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猫の国  作者: 氷上人鳥
10/12

10 僕と姉と女王の手紙

 昨日、部屋から出た僕はしっかり藁が敷かれた馬小屋を見つけ、そこで一夜を過ごす事にした。

 そして翌日……


「戻ってる」


 目を覚まし、自分の体を確認すると、ちゃんと人間の体になっていた。

 魔法で猫になっていたからか、なぜか服をちゃんと着ていた。


「あっ、シニ君み~つけた!」


 ……この異様な探索能力も、原因はこちらにある訳か。


「おはよう、姉さん」


「おはよう、シニ君。アンちゃんがお部屋に朝ごはんを用意してくれてるから、一緒に食べよ!」


「うん」


 女王の私室に戻って来て、二人で用意された朝食をいただく。当の女王はいないらしい。


「ご馳走様でした」


「あっ、そうだ! アンちゃんからこれ受け取ってたんだ」


 そう言って姉は僕に、便箋を入れる封筒を差し出した。


『今日から私は忙しいから君達を見送ってあげられないけど、伝えておきたい事があったから、こうして手紙を残しておくわ。まず、アビの魔法の力は、おそらく私より強いわ。いくら私でも、特定の誰かに対して絶対命令なんてできないもの。』


 一体なぜ女王はこんな謎情報を僕に伝えたかったんだろう?


『もし彼女が君に出会えてなかったら、その強大な力がどんな方向に向いていたか分からなかった。それこそ世界の重大な危機になっていたかも知れない。』


 なんかこの流れ、どこかで聞いたような……


『でも、彼女の側には君がいた。お陰で、その力は君以外には無力なものとなった。君にとっては迷惑でしかないだろうけど、これは世界を守ったに等しい奇跡なのよ。』


 ああ、女王までうちの親みたいな事言い出したよ。もう世界中が、僕を姉と一緒にいさせたがってるようにさえ思えてくる。

 そんな事しなくても僕は……


『でも、どうしても嫌なら、アビを城に置いていっても良いわよ。その場合は、こちらで責任を持って後の面倒を見るから。』


 おい。連れ帰らせたいのか、置いて行かせたいのかどっちなんだ?

 結局は僕が決めろって事なんだろうけど。


『君がどちらを選ぶにせよ、また君と会えるのを楽しみにしてるわ。自分で言った事はちゃんと守ってね。』


 はいはい。女王(あなた)と縁を切るような事はしませんよ。


『追伸:アビは君が思っている程考えなしじゃないわ。たまには君から、彼女に歩み寄ってみるのはどうかしら。』


 そんな言葉で手紙は締めくくられていた。

 女王の手紙を読む間、姉はずっと僕を見ていた。


「ねぇ、シニ君」


「何?」


 手紙を読み終えた僕に声を掛けてきた姉の表情は、珍しく緊張しているようだった。


「お姉ちゃん、邪魔かな?」


「……ぷっ! あはははははは!」


「あっ、ひっど~い! お姉ちゃん真面目なのに!」


 そんな顔で何を言い出すかと思えば……いや、今の僕なら分かる。


「笑ってごめん。でも姉さんは、いつも余計な事を考え過ぎるんだよ」


 そうだ。いつも突拍子もない言動ばかりだと思っていたけど、そもそもの前提が間違っていた。

 僕が奇行だと思っていたそれは、僕の心の内も含めてずっと聞き続け、その上で姉なりに考えた結果だったんだ。

 それをたった一晩で見抜くなんて、やっぱり女王は凄いな。双子同士、通じ合う何かがあるのだろう。


「姉さんはもっと、自分がしたいと思ったようにすれば良いんだよ。嫌なら嫌って、僕からちゃんと言うから」


「……本当に、いいの?」


 僕は無言で頷く。

 次の瞬間、僕の体の内から骨の軋む音が聞こえた。


「痛い痛い痛い痛い! 全力で抱き付くのはやめて! それヤバいから!」


 魔法の力以前に、この筋力が純粋に僕の脅威です、女王様。

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