6 僕と姉と女王
「さ、どうぞ」
「ありがとう、アンちゃん」
僕達は、女王直々にお茶を淹れてもらい、ご馳走になっていた。ちなみにこの部屋は、本当に女王の私室なのだそうだ。
ちゃんと猫である僕の分まで淹れてくれる辺り、人格が破綻した狂人という訳でもなさそうだ。本当に、一体なぜ国民総猫化なんて事をしたのだろうか?
「さて。一応はじめましてよね、私達」
「うん。私はアビだよ」
「僕は弟のシニと言います。やはり、何かあるんですね?」
僕が言葉を発した瞬間、女王は怪訝な表情でこちらを見た。
「……やはり、聞き間違いじゃなかったのね」
でもすぐに表情を戻し、自身にも淹れたお茶を優雅に啜った。
「私達は双子として産まれたの。でも、元々子供を一人しか作るつもりのなかった元国王と王妃は、その片方を信頼のおける一家に預ける判断をしたの」
なるほど、我が家の親バカの理由はこれか。
そりゃ王家から預かった子供となれば、思わず甘やかすのも致し方無いか。
「それで、どうして今日はここに来ようと思ったの?」
「アンちゃんにお願いがあって来たの!」
「お願い?」
「うん。私だけ仲間外れは嫌だから、私も猫ちゃんにして欲しいの!」
本当に言いやがったよこの姉は!
対する女王の反応は……
「……ふふっ……あっはははははは!」
大笑いなされております。そりゃそうだ。
「あ~、本当に面白い娘に育ったわね。でもごめんなさい、それは無理なの」
目に涙を浮かべながら、女王は意外な言葉を口にした。
「無理、ですか?」
「ええ。今の時点で猫になっていないと言う事は、猫になれない理由があるのよ。私の予想としては、アビと私は魔法的に“同一の存在”として認識されている、なんて所かしら?」
つまり、女王自身が猫化の対象ではないため、自動的に姉も対象外になった、って事だろうか。
「だってさ。どうする? 姉さん」
「う~ん……」
さて、姉はこれからどんな判断をするか。これは僕にも読めない。
「ねえ。すぐに答えが出ないようなら、その間ここにいない? 私も今まで会えなかった分、積もる話もある事だし」
「……うん、私もアンちゃんともっとお話ししたい」
「決まりね。それじゃあ部屋を用意するわ」
そう言えば、姉はいつも僕や両親とばかり一緒にいたため、同世代の女の子とこうやって楽しそうにお喋りする光景を見た記憶が無い。
これは、姉と距離を置き、成長を促す良い機会なのかも知れない。
「それでは、姉をよろしくお願いします」
そこで僕は、姉をここに置いてこのまま帰ろうとしたのだが……
「帰っちゃダメだよ!」
「何言ってるの? 君にも聞きたい事がいっぱいあるわ」
まさかの両方から止められた。姉はともかく、女王から止められるとは思ってなかった。
「……それでは、僕はしばらく城の中を見て回ってきて良いですか? 後で戻って来ますので」
「ええ良いわよ……ありがとう」
せめて姉妹水入らずの時間を邪魔しないために、僕はこの城の中をしばらく探検する事にした。