縷縷綿綿 ~るんるん気分でいるトコ悪いけど、そのグダグダと長ったらしいだけの話しはそろそろ止めようか?~
「やっと見付けたわ、ロキ!!」
ルミネの元を離れたカレラはロキと対峙していた。
場所は地下空間の崩壊が起きた場所のほぼ真上である。
「全く、アナタのお陰で計画が台無し。またイチから始めたらと思うと10年は無駄にしましたねぇ。」
「だからこそ、わざわざ邪魔なアナタの介入が無い様にと入念に入念を重ねて念入りに念入りに計画を練ったというのに。」
「最後の最後でアナタは邪魔をする。どれだけアナタは私に殺されたいんですか?散々私の事を殺して回ったくせに、それでも尚、私を殺し足りないですか?」
「まぁ、でもそれもこれで仕舞いにしましょう。だって、アナタをここで仕留めればもう、邪魔は入りませんからね?」
ロキはカレラを標的に定め、
その右手には一振りの剣、
左手には一振りの槍を握っていた。
「これで終わりにしましょう、ロキ。」
対するカレラの手にいつもの大剣は無い。
カレラの愛剣であるエンシェントドラゴンの大剣はルミネのデバイスと同じく崩落した空間の中だからだ。
よって左腕にはアダマスのガントレットを嵌め、
盾として展開、
その手にはSMGのウージー、
右手には父親から貰った片手剣・ハールーンノヴァが握られていた。
カレラの剣とロキの槍が交錯し、
ロキの剣はカレラの盾に阻まれ、
火花を散らしながら激しい応酬が繰り広げられ、
幾度と無く繰り返されていく。
距離が開くとカレラはすかさず艦砲に似た轟音を轟かせるも、
ロキはそれらを尽く躱し、
躱された弾丸は南極の大地を抉り取っていく。
幾度となく刃が交わり、
乾いた金属音を響き渡らせ、
それらは主旋律を刻み、
時折轟音が重低音のビートを刻んでいく。
お互いに持っている得物が近接線に特化している事もあり、
魔術の行使はせずにただ何合も何合も斬り結び、
終わりの無い、
先の見えない演武を舞っている様にも、
そこに観客がいれば見えていたかもしれない。
それ程までに二人の命懸けの演武は美しかったと言える。
「やっぱり、斬り合うだけじゃ、終わりが見えないわね。これじゃあラチが明かないし、この姿で徐々にオドを消耗しているアタシの方がだいぶ不利ね。」
カレラは心の中で苦しい状況を吐露していた。
だがサシで近接戦闘を繰り広げている間は、
詠唱を伴う魔術は行使出来ず、
かと言って決め手になり得る致命傷を、
お互いに与える事は出来ない。
逆に考えると近接戦闘からミドルレンジを踏まえた戦闘にすれば、
ロキが持っている槍が火を吹く可能性があり、
それがカレラの行動を制限していたと言える。
何故ならば、
ロキの持つ槍と剣、
それは過去の闘いに於いてもロキはその槍と剣を持ち出していたからであり、
それらの武器が持つ権能は、
ロキでは十全に使い熟す事が出来ないと言う事は過去の闘いに於いて証明されてはいるのだが、
それでも武器自体の性能が高い為、
不十分な権能でもカレラにとっては脅威である事に変わりはないのであった。
二人が持っている武器の火力だけで言えば、
カレラのウージーに装填されている精霊石弾が圧倒的に優位ではある。
だが、
ロキの持つ因果律を操作するグングニルやレーヴァテインの方が性能的に圧倒的優位と言えた。
当然の事ながら、
グングニルやレーヴァテインが本物であればこそなのは言うまでもないが、
ロキは自身の権能に拠って、
本物そっくりの紛い物を創り出す事が出来る。
その結果、
二人の優位性を相対的に考えたとしても、
50:50以上にも以下にもならないのであった。
そして、そんな状態のまま二人は終わらない演武を舞踏し続けていく。
それでもお互いに決め手を持たないままで、
数時間という時間だけが過ぎていったのは事実であり、
互いが互いに狡猾であると認める策士二人が武器を手に闘っている姿は美しい反面、
滑稽にも映りだした頃、
事態は急速に方向転換していく事になる。
「やはり、アナタはどこまでも腹立たしい。それだけの力を有しながら、どこまで愚かな人間の、否、神々の味方をするのです?」
「人間も神々も等しく愚か。わざわざ矢面に立ってまで、自身の生命を曝け出し、その生命を差し出す必要は無いでしょう?」
「ロキ、アタシはハンターなの。良いか悪いか愚かか賢いか以前にハンターとして受けた依頼を達成するだけよ!」
カレラの瞳は強い光を宿し、
ロキを見据えていた。
「だけどね、アタシはハンター以前に、アンタの事が嫌い!ハンターの仕事をしていて、アンタの暗躍は癪に障るけど、それ以前にアンタが嫌い!だから、アタシの願いは、金ッ輪ッ際ッ!!アタシを含めた全てのハンター達が、アンタが絡む案件の依頼に絡まないようになる事よッ!!」
カレラはより一層強い光を宿した瞳でロキを睨み付けると、
左手に持つウージーの銃口をロキへと向けた。
「アンタとの因縁、ここで終わりにしましょう。」
カレラは自身が持つ精霊石弾・総残弾数418発をフルバーストさせるべく、
フルオートにスイッチを切り替え引き金に指を掛けるとゆっくりと弾いたのである。
対するロキは手に持つグングニルとレーヴァテインに己の魔力を流し、
その権能を活性化させていた。
総弾数418発の艦砲が白い氷の大地に鳴り響いていく。
轟音は重爆撃の如く白い大地を完膚無きまでに抉り取り、
轟音が轟く度に氷の大地は割れ、
二人が立っている足場は崩れ落ちていく。
一方のロキは魔力を流し活性化させたグングニルを重爆撃の中へと投げ、
己の手の中に同じく活性化させたレーヴァテインを握り締め、
幾重にも迫り来る重爆撃をレーヴァテイン一本で退けるべく必死に刃を振っていた。
カレラはグングニルが迫って来ている事を察知していたが、
銃口はグングニルではなく、
常にロキに対して向けていた。
フルオートで放たれる弾丸はロキを目指して向かって飛んで行くが、
その手に持つレーヴァテインの因果律変化に因って弾丸自体が捻じ曲げられロキには届かない。
一方で投げられたグングニルはカレラを強襲し、
カレラを穿こうと向かって来るが、
カレラのガントレットがそれを阻みグングニルは弾かれ、
再び向きを変えるとカレラを強襲していく。
そんな攻防を繰り返し、
氷の大地が辺り一面蒸気を吹き上げるほどに熱を上げ、
カレラの精霊石弾が尽きた頃、
カレラはウージーを手放すとその手に持ったハールーンノヴァでロキに斬りかかったのである。
「ロキィィィィィィィ!」
カレラが雄叫びを上げ、
大上段から渾身の一撃をロキに見舞っていく。
ロキはその渾身の一撃をレーヴァテインの権能を以って何事も無かったかのように受け流すと、
その隙だらけになったカレラを狙ったグングニルがカレラを刺し穿いた、、、ハズだった。
だがあろう事かカレラを刺し穿いたハズのグングニルは、
カレラの手の中にあり、
そして、
その手の中にあるグングニルはカレラの手を離れる様にロキに目掛けて投げられたのであった。
グングニルはその権能を以って最終的にロキに対して命中し、
ロキは己が創り出した槍に因って大地に縫い付けられる形となったのである。
ロキが創り出した因果律を変える二つの武器は、
その矛盾から相反する作用を引き起こし、
結果として数回撃ち合う事になったのだが、
結果はロキに対して微笑まなかったのであった。
「何故だ?!何故、グングニルが私に反する?」
「アタシの持つこのガントレットは、虚理から身を護る事が出来るの。だから、アナタのグングニルを何回も受けさせた事で、グングニルに宿した権能を結果としてアタシが支配したのよ。」
カレラは応え合わせをロキに対して行っていく。
本来であればそんな義理は無く、
手の内を曝け出す様な事はしないのだが、
特別と言えば特別、
手向けと言えば手向けであった。
「ロキ、アナタにはここで死んで貰う事はしない。例え死んで魔石になった所で、アナタはいずれ受肉して戻るし、そうなったら再び神々の黄昏を求めるでしょう?」
カレラは憐れみの感情を交えて既に動けないロキに対して言の葉を紡いでいく。
「その時、アタシはもういないかもしれない。その時のハンター達に、負の遺産を背負わせるワケにはいかない。だから、アナタを殺さない。」
カレラは覚悟を決めた様な表情をとり、
微笑みをロキに向けていた。
カレラは詠唱を始めていく。
それは長い長い詠唱であって、
アルティメット・シリーズよりも長い詠唱のその間、
大地に縫い付けられたロキは無駄な抵抗を一切しなかった。
カレラの長い詠唱が終わり、
その術式の意味を知ったロキは本当に観念した様な表情をし、
「よくもまぁ、そこまでの複雑な術式を編んだモノですねぇ。脱帽しますよ」とだけ呟いていた。
カレラが編み終えた術式、
それは、
イコルがエリックに協力し提唱したマナの分解術式。
それは、
シツカ、スネアー、ジャイニがイコルによって齎された情報を元に提唱した、
時空と空間、
更には時間転移に関わる術式。
それらを全て掛け合わせ、
成立させた魔術式。
「これで、本当に終わりよ、ロキ。」カレラはそれだけを言うと、編み終えた術式を展開していった。
「封印指定・無限牢獄」
カレラが展開した術式の中央にはロキがおり、
その展開された術式はロキを取り込むと小さい小さい立方体の監獄となったのである。
「これで、やっと終わった。」
カレラはロキを取り込んだ監獄を拾い上げ、
自身のデバイスに収納すると、
精根尽き果てた様子でその場に倒れ込み、
そのまま意識を失ったのであった。