9 僕と女王の懺悔
「教えてもらって良いですか? どうして国中を猫にしてしまったのかを」
「そうよね、そこは聞くわよね」
露骨に話したくなさそうだが、さすがに聞かない訳にはいかない。姉に寂しい思いをさせたせめてもの責任として、きっちり話してもらう事にしよう。
「……この国って、構造がちょっと特殊でね。その時の王の物理的な力が、そのまま国の求心力に繋がるのよ」
物理。まあ魔法の強さとかも込みなのだろうけど。
「それで、前王の時代から国に仕えてる人達の一部が、私の力を疑っていたのよ。私みたいな小娘に王は務まらない、とね」
「それで、こんな事をしたと?」
「ええ。自分の力を直接示すのが一番早いしね。それに、一時でも人の姿を捨てて生活すれば、少しは頭を冷やしてくれる……かと思ってたんだけど」
「無駄だったみたいですね」
「……完全に無駄って訳じゃなかったけど、そうね。国民を巻き込んでまでやる事じゃなかったわね」
身勝手ができる事を証明しなきゃいけないなんて、王様ってのも面倒な職業だな。
「ちょうど良い機会なのかもね。明日の日が昇ると同時に、みんなの猫化を解くわ。そして、自分なりの方法で今回の責任を取るわ」
「そうしてくれると助かります」
良かった。少なくともここに来た意味はあった。
「でも、君が側にいてくれるなら、このまま猫の国の女王でも良いわね。君を通じて猫の声が聞けちゃうし」
「謹んでお断りさせていただきます」
ただでさえ姉の相手でいっぱいいっぱいなのに、これ以上余計な役目を増やさないで下さい。
「ふふっ、冗談よ。でも、それを抜きにして、私と三人でここに住まない?」
「それは……」
そりゃそうだ。長い間生き別れていた双子と再開できたのだから、一緒にいたいと思うのも当然か。
「……姉がどうするかは分かりませんが、僕はここにはいられません。明日、実家に帰ります」
「そう、残念ね。ちなみに、アビの意思は始めから決まってるわよ。彼女にとって、君の隣が唯一の居場所なのだから。今までも、これからも」
姉と同じ顔でそんな悲しそうな顔をされると、ちょっといたたまれない気持ちになってしまう。
「……ですが、日を改めて、また姉を連れて会いに来させてもらいます」
そのせいか、つい余計な申し出をしてしまった。
「うん。待ってるわ」
正直こんなヤバい王家とはできれば関わりたくないが、そうも言ってられない関係になってしまったのだ。僕も覚悟を決めよう、面倒事に巻き込まれる覚悟を。
「そうだ! 次は私から聞いて良いかしら?」
「ええ、もちろん」
女王が、姉ではなく僕に聞きたい事とは一体?
「君にはアビの事を聞きたいのよ。あの娘、口を開けば君の事ばかり話していたから」
「ああ……」
それは災難でしたね。
せめてもの謝罪の意を込めて、自分が知る姉の情報を、可能な限り語って聞かせた。
「もうこんな時間ね。そろそろ私達も休みましょうか」
「そうですね……あっ」
ぶっちゃけ忘れてた。今女王のベッドは姉と女中猫が占領している事を。
「まあ広さは充分にあるし、私もあれに混ざって寝る事にするわ。君も一緒に来る?」
「いえ、自分の寝床は自分で見つけます」
そう言って僕は部屋を出た。
明日元の姿に戻ると分かっていてあれに混ざるなんて、僕にはとても耐えられなかった。