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猫の国  作者: 氷上人鳥
3/12

3 僕と姉の魔法

「姉さん、野犬だ。けっこういる」


「どうしよう? シニ君」


「幸いまだあっちには気付かれてない。迂回しよう」


 気付かれました。


「姉さん、迂回って言葉の意味知ってる?」


「ん?」


「ああ、うん。ごめん」


 姉に理解できない言葉を使ってしまった僕の方が間違っていた。世界はそうできている。

 それはさておき、これはピンチだ。

 今、僕達は野犬の群れに囲まれていた。奴等は唸り声を上げ、今にもこちらに襲いかかろうとしている。


「まともに相手しても勝ち目は無いか。姉さん、今は()()()()()()()から、こっそり僕に力を貸して」


「……うん」


 やっぱりまだ抵抗があるか。でも、今はそれどころじゃない。


「……お願い、シニ君。ワンちゃん達を追い払って!」


「了解」


 姉の嘆願と共に僕の体が光り、力が湧いてくる。この状態の僕は、不可能さえも凌駕して、姉の望みを叶える。

 ちなみにこれは姉が持つ魔法の効果である。


 この国の人間の多くは、昔から魔法が使える。

 どの位使えるかは個人差が大きく、女王のように大規模かつ強大なものが使える人間もいれば、全く使えない者もいた。ちなみに僕は使えない側に属する。

 そんな中でも、姉の使える魔法は特殊で、僕のみを対象としてしか使えない。代わりにその効果は絶大で、僕に何でもさせる事ができる。正に“何でも”だ。

 例えば、歩けば一日かかる距離があろうと、姉が魔法で『五秒で来い』と願えば、僕は本当に五秒で姉の元に到着できる。もちろん、そこに至る過程は惨憺たるものになるが。


「……ふぅ。ようやく行ったか」


 野犬の群れを追い払い、ほっと一息。


「僕が良いって言ってるんだから、そんな顔しないで」


「……うん」



 昔、姉はこの魔法を使い、僕にやりたい放題していた。いつでもどこでも呼び出された挙げ句、散々おもちゃにされ続けていた。

 ある日、そんな横暴極まる姉が心底嫌になり全力で拒絶すると、偶然姉の魔法に抵抗する事に成功した。

 次の瞬間から姉は号泣。親に諭され、その日一日姉とは接触せずに過ごした。

 翌日、目を真っ赤に腫らした姉から、こう宣言された。


「もう二度と、シニ君に魔法は使わないから……」


 その後にも何か言ったみたいだが、声が小さくて聞き取れなかった。こちらから聞き返せるような空気でも無かったので、何を言ったかは分からず終いだ。

 その一日で姉に何があったのかは僕には分からない。でも、よほど僕に自分の魔法が抵抗されたのがショックだったのだろう。


 そんな事があってから、姉は本当に僕に魔法を使わなくなった。唯一の例外として、さっきみたいにこちらから頼んだ時だけ、渋々使うくらいだ。


「ぎゅぅ~!」


「痛い痛い! 逃げないから、そんなにきつく抱き付かないで!」


 道の安全は確保できたので、僕達は先に進む事にした。

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