4 僕と姉の遭難
姉と僕は今、道中にあった小川のほとりで休憩をしていた。
歩いたのはもっぱら姉だが、姉は僕の前では無理をする傾向があるので、僕から休憩を申し出て今に至る。
それ程長い道のりでもなかったので、食糧はおろか水すら持ってきていない。水分だけでも補給できる場所があって良かった。
「おいしいね、シニ君」
「うん」
本当に、こんな水がきれいな川があって良かった。そんな事を考えながら、僕は川の中を覗き込んだ。
結構流れの速い水面に映るのは、紛れもなく猫である自分の姿。あっ、今まで気にした事無かったけど、自分って黒猫だったんだ。
「シニ君、あんまり川に近づくと危ないよ」
「え?」
姉の声にふと意識を向けた次の瞬間、僕は足を滑らせ、川に落ちた。
「シニ君!」
姉の悲鳴を聞きながら、どんどん流されていく。
「これは……ヤバいな」
さっきから泳いで川岸に上がろうと試みるが、流れが速くてうまくいかない。
せめて溺れないようにしながら、僕は脱出の機会を窺っていた。
「あれだ!」
流される途中で、僕は川の真ん中辺りまで枝が伸びた低い木を見つけた。
僕は必死で位置を微調整し、垂れ下がる枝に捕まる。そこから何とか枝をよじ登り、陸に戻る事ができた。
「ふう、何とかなった。でも、この体って、濡れると大変なんだよな」
猫の体は人間のとは違い、細い披毛が密集して生えている。これがまた結構水を吸うのだ。重いし冷たいしなかなか乾かないしで、かなり面倒臭い。
犬みたいに体を振ってみるが、あまり効果は無かった。しばらくは濡れたままでいるしかない。
「姉さんを探すか」
濡れた体はひとまず置いといて、僕は川の上流に向かって進み始めるが、そこで少々困った現実が立ちはだかった。
休憩した場所はそうでも無かったが、下流の周辺は深い森で、真っ直ぐ川に沿って上るのは大変な状態だった。
猫である僕なら多少無理も利くが、姉はそうもいかないはずだ。最悪姉が僕を探して、結果遭難しかねない。
「……急ぐか」
今の僕にできる事は、一刻も早くさっきの場所に戻り、行き違いになる前に姉と合流する事だけだ。
僕は意を決して木の上に登り、枝伝いに進み始めた。ところが……
「シニ君! こっちこっち!」
嘘だろ?
ほんの少し進んだ先に、なんと姉がいた。まるでこちらの居場所が分かっていたかのような正確さだ。
「姉さん……」
僕は驚きと安堵で、少しの間呆然としていた。
姉は自分が濡れる事も構わず、僕を抱き抱えてくれた。
「大丈夫だった?」
「うん。でも、姉さんはどうしてここが分かったの?」
「お姉ちゃんはね、シニ君の声ならどんなに遠くからでも聞こえるんだよ」
この姉が言うと、あながち冗談だと一笑に付せない所がちょっと怖い。
「さ、戻ろう?」
「うん」
いつもは僕を拘束し破壊する恐るべき姉の腕だが、今はただその暖かさが嬉しかった。