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猫の国  作者: 氷上人鳥
2/12

2 僕と姉の出発

「起きたのね。おはよう、シニ」


「おはよう、母さん」


 リビングでは、母が朝食の準備をしていた。


「聞いてよ母さん。また姉さんがおかしいんだ」


「いつもの事じゃない」


 このやり取りが普通に成立する事の異常さに気付いて母さん。


「いや、今回は急に城に行くとか言い出して」


「ええ、聞いてるわよ。たまにはゆっくり遊んで来なさいな。家は大丈夫だから」


 我が家は農家で、基本的には一家総出で仕事に当たっている。つまり姉にも僕にも、本来やるべき仕事がある……はずだった。

 行かずに済む理由、もとい懸念していた事を先に埋められてしまった形だ。


「お父さんはその事を知ってるの?」


「ええ知ってるわよ。農地(こっち)はまかせて、お前達は楽しんで来い、って」


 昔からこの両親は、姉にはとことん甘い。姉がしようとした事を両親が止めた記憶は、僕の中には無い。


「ところで、どうして僕まで一緒に行く事が決定事項なの?」


「アビが行くんだから当然じゃない。それとも、一人で行かせるつもり?」


 そして、この歩く危険物の処理を全て僕に丸投げしてくるのだ。

 今はそれで良いかも知れないが、いつの日か姉が嫁ぐ時はどうするのだろう。

 ……なんて、弟の僕が考える事ではないか。


「で、いつ出発するの? 姉さん」


「朝ごはん食べたら行くつもりだよ」


 良かった。朝食を食べる猶予はあるらしい。


 猫三匹と人間一人で食卓を囲む。

 僕達猫は野菜が食べられないので、食べる量は減ったが食費は上がった……と、母さんが愚痴をこぼしていた。

 しかも他の人達も猫なので、とにかく野菜が売れない。なので今では、野菜は姉の独占状態だ。


「仕事の方は本当に大丈夫なの? 父さん」


「もちろんだ。お前は、お前の為すべき事をするんだ……どうせ野菜は売れんしな」


 家族揃っての朝食の場で、父にまで釘を刺されてしまった。

 それが姉の世話じゃなければ、僕だって快く受け入れたい所だけど。


(アビ)の平穏を保つ事は、世界を守るにも等しい、お前にしかできない事なんだ」


 いきなり何を言い出すんだこの親バカは。

 確かに姉は放っておくと何をしでかすか分からないが、ここまで来ると何か陰謀めいたものさえ感じる。どうやら逃げ道は無さそうだ。


「分かった。一緒に行って来るよ」


「しっかりね」


「おかわり! むしろ十倍ちょうだい! ママが猫になってから、ごはんの量が少ないよ」


 朝食を終え、両親に見送られながら、僕達は女王が住む城に向かって出発した。

 順当に行けば、日が昇りきるまでには城に到着するだろう。


「離して、姉さん。自分で歩けるから」


「やだ」


 そんな無駄話をしながら姉が歩いていると、前方から聞きたくなかった音、いや、声が聞こえて来た。

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