リカイシャノコウドウ ν
「昨夜はよく眠れたようだな?」
「特に何も起きなかったようで何よりだ!」
少女は朝になり、自然と普通に目が覚めた。
少女が目覚めるとタイミングよく使いの者が部屋に入って来て、朝食をこれまた自然と運び入れていた。
今朝はコーヒーは朝食の中に入ってなかった。昨日は別に頼んだからだろうか?
まぁでも、無いなら無いでそれは別に構わなかった。
朝食を食べ終わり、少しまったりしていた頃にアテナは部屋に入って来た。その顔はやはり美しかった。
「えぇ、お陰様で。ありがとう、アテナさん。ところで何をしたの?」
「ノックの音がすると言ってたからな、音に拠る結界を張っておいただけだ。不快な音が掻き消えるように」
「そんな事も出来るんだ?魔術なの?」
「ん?魔術?いや、神族は魔術は使えないぞ?魔術は魔族が魔術の体現化で創り上げたモノだろう?」
「えっ?確かにそれは魔族専用だけど、魔術は全てが魔術の体現化ではないわよ?魔術特性があればどんな種族でも使えるハズだわ?」
「ほう?それは興味深いな!じっくりと聞きたいモノだ!」
「時間があればいいけど、叔母様はもう来るのかしら?途中で話しの腰が折れちゃうのはイヤだからなぁ」
「流石に叔母上が来る時間までは流石に分からない。でもまぁ、その時はまた続きを後日聞かせてくれても構わないぞ?」
そんなこんなで暫くの間、部屋の中で2人は談笑していた。それは、いとこ同士だからなのか、女性同士だからなのか、それとも闘う者同士だからなのかは分からない。
しかし、話しは弾み時間は過ぎていった。
「あら?貴女達、随分と仲が宜しいのだわ?」
「「!?」」
2人は突然声を掛けられ驚いて顔を向けた。すると扉の前に一人の背の高い女性が凛として立っていたのだった。話しに夢中になるあまり気付かなかったのだ。
だから余計に焦ったとも言い換えられる。
その女性は深紅のドレスを身に纏い、黒いショールを羽織っている。手にはドレスの色と同じ輝石の付いた玉杖を持っていた。
髪はツヤがある赤み掛かった金色で、束ねて上げられ後ろで一つにスッキリと纏まっている。目鼻立ちは整っていて眼光は鋭く、その瞳はエメラルドグリーンに輝いていた。
一見すると気が凄く強そうな感じがするが、独特な口調からその雰囲気が和らいでいる感じがしなくもない。
これがギャップ萌えと言うヤツだろうか?いや、そもそもその前にこの場にいる誰も、「萌え」てはいない。
「叔母上!」
「こ、この人が?」
「は、ハジメマシテ」
アテナは声に反応し、振り返ると片膝を付き頭を垂れ、少女は立ち上がると上目遣いに頭を下げていった。
「よくぞここまで来て下さったのだわ。アテクシはこの国の女神ヘラ。ヘラ・ガメイラ・ピーファウル。貴女の叔母にあたるのだわ」
ヘラと名乗った女神は少女を見据え言の葉を投げていくが、やはり違和感に耐えない少女だった。
その声は「詩」のような響きを持っている。それは情熱的な舞曲を彷彿とさせながら、苛烈な輪舞曲をも想起させる。そんな、荒々しく猛々しい波だった。
違和感さえ無ければの話しだが。
「あぁ、貴女はよく似ているのだわ。顔や魂の在り方…。ちょっと此方に来て欲しいのだわ?」
「は、はいっ」
きゅっ
「えっ!? /// あっ、いい匂い……」
ヘラの誘いに従い、少女はヘラに近付いていく。そしてヘラは自分の愛娘を抱き締めるように、少女の事を優しく抱き締めていった。
「あのコは幸せの全てを擲って、女の悦びまで犠牲にして、世界の守護者となる事を選んだというのに、あの唐変木は怒り狂って姉を幽閉してしまったのだわ」
「母様……」
ヘラは少女を抱き締めたまま、頭を撫でていた。少女は為すがままヘラの胸に抱かれ、可愛らしい子猫のようにその胸元に埋まっていた。だが、少女としては何故かイライラしなかったのだった。
何故かはご想像にお任せするとしよう。
少女は途中で、ヘラの抱き締める力が多少強くなった気がしていたが、特段苦しいと言う事もなかった。
それ以前にヘラから発せられている香りは、少女の事をとても心地良くさせていた。
「ヘラ叔母様、お話しを聞かせてもらってもいいのかしら?」
「その前にアテナ!座る場所がないのだわ?」
ヘラはその気が済むまで少女の事を抱き締め、頭を撫で回していた。少女はヘラの気が済むまで撫で回されていたので髪の毛はくしゃくしゃだったが、特に気にしていなかった。
しかしヘラは少女がベッドに座り、アテナが椅子に座っていることから座る場所がないコトを気にした様子だった。
アテナは急遽使いの者を呼び付け、質素な部屋には似つかわしくない豪華なソファが用意された。
ソファが来た事でただでさえ狭い部屋が、更に狭くなったコトは、気にしてはいけない。
「それじゃ改めて……。アタシの母様はどこに幽閉されているんです?」
「あのコは唐変木に因って、最奥の神殿の中に立つ「星屑の塔」の最上階に幽閉されているのだわ」
「星屑の塔?」
ヘラは憎々しげに少女に「詩」を紡いでいく。少女はその「詩」を聞きながら、「きっと「唐変木」とは「ゼウス」の事なんだろうなぁ?」と考えていた。
「その塔に入るにはどうすれば?その塔に行くまでが大変そうではあるけど…」
ちらっ
「そうね、それは簡単ではないのだわ」
「そして星屑の塔に入るには「三柱の承認」が必要なのだわ」
「三柱の承認?」
「「オリュンポス」は現在の王で3代目。その3代の王の承認があってやっと塔の中に立ち入る事が可能となるのだわ」
「そうすると、曾祖父と祖父、後、叔父から承認を得るって事になるのかしら?」
「えぇ、そうね。頭の回転が速いコは好きなのだわ」
「でも、その承認ってどうすれば?」
ヘラは微笑みを作り、少女に向けていた。少女はその微笑みも「詩」同様に、とても心地良かったが質問の返答はもらえなかった。
「先ずは、ここから西にある「天空の塔」に貴女の曾祖父がいるのだわ。ただ、道中で唐変木から悪さが入るかもしれないから、貴女に加護と護衛を付けておいてあげるのだわ」
「加護と護衛?」
「ちょっとアテクシの横に来るのだわ?」
ちょこん
ちゅッ
「ひゃうッ///」
少女はヘラの横に座った。そして次の瞬間、少女のおでこにヘラの柔らかい唇が触れたのだった。
少女はヘラの行動に対して驚きの余り可愛らしい悲鳴を上げ、アテナはその光景を微笑ましく思い「くすッ」と微笑いながら見ていた。
「貴女、空を行くコトは可能なのだわ?」
「えぇ、モチロンッ」
「それならば、天空の塔には空から向かうと良いのだわ」
「はい、分かりまし…でも、アタシ、場所が……」
「大丈夫なのだわ。アテナ、悪いけど、このコの道先案内をお願い出来るのだわ?」
「分かりました、叔母上」
突然自分に向けられた言の葉にアテナは驚きの表情を見せていた。だがその返答にヘラは微笑んでいた。
「くれぐれも、唐変木に犯されるような事があってはならないのだわ?そうなったらアテクシは、いくら貴女でも殺さないといけなくなるから細心の注意を払うのだわ」
ぶるるっ
ヘラは最後に「詩」を残し部屋を後にしていった。少女は最後の瞬間にヘラが見せた凶悪な視線に、身震いをする思いだった。
だからこそ、心に固く誓った。
「絶対に襲われないようにしないと……」
アテナは少女を連れて神殿を出ると、権能の力に拠って自分の姿を梟に変化させた。
少女は勿論、ブーツに火を点した。
少女とアテナは空を行くその道中で、再び様々な声を交わしていった。話題は尽きるコトがなかったが、楽しい時間は経つのが早いモノだ。そして数時間が経過した頃、2人の前に地上から天にまで延びる「塔」が見えて来たのだった。
それはあまりにも高過ぎて頂上付近は霞んでおり、確認する事も出来なかった。
恐らく、人類の叡智を結集しても到底造る事は叶わないだろう。
ごくりっ
「あれが?」
「そうだ。あれが叔母上が話していた「天空の塔」だ」
「ここから先へは、貴女が一人で行くんだ。ウチは一緒には付いて行く事が出来ない。だから、ウチも貴女に「加護」を授けておこう。きっと役に立つハズだ」
がしっ
ちゅっ
「へぁっ?!」
アテナは背中に梟の翼を生やしただけの姿に変化した。そして少女の手を取ると、手の甲にアテナのキレイな顔が近付き、ぷるっとツヤのある唇が触れた。
少女は先にヘラで経験していた事もあって、今度は驚きはしなかったがドキマギしていた。更に背中を一本指でなぞられたようなゾワゾワ感が身体を奔っていく。
ちょっとでも気を抜けば声が漏れそうだったが、流石にそれは恥ずかしかったので全力で抑えていた。
「それではな。無事に「塔」から出て来れる事を祈っている。そして塔から出て来たら、ウチの名を呼ぶと良い。そうすればウチは迎えに来よう」
アテナはそれだけを言い残して、来た方向へと飛び去って行った。
「無事に塔から出られる?ここって、そんなに危ないところなのっ?えっ?ちょ、ホント?」
「って、もう遅いか。取り敢えず行くとしまっ!?えっ?なにこれ?声が聞こえる……」
少女は「塔」の下から入らずにそのまま「塔」の壁面に沿って上昇していた。それは、アテナがくれた「加護」がそう告げていたからであり、少女は純粋にそれに従っただけだ。
-・-・-・-・-・-・-
アテナは知恵、芸術、戦略といった事を司る女神である。少女はその「加護」をアテナから与えられ、その「知恵」に拠って「塔」の中の様子を知ったのだった。
“塔の下層には一眼巨人種や百腕巨人種といった、人間界には棲息していない魔獣がおり侵入を拒んでいる”
「えっ?」
“中層には、犬の頭に蛇の髪の毛を持ち、背中に蝙蝠の羽を生やした殺戮妖精種といった魔獣がいる”
「えぇっ?!」
“上層には、一見すると普通の人に見えるがその中には混沌が広がっていて不死性を持つ混沌妖精種といった魔獣がいる”
「はあぁぁぁぁ」
「えっと、それだと討伐難易度は余裕で古龍種超えそうよね?そんなのがわんさかいるって、無理ゲー過ぎない?」
“安全に行くのであれば外壁に沿って昇る事を推奨する”
“最上階に今回の目的の者がいるが、そこへは塔の中からは「絶対に行けない”
「あれ?そうなの?それじゃ、塔の中には……?って、そんなコトはまぁいっか!アタシの目的はそれじゃないしね!」
「まぁ、凄っごく気になるのは事実だけど、今は……あぁ、ちょっとだけちょっとだけだから、教えて?」
“…………”
「分かりました分かりました。行きます行きますよぉッ!」
最上階には塔の外から行くしか方法は無かった。そして例え空から行ったとしても、大気の無い最上階へは物理的に到達出来無いとも告げられた。
だけれども、空から行くしか方法がないのであれば仕方がない。
だからこそ、少女は塔の外側からブーツで行ける所まで行く事にしたのだ。
どれ程駆けただろう。どれ程飛んでも頂上は一向に見えて来ない。大気はどんどん薄くなり、マテリアル体の少女は大分息苦しさを感じるようになっていた。
「アタシくらいじゃないかな?人生で何回もこんな超高高度までブーツで駆けてるのなんて」
「でも、よくよく考えると「神界」って地球にあるってのがよく分かるわね。だけどそうなると「魔界」がどこにあるのか凄く気になるけど」
“知りたいか?”
「うぅん、今はいいや。それよりも、このまま空を駆け続けるのは無理よ?アタシ、ヒト種だから流石に呼吸出来ないと死んでしまうわよ?」
“内に秘めている力を解放すれば到達出来る”
「えっ?それって「惑星の御子」の力を言ってるの?でも、その力はアタシは使えないわ」
“内に秘める力とその力は別物だ。神と魔の力は元から備わっている力だ。それを解放すればヒト種であっても到達出来る”
「えっ?そうだったの?!そんなッ……!」
少女は言われるがままに「魔」と「神」の力を解放していく。そしてそれは凄く久し振りであり、そんな「力」の存在を忘れていたのも事実だった。
何故ならば、その「力」を「惑星の御子」の力だと勘違いしていたからであり、その結果、その力を意図的に封印していたからである。
一方でアテナの「加護」に拠って、その力が「惑星の御子」の力ではない事を知った少女は衝撃を受けていた。
何故なら人間界で今までに受けた依頼のうち、その力を使えばラクに完結出来た依頼が多々あったからである。
要するに無駄に苦労をしていたコトが深く悲しかったのだ。
だが、過ぎたコトはどうしようもないので気を取り直し、意図的に封印していた「封」を開き少女は力を解放するに至る。
久し振りに解放された少女の「半神半魔の力」は大気を震わせ、「神界」をも震わせ惑星そのものをも震わせていた。
「神界」に住まう、有数の力ある者達は、その力の波動を感じ取っていた。然しながら、その力の持ち主に興味を持たず終ぞ知る事は無いか、若しくは持ち主を探す為、配下達に調査をさせると言う二択になっていく事になる。
力を解放し、半神半魔の姿になった少女は一条の光となって塔の壁面を最上階に向けて疾走っていった。あとに残るのは白と黒の余韻であり、それは最上階に向けて虹色の光が昇っていく様子にも見えた。
第三者がその光景を見る事が出来たなら「そんな表現しか出来無い」としか言えなかっただろう。
それ程までに不可思議なモノトーンの光と虹色の光の共演だった。
しゅたっ
「ここが最上階であってるわよね?」
「ってかもう既に地球を通り超えて完全な宇宙空間ね」
塔の壁面を疾走り抜けた少女は、最上階の壁面を通り過ぎ更にその上から壁を飛び越える形で最上階へと侵入したのだった。
少女の眼下には深い蒼と透き通る白、そして広大な緑のコントラストが広がっていた。
少女の足元には白いタイル張りの床が広がっている。そしてその空間に天井は無かった。
宙を見上げるとそこには無数のきらびやかで色とりどりの光の競演が確認出来た。
「まるで星空の天井ね?」
「いえ違うか…、天井が星空なのね。ロマンチックな景色は1人身には辛いけど、例え恋人がいてもここに連れて来れる自信なんでないわね。はぁ」
少女が降り立った場所から見渡せる範囲に誰かがいる気配は無い。だから、少女は最上階を歩いて曾祖父を探す事にしたのだった。
ちなみに、バイザーの反応も一切無かった。
歩いてみると最上階は意外と広い空間だった。
まぁ、四方を囲まれているワケではないので空間と言う表現が適切でないコトは重々承知の上だが、星空を天井とするならばその表現でもいいだろう。だから少女が途方もなく歩いていると「加護」はなにやら説明をしてくれた。
“大地の側にある下層と最上階で面積が違うのは、空間が歪んでいて虚理の理に基づき多次元が融合しているからかも知れない”
「うん、ちょっと何言ってるかワカラナイ。まぁ、いいや、兎に角ここのどっかしらにアタシの曽祖父がいるのだけは間違いないんでしょ?」
“…………”
「加護」から得られる「知恵」も理解が及ばない事に関してはサッパリなのかもしれない。だがそんなコトをいちいち気にしている少女ではないので、サッパリ分からないコトをバッサリ切り捨てるとアテもなく彷徨う事にした様子だった。
『よく来たな、拙生の系譜に連なる者よ』
「ッ!?頭に直接声が響いて来る……」
「どこッ!どこにいるの?」
その声は突然少女の脳裏に過っていく。そして、少女はその声に畏怖を禁じ得なかった。
少女は脳裏に響く異質な「声」に対して会話する手段を持っていない。そんな脳裏に直接響く「声」と会話する能力なんて持っていないので当然の事だ。
だから自身の声を響かせていくしか方法はない。しかし大気のない宇宙空間でそんな事が出来るかは余談なのでおいておく。
『やれやれ、拙生が姿を繕わねば拙生の姿を見る事は叶わぬか』
「っ!?」
「これならばマテリアル体が主体のそなたでも視認出来るか?」
「っ!??!アストラル体が一瞬で受肉したとでも言うの?」
そこにいたのは、白く長い髪を1つに束ね、顔には白く長い髭を蓄えた1人の男性だった。その肌は浅黒く、その瞳は深い藍色で深いシワがいくつも奔っている。
人間の齢で言えば「初老」という条件が当てはまりそうだが、少女はタケミカヅチが話していた事を思い出していた。
「神族は会いたい姿で会う」と、それならば、この形容も本当の姿かどうかは分からない。
「貴方がアタシの「曾祖父」で、あっているのかしら?」
「ヒト種が拙生を前に豪胆な事よ。並の神族ではひれ伏して顔を背けるというのにな……」
そんなコトを言われても少女の中から先程までの畏怖は消えてはいない。しかし姿形をわざわざ繕ってもらった以上、畏怖に拠る震えは失礼だろうと考え、少女は虚勢を張り言の葉を紡いでいた。
「拙生の名はウラノスである。ウラノス・アステリ・ベルガモンじゃ。覚えておくが良い。そしてそなたの母親は我が「孫」なれば、そなたは拙生の「曾孫」だな。だからこそ言うなれば、そなたから見た拙生は「曾祖父」であろうな」
「だからあっておるわい。にかっ」 / ぱちっ
ウラノスは少女に対して言の葉を紡ぐと、歯を見せて笑い、片目を瞑りウインクをして魅せた。
魅せられた少女はそのウラノスの一連の動作に拠って、一気に「畏怖」が消えていった。
更には、親近感すら覚えるようになったのだった。
「ほう!ヘラから言われてここまでやって来たのか?」
「ヒト種の身でよくぞここまで来られたモノじゃ。それは純粋に感心してしまうな。がぁっはっはっ」
ウラノスは少女を連れて最上階にあるポータルから、自分の屋敷代わりの惑星へと転移し、そこで少女とテーブルを挟んで椅子に座り話しをしている。
周りは見渡す限りの草原であり、そこにテーブルが1卓、椅子が2脚だけ置いてある。吹き抜けていく風は心地よく、少女の髪は風を浴びて揺れていた。
ただしそこは、ヒト種が生存出来る環境かは分からないから、念の為半神半魔は解いていない。
でもまぁ、スケール感が意味不明なのは、気にしてはならない。
「母様が囚われている「星屑の塔」に入る為に、曾祖父様の承認が必要だと言われてしまったの」
「ヘラのヤツめ。厄介事を押し付けおって」
「厄介事?」
「おぉ、そうじゃ。厄介事じゃよ。拙生はバカ息子に敗れ、この「天空の塔」に幽閉されておる身じゃ。そなたの母親が幽閉されておる「星屑の塔」へ入る為の「承認」と言われても一緒には行けんしなぁ」
「厄介じゃろ?」
「承認は本人を連れていかないとダメなのかしら?」
「うぅむ、それはなんとも言えんのぅ」
ウラノスは困った様子で言の葉を紡ぎ、その顔は本当に悩んでいる様子だった。
しかし一頻り悩むと、何かを閃いた様子を醸し出していた。
「それじゃあ、これを、そなたに渡しておくとしようか?」
「これは?石にしか見えないけど…?」
少女はその「石」を受け取ると親指と人差し指の指先で「ちょんっ」と挟んで持ちながら、空に向けて翳している。本当に見た感じ変哲もない、ただの石にしか見えなかった。
「それは宇宙の一欠片じゃ。拙生の「概念」は、「宇宙」そのものじゃからな。それを、そなたに与えたと言う事は拙生からの「承認」になる……と思いたいのじゃが。ごにょごにょ」
「宇宙が概念って壮大だわ。曽祖父様は凄いのね」
ウラノスは自信たっぷりで切り出していたが、最後の方は尻窄みな感じがした少女だった。
だから一応、上げておく事にした。
「まぁ、駄目だったら駄目で、またここに来るといい。どうせ拙生は暇じゃしな。それに、偶に顔を見せてくれるだけでも有り難いし、色々な話しを聞かせて貰えると更に有り難い。じゃから、是非にまた来てくれ!にかっ」 / ぱちっ
「うんッ!必ず来るわッ!」
ウラノスは少女に対して笑顔とウインクを贈った。その笑顔は好々爺の顔そのものであり、少女も屈託の無い笑顔を返していった。
暫くの間、少女はウラノスとあれこれ色々な話で盛り上がっていたのだが、楽しい時間はやはり早く過ぎていくものだ。少女は時間を気にした様子で、「そろそろ帰らないと」と切り出していた。
ウラノスは少しだけ寂しそうな顔をしていた。だから少女は「この場所は覚えたから、アタシの転移が使えれば直ぐにでも来れるわ」と返していた。
ウラノスは少女の言の葉に気を良くしたらしく、「それではコレを差し上げよう」と言いながらガントレットを少女に渡したのだった。
「これは?アテナさんの装備と同じ鉱石で出来てるの?」
「それは黒宙石の原石から作ったガントレットじゃ。アダマンティスとか、アダマンタイトと言った伝わり方が人間界だと多いかもしれんな。多少重たいが、マナやオドを使った「虚理」の現象から持ち主を護る物だ」
「えっ!?これが神鉱石よりも硬くて完全魔術防御の力を持つと言われてる黒宙石なの?!」
「おう、その通りじゃ!まぁ、魔術だけに効果があるワケではないぞ?「虚理」の現象そのものを打ち消すからのぅ。「能力」や「概念」も打ち消せるハズじゃ。まぁ、多少重たいのが難点じゃがな」
「これから、バカ息子と助平オヤジの所に行くのであろう?持っていても損は無いじゃろうて」
「その代わりと言っちゃなんじゃが……」
ウラノスは優しく咲っていた。
黒宙石のガントレットを受け取った少女はひたすらウラノスにお礼を言い、ウラノスが出した「代わり」を了承すると、転移のサークルを出現させてウラノスの惑星から「神界」へと戻って行った。
「また、元気な顔を見せに来ておくれ……」
少女はアテナの神殿の部屋に魔術陣を出現させると、転移を完了させた。然しながら泡を喰ったのは、急遽自身の神殿内に魔術反応が現れたアテナだった。
アテナは直ぐさま武装を整えると、魔術反応があった部屋に声を上げながら勇んで乗り込んでいった。
「何者かッ!?」
「えっ?!アテナさん、どうしたの?」 / 「んっ?!何も…のではないな。なんだその格好は?」
アテナは三叉の槍を少女に向けていた。そしてその先にいるのは半神半魔の姿をした少女だ。
2人の声は同時にぶつかり合い、2人は目を合わせお互いがお互いにオロオロとしており、挙動不審だった。
少女は先ず、変身を解いていく。アテナは先ず、臨戦態勢を解いていった。
少女はアテナを驚かせてしまった事を謝り、アテナは槍を向けてしまった事を詫びていた。
その後で少女は自身の「力」の事をアテナに話し、少女の「力」の事を理解したのだった。その上で、自分が何者なのか、何故こんな力を持っているのかをアテナに対して話したのだ。
アテナは真摯にその言の葉を受け止めると、「そう言う事であれば、問題は無い」と返していた。
「ところでちゃんと帰って来れたという事は、ウラノス様から承認を頂けたのだな?」
「た、たぶ……ん?」
「多分?」
アテナの顔には「?」が浮かんでいた。まぁ、それは煮え切らない表現だったから仕方のないコトだろう。
だから少女は、ウラノスに言われた事をアテナにありのまま伝えたのだった。
「あぁ、なるほどそう言う事かッ!確かに、「承認を得ろ」と言われても当のウラノス様にとっては寝耳に水な話だろう」
「無理もないコトだ。それにウラノス様から「承認する」と言われたところで意味はないからな」
アテナのその表情には「やれやれ」と書いてあったかもしれない。まぁ実際、少女はアテナが溜め息の1つでも吐きたい様子なのは感覚的に分かっていた。
「そして、受け取ったのが、「一欠片の宇宙」…か。だが、まぁ、それで問題は無いハズだッ!」
「そうなの?良かったぁ。ほっ」
「今日はもう遅いから、この部屋で今まで通り休むと良い。次の場所に行くなら明日以降だな」
「うん、そうするわ、ありがとう」
「それではウチはそろそろ失礼する。再度結界は張っておくから安心して眠るといい。だが、くれぐれも……」
「自分から扉は開けないわ!」
「そうだ!それでいい!それではな」
「おやすみなさい、アテナさん」
アテナは笑顔で部屋を出ていった。アテナが部屋を出て行った後で少女はベッドに入ろうか悩んでいた。
あまり眠くなかったからだ。そうこうしている内にアテナの使いの者が夕食を運んで来てくれた。少女は眠くなかった事もあって夕食を食べる事にした。夕食はパンと牛乳の他に、温かいスープも加わっていた。味は薄味だったが、身体がほっこり温まり眠気が呼び起こされた様子だった。
少女はベッドに入ると、今日の出来事を思い返しながら微睡みに堕ちていった。
「あっ、そう言えば、お風呂ってあるのかなぁ?」




