陽関三畳 ~お別れなの?ねぇ、アタシを置いていっちゃうの?~
カレラ達が南極到達不能極に向かう為の準備は着々と続いた。
その間オーストラリア大陸と、
ユーラシア大陸の拠点は進捗があり、
苦戦を強いられたものの、
制圧が完了した旨の報告があったのは、
11月20日の昼過ぎ頃だった。
苦戦を強いられた最大の理由は、
黒幕に拠ってテイムされていた魔獣の多さである。
神族メインのチームは武神クラスが多く、
一騎当千/万夫不当の猛者達が魔獣を蹴散らす、、、と言った構図で殲滅が出来たものの、
ハンターメインのチームに至ってはそれが成し得られず、
次々と何処からともなく湧いて出てくる魔獣の殲滅に手間取っている内に多くの負傷者を出し、
殲滅が追い付かなくなると言った悪循環を起こしたのが原因であったようだった。
また敵の拠点が残り二つになった事で、
他の地域よりも魔獣の数が極端に多くなった事も時間が掛かった要因だったようである。
だが初期配置の敵の拠点は全て制圧が終わり、
重傷者は出したものの、
死者は誰一人としていないと言う事が何よりの快挙であったのは言うまでもない。
然しながら、
神奈川国に戻って来た、
作戦に参加した全ての者達が神奈川国でカレラに会う事はなかった。
何故ならばカレラとルミネは皆が帰って来る前に、
たった二人で南極到達不能極へと向かって行ったのである。
カレラは持てる限りの武器及び銃火器、
弾薬等を持ち、
片やルミネはカレラのサポートに徹する為のアイテムや、
食料等を持てる限り掻き集めると、
マムだけに挨拶をして執務室から南極到達不能極に向かったのであった。
11月21日、PM1:30 終わりの始まりまであと30日
二人はホワイトアウトしそうな視界の中、
白い大地の上を彷徨っていた。
マイナス20℃を下回る程の極寒の中、
デバイスにインストールした防寒対策の機能に拠って生命活動はギリギリの所で維持出来ている。
だがその機能ですら悲鳴を上げているのが現状であって、
もしも限界を向かえればマテリアル体の二人は氷の彫像として誰にも知られる事無く、
ここに永遠の眠りを誓わなければならなくなるだろう。
とは言え、
もしもデバイスの機能が停止した場合には他にも手段はあるのでそこまでの不安は二人には無く、
目下の不安は目印が全く無いこの極限の大地に於いて、
敵の拠点が見付からない現状にあった。
「マムはこの地に敵の拠点が見付かったって言ってたけど、一体何処にあるのよッ!!」
カレラは焦りを含んだ声を上げるが、
猛吹雪でゴーゴーと言う音が響いている為、
追従しているルミネにはカレラの声は届いていない。
要は声が大きい独り言である。
「デバイスにも反応は全く無いし、このままじゃ、本当に迷子だわ。せめて天気が良ければ上空から調べる事も出来るのに。」
カレラは極限の環境に於いて、
思考回路をフル回転させて現状を打破する為の作戦を考えているが、
その作戦は何一つとして纏まってなどいない。
そんな中、
「あそこに何か見えますわよ?」と、
追従しているルミネがカレラに付けている魔力糸を介した糸電話で話し掛けて来たのであった。
それはホワイトアウト寸前の視界でありながら、
遠目に薄っすらと山の様な輪郭が見えていた。
カレラはルミネの魔力糸に返事を返すとその山の方向へと歩を進めて行く事にしたのである。
「ここでご飯にしましょう。」
カレラとルミネの二人は、
ルミネが発見した山の様な場所に向かった結果、
辿り着くとそこは雪が降り積もり小高い丘の様になった場所である事が分かり、
その丘の麓に魔術で穴を開け、
大きめのかまくらを作るとその中に入っていった。
「ねぇ、ルミネ、何か敵の反応とか痕跡ってあるかしら?」
カレラはルミネから渡されたレーションを口の中に少しずつ入れ食べていく。
まぁ決して美味しいモノではないのが残念だが、
極限の環境で生きる為の必要なカロリーな為、
文句は何も言えない。
「今の所、何もありませんわね。マムから詳細な場所を聞いておりませんの?」
ルミネもカレラと同様のレーションを、
カレラと同様に少しずつ食べているが、
やはり美味しいとは思えない様子であった。
「マムから聞いた座標は最初に向かったけど何も無かったのよ。どうなっているのかしら?」
カレラはレーションの最後の一欠片を口に含みながら言の葉を紡ぎ、
一つの可能性を見出していた。
「移動しているのかしら?」
それがカレラが導き出した可能性である。
「あの、時計塔と同じ様なモノが移動出来るとしたら、少なくとも魔力の痕跡が残るハズですわ?」
ルミネは率直にカレラの導いた可能性に異を唱えるが、
カレラの頭の中にはその可能性以外見出せなかったのも事実であった。
「それじゃあ、他に何かある?」
カレラは他の可能性が見出せない為、
ルミネに意見を求めたが、
「地上に何も無いのでしたら、後は、地下くらいですわね?」と言われてしまったのである。
「地下だと、マムがどうやって発見したのか分からなくなるわ。」
ルミネの意見に対する反論、
それはもっともであり、
ルミネは「それもそうですわね」と納得してしまった為に話しは途切れ、
二人とも黙ってしまったのであった。
沈黙が続き、
当ても無く歩き回っても結論は出ないし敵も見付からない為、
途方に暮れているカレラに一筋の光明を齎したのはルミネの思い付きと言える。
「カレラ、どちらか一方である必要はないのではなくて?」
カレラはルミネから言われたその一言で悟ったのである。
「やっと見付けられたわね。さっすがルミネ!!」
こうして紆余曲折の結果、
カレラとルミネの二人は遂に敵の最後の拠点を見付ける事に成功したのであった。
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カレラとルミネが導き出した結論、、、それは、
「必要がある場合には移動し、必要の無い場合、若しくは痕跡を消す際は地下に格納する」と言う事であった。
その方針に基づいて、
あれだけの巨体であれば出せる速度は低いだろうと考え、
マムの発見から今に至る日時を逆算し、
移動の痕跡は吹雪が消す事を想定している為計算には入れず、
逆に魔力の痕跡を分からなくなるくらい吹雪が薄く拡散する事を計算に入れ、
予測出来る限りの範囲を算出した上で、
最初の発見地点からの最大半径を割り出したのである。
その結果。
3km/h×24H×(8日-5日)=216km
216km×216km×3.14=146499.84平方km
それでも南極大陸の1/100程度の面積があった。
到底期日までに探し切る事は不可能と言える。
だが南極大陸は地球とテルースの融合前に、
軍事拠点や兵器開発などの研究所及びその施設が計画されていた事があり、
その為の施設は今も尚、
ひっそりと点在している。
そしてそういった(主に後者の)秘密裏に作られた施設の類は吹雪が吹き付ける極寒の地よりは地下、、、とは言っても南極大陸は標高が高い為、
あくまでも地表面から見た時の地下数百mの地点(海抜から計算すると2000~3000m付近と推定)に作られていたのである。
然しながらそんな事実があった事をカレラ達は何一つ知ってなどいなかった。
その為、
カレラ達が行った事は先ずは地下に空間があるかどうかの確認である。
その結果、
位置を変え、
何箇所目かの調査の折に地下に広大な空間が広がっている事を確認したのであった。
これが、南極大陸に降り立ってから三日余りが過ぎた頃の話しである。
11月24日、AM11:30 終わりの始まりまであと27日
「ほう?遂にここまで来たか?」
カレラにとっては聞きたくなかった声が響いていた。
「やっぱり、アンタが黒幕だったのね?ミーミル!!」
カレラとルミネの前に立ちはだかった者は、
かつて人間界に戦火を齎した、
北欧の賢者、神界「アースガルズ」のミーミルある。
「アンタはあの戦場から姿を消し、結局、亡骸は見付けられなかったから、まだ生きているとは思ってたけど、何で人間界に手を出す事に固執してるの?」
カレラはミーミルに対して言の葉を投げていく。
「何で?そう言われて応えた所で、納得はすまい?」
ミーミルの言っている事はその通りと言える。
カレラはミーミルの理由を聞いた所で、
納得出来るハズもないし、
分かりたいとも思わないが、
何故あんな未来にしたのか興味が無いとは言えなかった。
「まぁ、良い。儂はな、神界を滅ぼしたいだけじゃ。だから、手っ取り早く神界を滅ぼす為には人間界に滅んでもらうのが一番と言うワケじゃ。」
「理に適っている。」
カレラは少なくともそう感じていた。
確かにマナがなくなった未来に於いて、
人々から信仰心は消え失せ、
その結果、
神界では破綻した神域があったと言っていた。
でもその為に、
ほぼ無関係とも言える人間界に住まう者達が苦しめられていいとは言えないだろう。
その結果、
カレラは下唇を噛み締め、
「キッ」とミーミルを睨み付けていた。
噛み締めたカレラの下唇からは血が滲み滴っていく。
「アンタのそんな自分本位な考えのせいで、どれだけの人が苦しみ、どれだけの人が血を流したと思ってるのよ!!」
カレラは飽くまでも未来の話しをしている。
拠って、
現状に於いてはまだ影響下には置かれていないのだが、
そんな事を知らないミーミルは過去の戦火をカレラから非難されていると考えていた。
「今ここで、何を言い争っても意味はあるまい?儂を止めたいなら、その力でねじ伏せるしかないであろう?」
それが決戦の合図となった。
とは言えど、
ここは地下であり、
大規模な魔術の行使は空間の崩壊を招く危険性がある為、
大火力でミーミルの撃破は出来ない。
よってカレラは自身の愛剣と共にミーミルに対して斬り込み、
ルミネはカレラのサポートを主体とする戦術を基調としていた。
カレラの愛剣が幾度となく空を斬る。
ミーミルの賢者の権能により、
その剣筋はミーミルに対して当たる事は無い。
だが当たらないと分かっていても尚、
カレラは剣を振るい続けていった。
幾重にも剣撃を放ち、
それが幾度となく繰り返されていく。
「無駄じゃよ。当たるワケもなかろう?」
ミーミルが放つ安い挑発。
カレラはそんな挑発に乗る事なくただ黙々と剣を振るう。
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「ねぇ、ルミネ、もしもこれから向かう先に敵の拠点があって、それを守っているモノがいたとしても、ルミネは戦闘に極力参加しないでもらえるかしら?」
カレラは地下空間へと乗り込む前にルミネと段取りを取っていた。
「それはどう言う事ですの?」
ルミネはカレラからの突然の提案に対して、
意味が分からず言の葉を紡いでいく。
「敵の黒幕がいるのは十中八九その通りだと思うの。でも、今回は黒幕を倒すのが目的じゃないでしょ?拠点を潰す事が主たる目的よ。」
カレラはルミネを見据えて言の葉を紡ぐ。
「だから、敵の黒幕とアタシが闘っている間に、ルミネは拠点の解析を行ってもらいたいの。」
カレラは自分が時間稼ぎをしている間に、
拠点攻略の糸口をルミネに探してもらいたいと言ったのである。
「そう言う事なら、私はカレラのサポートをしつつ、拠点攻略の為の解析を行いますわ。これでいいですの?」
よってルミネは、
カレラに対して補助魔術を掛けつつ、
拠点の解析を行っていた。
そして、分かった事が一つ。
「あの時計塔と同じモノの様に見えなくもないですわ。でも、どこか、、、。」
ルミネは解析を進めつつ、
カレラのサポートを行い、
それらに対してのみ注意を向けていた。
そしてそれは唐突に現れたと言っても過言では無い。
そしてそれはカレラの目の端に一瞬映ったに過ぎなかった。
そしてそれはルミネを見ていた。
「ルミネッ!!」
カレラはルミネの危機に対して叫び声とも付かない声を発していた。
そして、それと同時に身体は動いていたが、
ミーミルに因って妨害されてしまったのである。
カレラの叫びはルミネにちゃんと届いていた。
だが、
「ざしゅッ」と言う音と共に、
ルミネの胸を背中から腕が穿いていたのである。
「ルミネーーーーーーーッ!!」
カレラは叫び、
その叫び声と同調する様に、
カレラの身体は変色していく。
半分は光り輝き、
半分は漆黒に染まり、
目は炎を宿したかの様に真っ赤に燃えていた。
カレラは半ば我を忘れた様にルミネに向かって突進していくが、
その行く手を阻んだのはまたもやミーミルであり、
カレラは鬱陶しそうにミーミルに対して横一文字に愛剣を薙ぎ払ったのである。
「ぐぬぅ。」
ミーミルはカレラの剣撃を賢者の権能を以って受け切っていたが、
受け切ったハズの剣撃はミーミルを身体ごと弾き飛ばし、
ミーミルはそのまま壁に向かって激突したのである。
「ぐはッ。よ、よもやこれほどとは。」
ミーミルは激しく壁に打ち付けられ、
口から血を吹き出したものの、
意識は飛ばさず、
そのままの状態でカレラの行く先を見ていたのであった。