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第18話「田舎の冒険者ギルド」

「ちょ、ちょっと! ほ、本気でそれヤル気?! ひ、一人でなんて……む、無茶よ!」


 クエストを剥がしたゲイルは全く意に介さず、ギルドの受付に向かう。


「大丈夫だって。……じゃあ、モーラが手伝ってくれるのかい?」

「う……。いや、その……。て、手伝ってあげたいけど、アタシも後衛職だし」ゴニョゴニョ


 なんだかんだで面倒見のよさそうなモーラは心配してゲイルのあとをついてくる。


「はは。まぁ、見ててよ──こっち系のクエストなら俺の独擅場なんだよ」


 ニヤリと笑うゲイル。

 しかし、モーラには全く安心できない。


 いくら、規格外の呪具師であるとわかっていても(本人は気づいていない)、出来ることとできないことがある。

 特に、アンデッドは厄介なモンスターで神官職の浄化魔法か神聖魔法。あるいは魔法の武器が絶対に必要となるのだ。

 最低でも、銀の武器。それがなければ使い捨ての聖水が必要となるので、戦闘ともなれば中々出費が激しい魔物でもある。



「ちょ──待ちなさいって!」



 あぁ、もう!!


 と、モーラは一人でスタコラ先に行ってしまうゲイルを追いかける。


「はーい。冒険者さんはこちらですよー」

「あ、どーも」


 商人の護衛依頼と冒険者の窓口を案内している職員に話しかけるゲイル。


「んん? あらあら。見かけない顔ねー。新人さんかしら?」

「あ、はい。王都から来ました──ちょっと河岸(かし)をコッチに移そうかと思って」


 そういって冒険者認識票を出す。


「あらぁ! それは嬉しいわー! 最近冒険者さんの数が少なくって困ってたんですぅ」

 ダークエルフらしいギルドの職員はそういってゲイルの手を握りしめるとニコリとほほ笑む。



 ……う、可愛い。



「コホンッ」


「おや? お仲間さんですかー?」

「なか……。いえ、ただの同行人です。同じく王都から来ました。モーラと申します。支援術師をしておりますので、何かとギルドの御協力を仰ぐとは思いますが、お見知りおきを……」


 そういって丁寧にお辞儀をするモーラを見て、少し感心するゲイル。


「まぁまぁまぁ! 支援術師さんですか! 嬉しいわー! 後衛職も引く手あまたなんですよー……。それじゃあ、ゲイルさんは戦士? いえ、軽装ですから盗賊さんですかー?」


 少し間延びするような話し方が特徴的なギルド職員は口に指をあてて考える仕草。

 その動作が一々可愛い……。


「ごほん、ごほん」

「あ。いえ、俺も後衛職です──……その、呪具師をしてます」


 じゅ、

「呪具師……ですか?」


 それを聞いたギルド職員が少し顔をこわばらせる。

 やはり、不遇職と言われる呪具師はあまり歓迎されないのかもしれない。


「は、はい……。一応、支援が主任務で。その……少しは戦闘も」ゴニョゴニョ


 意気揚々と受付に向かったわりにしりすぼみになるゲイル。

 カッシュ達のせいで、邪険にされるのは苦手なのだ。


「あ、ゴメンなさーい。悪いって言ってるわけじゃないんですよー。その、呪具師さんは滅多に見かけないので、向いたお仕事有ったかなーって思っちゃいまして」テヘ。


 ペロリと舌を出して、コツンと軽く頭を叩く仕草。

 ……可愛いな畜生。


「ゴホン、ゴホーン!」

「おっと、そ、それで──まずはこの辺に慣れるためにいくつかクエストをこなしながら、街や周辺の様子をみようかなーって、……これ、今受けられます?」


 もっともらしい説明をするゲイルに、ギルド職員がクエストを覗き込む。


「え~っと……『リッチ退治』ですね──塩漬けになってたやつじゃないですか」

「え? 塩漬け?」

「はいー。この辺は聖職者も少なくて、ましてや地下墓所に降りていける程パーティを組めるような強い人がいないのでずっと放置されてるんです……。おかげで墓参りもできないし、アンデッドは沸くしで困ってたんですぅ」


 へ、へぇー……。


「でもぉ……。できるんですか? 依頼失敗は──」

「あ、はい。知ってます。1割のお金でしたよね。大丈夫ですよ──アンデッド系のクエストはよくこなしてましたから」


 カッシュのやつがケチで、ゲイルにくれるはずの報酬をよくピンハネしていたから、ゲイルは解呪の札を作る内職のほかにアンデッド退治のクエストを一人でこなしていたのだ。

 もちろん、クエストだけじゃなく、呪具作成の材料集めも兼ねていたので一石二鳥ではあったのだけど。


「ほ、ホントですかー? こう言ってはなんですが、そのーゲイルさんはお強そうに見えないんですけど? あ、気を悪くしないでくださいねー」


 本当に悪気はないのだろう。

 冒険者が無為に命を落とさない様に止めるのもギルド職員の仕事なのだ。


「ちょっとアンタ……。ゲイルを見くびらないでほしいわね──こう見えて、」

「い、いいよ、モーラ。──はは。よく言われます。でも、本当に大丈夫ですよ」

 慌ててモーラを止めるゲイル。

 なんか知らんけど、この人怒ってる?

「はー……まぁ、そこまで言われるのでしたらこれ以上はお止めしませんが……先ほども言ったように、誰も達成できないので中で遭難されても、救助隊はだせませんよ?」


 そりゃそうだろう。

 救助隊が出せるなら、初めからそいつらがクエストを達成すればいいだけのこと。


「大丈夫です。さっそく明日から潜りますね────えっと、」

「地図ですよねー? あと、聖水やマジックアイテムは購入なされますか? うちで卸してるものや、お店を紹介できますけど……」


 そういって手際よく、街の地図と、周辺のMAPを用意してくれるギルド職員。


「あ、地図だけでいいです。じゃ、これ受けますね」

「はーい。わかりましたぁ。ですがくれぐれも気を付けてくださいね? 冒険者さんが少なくて困ってるのはほんとなんですぅ」


 ウルウルと涙目になるギルド職員。

 ダークエルフ特有の褐色の肌と、同じ色の笹耳がピコピコと動いている────可愛い。


「ゴホンッ!!」


「………………モーラ、風邪?」

「違うわよ……!」


 ジロッ。


 な、なんか睨まれましたけど……。なんでぇ?


「ほぇー。仲良しさんですねー。では、はい。これで受注完了です、討伐証明は──」

「リッチの下顎ですよね。大丈夫です。よく使ってます(・・・・・・・)から」


 あはは。


「ふふふー。面白い事いう冒険者さんですね──それでは、よろしくお願いしますね。あ、」


 目を細めて笑うギルド職員がペコリと頭を下げる。


「最後に、申し遅れましたが──私、当ギルドの職員をしている、ギムリーと申します。以後お見知りおきを」


 ペッコォォオ……! と深いお辞儀。

 あわてて、つられてゲイルもお辞儀。


「それでは、お二人の今後の活躍を祈念しておりますぅ」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします」


 ニッコリ笑ったギムリーは滅茶苦茶可愛かった。


「ち……。鼻の下伸ばしちゃって」

 なぜか少し不機嫌なモーラがいた。……どうしたのこの子?



 そうして、農業都市の冒険者ギルドであいさつを済ませ、素材の換金やら、パーティ募集の登録を済ませると、ゲイル達は建物をでた。


 サァァァア……。


 農業都市を流れるさわやかな風───。

 のどかな風景の広がる農業都市の光景に一瞬目を奪われつつ、

「さて、明日から農業都市での冒険者生活だー」


 わーい


「アンタってば、意外と暢気よね────……生活基盤築くのも楽じゃないわよ?」


 ん? そうかな?

 結構慣れてるんだけど……。ほら、雑用だけは万能だし。


「……とりあえず、明日はアタシも行くから。……そ、そのし心配だからじゃないわよ! アンタが危なっかしい気がするからセーブ役としてよ、セーブ役!」


 え?


「あ、うん……。それを心配って言うと思うんだけど────まぁ、モーラがいてくれるなら心強いかな? さすがに初めてのダンジョンは少し不安だしね」

「な! し、心配だなんて! し、してないわよ!…………それに、普通は初めてのダンジョンっていうか、アンデッド戦に臨む人間はもっと緊張してるわよ」


 だって、アンデッドって気味悪いからねー。とモーラは言うが、ゲイルにはよくわからない。

 アンデッドは素晴らしい素材(・・)なのだ。呪具には欠かせないので、最近売ってばかりのそれを補充できるいい機会だ。


「ふふ……。農業都市、楽しみかもしれないなー」


 よーしやるぞー!

 おー!

 一人でフンスと気合を入れているとモーラが追いかけてくる。


「ちょ、待ちなさいよ! 宿一緒何だから、一人でサクサクいかないでよー」

「はいはい」

 そうやって意気揚々と宿に向かうゲイルと、慌てて後をおうモーラであった。







 その後姿を見ているものがひとり────。


「あれが呪具師…………? まさか、本当に? だけど、アイツ。……並の呪具師じゃないわよね」


 鋭い瞳でゲイルを注視している物が一人───ギルドマスターのギムリーがぽつりと呟いていたが、それを聞きとめるものは誰もいなかった…………。

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