ループ②―3
暗いと思った。
今自分がいる場所は光の届かない暗闇の中だ。
瞼の裏からでも分かるくらい、私を取り巻く世界は黒く塗り潰されていた。
なんでこんなところにいるのだろう。
それを探ろうにも、困ったことに目が開かない。
瞼にどれだけ力を込めようとも、ピクリとも動かないのだ。
開けられないというより、外から縫い付けられるかのように、ピッタリと閉じきっていて、どうしようもない。
声を出して助けを呼ぼうともしたけれど、唇も同様らしく石のような硬さだ。
自分の身体ではないかのように、まるで言うことを聞いてくれない。
そのことにひどくいらつくも、結局どうにもならず、さらに苛立ちは募っていく。
おかしいのはそれだけじゃない。
今の私は、地に足のついていない状態だ。
まるで水中を漂っているような、逆らえない流れに身を任せている感覚に襲われている。
もがこうにも困ったことに手足の感覚がなかった。
繋がっているはずなのに、どこかでぷっつり糸が切れているかのようだ。
前後の感覚もあやふやで、上を向いているのか下を向いているのかさえ不明瞭。
ただ、落ちている最中であるということだけは、何故か理解できていた。
でも、どこに落ちていこうとしているのかは分からない。
その先になにがあるのかも、なにもわからず落ちていく。
このまま、私はどこに行くんだろう―――
「…………き。水希」
ふと、声が聞こえた。
「水希、水希大丈夫?」
誰かが話しかけてくる。私の名前を読んでいる。
水希は私だ。櫛原水希、それが私。
私の名前を呼んでくれる貴方は―――誰?
応えようとしたその時、暗闇に光が差し込んだ。
「しょう、ま…?」
「あ、良かった水希。気が付いたんだね」
ゆっくりと目を開くと、そこにいたのは、私の幼馴染だった。
「今日学校に来なかったから、親に言われて見に来たんだよ。電話してもでなかったし…家に入ったら、部屋の外からでもわかるほどひどい臭いもしてたから…怒られるとは思ったけど、勝手に部屋に入ってごめ―――」
「祥真ぁっ!」
彼の顔を見た瞬間、私は思わず抱きついていた。
「ちょっ、水希!?」
「祥真っ!祥真ぁっ!よ、良かった、生きてたぁっ!」
恥とか外聞とか、照れすらもかなぐり捨て、ただひたすら祥真に縋り付く。
「え、なに、どうしたのいきなり…?」
「怖かった、怖かったよぉっ!あああ、良かった、本当に良かったぁっ!!」
彼の胸に顔を埋め、強引に頬を擦り付ける。
まるで動物のマーキングのようだったけど、祥真が生きていることを確かめたかったのだ。
「い、生きている…心臓動いている…喋ってるぅぅぅ…」
「えええ…」
制服越しではあったけど、その向こうにある心臓の鼓動を確かめたとき、私は心の底から安堵した。
気付けば涙も溢れてて、きっと顔中ぐしゃぐしゃだったけど、そんなことはどうでも良かった。
困惑する祥真を置き去りに、私はただ彼が生きているという喜びを、ひたすら噛み締めるのだった―――
「…………みっともないところを見せたわね」
それからしばらく時間が経ち、ようやく落ち着くことができた私は頭から毛布を被り、祥真にそっぽを向いていた。
理由?そんなの恥ずかしいからに決まってる。
今だって思い返すと、顔から火が出そうだもの。
できればなかったことにしたいのだけど、苦笑する祥真を横目で見て、これは無理だと直感し、恥ずかしさのあまりますます深く毛布の中に埋もれてしまう。
「ううう…」
「はは…まぁ、いいけど。それでいったいどうしたの?あの取り乱しようはさすがに気になるんだけど……それに、言っちゃなんだけど部屋の様子も、その…」
そうしていると、祥真は私に質問をしてきた。
まぁ、気になるのは当然よね。祥真は優しいもの、聞いてくるに決まってる。
吐いたものに関しても、スルーしてくれてるし、ね……
「あ、無理ならもちろん言わなくてもいいから……」
「…………夢をみたのよ」
そして気を遣ってくれることもわかっていたから、素直に話すことにした。
「夢?」
「そう、夢。それもとんでもない、とびっきりの悪夢。今思い出してぞっとするくらい、見たことのない最悪の夢…」
思い返すだけで全身を寒気が襲う。こうして毛布を被っているのに、鳥肌が止まらない。
「……どんな夢か、聞いてもいい?」
「うん…ううん、祥真だから、聞いて欲しい…祥真に聞いて欲しいの…」
話すことで、祥真にこの気持ちをわかってもらい、慰めて欲しかった。
「その夢の中で、祥真は死んじゃうの。それも自分から…それを私は、ただ見ていることしかできなくて…死んだ祥真を見て、私、すごく後悔もして…」
「水希…………」
そしてなにより、祥真にほんとに死んで欲しくなかった。
このことを祥真に話すことで、私がどれだけ祥真のことを心配しているのか、どうか伝わってほしい。
(あれはただの夢だもの…そう、ほんとに起こったことのはずがないもん。絶対にそう。あれも含めて、今までのことは全部夢なんだわ。今が現実…絶対そうに決まってる…)
そうだ、そうに決まってる。
だって、巻き戻りなんて起こりっこない。
ここが、今私がいる世界こそが現実。絶対そうに違いない。
絶対に、そうだ。
そう強く強く願って……私はその言葉を口にした。
「あのね、祥真…私、祥真のことが好きなの」
告白しました勝ったなガハハ
次で二周目終わります




