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すみません、続きます。間違えて短編にした……。
時間に置いてきぼりにされたような、古い館。
何かを探して歩き回り、古い姿見をみつけ、恐る恐る覗き見る。
大人しそうな容姿の、十代の少女。
白い肌。黒くてサラサラな長い髪は腰まで伸び、瞳だけ紅い。
「っ……!」
血の色をした自分の瞳にぎょっとして口元に手を当てたら、違和感。
犬歯?みたいに牙まである──もしかして私、人間じゃない?
紅い瞳に牙なんて、まるで吸血鬼だ。
着ている洋服も、古風なシンプルなドレスだし。
鏡から無理やり目を離し、館の中を調べていった。
建物は二階建て。正面玄関、左右に部屋が二つずつ。廊下を挟んで水場の浴室や洗面所、トイレ。
二階は部屋が四つ。ベッドとタンスだけ。他は何もない。二階の右奥の二部屋だけ、タンスに衣服が仕舞われていた。女性物と、男性物。
台所を調べてみたが、穀物っぽい粉の入った麻袋が二つ。しなびた果実が数個。腐った肉片。
水場のシャワーっぽいのにさわったら、チョロチョロと水が出た。
とりあえず館の探索を終えて、怖々と1階の破壊された居間に戻る。
青年の動かない遺体を目にするだけで、チリッと何かが焼ける。
すがりついて、意味もなく泣き叫びそうな自分と、冷静に現状を把握し今後を考える自分とがいる。まだ、ダメだ。安全が確保されてからでないと泣けない。
とりあえず。
「──ごめんね」
一言、謝ってから胸に刺さったままの剣の、握る場所に右手をからめる。
胸をつらぬき、床に深く刺さった剣は大きく重い。大人の男性に合わせ作られた剣だ。
ゆっくりと上に抜く。
「─……っ」
ああ、これ聖銀で作られた剣だ。魔を滅する金属。
脳裏で勝手に知識が浮かぶ。知らないのに知識がある不思議。
風化したボロ布のカーテンを引き裂き、抜き身の剣をぐるぐる巻いた。とりあえず、これで良し。
カーテンをもう一枚やぶり、青年の遺体にふわりとかけた。
本当は、お墓とか作るべきなんだろうけど、無理だと思った。この世界の葬送の仕方なんて、知らない。というより、遺体に触りたくない。嫌だ……。
クスリ。
軽く笑われた気配がした。
カーテンをさらにもう一枚、頭からかぶって剣を抱えて森に出た。
しっとりと濃密な霧が海のようにひろがる深い、暗い森。
どちらへ向かえばいいのか、知識が教えてくれる。館は西の果ての、忘れ去りし森にあるため、まっすぐ東に向かえばいい。
小さな町がある。宿を探そう。それから。
考えながらてくてく歩いていたら、ふいに頭上に気配が。
羽のついた小さな生き物──ヒタヒタと無数のコウモリが飛んでいる。ヤバい。隠れ──。
(吐息を吐く──闇のヴェールを全身に……気配も隠す)
知識が身体を動かした。ふうっ、と魔力を載せて吐息をつけば、薄い闇のヴェールが私を覆い隠した。
森の中の枯葉の道をしずかに、慎重に、急いで進んで、ようやく森を抜けた。
ゆるやかな起伏のある丘に栄える、闇の王国の端の町……デメル。
ここは、吸血鬼達の国。