10 僕と姉と女王の手紙
昨日、部屋から出た僕はしっかり藁が敷かれた馬小屋を見つけ、そこで一夜を過ごす事にした。
そして翌日……
「戻ってる」
目を覚まし、自分の体を確認すると、ちゃんと人間の体になっていた。
魔法で猫になっていたからか、なぜか服をちゃんと着ていた。
「あっ、シニ君み~つけた!」
……この異様な探索能力も、原因はこちらにある訳か。
「おはよう、姉さん」
「おはよう、シニ君。アンちゃんがお部屋に朝ごはんを用意してくれてるから、一緒に食べよ!」
「うん」
女王の私室に戻って来て、二人で用意された朝食をいただく。当の女王はいないらしい。
「ご馳走様でした」
「あっ、そうだ! アンちゃんからこれ受け取ってたんだ」
そう言って姉は僕に、便箋を入れる封筒を差し出した。
『今日から私は忙しいから君達を見送ってあげられないけど、伝えておきたい事があったから、こうして手紙を残しておくわ。まず、アビの魔法の力は、おそらく私より強いわ。いくら私でも、特定の誰かに対して絶対命令なんてできないもの。』
一体なぜ女王はこんな謎情報を僕に伝えたかったんだろう?
『もし彼女が君に出会えてなかったら、その強大な力がどんな方向に向いていたか分からなかった。それこそ世界の重大な危機になっていたかも知れない。』
なんかこの流れ、どこかで聞いたような……
『でも、彼女の側には君がいた。お陰で、その力は君以外には無力なものとなった。君にとっては迷惑でしかないだろうけど、これは世界を守ったに等しい奇跡なのよ。』
ああ、女王までうちの親みたいな事言い出したよ。もう世界中が、僕を姉と一緒にいさせたがってるようにさえ思えてくる。
そんな事しなくても僕は……
『でも、どうしても嫌なら、アビを城に置いていっても良いわよ。その場合は、こちらで責任を持って後の面倒を見るから。』
おい。連れ帰らせたいのか、置いて行かせたいのかどっちなんだ?
結局は僕が決めろって事なんだろうけど。
『君がどちらを選ぶにせよ、また君と会えるのを楽しみにしてるわ。自分で言った事はちゃんと守ってね。』
はいはい。女王と縁を切るような事はしませんよ。
『追伸:アビは君が思っている程考えなしじゃないわ。たまには君から、彼女に歩み寄ってみるのはどうかしら。』
そんな言葉で手紙は締めくくられていた。
女王の手紙を読む間、姉はずっと僕を見ていた。
「ねぇ、シニ君」
「何?」
手紙を読み終えた僕に声を掛けてきた姉の表情は、珍しく緊張しているようだった。
「お姉ちゃん、邪魔かな?」
「……ぷっ! あはははははは!」
「あっ、ひっど~い! お姉ちゃん真面目なのに!」
そんな顔で何を言い出すかと思えば……いや、今の僕なら分かる。
「笑ってごめん。でも姉さんは、いつも余計な事を考え過ぎるんだよ」
そうだ。いつも突拍子もない言動ばかりだと思っていたけど、そもそもの前提が間違っていた。
僕が奇行だと思っていたそれは、僕の心の内も含めてずっと聞き続け、その上で姉なりに考えた結果だったんだ。
それをたった一晩で見抜くなんて、やっぱり女王は凄いな。双子同士、通じ合う何かがあるのだろう。
「姉さんはもっと、自分がしたいと思ったようにすれば良いんだよ。嫌なら嫌って、僕からちゃんと言うから」
「……本当に、いいの?」
僕は無言で頷く。
次の瞬間、僕の体の内から骨の軋む音が聞こえた。
「痛い痛い痛い痛い! 全力で抱き付くのはやめて! それヤバいから!」
魔法の力以前に、この筋力が純粋に僕の脅威です、女王様。