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7 近衛、考える

 近衛明は両親に厳しく育てられた。勉強もスポーツも完璧な文武両道というのが、両親の教えだった。両親は負けず嫌いで、近衛の成績が他より劣っていれば、その都度強く叱責した。近衛は両親に言われるがままに努力したが、ただ、近衛に他を大きく圧倒するような才能があるわけではなかった。


 それにどちらかと言うと、勉強が嫌いだったこともあり、学校での成績は常に上位ぐらいの感じだった。


 だから、学園の入試ではおそらく運動能力で合格したと思っている。この学園への入学に両親はかなり喜んでくれた。近衛としては両親から離れたいという自由を求めてだったが、実際学園への入学は狭き門であり、合格したということだけで、かなりのネームバリューが本人につくことになるからだ。


 入学するとき、近衛は遂に自分に訪れた自由を喜んだ。が、小さい頃からの教育がそれを許さなかった。心のどこかで一番でなければならない、という教え込まれた観念が、近衛の行動を縛った。


 もっと自由に思うままに行動すればいいのだが、しかし近衛は意識の奥で一番になるべく旗揚げし、そして九上院桜の勢力に敗れた。そこからペナルティを経て、もう一度、一番を目指すべく再び勢力を興し、今に至るのである。


 現在、近衛はエネルギー充填中だ。中央の様子を確認しつつ、兵士や弓などの物資を中心に調達している。もう少し余裕ができたら、川を渡るための船の建造にも着手しようかと考えていた。


 そんなときだった。天道アリスの旗揚げの知らせが届いたのは。


 近衛はすぐに間者を雇い、近隣都市の旗の確認をさせた。


 南エリアでは、近衛の他に最南の都市で村田という人物の勢力がある。積極的に他都市を侵略するつもりはないようだが、それなりの蓄えがあり、都市を攻略するとなると、少し面倒な相手だ。ただ、この都市からは距離があり、勢力を大きくするための行動をとっていないことから、警戒はしつつ、後回しにしていいと判断していた。


 数日後、間者が戻り、近衛は結果を知る。最悪なことに、この都市から南にある都市での旗揚げだった。


 普通に考えれば、勢力と勢力の間の都市。もし周りの都市を攻略するとなれば、もう一方を警戒しつつ、行動しなければならない。


 ただ、以前の天道アリスの行動から推測するに、そこまでのことを考えているかどうかは、微妙なところではある。


 近衛は思案する。


 誰かが新しく天道アリスの陣営に加わったか。しかし、そんな物好きいるのだろうか。天道アリスと言えば、天道家の名前が有名なだけで、その性格は猪突猛進、周りの助言を振り切って突撃を繰り返し、遂には勢力を滅亡させた人物だ。


 ただ、勢いに乗らせれば厄介になる可能性もある。早めに潰しておくほうがいいか。


 わざわざあんな位置で旗揚げしている。その意味はあるのか。あえてであるのなら、天道アリスはどちらか都市を狙っている可能性がある。


 引き続き間者を派遣し、次は都市の内部調査を含め、天道アリスの様子を確認するよう指示を出す。



☆☆☆



 それから数日後のことだった。


「近衛さん!!」 


 配下の森川が部屋に飛び込んでくる。


「どうした?」


「南の都市に派遣していた間者からの報告があり、天道アリスの軍勢がこちらに向かっているとのことです」


「なんだと!?距離は?数は?」


 あまりに早すぎる。どういうことだ。二度目の間者からの報告もまだないようなこのタイミングで、あまりに情報が少ない。


「報告によれば、数十キロほど先、騎馬が1000くらいとのことです」


「...あと、どれくらいで着きそうだ?」


「現在、南エリアの大湿原を横断中とのことで、おそらくあと一日あれば、ここまで到達するようです」


 近衛がいる都市から南に広がる湿原。南エリアの大湿原。数十キロにも及ぶその湿原は、通る者の体力と足を奪う。


「全て騎馬で兵が1000なのか?」


「そのようです」


 このゲームでは一人が率いることのできる兵士の最高数は2000に制限されている。


 天道アリスの旗揚げから約19日。旗揚げした都市から、報告地点まで少なくとも5日はかかる。と、なれば14日で調達した兵馬ということになる。天道アリスの旗揚げした都市なら、最高で14000の兵を雇うことが可能だが、天道アリスが率いる兵が1000ということは、そこまで兵を雇う余裕がなかったのだろう。それでもペナルティから復帰したばかりで驚異的だが。それをどうやってしたかは別にして、14日のうち前半に金策し、後半で兵馬を雇い出撃したというところか。


 こちらに考える時間を与えない奇襲。なのか、それとも天道アリスの突撃癖なのか。後者のような気はするが、面倒なことであることには変わりない。


「迎撃するなら大湿原を抜ける前でなければ...」


 都市までこられるのは、まずい。


 近衛の都市は現在この一つしかなく、囲まれれば、食糧切れで一ヶ月ももたない。


 もし、天道アリスに十分な兵糧があるのなら...危険だ。


「この都市の、兵士、兵糧、金は今どうなってる?」


「兵士5000、兵糧100000、金20000ほどです」


 都市は平常時であれば、自動的に一週間分の食糧が確保された状態に保たれている。そのため、都市の周りを囲まれたりするような、閉鎖状態となると、一週間経過後からは、兵糧が消費されていくようになる。


 兵糧の減り方は、外に出たときと同じ。町にいる兵士一人が一日で、兵糧1の消費量だ。このときは町の人口は考えなくていい。


 兵糧は町に商人が出入りできる状況ならいつでも買えるようにはなっていて、一日で買える量は最高で一日10000まで。


「兵糧10000追加を頼む。あと弓はどれくらいある?」


「畏まりました。弓は2000ほどあります」


「そうか...」


 出撃か籠城か。一度冷静になることに努め、近衛は考える。


 反射的には出撃だったが、どうするか。ただ、本来籠城での勝利というのは、耐えることで味方の支援が期待できるとか、敵の食糧が少ないなどの判断のもと、守備に徹底し敵に諦めさせるとか、だろう。


 今回、前者はないことで、後者は現時点での情報では判断できない。目に見えるのが全てでないことはよくわかっている。


 敵の兵糧がないと仮定して、籠城を選択した場合、囲まれてもし一ヶ月以上の兵糧が天道側にあったら勝ち目がなくなる。ギャンブルとしては割が悪すぎる。


 逆に出撃した場合、今ならばまだ大湿原を抜ける前にかち合える。報告では全て騎馬。湿原では足を取られ、その機動力を活かせない。そこを弓兵で刈り取ることができる可能性がある。


 それが駄目だったとしても、敵の様子を直接確認することができるし、場所によってはそれから籠城でも遅くはない。


「報告で確認できたのは天道アリスだけか?」


「そうです」


 近衛の脳裏に後月翼の姿がちらつく。もし天道アリスの姿が陽動だとして、別の場所から後月翼が現れ、都市を囲まれれば同じことだ。


 出るしかない。が、誰を出すか。自身か、目の前にいる森川か、もしくは斎藤あたりが、いいだろう。


「...迎撃する。森川、いけるか?」


「お任せください」


 少し悩んだ結果、森川を出す。そして後詰めに自身。都市は斎藤に任せる。


「兵1000に弓を持たせ、すぐさま出るんだ。大湿原を越えられる前に、殲滅する」


 近衛からの指示を受け、森川が慌ただしく出ていく。


 近衛は思う。できるだけ色々なものを温存して勝ちたい。全ては中央侵略のためのものなのだ。


 ただ、けちらずに雇っていた間者が役にたった。天道アリスを発見するのがもう少し遅ければ、間に合わなかった。


 大湿原で思うように動けない間に弓で兵と馬を削る。


 近衛自身は2000の兵を率いて、森川から少し距離を開けて待機。斎藤に任せるか迷ったが、その場の判断ですぐに動けるように自分が出ることを選んだ。後月翼が都市を狙うならそちらに。天道アリスの支援に向かうならそちらに。あとは成り行きに任せる。


 正直、色々と悩んだが考えるのは好きじゃない。近衛はひとつの結論を導き出す。要は全てを潰せばいいのだ。



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