ヒカリヲワカツ ν
オーディンはヴァーラスキャールヴに残る事を選択し、自身の為にある高座である「フリズスキャールヴ」に座りその権能を用いる事にした。
要するに全ての事象の観測を始めたのであった。
オーディンの足元にはフリッグとヴォルが控えており、フレイヤとイズンは既にヴァーラスキャールヴを辞して自分達の管理地へと帰っていた。
少女はバルドルと共に行動する事にし、バルドルはそれを了承した。拠って城に残る命を受けたテュール達以外は行軍を開始し、開戦の運びとなったのだった。
「ウトガルザ」へ進軍する陣容は、バルドル旗下に「フレイ」、「ウル」、「ヘイムダル」等の名だたる神族が騎乗で行軍し、その更にその後ろには不死化戦士種達の重装歩兵が行軍に加わっている。
少女はブーツに火を点し空から進軍に加わり、その背後には翼をはためかせ羽ばたいている戦天使族達が横方向に展開しながら続いていた。
最後尾には補給隊と糧食隊がおり、非戦闘系の「治療」や「サポート」をメインにする神族達はそこにいるようだ。
こうして総勢で千を超える軍勢が「ウトガルザ」に向けて進軍しているのである。
バルドルの軍勢に動きが生じたのは「アースガルズ」を出てから3日後の事だった。
その日の夜、主要な者達が幕舎で今後の方針についてのブリーフィングをしていた時の事。バルドルの命で斥候に出ていた者が戻り、斥候の報告をした事から始まったのである。
報告に拠れば「アースガルズ」と「ウトガルザ」の国境付近に「ウトガルザ」軍が陣を張っているとの事だった。その数はこちらの数倍にも及ぶ軍勢であり、「霜巨人族」と「丘巨人族」に率いられた「超回復巨鬼種」や「氷雪巨狼型精霊種」、「氷雪巨蛇型精霊種」と言った凶悪な魔獣達に拠る混成軍を形成していると報告が為されたのだった。
「軍を率いている総大将はフリュムと思われます。それでは失礼致します」
「バルドル、どうするつもりだ?数で負けている現状で正面から合戦になれば、勝ち目は無いぞ!」
最初に口を開いたのはフレイだった。フレイは女神フレイヤの双子の兄で、背が高く金色に輝く長髪もさることながら、「眉目秀麗」と言う表現しか出来ない程の美男子である。
装備は腰に帯剣している細身の長剣だけで防具は身に着けていない様子だ。細身の長剣による速攻を得意とするのかもしれない。
もしも仮に少女の心の中に決めた人がいなければ、身持ちが固い少女であっても「口説かれたら堕ちてしまっていたかもしれない」と思わせる程の好青年であるが、これは余談である。
「うん、フレイの言う通りだね。このまま正面切って闘えば敗北は必至と出ているね」
「やはり、お前の権能もその解答を出したか、ヘイムダル」
フレイの言の葉を受けて紡いだのは、この中の見た目だけで言えば最年少のヘイムダルだ。フレイが「美男子」と言う表現が当て嵌まるのに対し、ヘイムダルは「美少年」と言う言葉が明確に当て嵌まる容姿と言えよう。
碧眼で肩に掛かるくらいの金髪で見る者を魅了する不思議な雰囲気を持っている。武器を見える所に持っていない事から、ナイフのような刃渡りの短い刃物か暗器を持っているのかもしれない。
フレイの話しを真に受ければこのヘイムダルも、未来を見通す事が出来る権能を持っているという事になる。
少女は未来予測系の能力の怖さをスサノオから思う存分思い知らされたので、その手の手合いが多い「神界」に於いて、敵の中にいるかもしれない類似する能力を持つ者と、出会う事が無いように祈る事しか出来なかった。
「バルドル、フレイとヘイムダルが言うのであれば間違いは無いだろう。余輩に戦天使族を百体貸してくれ。本体が正面から攻める折に裏手に回り込んで挟撃してやろう」
「ウルが率いるのなら間違いはないと思うよ?バルドル、いいんじゃないかな?」
最後の最後に提案を出したのはウルだ。フレイとヘイムダルという、整った顔立ちの2人を見た後にウルを見れば見劣りしかしないが、ウルはどちらかと言えば「野性的」な感じを醸し出している。「顎髭を蓄えたワイルド系」とでも言えば聞こえは良いかも知れない。
さっきの提案の中身といい、背中に短弓を背負っている事といい、完全なる弓兵だろうと思われるが、その腕の確かさは未だ分からない少女である。
「そうですね良いですね。2人の言い分とウルの提案。ですが、もう一押し足りない気がしますね」
「なんだ、バルドル!怖じ気付いたのか?」
「まぁまぁ、フレイ。バルドルだって万全を期したいだけだよ。それに正面から900。背後から100の戦力じゃ、どう頑張っても圧倒的に足りないのは子供でも分かるよ」
バルドルは指先を額に当てて悩んでいる。バルドルは「光の神」と呼ばれるオーディンの子だ。
聡明な判断力を持ち雄弁で優しく、誰からも愛される性格である。容姿は一見すると女性かと見間違える程の美貌を兼ね備え、天に二物も三物も与えられたと言えるだろう。
眉目秀麗な美貌を持つフレイに対して、バルドルはどちらかというと柔和な美貌を持っているので、イケメンと言うよりは美少女に近いという表現が適切かもしれない。
この場にいる唯一の女性である少女としては「顔立ち」や「肉体美」に於いて、何1つ勝てる要素がないので嫉妬に猛り狂いそうだが、まぁ、そんな勝負を吹っ掛けるつもりはサラサラなかった。
一方でバルドルの最大の特徴とも言えるのは、その美貌でも聡明さなんぞでもなく、その身を傷付けられる物がこの世にたった1つだけという事なのである。その弱点足り得るモノ以外の攻撃ではかすり傷1つ付けられない、チート体質と言えるだろう。
だからもしも、敵の軍勢がいくら多かろうと、その弱点を付かれなければ1人で軍勢を殲滅出来るとも言い換えられる。
「バルドル、何が足りないと感じているの?聞いてあげるからちゃんと言ってごらんよ」
「うん、そうですねヘイムダル。今のままでは決定打が足りないと思ってるんですよ。背後から強襲しても数の暴力を仕留められるとは思えないんです。もっとこう、敵が本領発揮出来ない状況を作り出さないと、いけない気がしませんか?」
「じゃあ、その役目、アタシが引き受けてもいいわよ?サクっと敵陣に潜り込んで揺動か混乱させればいいのよね?」
悩んでいる4人の会話に乱入したのは少女だった。だが、その乱入に拠って4人は目を白黒とさせる事になる。
「あーはっはっはっ」 / 「ぶふっふふふ」 / 「くっくっく」
「ちょ、ちょっと何よ!アタシ変なコト言ったかしら?」
4人は目を白黒とさせていたが、徐々に顔を歪めるとバルドルを除く3人は大笑いの渦を巻き起こしていったのだ。何故笑い者にされたか分からない少女は、当然の事ながら頬をむくれさせていた。
「一体、何を言い出すかと思えば、ヒト種の娘に何が出来ると言うのだ?本来であれば、この幕舎に入る事すら、我々と共にいる事すら恐れ多いと言うのに」
「ふぅん、そう。それが本心なのね?それじゃあ、そっちがその気ならこっちはこの気よッ!これからアタシはアタシのやりたいように好き勝手にやらせて貰うわ」
ばっ
「これで良かったのか?バルドル?」
「憎まれ役を押し付けてしまって済みませんね、フレイ」
「まぁ、いいさ。バルドルの頼みなら聞かないワケにはいかないさ」
バルドルはフレイに言の葉を返し、返されたフレイは戯けるようなポーズを取っていた。
バルドルは外が静かになると幕舎を出て空を見上げ、夜空に浮かぶ星よりも更に明るい光を、その美貌に宿る金眼で追い掛けていった。
「父上から聞いていたあの娘の力が本物なら、我々の「軍」がしてあげられる事は「道案内」だけでしょう。そしてそれが済めば、後は陰ながら見守る事しか出来ませんからね。まぁ、頼りにし過ぎるのもどうかとは思いますけど」
「さて、ヘルモーズおりますか?」
「はッ、ここに!」
「あの娘を陰ながら護ってあげて欲しいと考えています。貴方にそれが頼めますか?」
「委細承知致しました」
バルドルに言われたヘルモーズはこうして少女の護衛を仰せつかり、その姿を宵闇に溶け込ませていくのだった。
「さて、父上が絶賛した力、見せてもらうと致しましょう。フレイ、ヘイムダル戻るまでこの地の事は任せました。ウルは共に来てもらえますか?」
少女は空を駆けて遥か上空からバイザーで敵の軍勢を確認していた。上空にいる少女の周囲に敵影は無い。ついでに言えば飛行系の魔獣もいない様子だ。
地上では陣が張られており、篝火があちらこちらに焚かれている。よって眼下にはオレンジ色の点が無数に窺い知れた。
煌々と燃える松明の数だけ警戒感が強い事を物語っているのだろう。
更にはバイザーで見た限り、魔獣達も張られた陣の中にいる様子だ。
「なる程ね。確かにこんだけいると厄介かもね。でもそれなら、案外容易く殲滅出来そうね」
「まったく、アタシをバカにした事、ちゃんと吠え面かかせて、ぎゃふんと言わせてやるんだからッ」
「それにしてもここまで高度を上げれば襲われる心配は無いわよね?詠唱中が一番狙われると厄介だけど、周りに敵はいないようだから……。ふふふ、制空権を取ったアタシの力見せてやろうじゃんかッ!」
少女は背中に格納してある愛剣を取り出し、デバイスに「命」を投げた。デバイスからは1つの魔族の魔石が排出され、大剣ディオルゲートのスロットに納まっていった。こうして魔石の力を得た少女は魔族化したのである。
そして静かに詠唱を始めていく。
「廻れ廻れ、輪廻よ廻れ。廻れ舞われよ、常世の舞を。魔力は巡りて、この手の中に。全ての財は我が手の中に」
「我は望みてここに来たれり、我の望みはここに御座せり。我は強欲、我が富よ此処に。出よ、偽神征鎚、力を示せ!」
大気中のマナは詠唱に拠って引き寄せられ、少女は自分の持つ膨大なオドとそれらを混じえて魔力を編んでいく。
少女の愛剣は編まれていく力を受け取り、その姿形を変えていく。少女の愛剣が巨大な金色の鎚へとその身を変えた時、少女はゆっくりと振り上げていき、編み終えた魔術を解放していったのだった。
「我が神槌を、我が敵に下さん。征鎚演技!」
「うおぉぉりゃあぁぁッ!」
少女は具現化した雷神の鎚を少女は敵陣目掛けて振り下ろしていった。そして、その一撃を以って、開幕の一撃と為したのである。
バルドルとウルの2人は、何が起きているのか理解に苦しみながらその光景を目に焼き付けていた。
幕舎にいたフレイとヘイムダルは異様に高まっていくマナに気付くと、幕舎を飛び出し西の空から天に向かって光の柱が昇っていく姿に、身体を震えさせながら凝視することしか出来なかった。
どぉおぉおおぉおおおぉん
「これが、父上の仰っていた力なのですか?これほどまでの力をヒト種が御し切るとは……ウル!ウルちゃんと見ていますか?この力はなんと途轍もないのでしょう!あぁ、胸の高鳴りが収まりません。あれほどの力を持ってるとは、なんて素晴らしいのでしょう!」
「バルドル、あの攻撃の余波がこっちに来るやも知れん。いったん離れるぞ!」
「はは、ははは、ははッ」
バルドル達は近くまで来ていた事が災いし、その力の一部始終を見届ける事になった。
時に強大過ぎる力の影響は、見ている者の精神を見ているだけで蝕む劇薬のようなモノで、その劇薬を間近で得てしまったバルドルは、空を見上げながら乾いた笑い声を発している事しか出来なかったのだった。
そんなバルドルに対してウルは極力冷静に努めると、踵を返してバルドルを担ぎ幕舎へと急いでUターンしていった。
「あ、あれは?一体何だ?トールの真神征鎚に見えなくも無いが……。ミョルニルを取り返したトールがこの地にいち早く馳せ参じてくれたとでも言うのか?」
「いやいや、流石のトールでもそれは無理なんじゃないかな?」
フレイとヘイムダルは金色に輝く鉄槌が大地へと振り下ろされて行くその光景を、ただただ息を飲んで黙って見ているしか出来なかったが、その脚は震える事を禁じ得なかったようだ。
がさっがさっ
「はぁ……はぁ……。2人とも、大丈夫か?」
「ウル!ん?バルドル!」
「しっかりしろ、バルドル!ウル、何があった答えろ!」
「ねぇ、バルドルに一体何があったの?」
「お前達も見ただろう?あの金色に輝く鉄槌を。アレを間近に見た途端、バルドルはこうなった」
「強力過ぎる力に毒てられたとでも言うの……か?」
爆発の余波が過ぎ去った後になっても、フレイとヘイムダルの2人は呆然とその場に立ち尽くしていた。そこにウルがバルドルを担いで帰って来たのである。
2人はバルドルの様子がおかしい事に気付くとウルに詰め寄ったが、その解答は俄には信じられないモノだったに違いない。
そして今もなお、その足に残る震えは得体の知れない少女への恐怖を、完全に植え付けられた事を物語っていた。
絶対なる強者であって、絶大な力を持つ神族である事の自負があればある程に、打ち砕かれた喪失感は強いものなのかもしれない。
「バイザーに映る光点は数える程度まで減ったわね。じゃあ次は手っ取り早く殲滅させましょうかッ!制空権の本懐見せてあげるッ」
「散弾放つ雷撃の砲兵・11柱×3」
「追尾する闇の重騎兵・28柱×3」
「追尾し穿つ光の狂兵・28柱×3」
最初に顕れた砲兵は、陣があったハズの一帯、即ち現状では巨大なクレーターがぽっかりと空いた大地に目掛けて、無慈悲の絨毯爆撃を行っていく。
砲兵の放つ散弾である「フレシェット弾」は、その数26万本にも及ぶ「雷撃」の子弾をその周辺一帯に撒き散らしていった。
その「数の暴力」は辛うじて「鉄槌」から生き残った者や、既に瀕死になっていた者達にも等しく且つ容赦無く浴びせられていったのだ。
散弾が「雷撃」を撒き散らし終えた頃、それでも地上に残っていた微かな残存兵は光と闇の兵に拠ってその悉くが狩り取られていく事になる。
こうして最後にその地には、大きな「クレーター」がたった1つだけが残されており数千にも及ぶ軍勢は、その痕跡ごと跡形もなく消滅したのであった。
それは即ち霜巨人族にも、丘巨人族にも、そして全ての魔獣に対しても、等しく滅びが与えられた光景を物語っていた。
「フリュムが逝ったか。あれほどの猛者であっても何も出来ずに逝く事になるのか。よもや、たった1人の小娘にあれだけの軍勢が壊滅させられるとは思いもよらなんだな」
「随分と弱気なのね?あなたらしくもない」
「あぁでも、うちが愛したあなたは、今となっては別人だったわね?」
「シンモラか。久しいな。どういった風の吹き回しだ?スルトが逝った今、お前が加勢する義理はもう無いだろう?」
男の前には1人の女性が立っていた。その髪は紺色でサイドテールに纏め上げられ、宝石のエメラルドを思い起こさせる瞳が男を見据えている。
一見華奢な容姿にも見えるが、出ている所はちゃんと出ており、その曲線美が女性特有の色気を醸し出していた。
更には身に纏っている装備をはだけさせている為にそれがより一層際立たせている様子だ。
そして、その手にはどこかで見た事のある、一振りの細身の長剣が握られている。
「そうね、ウトガルザ。今のあなたに加勢する義理は無いわね。だからうちは、うちのする事をするのよ。愛するあなたを、うちから奪った相手をこの手にかけて、愛するあなたの慰み者にしてあげるの。うふふふふふふ」
「スルトの狂った伴侶め。だがまぁいい。好きなようにするがいいさ」
「えぇ、モチロンそうさせてもらうわ。だけど、うちの元にこの「剣」が帰って来たから、もうこの「剣」をあなたに返すつもりがないのだけは覚えておいてね?うふふっ。それにね、この「剣」のコトであなたに邪魔をされるのだけは嫌だから、あなたの元に来たのよ」
「愛するあなたとは違うあなたでも、あなたにだけは挨拶しておきたかったから。それだけの為にわざわざここまで足を運んだのよ、うふふ。うちってなんて健気でなんて可愛らしいんでしょう」
「スルトを失った事でより一層狂ったようだな。しかしまぁ元より邪魔立てなどせんよ。お前はお前の好きなように暴れればいいさ」
「それなら、何も問題は無いわね。それでは、ご機嫌よう。あ・な・た。いくらうちが健気で可愛くても、うちの心は愛する人だけのモノだから、指を咥えて待っていてね。まぁ全てが終わった後でなら、うちの指を美味しそうに咥えさせてあげてもいいかもしれないわね。うふふふふふ」
シンモラは妖艶な目付きで終始紡ぎ、不敵な笑いを残してウトガルザの城から姿を消していった。
その瞳は途中から狂気に満ち満ちており、ウトガルザはスルトを憐れみながらもどこか遣る瀬無い気持ちになっていたのだった。
「まったく喰えぬ女よ。だがあの女は敵にも味方にも毒になる。使い方を見誤るワケにはいかんからな。もう捨て置くしかあるまい」
少女はバイザー越しに光点の有無を探した。しかしながら、これは「殲滅依頼」ではないから結構雑にだ。
光点が完全に失くなった事を見届けた少女は高度を落とし、今しがた作り上げた「クレーター」の真ん中に降り立ち、新たな詠唱を紡いでいくのだった。
「我、ここに汝と契約を交わす者也。汝、ここに我と契約を成立させん。我が力を寄る辺とし、汝の御霊よ、我が元に来たれ」
「従魔契約×…………∞!」
少女を中心にしてマナとオドの渦が発生し、クレーターを起点に周囲を取り囲んでいく。躯すら残さず完全に消滅させてしまったので、仕方のない処置だ。しかしながら言い換えれば、こんな乱暴なやり方が出来るヒト種は少女くらいなモノだろう。
こんなコスパの低い魔術を広範囲で行えば、大抵の者はマナを編んでると言ってもオドが先に尽きてしまうからだ。
巨大なクレーターをぽっかりと包み込む程の巨大な魔力の渦は、周囲にさっきまで存在していた者達に語り掛けていったのである。
「ふぅ、反応があったのは20くらいかしら?想定外に少なかったわ……残念。今回の規模なら成功率がせめて10%は欲しかったわね。まぁ、圧倒的な力関係を見せ付ける事無く、降って湧いたような攻撃で突然殺されちゃったワケだし、しゃーないったらしゃーないか」
「さぁて、どんなのが契約に応じてくれたのかな?」
「従魔契約」により手札を増やしたかった少女は、思った以上に悪い結果に不満だった。しかし、「手札が無いよりはいいか」と考え直すと契約に応じ使い魔になったモノ達をデバイスにしまっていく。
今回の「契約」に拠り少女が手中にしたのは、「超回復巨鬼種」が4匹。「氷雪巨狼型精霊種」が6匹。「氷雪巨蛇型精霊種」が9匹。
計19匹の使い魔を手に入れた事になる。
「超回復巨鬼種」は人間界では滅多にお目に掛かれないばかりか、生息域が非常に狭い地域に限られている魔獣だ。生態系上は「巨鬼種」に分類されており、討伐難易度はAランクになる。
拠って複数体現れた場合などは、依頼の完結が非常に難しくなる。
近縁種には一眼巨鬼種などがいるが、超回復巨鬼種には他の「巨鬼種」には無い「固有能力」を持っている事が知られている。
それは名前の由来にもなっている「超絶回復」と呼ばれる受動型能力である。
超回復巨鬼種は回復能力が非常に高く、身体から切り離されず少しでも繋がっていれば立ちどころに傷を癒やす事が出来るのだ。
故に討伐難易度も高く設定されているのである。
一方の「氷雪巨狼型精霊種」や「氷雪巨蛇型精霊種」は人間界には棲息していない。人間界に於いて目撃情報は一切入っておらず、研究もされていない事からどこの生態系にも組み込まれていない。
拠って名前と見た目から推測する事しか出来ないのだが、見た目が巨大な狼が「氷雪巨狼型精霊種」で、巨大な蛇が「氷雪巨蛇型精霊種」と言うことだけは理解が出来た。
本来、「精霊種」という名前は魔獣で使われる事がないので、完全に人間界では未発見の魔獣なのかもしれない。だからこそ人間界に無事に持って帰れれば新種の魔獣と認定されるだろう。
まぁ、そんな見せ物にするようなコトは絶対にしないが。
兎にも角にも、その2種はどんな能力を持っているのか分からなかったが、「今のところはそれで構わない」と少女は考える事にした。
こうして魔犬種に続き、少女が獲得した新たな使い魔達は全てデバイスに納められたのである。
辺りは静寂を取り戻していた。先程までの一方的な虐殺は現在ではクレーターにのみ、その名残を見る事が出来る。
あれほど無数にあった篝火の1つも、今は確認する事は出来ず燻る火の粉すら見付ける事は出来ない。
灯りは夜空に漂う星々のみで、バイザーの暗視モードを切れば少女も完全に視界が奪われるだろう。
少女はマモンの魔石をデバイスにしまった。流石に「神界」で魔族化している事に抵抗があったし、もしもバルドル達「アースガルズ」の神族に見付かれば一悶着起き兼ねないと考えたからだ。
しかし今のこの状況を見られても更なる問題に発展するかも知れない事から、再びブーツに火を点し早々に戦線を離脱し空を駆ける事にした。
まぁ、バルドルの軍勢は遅かれ早かれ明日になればこの道を通るので、このクレーターも見る事になるだろうが、証拠隠滅をせずに「三十六計逃げるが勝ち作戦」を採用するしか今のところ方策はなかった様子だ。
夜の帳を降ろした、星の微かな光だけが灯る空に、少女のブーツから漏れていく赤い光が、流れ星のような余韻を残しながら西へ西へと煌めいていく。
少女と袂を分けつ事にした4人の神族がこのクレーターを見たら、驚いてくれるのは間違いがないだろうが、少女はそんな余韻に浸る事なくひたすら西に向かって駆けていくのだった。




