目挑心招 ~ねぇ!な・に・を・見・て・る・の・よ・ッ!!!あんな色気しか無い女より、アタシの方がよっぽど魅力的でしょ?!~
カレラが放った魔術は時間を巻き戻し、
破壊されたモノを再生させていく。
片や、
時間を早送りさせ時の経過と共に朽ちていく姿に破壊していく。
それを時間差無く交互に行う事で、
金属であれば疲労を起こし分子間まで破壊し尽くされた結果消滅し、
時であれば同様に金属疲労と似たような時間疲労を起こし空間ごと切り取る事が出来る。
その巻き戻しと早送りの回数は術者が任意に定める事が出来る為、
再生に特化させれば新品同様。
破壊に特化されれば、
新品であっても即時廃棄せざるを得なくなる。
否、
消滅する。
今回カレラが使ったアルティメット・シリーズはそう言った類のモノであり、
その結果、
時計塔を包んでいた空間、
否、
時計塔の本来の役割である封印指定の空間は、
その特異点と言えるに足る特異性を失う事になったのである。
即ち、
マナの分解、
空間の拡張、
時間の停止といったモノを全て失い、
封印指定の空間に納められていた全てのモノ達は、
その空間ごと切り取られたのであった。
要は現実世界からの消失であり、
何処かの並行世界への放逐とも言える。
「雷龍は無事?!」カレラは自身が放ったアルティメット・クロノスの消失と共に今回の任務は終わったと感じたが、
それ以上に雷龍の身柄がどうなったのか案じ、
心配していた。
そして、
遥か上空に漂う雷龍の微かな気配を察知し、
安堵の息を漏らしたのである。
「今まで、ありがとうね、雷龍!」
カレラは口からは決して出さず、
心の中で呟くと雷龍がいる空を眺めていた。
「さてと、これの処理はどうしようかな?」
清々しい気持ちで空を眺めているカレラの周囲では業火が跋扈しており、
空の蒼と炎の紅のコントラストが、、、などと悠長な事を言ってる場合ではないのは重々承知しているが、
「取り敢えず、鎮火だけでもさせておけば、いいかな?」と割り切ったカレラであった。
「蒼の騎士達よ、紅き炎を駆逐せよ!迎撃する水の槍兵・78柱、水の弓兵・96柱!!」
カレラは水属性の槍兵と弓兵を召喚するとこれ以上燃え広がらない様に火災の鎮火に努めていく。
「あれ程の力を持っているとは、流石、惑星の御子だな。樹龍様が仰っていた事に嘘偽りはなかったと言う事か。」
雷龍は全速力でカレラの放ったアルティメット・クロノスから退いたお陰で事無きを得たが、
もしもタイミングが遅れ、
あの力をその身に受けていたら、
あの力の巻き添えを喰っていたらと思うと身震いがして止まない気持ちでいっぱいであった。
「またいずれ!決して敵として会いたくないが、万が一にでもそうなった時は今度は全力で抗わせてもらうとしよう。」
雷龍はそれだけを呟くと乱龍の待つ場所へと空を駆けて行ったのである。
ロンドン国の一つの街が炎に包まれ、
その災禍を齎したのは上位古龍の雷龍であるとミュステリオン上にニュースがアップされるまで時間はそうそう掛からなかった。
その結果、
多額の賞金及び賞品が雷龍には掛けられ、
ハンター各位に任務が発生したと言う事は余談である。
カレラは魔術を駆使して火災を粗方収めると、
厄介事に巻き込まれる前に退散する事を考えていた。
だが、
ハンターである以上、
(自分が齎したと言われても仕方が無い)この災害現場であるこの街に要救助者がいたとしたら、
(非常に寝覚めが悪い為)見過ごす事など出来る筈も無いと言う事もあって、
念には念を入れてデバイスで生存者の確認を取っていったのである。
「これで、最後ね!」
結果として雷龍の攻撃の余波に巻き込まれた要救助者は三人おり、
迅速にその全てを助け終えたカレラは、
とり急ぎマムへと連絡したのであった。
「マム?こっちは終わったから、残りの全ての施設に攻撃を開始する様に伝えてもらえる?」
カレラはマムに対し単刀直入に且つ、
明瞭簡潔に言の葉を紡いでいく。
「そっちが無事に終わって何よりだよ!それで、こっちには直ぐに帰ってこられそうかい?何やらキナ臭い事になりそうなんだよ!」
マムは少しばかり焦りを窺わせる口調でカレラに対し話していた。
「事後処理に少し時間は掛かると思うけど、帰りは転移魔術が使えるハズだから、戻れる様になったらなるべく早く戻るわ!それより、そうだ!忘れる所だったわ!」
カレラはマムからの質問に対し応えた折、
先に言おうとしていた事を思い出し、
言の葉を続けたのである。
「伝えられるなら、他の皆に伝えて欲しい事が一つあるの!」
マムはカレラの口調からそれが大事な事であると直感し、
「なんだい?」とだけ紡ぎカレラの紡ぐ言の葉を待っている。
「他の地にある施設が、ここと同じモノであるのなら、決して外観に惑わされないで、ちゃんと中身を破壊して欲しいってコト。もしガワだけ破壊しても中身が無事なら術式が発動する可能性は高いから!」
カレラは少しばかり早口で捲し立てる様に言の葉をマムに対して紡ぐと、
マムは「まぁ、言ってる意味は分かったから、伝えられる限り皆に伝えるさね」と応じたのであった。
カレラはマムに対する報告を終えると、
人だかりが既に出来ている災害現場から早々に立ち去り、
ルミネの待つホテルへと向かったのである。
「やっと帰って来ましたわね?」
カレラがホテルに着くと同時にルミネの言の葉がカレラに対して投げられて来て、
少しだけカレラは驚いた表情をしていた。
「ただいま、ルミネ!それで、エリックさんは?」
カレラは部屋の何処にも見当たらないエリックの所在をルミネに尋ねると、
ルミネは「ちゃんと隠蔽してありますわ」と応え、
ルミネが座っている窓際の椅子の正面にある椅子を指差したのであった。
「パチンッ」とルミネが指を鳴らすとそ現れたのは闇の鎖で身動きが取れない様にされているエリックがそこにおり、
カレラがそこに視線を移すとエリックは封印指定の結界が掛けられたままであって、
時間そのものが停止している姿であったと言えた。
要は闇の鎖は保険である事がカレラには容易に想像出来たと言える。
「封印指定の解除が出来る?」
カレラは現状のままのエリックでは話しをするのもままならない為、
ルミネに対して問い掛けるが、
「そう言うと思いましたわ!だから、待っている間に解除の方法は突き止めましてよ!」と、
カレラの先を越してドヤ顔のルミネが其処にいたのである。
「さっすがルミネね!」
カレラは意思の疎通が前以て段取りしていなくても通じるルミネの配慮に感謝の念を抱かずにはいられなかった。
そしてその結果、
エリックの封印指定は早々に且つ、
容易に解除されたのである。
「エリック・スチュアートさんで間違いないかしら?」
カレラは微笑を湛えながら、
封印が解かれたばかりで、
現状の把握が全く出来ていないエリックに対して言の葉を紡いでいく。
そして、
当のエリックは少しばかり寝惚けているような様子でカレラの紡ぐ言の葉を聞いていた。
「ここは?」
寝惚けながらもエリックは見覚えの無い部屋の、
見覚えの無い二人に物怖じする事無く言葉を投げていく。
「エリックさん、この人に見覚えはある?」
カレラはエリックの問いを無視する形で、
デバイスに記録されているエリーゼの姿を壁に投影したのであった。
「エリー、、、ゼ?何故、エリーゼを知っている?!」
エリックは壁に映されたエリーゼを見せられ、
寝惚けた状態から急激に覚醒し、
少しばかり気が動転し始めていた。
「そう、良かった。本当にエリーゼさんを知っているのね?所で、貴方とエリーゼさんはどういった関係?」
カレラは最初からエリックを試す事にしていた。
だが一方で、
ルミネはその事を知っているワケでは無い為、
黙って見ている事にしたのであった。
「エリーゼは、ボクの恋人だ!エリーゼを、エリーゼをどうしたんだッ!?所でボクはなんでここにいる?ここは一体何処なんだッ?」
エリックは動転した気が空回りを起こしていたと言える。
それは当然の事であるのだが、
そんな事を意に介す様なカレラでは無いとも言えた。
カレラはハンターとして依頼を受けた以上、
達成を常に目指しているが、
中にはそもそもの依頼が虚偽である場合、
犯罪に抵触する場合なども過去からの経験則で全く無いとは言えず、
それらの依頼を達成する事はしたくないと考えていた。
その為、
公安やギルドからの依頼であったとしても、
最低限の言質は取るし、
況してや個人からの依頼であれば尚更である。
この依頼に於いては、
エリーゼが恋人と僭称している可能性。
即ちエリックとの関係性が虚偽の申告であったり、
エリックが捕まっていると知った上での救出の依頼。
脱獄の幇助の可能性といったものが考えられた。
その為、カレラは最低限のやり取りで事の真偽を見抜こうとしたのである。
「まぁ、最低限の言質は取れたから良いとして、、、。エリックさん、いいかしら?これからアタシの言う事に対して嘘偽り無く応えてくれるなら、最低限の譲歩をして貴方の身柄は保証するわ。」
カレラは気が動転して今にも暴れ出しそうなエリックの口元に、
自身の人差し指を当て言葉を静止すると言の葉を紡いでいく。
「今回、アタシはこの世界の一大事を未然に防ぐべく、貴方を救出したの。だけど、この事件には分からない事が多過ぎるの。だから、貴方の知っている限りの情報を頂けるかしら?」
カレラはエリックの口元に指を当てたまま言の葉を紡ぎ、
その視線は有無を言わさずと無言で語っていた。
最低限の譲歩、、、即ち、
エリックは封印指定されている点に於いて、
四番目である可能性が非常に高い。
ロンドン国がどういった経緯を以て四番目に指定したかは分からないが、
封印されているエリックを連れ戻し、
その上、
封印まで解いているのだからロンドン国に知られればカレラと言えど言い逃れは出来ようハズもない。
ともすれば国際問題にもなり兼ねないのは明白である。
そうなれば、マムから何を言われるか想像に難くない。
だが、
そもそもこの封印指定が違法であるならば話しは別であり、
国を問わなければ匿う事は出来る、、、と言う意味での「最低限の譲歩」であった。
そしてエリックはカレラの剣幕と、
後ろで無言で控えているルミネのただならぬ気配と、
エリーゼを人質にされているかもしれないという葛藤から、
話しを始めたのである。
だが、
エリックが話しを始めた直後、
カレラはジャイニの事を思い出していた。
その為、
もしもジャイニの様な違和感をカレラが得た際には直ぐに話しを切り上げて、
エリーゼ共々神奈川国へと連れ帰る計画を、
頭の中でしていたのであった。
「じゃあ、話しを聞かせてもらえる?」
色々な憶測を抱えてカレラの重々しい口調に呼応するかの様に、
エリックは観念した様子で口を開いていったのである。