7 僕の城の探検
さっきも感じた事だが、この城はとにかく大きくて広かった。元々人間の大きさで作られたものを猫の尺度で見ているから、と言うのもあるが。
その中で、多くの猫が様々な仕事をしていた。守るべき生活があるのは農家も城も変わらない、と言う事なのだろう。
「……いや、その発想はおかしい」
その道中で、思わずツッコミを入れてしまう程、怪しい仕事をしている猫がいた。
頭の上にお盆を乗せ、そこにお菓子らしきものが入った器を載せていた。
「あ……あの、ごめんなさい。今話しかけないで下さい」
必死にバランスを取りながら、ゆっくりと歩いていく。器の中身と向かってる方向から見て、行き先はおそらく女王の部屋か。
「女王様に……お茶菓子を……」
見るからに危なっかしく、何とかしてあげたいが、今の僕には何もしてやれない。せめて目的地まで落とさない事を祈ろう。
そもそもの目的が時間潰しなので、城の外側だけでなく、入れそうな場所にはどんどん入っていった。
「首尾はどうだ?」
「問題無い。新入りの女中にあれを持たせ、女王の元へ向かわせた。あいつなら、女王が警戒せずに受け取るはずだ」
大広間らしき場所に来たその時、何やら悪い予感しかしない会話が聞こえてきた。
盗み聞きがばれるとまずそうなので、とりあえず隠れて聞き耳を立てる。猫だが忍び足の技能は無いので、立ち去ると言う選択肢は無かった。
「で。あれを食べれば、本当に女王は死ぬのか?」
「それこそ問題無い。今回のために用意した人間用の毒だ。」
新入りの女中、食べ物、毒……ああこれ、さっきの子だよね。
そもそも、ちゃんと届いたのだろうか?
「誰だ!」
しまった! 見つかった!
「そこで何をしてるのかしら?」
……と思ったけど、どうやら違うらしい。
「なっ! 女王、だと?」
「なぜここに?」
正直それは、僕も疑問である。
「ふふっ。あなた達、いつの間にやらずいぶん偉くなったのね」
そう言って女王は、手に持った器を掲げて見せた。
「それはともかく、あなた達の気持ち、確かに受け取ったわ」
さらに、器の中のお菓子を手に取り、そのまま口の中に入れてしまった。
「ふっ、ふはははは! 馬鹿め、そのまま死ぬが良い!」
「残念だけど、あなた達の思い通りにはならないわよ」
異様に高揚しているあっちの猫と、妙に冷静な女王との落差が何だか奇妙だ。
「毒が入っていると分かってさえいれば、どうとでもなっちゃうのよ。つまらない結果でごめんね」
「くっ! 覚えてろ、この化け物め!」
完全に悪党な台詞を残して、猫達は走り去って行った。彼等は本当にこの城の関係者なのだろうか?
「え~と……まずはごめんね、変な事に巻き込んじゃって」
「いえ、それはもうどうでも良いです」
「その辺もまとめて説明するから、とりあえず戻って来てくれるかしら?」
「分かりました……あの、自分で歩けますので」
「あら、良いじゃない。一度やってみたかったのよ」
「自分の所の猫でやって下さい」
女王が僕を抱き抱えた格好で、僕達は部屋に戻った。