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第17話「農業都市」

 カッシュ達が街で大騒ぎしていた頃──。



「いやー! すごいなッ、モーラの支援魔法は!」

「え? あ……うん。ど、どーも」


 オークを撃退した現場で、ゲイルとモーラは御者たちとともに素材を剥ぎ終わっていた。

 戦利品のオークの装備も、連中の討伐証明も、丸っとゲイル達にくれるという太っ腹ぶり。


 二人とも、最初は固辞していたのだが、農業都市に向かう車列全員に感謝されてしまっては断るわけにもいかない。


 そして、今はほんの少しだけ進み、街道の脇で露営をしているところであった。

 今日は近場の村に宿泊の予定であったが、襲撃のせいでいくつかの馬車が壊れ、思うように進めなかったのだ。


 今は、農業都市に向かう馬車が何台か寄り集まってキャラバンを形成し、野営地を作るに至っている。


「まぁ、アンタがそれでいいならアタシは別にいいけど……」


 ポイッと焚火に薪を追加しつつ、モーラは首をかしげる。

 なぜか上機嫌のゲイルは、モーラの真向かいに腰掛け今日の戦闘を振り返っていた。


「イイも何も。俺……魔物とまともに戦闘するの初めてでさ──本当はビビってたんだよ」

「え?……あ、あれで?」


 なんかすごい、活き活きとして魔物を(ほふ)っているように見えたので、モーラはその言葉に懐疑的だ。


「でも、アンタさー。カッシュ達のパーティに長いこといたんでしょ?」

「ん? ん、んー……まぁね。一応、初期メンバーだよ、一応ね……」


 カッシュ達の話題が出ると少し顔を暗くするゲイル。


「……あーゴメン」

「いや、いいんだ────確かに、カッシュ達とは長いこと組んでいたけど、」


 そういって少し空を見上げ────すぐにモーラを真正面から見る。


「──この通り、俺はタダの呪具師だからね……。もう、いらないってさ」


 少し寂しそうに笑うゲイル。


「……アンタを手放すって、カッシュのやつ、よほどの間抜けね」

「へ? そ、そうかな? 自分で言うのもなんだけど、追放されたのも順当だった気もしなくもないよ」


「……アンタは自己評価低すぎ」


 ん~?

 モーラが何を言っているのかわからず、ゲイルはとりあえずカップに注いだコーヒーを手渡す。


「はい……温まるよ」

「ありがと」


 ずずー。


「あら、おいしい」

「だろ? そこらに生えてたタンポポを炒って作ったんだ。簡単だし味も中々でね」


「ん……。やっぱ、アンタを手放すとか、カッシュってば、アホだわ」

「そ、そう? ま、まぁ……雑用はそこそこ」……ゴニョゴニョ 


 実際、料理も掃除洗濯もお手の物だ。

 『牙狼の群れ(ウルフパック)』では後衛職が二人もいたが、ノーリスもルークも何かにつけて言い訳ばかりで面倒ごとは全部ゲイルがやっていた。


 いちいち口うるさくいっても聞く連中じゃなかったしね……。

 おかげで生活能力だけは身に付いた。


「雑用っていうか……。あー……そーいうの万能っていうのよ」

「ば、万能? はは、それは言い過ぎだよ────大して戦闘じゃ役に立たないし」


 相変わらずな反応に、モーラは「こりゃダメだ」といって肩をすくめてしまった。


「はー……。アンタも大概よねー。もう寝るわ────タンポポコーヒーご馳走様」


 口元が隠れているのでわからないが、ニコリと笑ったような雰囲気でモーラがカップを返してくれた。

 そのまま、御者が立てた天幕に潜り込んでしまう。


 一人焚火に当たることになったゲイルは、他の馬車の御者や乗客が和やかに談笑をしているのも聞きながら空を見上げる。




「万能…………か」




 そんな風に考えたこともなかった。

 今日だって、モーラの援護があったから勝てたようなものだ。


 確かに呪具には自信があるけど、

 剣技もなく、力も並程度…………。


「でも、そうだな…………魔物と闘うのも悪い気分じゃなかった、かな」


 カッシュ達と行動していた時は自衛程度には戦闘はしていたけど、本当にその程度。

 あとは戦闘を有利に進めるためのデバフをかけ続けるだけの支援職────。




「ははッ。モーラは優しいな────」




 空に向かって手を伸ばし、星明かりを透かし見るゲイルであった。




 ※ ※




「……到着しましたよ~」


 ガラガラガラ────ピタ。



 騒々しい馬車の車輪の音が止み、御者に告げられるとゲイル達はゆっくりと覚醒した。


「ふわ、ぁー」

「よーく寝てたわね」


 そう言いつつ、モーラにも涎のあと。


「暇だったからなー」


 モーラとは馬車の中で話し尽くした。

 他にすることもなかったというのもあるが、それだけにお互いのことが多少は知ることができ、出合頭(であいがしら)に感じた警戒心は、すでにない。


「じゃ、行くわ」

「あぁ、おれも──」


 馬車から降りると、二人とも御者に礼を言われたうえ、ギルド前で別れた他の馬車からも感謝された。

 ゲイル達がいなければ命が危なかったのだ。当然の礼ともいえるんだけど──。

 ──ちょっと、むず痒い。

 ま、おかげで僅かとはいえ礼金を貰い、宿を紹介してもらえたのは僥倖だろう。


「お二人のおかげで助かりました……! さぞ高名な冒険者の方でしょうね」


「へ? い、いえいえ、ただの行商人見習い兼冒険者ですよ……。ん? 逆か?」

「たいそうなものじゃないわ。まぁ、お互い命があっただけメッケものってね──じゃあね~」


 そういって御者たちと別れると、


「モーラはこれからどうするんだ?」

「ん~……。冒険者ギルドに顔だして、パーティ募集がないか確認するわ」


 あー。

 モーラは支援職だしな。一人じゃクエストは厳しいだろう。


「アンタは?」

「ん。俺も冒険者ギルドに寄って、コイツを換金するよ。それから何か適当なクエストでも探そうかな」


 オークの素材を示しつつ、


「へー。意外ね、パーティでも募集するのかと思ったわ」

 モーラの言うことも、もっともだ。

 ゲイルもモーラ同様に支援職。一人で狩りをするのは厳しい職業だ。


「ま、色々あるのさ────なんたって俺は呪具師だからな」


 そう。

 ゲイルの場合は、狩場を選べばクエストができなくもない────。



 それというのも……。





 カランカラ~ン♪



 冒険者ギルドに入ると、二人をカウベルが出迎える。

 そして、軽く内部を見渡せば、なるほど……どこの冒険者ギルドも似たようなものだ。


 だから、あったあった。

 依頼板(クエストボード)


「……ほら、これだ──」

「ん? ここの依頼板(クエストボード)よね?──それ。……どれもD級以上のクエストばっかりで、アタシたち支援職にできそうなものなんて────……」


 ふふん。

 そう思うだろ?


 と・こ・ろ・が!


「…………あ、アンデッド退治? え゛!! な、難易度高いわよ、それ──」


 ゲイルが剥がした依頼(クエスト)は…………。






『郊外の地下墓所にて、リッチの撃破』


 難易度B



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