霊魂不滅 ~もし、アタシが前触れもなく死んだらどうする?貴方は悲しみに暮れるかしら?~
「あれ?ここは、どこかしら?」
カレラは知らない、、、否、知っている部屋で目覚めた。
この場所はかつて、
初めて自分からキリクの唇を奪った=自分のファーストをキリクに捧げた場所と外の景色が全く同じだったのだ。
「あれからどうなったのかしら?アタシはどれくらいの間、寝ていたんだろう?」
カレラの中に急激な速度で疑問が湧き上がって来ていた。
「あの時、ロキと決着が付いて以降の記憶が無いけど、どうなったのかしら?それに、、、そうだルミネは?ルミネはどうなったの?!」
カレラは自身の記憶が無い事に不安になっていた。
あれが解決したハズの事がもしも夢だったら、
もしもまた、
記憶が失われていたら、、、と。
「よぉ!目覚めたようだな!」
それは唐突にカレラの病室にやって来た。
カレラが悩んでいる事など気にする様子も無く。
「スサノオ!どうしたの?なんでここに?」
カレラは突如として病室にやって来たスサノオを見ると驚きの声を上げていた。
「何でも何も、命の恩人に向かって、そのセリフはないんじゃないか?」
カレラはスサノオから紡がれたセリフに対して驚きを隠せないでいた。
「えっ?命の恩人?どゆこと?」
カレラは驚きを隠せないばかりか、
加えるならそのまま声に出したのであった。
「まぁ、そりゃそうか。気を失ってたからな。じゃあ、おめぇが気を失っていた時の話しをしてやんぜ。」
スサノオはカレラの疑問に対して、
応じる為にカレラの正面に置かれた椅子に腰を掛けると口を開いていったのである。
カレラ達が南極到達不能極に旅立った3日後には、
スサノオを始めとする各大陸に渡った拠点制圧組は神奈川国に勢揃いしていた。
だがその場にカレラとルミネが居ない事を知った、
カレラと付き合いの長い者達はマムへと詰め寄り、
カレラとルミネが一足早く南極到達不能極に旅立った事を知らされたのだそうだ。
南極到達不能極に最後の拠点がある事など知らされていない面々は、
八つ当たりばりにマムに対して食って掛かり、
急いで二人の救援に向かうべきだと主張したそうなのだが、
行く為の方法や手段などが不明瞭且つ、
不明確であった為に結局、
直ぐにでも救援に向かいたい気持ちを抑えて待機となったとスサノオは語った。
場所が場所であり、
神界ですら南極へのゲートは無い事もあって、
自力で向かう事を余儀なくされた面々は、
飛行能力を持つ者だけで新たにメンバーを編成し向かう事になったのだそうだ。
マムはその間、
南極大陸全域をミュステリオンを使って監視し、
新たな情報が分かり次第、
新たに向かったメンバーに対して連絡を取り、
メンバーが南極に到達した辺りで、
激しい戦闘が繰り広げられている事を察知したと連絡が入り、
また、
現地入りしたスサノオ達もその気配を感じ取っていたとカレラに話した。
戦闘が沈静化した際に、
その座標をマムから聞かされたメンバーは急いでその場に向かい、
そこで倒れているカレラを発見、
直ぐ様救助したのだそうだ。
「えっ?ちょっと待って!アタシが救助された流れは分かったけど、それじゃあ、ルミネは?ルミネはどうなったの?まだ、南極に置き去りのまま?!」
カレラは酷く心配そうな表情で、
スサノオに今にも掴みかかりそうな態度で言の葉を紡いでいく。
「ルミネはな、、、。」
スサノオはそこまで言うと言葉を区切り、
凄く残念そうな表情を作ると、
カレラから目を逸らし、
下を向いたのであった。
「そんな、嘘、、、でしょ?ルミネ、、、ルミネ、、、。」カレラはスサノオが見せた表情に言葉を失い、
顔面蒼白で今にも泣き出しそうな顔をすると、
力無く両手で俯いた顔を覆ったのである。
「私がどうかしましたの?」
再びカレラの病室にまたしても唐突に声が響いていく。
そしてその声にカレラは思わず固まってしまったのであった。
「ルミネ?!生きてる、、、の?大丈夫、、、なの?」
カレラは固まった状態から徐々に融解し、
歯切れの悪い声を発しながら、
ルミネを見詰め、
その瞳からは大粒の涙が溢れていた。
そして、スサノオはほくそ笑んでいた。
カレラは暫くの間、
瞳から溢れる涙が止まらなかったが、
それを見兼ねたルミネは、
頭を抑えて蹲っているスサノオを強引に病室の端っこに追いやると、
カレラのベッドに座り、
カレラの頭を抱きかかえる様に自身の胸に埋めると、
カレラの頭を優しく優しく撫で、
その涙が止まるまで慰めていた。
一通り泣き終えたカレラが改めてルミネの顔を見ると、
カレラは今まで気が動転していた事もあって、
気付けないでいたその違和感に気付いたと言える。
「あれ?ルミネ、デバイスどうしたの?」
カレラはルミネの頭にデバイスが装着されている事に気付いたのである。
何故ならば、
ルミネのデバイスは崩落に巻き込まれたあの空間に置き去りにされたハズだからであった。
「デバイスは、ちゃんと取りに行ってきましたわ。私の元の身体が分解されて無くなっても、それが何処にあったのか正確な座標が分かりますもの。」
カレラを救助し終えた面々は直ぐにルミネが居ない事に気付いていた。
その為、
カレラを救助しベースキャンプを設営した後、
今度はルミネの捜索に移ったのだそうだ。
だがルミネはどこにいるか一向に分からず、
捜索が難航していた折、
スサノオを始めとする捜索隊の元に一匹の魔獣がやって来たのである。
意識を失ったルミネに、
カレラが暖が取れるモノとして置いていったモノの中に、
カレラは自分の所有している複数の使い魔や火の精霊石などを置いていった為、
その使い魔の中の一匹が、
ルミネを気遣い単独行動によって捜索隊に接触したのであった。
当初カレラの使い魔は魔獣と勘違いされ、
討伐されそうになったのだが、
それを止めたのはスサノオらと共に捜索隊に加わっていたアテナであり、
アテナは使い魔からカレラの魔力を感じ取った事で、
討伐しようとしていた面々を必死に止めたのである。
カレラの使い魔のヴァナルガンドは、
ルミネの元へと捜索隊を案内し、
無事にルミネも救助されたのであった。
「ルミネは嬢ちゃんのお陰で目覚めるまでに時間がそれほど掛からなかったからな。目覚めた後、自分のデバイスを自分で取りに行ったってワケだ。」
さっきまで頭を抑えて蹲っていたスサノオが、
カレラに対して事の顛末を伝えていたが、
カレラはスサノオに対して怨みを込めた睨みを利かせていた。
「まぁまぁ、そう怒んなって!ちょっとしたご愛嬌だろ?それに、おめぇが現場に置いて来ちまった武装は全て回収して今は、、、あのなんだ?ドクだっけか?あいつに全部渡しておいたから、おめぇが戻るまでに点検し終えてると思うから安心しろ。」
スサノオは少しだけ申し訳なさそうにカレラに対して言の葉を紡いでいく。
要は話しをはぐらかそうとしていたとも言える。
「えっ?アタシの大剣も回収出来たの?」
カレラはルミネのデバイス同様に失われたと思っていた愛剣も回収されたと思い表情が明るくなっていったのだが、、、。
「おめぇの傍に落ちてたのはウージーだっけか?あの銃と片手剣だけだったからな。大剣を持って無かった事に違和感はあったんだ。だけど、近くには無かったから、回収はしてねぇ。」
スサノオはどことなくきょとんとした顔でカレラに対して飄々と言の葉を紡ぎ、
鈍い音が病室に響いたと思ったら再び頭を抑えて蹲ってしまった。
「大丈夫ですわ、カレラ。私がデバイスを回収しに行った時に、カレラの大剣は発見しましたから、その際に回収してドクに渡しておきましたわ。」
ルミネは多少胸を張りながらカレラに対してドヤ顔で言の葉を紡いでいく。
カレラはルミネの献身とも言える諸々の行動に感謝の念を抱かずにはいられなかったのだが、
ルミネの今の言動から先程ルミネに感じた違和感を更に増大させていた。
「ねぇ、ルミネ、、、その新しい身体、おっぱい盛ってない?」
カレラが無事に目覚めた事もあって、
カレラが目覚めるまで神奈川国に滞在すると言ってきかなかった、
神族、魔族、そして各国のハンター達を労う名目で、
最後の最後に神奈川国は盛大な宴会を催した。
その中で、
多少なりとも一悶着も二悶着も三悶着(?)もあったのだが、
それは余談の為、
今は置いておく。
そして宴会は三日三晩続き、
その中で特に今回の依頼に参加したハンター達にはカレラから報酬が渡されていった。
素直に受け取る者、
頑なに拒む者、
多種多様なハンター達に報酬を渡し、
全ての宴会が終わると、
依頼に参加した面々は神奈川国を後にしていったのである。
「カレラ、これからどうするんですの?今後の事を何か考えています?」
ルミネは宴会の後、
騒がしかった面々が神奈川国から居なくなった段階で、
カレラを誘い、
二人で神奈川国が遠くまで一望出来る小高い山に来ていた。
冬と言う季節柄、
山には既に緑は無く、
先日降った雪が白い化粧を施した景色を見ながらルミネは言の葉を紡いでいく。
「そうね、まだ今回の件でやり残した事があるから、ボチボチ終わらせて来ようかなって考えてるけど?」
「えっ?まだ完全に終わったワケではありませんの?」
ルミネは今回の一連の事件は全て解決したと認識していた為、
カレラの放った言葉に驚いた表情を見せていた。
「でも、、、もう、神族も魔族も、他のハンターの方々も帰られてしまった後なのに、大丈夫なんですの?」
「その点は大丈夫よ。戦闘行為があるワケじゃないしね、、、多分。」
カレラは確証のない応えをルミネに伝え、
ルミネは「多分ってなんですの?」と意味深なカレラに対してツッコミを入れていた。
「変えてしまったとはいえ、未来で受けた依頼を放置するワケにはいかないでしょ?」
カレラはそう言うと、
満面の笑みをルミネに向けてから空を見上げたのであった。
12月になったばかりでまだ冬至を迎えていない空は暗くなるのが早い。
だが暗くなるのが早いながらもまだ空は蒼く、
西陽は夕焼けのオレンジに変わりながらも、
その二色が交わって紫色に至るグラデーションと、
大地を覆う雪の白のコントラストは美しいと言えた。
一方で風は冷たく、
二人のいる小高い山を吹き抜けていく。
完全に夜の帳が降りる前に、
二人はここまで運んでくれたセブンティーンに乗り込むと、
吹き抜けて来る風を切り、
颯爽と疾走って行くのであった。
遠くまで響く重低音を掻き鳴らしながら。