時計会社の社畜
友人に出してもらったお題を一時間の制限時間内に書く練習です。どうせフォルダの底に埋もれるならと思い投稿してみました。今回のお題は「社畜」です。よろしくお願いします。
会社は時計に似ているとはよく言ったもので、一人ひとりの行いが集団の動きを大きく左右する。小さな部品の有無一つで時計はジャンク品となってしまうのだからそうなった場合は部品の補給が必要だ。一人がサボれば針の動きは遅くなり、一つのパーツが頑張りすぎたとしても社内はそのパーツを疎ましく思う。集団の空気を読み適当に仕事に励まなければならない。
今日は私が勤める時計会社のノー残業デー。次々と同僚が帰路につくなか、私は一人、時間の遅れを取り戻すためにネジを回し続ける。
「今日も頑張るねぇ」
タイムカードを切った後に残業する私をみて部長が声をかける。
「パーツが必要とのことで」
私は応える。
「なんのだい?」
「四番車です」
「そんな注文あったかな」
「緊急の発注でして。壊れたそうなので修理を頼みたいと」
部長は私の机にコーヒーの差し入れを置いた後、「頑張れよ」と言い残し部屋を出る。
部長のコーヒーを飲みやる気を出す私に後ろから嘲笑するような声がかかる。
「まだ仕事なんてやってんのぉ」
甘ったるくて引っかかるような声が私を嘲笑する。私の先輩でありいわゆるお局と言われる女。新藤だ。
「相変わらず仕事がお遅いわねぇ」
もとはといえばお前の仕事だ。お前が手をつけなかった仕事がまわりまわって私のところまで来たのだ。私はそう言いたくなる気持ちをグッと抑える。
「ええ、申し訳ありません」
正直言って私は仕事ができる。他人の仕事のカバーをすることも多々あり、部下や上司からの信頼も厚い。彼女はそんな私が疎ましいのだろう。
「大和ちゃんさぁ、もう会社入ってずいぶん経つんだから要領よく仕事する方法くらい覚えたらどうなのぉ」
新藤はそう言って私の横に立つ。
「まっ、ポイント稼ぎには残業するのが一番手っ取り早いわよね」
新藤は「あれ、要領いいじゃん」と笑いながらいい、去り際にあたかも偶然を装い私のコーヒーを机の上にぶちまけ去っていく。
もう限界だ。あいつとは噛み合わない。あいつがいれば歯車が軋む、時計が崩壊する。直すにも直せないパーツがあるんだと私は気づいた。ならば私はどうすればいいか。私は時計の修理のために持っていたドライバーを握りしめ、新藤の背後へと忍び寄った。
次の日の午後、私は部長のデスクに呼び出された。
「昨日言ってた四番車の件どうなった?」
「修理は出来ませんでした」
「そっかぁ、じゃあ交換になるんだね」
「そうですね。元々のパーツは既に破棄しましたので。後のことは部長の方で対応お願いします」
「わかった」と言い、部長は腕時計を見る。
「そういえば、今日新藤さん来てないね。もうお昼だよ。連絡もないし」
「連絡した方がいいのかなぁ」とスマホを取り出す部長。
私はそれに答える。
「それでは新しいパーツの件よろしくお願いします。」
私は去り際に部長の方へ振り返り重要なことを付け加える。
「新しいパーツはもっと優秀なモノがいいとおっしゃっていました。」
「優秀なモノ?」
部長は釈然としない様子だったが私は再び仕事に取り掛かった。