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周囲を森に囲まれた町に、外壁などはない。門は一応あるが反対側だ。


人間の町に似ているけれど、昼夜が逆転するためやはり違う。


もうまもなく夜明け。つまり町はこれから眠りにはいる。


宿は町の中心に密集しているはず。


記憶を頼りに足を進めて、町の中心地に辿りついた時にはギリギリ──いや、ちょっと遅かった。裏通りの宿も探したが、どこも扉がかたく閉じられている。まずい。


通りからほとんど人影が消え、ざわめきが消えていく。自宅か宿がなければ、あとは歓楽街か野宿か─……野宿だな、とあきらめて森へ戻ろうと振り向いたら人が立っていた。


漆黒の燕尾服に似た貴族な空気をまとう二十歳過ぎの美形が、無表情に私のことを眺めていた。


なんだろう?


警戒して見返すと、ツカツカと歩いてくる。


「お困りのようですね、お嬢さん」


たしかに、困っているけれど。見知らぬ人に頼る程じゃない。夜まで森で過ごせばいい。


「いえ、大丈夫です」


男性を避けて歩き出したら、がしりと腕を掴まれた。


「森はいま危険ですよ。我が家にお泊まりなさい」


「いえ、おかまいなく……っ、えっ」


軽々と片腕で抱き上げられ、ひゅっと景色が流れる。まばたきする間に、1軒の館の門前にいた。


吸血鬼の貴族が得意な高跳びだ。一瞬で町から町へ移動できてしまう。


かちゃりと開けられ背中を押され、暗く暖かな建物内に押し込まれる。うわぁー貴族の屋敷だ。高そうな調度品が置かれた、旧くて暖かな建物。


「もう、朝日が出ましたね。さあ空き室にご案内しましょう。困った眷族を助けるのは我らの義務ゆえ。気にせずに休みなさい」


二階のすぐの部屋に通され、何か言う前に扉を閉められてしまう。


客間のようだ。旧くて豪華な家具に天蓋つきのベッド……かすかな花の香り。


ベッド脇の丸テーブルに花瓶があり、紅い薔薇の花が。


みずみずしい紅い色に別のものを夢想してしまい、喉の乾きを覚えた。


身体がふらつく。外はもう、朝日が出ているだろう。吸血鬼にとっては毒になる。仕方ない。


ブーツを脱いで、軽く魔法で浄化を全身にかけ、寝台に潜り込んだ。お布団、ふわふわだ……私が使っていいのかな?


眠い……ね、む─……。












夕刻。


さわりと、何かが頬を撫でる。


冷たくてかたい指先。


(え……?)


美形なお兄さんが見下ろしていた。


「目が覚めたか」


真っ白な髪に、氷のようなアイスブルーの瞳。冷たく透き通った美貌。


私は寝起き頭のまま、ぼんやりと相手を見上げた。


「死……王……さま?」


また勝手に唇が動き、冷たい指先が私の唇に触れた。


魔界の王は三人いる。


吸血鬼の王様と、死神の王様と、竜神の王様だ。魔族なら誰でも知ってる、魔界のトップスリーだ。


なんでそんな王様の顔を私が知ってるんだろう……ていうか、なんで目の前にいるんだ。


チラリと部屋の扉の方を見れば、私を連れてきた男性が姿勢よく立っている。無表情に見返される。そうか。


「森から出てくる者を見張らせていた。隠者が隠していたのは分かっていたが……100年近く、よく……」


えっ、ひゃくねん!?


指先が、思わず開けた唇の中に入り込み、尖った牙に触れて止まる。


「飲んでよいぞ?」


冷たく冷たく淫美に微笑まれる。

血の香りの幻想に一瞬ふらりとしかけ、慌てて指先を払った。転がるようにベッドから降りると、死王様はペロリとその指先を舐め──じっと私を見つめる。


じりじりと扉に向かおうと壁を背にしたら、私を連れてきた男性がさっと扉の前を塞いだ。わあん!


「ふふ……逃げようとするのは変わらぬな」


いま私ピンチ? どうしよう!



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