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9 近衛、焦る

 近衛は焦った。森川率いる弓兵隊が瞬く間に敗走してきたからだ。天道アリスの兵は半分は残っている。まだ後月翼の姿を見ていない。


 深呼吸し、ゆっくり落ち着きを取り戻す。


 森川には急いで都市に戻り、斎藤と交代。斎藤に兵1000を率いて救援にくるように伝えろ、と指示した。


 天道アリスはこちらを視認したのか、残りの兵馬でこちらに突撃してくる。


 こちらは歩兵で、すでに退却は間に合わない。


「突撃の勢いを止め、囲み、馬から引きずりおろせ」


 本当は槍があれば良かった。ただ近衛の中では戦闘はまだまだ先の予定で、まずは兵、そして武器を順番に、としていたのが、裏目にでた。まんべんなく生産していくべきだった。と心の隅で思う。


 ただ後悔しても仕方ない。まずは目の前の敵だ。言っても500程度。こちらは2000。冷静に対処すれば負けることはない。


 兵士を密集させ、馬にぶつける。ゲームだからできることで、実際のことは考えたくないな、と思いながら、近衛は後方から肉壁が馬の勢いを止めるのを確認する。


 囲め、と命令しようとしたときだった。西のほうから駆けてくる集団がいた。数は200ほど。全てが歩兵だ。先頭には、後月翼の姿がある。


 勝てる。


 近衛は思った。にやり、と笑みがこぼれる。


 おそらく、あれが兵力の限界だ。200の兵は歩兵で、後月翼でさえ馬に乗っていない。ギリギリまで隠したようだが、さすがに200程度じゃ意味がない。これが、敵軍の底だ。


 急造の軍にしてはなかなかだったが、余裕がなさすぎる。しばらくすれば、斎藤の救援もくるだろう。


「500をあちらに向かわせろ!もし、後月翼がここまでたどり着くなら、まとめて囲め」


 近衛の兵から500が向かい、後月翼とぶつかる。


 後月翼は勢いのまま突進し、500を突き抜けて向かってくる。ただその兵は50ほどにまで減っていた。


 向かわせた500の兵も300ほどに減っていたが、反転してこちらに戻ってくる。


 あとは囲んで、数で潰せば勝ちだ。


 このとき、近衛の注意は完全に西側に向いていた。



☆☆☆



 砂埃が舞い、喧騒に包まれた戦場。近づく直前まで近衛が気付かなかったのも仕方のないことかもしれない。


 大河はアリスと別れた後、500の兵馬を率いて、大湿原を大きく東側から迂回し、自分のできる最速で進軍した。


 アリスの進軍速度を遅めたのは、二つの理由があった。一つは大河が迂回し、到着するタイミングを合わせるため。もう一つは南エリアの馬の特性をもし近衛が知らなかった場合、有利になるのと、もし知っていたとしても最速よりも速度を抑えることで、大湿原で弓兵を用いられた場合にタイミングを少しくらい狂わせることができるかもしれないと思ったためだ。


 大河が視認できたとき、ちょうど翼が突撃するときだった。緩やかだが丘になっているお陰で、翼であろう軍団が見えた。


 タイミングは偶然も大きいが完璧だ。


 東側のこの辺は見通しが良すぎるため、伏兵のようにどこかに潜むというのは難しい。


 計算上、翼のほうが早く到着する予定であり、西側には少しだけ大地に起伏があるため、隠れながらタイミングを見てくれた可能性はあるが、うまくいった。


 まあ、もしうまくいかなかったとしても、そのときは都市に戻り力をゆっくりと蓄え、次の作戦を考えるだけだった。


 今回は、アリスの軽率な行動から大河自身がアリスと一緒にいるという認識を持たれる前にしたかったことを、急ピッチで行ったもので、穴だらけのギャンブルもいいところだったが、うまくいけば南エリアを一瞬で掌握できるということもあり強行した。と、言ってももちろん可能性は高いだろうと判断してのものだが。


 普段からの情報収集癖がうまくいった要因だろう。


 まあ、翼との合流が難しくても単純にアリスに気を取られた敵兵を側面から叩けたかもしれないため、勝てた可能性はあるが、これで負けはないと確信できる。


 ただ、このとき大河は勘違いしていた。先に広がる戦いが、アリスの初戦だと思っていたが、本当は先に森川隊を蹴散らしている。


「弓じゃないのか...」


 中央エリアの感覚のままなら大湿原を抜ける前に弓でアリスを攻撃しようとするはずだから、新参とはいえ、さすがに敵も多少はわかっているかもしれない、と大河は敵の評価を少しだけ上げた。


 色々と思考しながらも、そのままアリスと翼に完全に気を取られた敵兵の背後から突撃する。


 完全に気がそれている兵を倒すのは簡単だった。無防備の背中や側面に剣を刺して抜くだけだ。大河でさえ通りすがりに一人倒すことができた。


 さすがにゲームだけあって、血が吹き出たり、グロテスクな表現がそこまで本格的にあるわけではない。ゲームだと割りきれるくらいの表現に抑えられている。そのへんはありがたい、と大河は感じる。これがリアリティー溢れるものだったならさすがに躊躇するところだ。


 そのまま突き抜けるだけで、敵兵に大打撃を与える。


 それに対しこちらはほぼ無傷だ。


 大河がちらりと確認した敵将は近衛明。過去の動きから籠城せず、自ら出撃する可能性は高いとふんでいた。


 大河はもう一度突撃しようと、反転するが、近衛の声がそれを止めた。


 大河の参戦に近衛は勝てないと悟ったのか、大声を張り上げる。


「俺と...俺と一騎討ちをしてくれ!!」


「はっ」


 大河は鼻で笑う。


 馬鹿なことを言う奴だ。勝ちが確定したこのタイミングで一騎討ちを受ける大馬鹿なんていないだろう。


「いいわ!かかってきなさい」


「へ?」


 大河は忘れていた大河の君主様が大馬鹿だったことを。



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