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2 大河、現状を確認する

「なによ!ふざけんてんの!?」


 スカートを下ろしたアリスが顔を真っ赤にして怒る。


「いや、ちょっとした確認だ」


「なんのよ?」


「白...だったな」


「やっぱり、ふざけてんでしょ!?」


「いやまあ、俺の判断に従うってことがどういうことか、わかってるかどうか確認しただけだ」


「...ふん!じゃあ、これでわかったでしょ」


「とりあえずその気はあるみたいだな」


「で、これからわたしはどうすればいいのよ?」


「いきなり丸投げかよ...まあ、そうだな。とりあえず現状の把握だな。とりあえず近くに俺の生活する家がある。そこで話をしよう」


「...変なことしないでしょうね?」 


「しねぇわ!」


「パンツ見といて、信用しろっていうほうが難しいわよね」


「勝手に見せたんだろが。あんなん見てもこれっぽっちも何とも思わんし」


「ちょっとは思いなさいよ!」


「はあ!?」


「乙女のパンツ見といて何とも思わないは、ちょっと失礼じゃない!?」


「面倒くせえやつだな。もう軍師やめよっかなあ」


「パンツ見といて今さらそれは許さないわ!さあ、家はどこ?早く行くわよ!」


 首根っこを捕まれ、引きずられながら大河が呟く。


「...行くのかよ」


 

☆☆☆



 釣り道具を片付け、アリスを案内すること10分程度。大河が過ごす家に到着する。


「家?小屋じゃないの?」


 アリスの言葉どおり、そこにあったのは家というには小さな建物だった。


「生活するにはこれで充分なんだよ」


 さすがにゲームの世界だ。排泄はなく、トイレを置く必要がない。汚れやにおいという概念は存在するので風呂や洗濯はできるが、別に悪臭がするまでになったり、衛生面がどうのということもないので、無理にすることもない。このゲーム内では怪我はあるが病気はないのだ。


 よって、小屋での生活であろうがなんの不自由もないのである。


 アリスを椅子に座らせ、コップに水を注ぎ、小さなテーブルを挟んで対面に座る。


「すまんな、水しかないんだ」


「別になんでもいいわよ。で、現状把握って何するわけ?」


「そのままだよ。アリスの現状を確認するだけだ」


 大河が紙を取り出し机に広げる。


 世界観の再現は古代の中国に近い感じだが、紙やペンがあったりと完全再現ではない。


「質問するから答えてくれ。まず仲間はいるのか?」 


「一人だけいるわ。従者の翼よ」


「後月翼か...今、どこにいる?」


 後月翼、アリスの従者。現実世界での本当の従者であり、アリスと共に天道家によって金で入学した人物である。アリスが一ヶ月前まで一大勢力を築けていたのはこの人物の功労も大きい。


「おそらく大陸の中央のほうだとは思うけど」


 死亡のペナルティ後は、ランダムで大陸の外側に近い方からのスタートになる。


 この世界は半径千キロほどの円形の大陸になっており、そこがゲームのフィールドになっている。ちなみに最初は全員が大陸中央からスタートしたため、現状は大陸中央部分にプレイヤーである生徒が8割方は集まっている。


 今、中央から離れた場所にいるのは、死亡ペナルティ後に中央に戻っていない者か、最初から何かの確信を持って移動した者、そして、大河のような物好きだけである。

 

 現在、大河たちがいるのは大陸の南端のほうで、大河はゲームスタートと同時に南に向かっていた。


 理由はなんとなく暖かそうだからというのと、大陸やや南の方に大陸を分断するほどの大きな河川があり、釣りが出来そうだと思ったからである。


「正確な場所は知らないのか?」


「どこからスタートするかわからないし、一度のログインで中央までたどり着けないと思ったから、中央に向かいつつ現実世界の明日に場所を決めるつもだったの」


「そうか。金は...なさそうだな」


 アリスは茶色い布製のワンピースに、剣を一本持っているという初期装備そのものだった。


 当たり前だが、死んだ者は全てを失い最初からのスタートになる。


「悪いわね。見ての通り無一文だわ」


 何故か胸を張るアリス。


「自信満々に言うことじゃないだろ」


「そう言うあんたはどうなのよ?」


「俺はそれなりだな」


 大河は釣りにはまりゲーム内時間で約3年間朝から晩までずっと釣りをしていたのだ。生活費がほとんどかからない上に、釣った魚は売れるので、それなりのお金は貯まっていた。


「それなりってどれくらい?」


「言う必要はないな」


「なんでよ!?」


「俺の金は使わないからだ」


「えっ、なんで?」


「いや、当たり前だろ。アリスのわがままに付き合って軍師やるんだから、給料もらってもいいくらいだぞ」


「...確かに。それもそうね」


「意外に素直だな」


「意外にってなによ。納得できることはちゃんと納得するわ」


「ふーん...特性は君主だな?」


「そうよ。よく知ってるわね」


「アリスはまあ、ちょっとした有名人みたいなもんだからな」


 ゲーム内では一人に一つ特性というものが付く。特性は様々な効果があり、入試などの結果によって特性が決まっている。


 大河の特性である軍師は、護衛兼間者5人を無料で無制限に使うことができる。


 間者とはスパイのことで、色んな場所に潜入したり、様々なことを調べてくれたりする者のことだ。


 間者はNPCであり通常雇うのに、それなりの費用がかかるが、軍師特性の専属5人は無料無制限なのだ。  


 そして、アリスの特性、君主。これはNPCの親衛隊が30人付くというものだ。これもまた無料無制限であり、この30人は間者のように命令することはできないが、主人の危険を自動判断し、命令しなくても主人を守る行動をとる。


 誰がどの特性を持っているかや、入試の成績などについては学園から公表されているため、隠しようがない。


 ただ、ゲーム上軍師の特性がないと軍師になれないとか、君主の特性がないと君主になれないというものではないし、特性自体もゲームバランスを変えるほどのものはない。どの特性もオマケみたいなもので、知っていたら対策は簡単にたてれるようになっている。


「まあ、わかった。予想以上に何にもないことがな。とりあえずはちょっとでも金を貯めよう」


「それはいいけど、どうすんの?」


「釣りだな。魚は売れる」


「えー、なんか地味ね。それより中央目指しましょうよ」


「あほか!今さら中央なんか行ったって何もできんわ」


 ゲーム開始から現実世界で二ヶ月、ゲーム内時間では3年を超えた。全員が中央付近から開始したこともあり、混沌状態だった中央もさすがに膠着し始めている。まだまだ勢力が乱立してる状態ではあるが、大きい勢力も出始めており、新規の入る隙は少ない。


「見ろ」


 大河はそう言うと左手を出す。すると、左手中指に嵌められた指輪から、映像が浮かび出される。


 それはプレイヤーの証の指輪だ。ともすれば、現実世界と変わらないこの世界ではNPCたちも全てが自立型のAIで行動しており、一見普通の人と変わらない。NPCとプレイヤーを分ける唯一の違いがこの指輪である。


 映し出された映像には、右上に本日の残りのログイン時間が示されている。あと28日と5時間。大河が操作し、画面を切り替える。地図と簡単な勢力図だ。


「これは、今日出された二週間前のデータだ」


 学園では、全員の行動や勢力図等が二週間後にデータとして全員が見れるように配信される。


 現実世界の二週間はゲーム内では約十ヶ月に相当するため、ゲーム内のデータとしてはかなり古いものとなる。これは公平性を保つためのもので、リアルタイムの情報が必要であれば、自分で調べろということだ。


「ぐぬぅ...あいつら絶対許さない!」


 アリスが映像を見て、歯噛みをする。


 アリスが見ているのは、アリスの勢力を敗って台頭した九条院桜の勢力。その勢いのままに周りを取り込み、今では四大勢力の一つに数えられるようになった。


 現在、中央では四大勢力がお互いを牽制し合う様子になっており、そのバランスを保つように小さな勢力が間に点在する状況だ。


「わかったか?今から俺らが入る隙なんてとっくにないんだ」


「...じゃあ、どうすんのよ?」


「大陸端から狙うしかないな。まだ空白の地域も今ならある」


「それで、あいつらぶっ飛ばせるんでしょうね?」


「そりゃあ知らん。が、とりあえず今は力を溜めることだ」


「えー、面倒くさーい」


「殴るぞ、お前。とにかく釣りだ。行くぞ」


「わかったわよ」


 それから残りの28日間、二人は釣りに勤しむであった。




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