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第31話「それはとても美しい日と」~一部完~

「へ、へへへ! やったぜ! 依頼料GETだぜぇ!」

「あは! やったわね、カッシュ!」


 王国府から晴れ晴れとした顔で姿を見せたカッシュ達。

 連中ときたら、さっきまで仲間同士でギャーギャー言い合っていたのが嘘のように、目を$マークにした4馬鹿がウハウハ顔だ。

 カーラから貰った報酬と前金を見て、わかりやすいくらい現金にはしゃいでいた。

 無一文から、突然の大金だ。気持ちはわからなくもないが……。


「では、さっそくゲイルさんを探しに行くとしましょうか。……なーに、すぐに見つかりますよ」

「そーそー。あの糞みたいなセンスの呪具師なんて他にいるかよ。簡単かんたん。……間抜け面のダサい恰好の男を探せばいいんだからよ。ゲイルを見つけるなんて朝飯前ってなもんよ!」


 ルークの言葉に大きく頷くカッシュ。


「その通り。……まずは手分けして王都中を聞き込みだ。メリッサは露店街と商業ギルド。……マジで露店をやってるかもしれないからな」

「了解~♪」


「それと、ノーリスは冒険者ギルドと宿を当たってくれ。あのバカのことだ。どうせ未練がましく俺たちの傍にいた可能性もある」

「なるほど、あり得ますね───わかりました。そっちはしらみつぶしに当たってみましょう!」


 まずはゲイルがいそうな場所から重点的に当たる。

 もちろん、それらは既に王都中の騎士が総出で捜索していたのだが、カッシュ達はそれを知らない。


 そして──。

「……ルーク。お前は王都門前の辻馬車を当たってくれ。…………ないとは思うが、念のためだ。ゲイルの奴が万が一にも王都を出ているかもしれんからな」

「なるほどぉ! 俺っち任しときな! あの間抜け面は見たら忘れるやつはいねぇから、簡単さ」


 さすがは元仲間。

 カッシュ達は的確にゲイルの行動を読んでいた。しかし、その一方で、万が一の可能性で町を出ているとはさすがに思っていなかったようだが──…………。


「……それにしてもゲイルめ、王族相手に何をやらかしたか知らねぇが、タダで済むものかよ。くくく! 俺たちはテメェをパパッと見つけて、フン縛って突き出せば依頼完了───」


 仲間を捜索に送り出したカッシュは仁王立ちで愉悦を浮かべる。

「なんたって、俺たちは奴の特徴を知っているからな───楽勝……楽勝過ぎるぜ! これが一石二鳥かぁ? ゲイルに意趣返しをして金も手に入る。散々ボコボコにして、王族に引き渡して『はい、終わり』───後は生皮剥がれるなり、火あぶりになるなり好きにされるがいいさ。はーっはっはっはは」


 カーラの前での殊勝な態度はどこへやら。

 相変わらずのデッカイ態度で意気揚々と城下町へ繰り出すカッシュであった───。


 そして、それを城から見下ろす影があった。

 もちろんカーラとビビアンだ。


「……姫。本当に連中でよろしかったので?」

「ん?……なにがよ?」

「いえ、その───。S級冒険者とはいえ、どうみてもただのチンピラではないですか?」


 カッシュ達を忌々しそうに見下ろすビビアン。


「……いまさら何言ってんのよ? そもそも、連れて来たのはアンタじゃない」

「それはそうですが……。私はただ、有力情報を持っていると判断したまでです。まさか、捜索まで依頼されるとは」


 ビビアンは眉間に眉根を寄せつつ懸念する。

 カーラ姫の依頼を受けてゲイルを捜索するのだ。連中が道中でやらかしたりすれば、カーラに責任が及びかねない。

 ……ひいてはビビアンの責任にもゴニョゴニョ。


「だっ~てしょうがないじゃない。アンタたち無能なんだもん」

「あ゛? なんつったごら?」


 さらっと、王国騎士を小ばかにするカーラにビキスと青筋を立てるビビアン。


「捜索を依頼してから一向に「(ゲイル)」は見つからないし、それどころかまともな情報が集まらないし、」

「あーそーですかー(こんな似顔絵一つでわかりますかっての……!)」ボソ


 ビビアンはカッシュ達が持ち込んだ、町中に張られている告知書に視線を落とす。

 そこには『ゲイル』の身体的特徴の他に、似顔絵が描かれているのだが──……。幼児並みの絵心で描かれたそれでは男か女かもわからないのだ。というか、これ人間……か??


 ──ちなみにカーラ画である。


「何か言ったぁ?」

「べっつにー」


「ふん。まぁいいわ。それよりも……S級冒険者とやらの腕前を拝見させてもらいましょうか──一応(・・)監視はつけているのね?」

「えぇ、一応(・・)つけておりますが……」


 どうやら、カッシュ達は完全には信頼されていないらしい。初対面の態度を見れば当然のことであるが……。


 そして、

 王都でそんなことになっているとは露と知らぬ当のゲイルはといえば───。


 はるか遠くの農業都市ファームエッジでニヨニヨと笑っていた。


 モーラと別れたあと、宿に戻ったゲイルは一室を完全に締め切り密閉。

 呪具の鬼火生成器で青い炎を灯すと、陰影の激しくなった部屋で怪しく笑う。


「いひひひひひひひ!」


 周囲には髑髏ミイラからはぎ取ったボロボロの布。

 そして、腐った血やら体液やらなんやらと──……。


 パっと見はカニバリズム。

 サイコホラーのワンシーンだ。


「くーっくっくっく! リッチの肋骨を磨いて、魔力耐性を上昇し、闇属性をUP! 代わりに低下する光属性と物理防御分を、ダークボーンスケルトンの粉末を混ぜて物理攻撃上昇と相殺。……さらに、サンダーウィプスの核の光耐性上昇と合わせればぁ───い~~ひっひひ!」


 不気味に笑いながら一心不乱にアンデッド素材をいじくりまわすゲイル。

 別に怪しげな儀式をしているわけではない……。ないったらない。


「───できたぁ!! ソーサラーからドロップした大剣に付呪を施した渾身の一作! ファームエッジ逗留発記念作品……」


 その名も!


「呪われし賢者の大剣───ザ・ディバイド、えぶしッッ!!」

「やかましいわ!!」


 スパーーーーーン!


「いったぁぁあああ!! って、あぁぁあああああ!! 刺さった刺さった、剣が刺さったぁぁああ!!」

 いたたたた!!


 突然乱入したモーラがゲイルの頭を(はた)く!

 おかげで勢い余った大剣がゲイルの足にザックリ!


 格好つけて、天井に向けてババーーん! と掲げていたものだからもう大変。


「いったぁぁああああ!! って、なんなん? え? 君、なんなん!? ここ俺の部屋!」

「私の部屋は隣じゃぁぁぁあああああああ!! うるっさいのよ、昨日から一日中、「いひひひ!」と「うひょ~たまらねー!」とか、朝から晩までピーチクパーチク! あと、」


 つかつかつか、スパコーーーーーーン!! と、ゲイルの頭に拳骨を落としたかと思うと、そのまま首根っこを掴んで窓まで引きずると、


「部屋ぁぁっぁあああ! めっちゃ臭いんですけどぉぉぉぉおおおお!」


 ガチャァ! バぁぁぁンッ!! 


 ゲイルが締め切っていた窓を蹴り上げるモーラ。

 その脚線美が、朝日を受けてキラリと輝く。


「ひゅ~♪」

「口笛拭いて茶化してんじゃないわよ! 換気くらいしないさいよ。なんなの?! なに、この地獄のような匂い!! ぅぇほぉ!! げほげほ!!」


 ようやく大きく息を吸ったモーラが嘔吐(えず)いた。


「なんだよ、勝手に人の部屋に入ってきたかと思えば! いいだろ、俺が自分の部屋で何してようと───」

「だ・か・ら……隣の部屋やっちゅうとんねん!! こっちまで匂うのよ! あと、なんか向かいの部屋に人に私の体臭が匂いみたいな顔されたんだけどぉぉお!! 乙女の心の傷は深いのよ!」


 ああ、もう!! と、モーラが頭を掻きむしる。


「そ、それは悪かったよ……。だけど、ノックくらいしてくれてもいいだろ?」

「したちゅうねん! めっちゃしたわ!! 全然返事しねぇのはアンタでしょうが! 部屋に入っても全く気づかないで独り言をブツブツ、ブツブツ! とキモいったらありゃしないわよ!」


「え、独り言?! う、うそ───どのへんから……?」


「あ゛?! そんなもん、『くーっくっくっく! リッチの肋骨を磨いて、』ぐらいからずっと呼んでたっつーの!」


 ぎゃぁぁぁあああ!

 全部聞かれとる! ゲイルの秘伝のレシピも全部聞かれとるぅ!


「驚くとこそこ(・・)ぉ?! そんな作り方聞いても誰も真似しないわよ! っていうか、部屋ぁぁ! なによ、これ! 衛兵が見たらアンタ一発で逮捕されるわよ?!」


 朝日に晒されたゲイルの部屋は、一言でいうならグロい。


「へ? なんで? なんか変かな?」

「変しかないわ!! 『なんで?』っていう疑問が出るほうが、何で、だわ!」


 箪笥の上にずらっと並んだアンデッド頭部───……ほぼ頭蓋骨。

 壁には剥いだ皮やら、ミイラやゾンビからはぎ取った服の残骸。

 そして、引き出しの中に無造作に突っ込まれている、各種アンデッドのパーツ等々。手とか足とか、肋骨とか。


「どーみても、悪魔召喚の儀式にしか見えないわよ!」

「悪魔召喚じゃねーよ! 呪具作ってんの! ほらぁ! 足ぃ!」


 足に刺さった大剣をコレコレ! とこれ見よがしに見せるゲイル。


「うわ、痛そー……」

「モーラのせいで刺さったんだけどね」


 ジト目で睨むゲイルをガン無視して、モーラは大剣をしげしげと眺める。


「へー……器用なもんねー。これ先日のドロップアイテムよね? 売らないで改造したんだ?」

「改造っていうなよ……。付呪!! 呪符作成の応用だよ! みてよ、これを!」


 ふふん、と胸を張って足から抜いた大剣を高々と指し示すゲイル。

 なんか、ゲイルの足から垂れた血を先端がチュウチュウと吸い取った気がするけど、気のせいだろうか。


「これはソーサラーの落としたドロップアイテムで、入手難易度はレア中のレアらしいけど、見るところはそこじゃないんだぜ」

「あ、そ、そうなの?」


 急に目をキラキラと輝かせて語り出すゲイルに若干引いているモーラ。

 っていうか、足からの血がすっごい……。


「くくく、聞いて驚け」

「聞く前に驚いてるけどね」


 ばばーーん!


「何とこの大剣、見た目のカッコよさはもとより」

「カッコよくはない」


 …………。


「ごほん。性能は折り紙付き、元の大剣についていた付与効果に「出血」の効果があったのを更に高めて、血を吸い使用者の体力に変換する「吸血」の効果を付けました! そして、なんと斬撃力はダークボーンナイトの骨を砥石代わりにして磨くことで+150%の増加! さらに、魔力耐性を上昇させ、魔法攻撃に弱い剣士をサポートおぉおお! オマケに闇属性耐性付けときました!! ア~~ンド、軽量化と防塵処置つきデーーーーーーーース!……あと、呪われています」


「あ、うん。すごい……の?」


 突然饒舌にぺらぺら喋り出すゲイルに引きつった笑いを浮かべるモーラ。

 若干引いていた彼女は既に若干からドン引きになっている。


「凄いよ! すごいよね! 何より見て、これ、この輝き」───輝いてはいない。

「あ、うん」

「そして、この重厚感と相反する軽さ! なにより、」

「あ、うん」

「かっこいい!!」

「あ、それはない」


 モーラさん、そこは認めない。


「むむ……! じゃ、じゃあ多種多様な性能はもとより、元のドロップアイテムのレア度を損ねないように考慮しつつ、さり気ない付呪のあとと、装飾……つまり、かっこいい!」

 大事なことなので二回言いました。


「いや、だから───……」

「モーラにはこのセンスの良さがわからないんだ!!」

「いや、私限定ってわけじゃ……あーもう、はいはい。そんな目で見ないでよ」

 うるうると泣きそうなゲイルに、しょうがいないなーと頭を掻くモーラは、

「悪くはないわよ? センスはともかく、この性能───……魔法に弱い剣士が前線で戦い続けられる良品ね。敵を切り裂き、吸血により体力を回復させながら戦うスタイルはソロの冒険者には喜ばれそうね。なにより、元々の性能が高い所に斬撃能力が150%増加か……。アタシは剣士じゃないけど、それほどの品なら、剣士垂涎一品ね──────呪いさえなければ、だけど」


 そう語って聞かせるとゲイルは目を輝かせてモーラを見る。


「も、モーラぁぁあ! わかってくれ───えぶし!」

「ちょ! どさくさに紛れて抱き着こうとするんじゃないわよ! もう、油断も隙も無い」

 どうやらゲイルは理解者を得た気分になったのだろう。

 普通なら、だれも信用してくれないであろう性能についてもモーラは深い理解を示してくれたのだ。


「いたた……。殴らなくても」

「乙女に触れようとするやつは殴られて当然でしょ!……ったく。で、そんな剣つくってどうするの? アンタが使うの?」

「へ? これ? 無理に決まってるじゃん。俺、呪具師だし?」


 ……は?


「じゃ、じゃあ、なんで一晩中そんなもん作ってるわけ? あ、売るためとか? 改良したアイテムは高値で──」

「趣味」


 ……趣味かー。

 即答されて、モーラは遠い目をする。


「……アンタ、追放されても文句言えないわね」

「んなぁ?! し、仕事はしてるぞ?! お、オフくらい好きにしてもいいじゃん?! そ、それにホラ、いずれ出品するしー!」

 いずれってなんだよ。

 それまでどうするんだよ?……まさか、部屋に飾るの??


「も、もういいわ。好きにして……」

「好きにするわい!」


 もっとも、それというのも、ここ数日の付き合いでゲイルの持つぶっ飛んだ能力を目の当たりにしたからなのだが……呪具限定ではあるけどね。

 それ以外の人間性は、善人であるということ以外、見るべきところはない───とくにセンス。


「センスもあるわい!!」

「人の心読まないでよ……。あと、センスはないから」


 納得いかない顔のゲイル。

 だが、顔に出ていたかと思いモニュモニュと表情筋を揉んでいるモーラをみて、ふと、


「そういや、今日はなに? どうしたの? ま、まさか、苦情(クレーム)にきたの?」

「そんなわけないじゃない。……まぁ、匂いとか声とかはちょっと、割と、かなり、めちゃくちゃ、本気で勘弁してほしいけど」


 モーラも冒険者だ。少々の苦境くらい我慢できる。

 もっとも、限度というものはあるけどね。


「ん~? じゃ、なんで?」


 ゲイルは、寝る間も惜しんで一晩中呪具を作っていたわけだが、既に新しい日は始まっている。

 農業都市ファームエッジのさわやかな朝がそこに───。


「……はぁ、決まってるじゃない」

 ニコリとほほ笑むモーラ。


 さわやかな風とともに、モーラの青い髪がさわさわと流れ、陽光に輝いていた。


「……え?」


 ──肌寒い朝。

 朝日を後光に受けた彼女はやけに眩しく───……。


「──一緒に行きましょう? 今日もいいクエスト日和じゃない」


 ……そして、とても美しかった。

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