はあまりにも怪しいかったということを、客観的に確認しただけだった。


 黒月は次に、証言をしてくれそうな人を探す。僕が帝国に対して忠誠心を持っているという証言が必要だ。それには、北方で一緒に攻勢に挑んだ人の中から選ぶのが一番効果的だろう。北方で親密な関係にあった人……。


 黒月は脳内で人間関係をざっと見返す。それと同時に、無意識に会議室も見回す。体重をかけ過ぎた手首が痛いので、上体を起こし、足にまっすぐ体重を乗せる。

 

 黒月の視線が会議室の端まで辿りついたとき、その視線はその男のところでピタッと止まった。そうだ、君がいたじゃないか。黒月は希望が混じった明るめの声で、彼に声をかける。


 「そうだ、アレクセイ。君から証言してくれないか?2週間ほどの付き合いと言えども、君なら僕のことも良く知っているだろう?」


 「ええ。私は北方の面々のなかではかなり参謀長のことを良く知っている方だと思います。ですが、私が存じ上げているのは黒月参謀長の戦略思考やその人柄だけです。参謀長がこの帝国に対して忠誠心を持って働いていらっしゃったのは肌で感じておりますが、このような場で証言できるほどには確証を得られていません。」


 アレクセイの返事の冒頭を聞いた黒月はその顔を少しほころばせたが、その末尾まで聞いた後には力なく肩を落とした。


 なんてクソ真面目なんだ。証言とは言え、自分とアレクセイの付き合いなのだから、ちょっとくらい話を盛ってくれればそれで良かったのに……。


 しかし、証言を断られてしまった今、そんな恨めしい目でアレクセイを見ていても仕方がない。依然として背中に鉄柱でもはいっているんじゃないかと思うほどに背筋を伸ばして立っているアレクセイに一瞬視線をやってから、副総司令官に視線を送る。


 副総司令官は、皮肉の表情を浮かべることもなく、同情の顔も見せず、淡々と切り出す。


 「どうやら、有効な証拠も証言も得られそうにない様子だな。では、黒月北方参謀長の責任追及裁判は、これで結審とさせてもうおう。先ほど参謀本部参謀長からもあった通り、黒月北方参謀長のその任の解任の上、除籍処分ということでよろしいですかな?」


 副総司令官はその脂肪で覆われた首を左右にひねり、会議に席を連ねる他の面々に確認のアイコンタクトを取る。右を向き、そして次は左を向いて、全員の無言の了承が得られようとした、その時。


 「ちょっと待ってください!!」


 会議室に青年の声が響く。そう、それはもちろん黒月の声だ。黒月は一歩前に踏み出すと、机に下腹部がめり込むほどに前のめりに立って、机に勢いよく両手を振り下ろし、副総司令官に詰め寄る。


 「なんだね?」


 黒月の勢いに押されて、若干首を反らす副総司令官。


 「ちょっと待ってください!僕のいた北方には、僕のことを良く知った人が他にもいます!彼らの話を聞いてから結論を出してください!これじゃああんまりにもずさんな裁判じゃないですか!」


 「その証言できる奴らは今北方司令部にいるのだろう?彼らが首都に来るのを待てというのか。」


 副総司令官が渋い声で返した。北方司令部の最寄り駅リュースベルグから首都ヴァスティまでは列車で3日かかる。


 「ええそうです。しっかりと証人の話を聞いてからにして下さい。それでないと、帝国軍はサンドリア公国を負かすほどの戦略家を失いますよ?それも、小さく不確かな杞憂によって。」


 黒月が落ち着いた声で副総司令官との駆け引きに出る。自分が軍にとって有益なのは、自分自身も副総司令官も良く知るところだ。だからこそ、こう言えば副総司令官が結審を躊躇するのは想像に難くない。


 そして、予想通りに躊躇の表情を見せた副総司令官は、眉間にしわを寄せながら、奥歯をグッと噛みしめている。その顔のまま黒月と数秒見合った後、ゆっくり左右の面々を見渡し、結審を延期するかどうかの周りの意見を探った。


 参謀本部参謀次長と軍人事部副長、それに端の方に座る保安隊関係者たちは皆、我関せずといった様子で沈黙を貫いている。おおよそ、結審は承認を呼んでからでもいいのでは?といった他人任せな雰囲気だ。


 副総司令官の横に座る参謀本部参謀長は、口に手を当てて、黒月をチラチラと見ながら副総司令官に何か耳打ちしている。副総司令官の眉が少し下がったところを見る限り、どうやら参謀本部参謀長も結審の延期に賛成の意見を述べているようだ。


 副総司令官は参謀本部参謀長の耳打ちを聞き終えた後、浅く数回頷き、なにか自分のなかで言葉を飲み込んだ後に、こう言い放った。


 「よし。では、黒月北方参謀長の意見を聞き入れ、軍益を損なわないためにも、結審を先延ばしとする。北方から中央までおおよそ3日はかかるだろうから、次の開廷は4日後の朝9時からとする。場所は同じくこの会議室で。黒月北方参謀長は、今すぐに電報を使って北方にいる証言者に首都へ来るように伝えること。もし証言者の協力を得られないようなら、それが判明した段階で結審とする。それでは、次回審議まで一旦解散。」


 副総司令官の言葉を聞き取った後、黒月は小さく「ありがとうございます。」と言うと、しばらく座っていなかった自分の席に、ドサッと座り込んだ。柔らかい座面と、心地よいカーブを描いた背もたれが、黒月の尻と背中を包み込む。


 なんだか、ここ3日間の旅路よりも数倍疲れた気がしてならない。そんなことを思いながら、会議室を後にする本部の面々を眺める。アレクセイは、いつのまに会議室の奥の部屋に戻ってしまったらしい。


 さて、ミラレットさんとミケ爺に証人要請しなくては。

裏話コーナー


・北15の祝勝会において、アレクセイがパーティーなのにも関わらずコーヒーを飲んでいたのは、アレクセイが真面目かつ融通の利かない人物だ、ということを表したいがためのギャグだったのですが、そのおかげで、裁判においてアレクセイが証言を断る整合性ができたのかなと勝手に思っています。もちろん、たまたまですが。

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