銘肌鏤骨 ~絶対に貴方のコト、忘れないわ!なんて言っても、時間が経って再開した時に、誰だっけ?ってなったりするじゃない?え!?薄情者?~
「じゃあ、雷龍、今度は貴方の番ね!」
カレラは雷龍を見て言の葉を紡ぎ、
その言の葉を受けた雷龍は、
人化を解くと乱龍と擦れ違う様にロンドン国へと向かっていった。
「お疲れ様、乱龍。ちゃんと達成出来た?」
カレラは乱龍に対して話し掛け、
「乱龍からの言葉の連射が来るのでは?」と内心ビクビクしていたが、
予想に反して乱龍はただ「コクり」と頭を縦に一回振っただけであった。
「そう、それなら良かったわ。アタシはもう少ししたら雷龍を追い掛けるけど、これでお別れになっちゃうから、最後に何か言っておきたい事とかある?」
カレラは先程までのビクビク感を忘れていたワケではないが、
「これでもう、会う事はない」と考えた結果、
最後に言の葉を紡いだのである。
だが乱龍はカレラの言の葉に対して首を横に振っていた。
それを見たカレラは、
「そう、じゃあ短い間だったけど、協力してくれてありがとう」と、
そう言って右手を乱龍の前に差し出し、
乱龍はその右手を握ったのであった。
「「人間界の飯は美味かった」とでも、伝えるべきであったか?」
乱龍は空を駆けるカレラに向けてそれだけを呟いていた。
「さて、なるべく被害を出さない様に暴れろと言われたが、どうしたモノか。」
雷龍はロンドン国の時計塔付近へと上陸したものの、
頭を悩ませていたと言える。
現状、
外を誰も歩いておらず、
そもそもの話しが誰も自分の事を認知していないのである。
この状況で暴れようにも、
目立つ事など一切ない気がしており、
それだったら、
「このまま時計塔を破壊しても問題は無いのではないか?」とすら感じさせる程の静寂だったのであった。
「仕方ない。目覚まし代わりに落とすとするか!」
雷龍は心の中でどう暴れるかを纏めると、
自身の身に雷を纏わせる様に自身の半径100m圏内に落雷を起こしたのである。
突然の落雷。
それも数百にも及ぶ雷が轟音と共に天から局所的に降り注いだのであった。
そしてその結果、
時計塔周辺の建物のガラスは砕け散り跡形もなく飛散し、
石造りの道路は超高温となった事でガラス化し、
局所的に超過電流/超過電圧となった電線は火花を散らし火を吹き、
それらの電線と繋がっている家屋を始め、
ビルなどの建物一切合切からは一斉に火の手が上がったのである。
「あ、しまった、これはやり過ぎたかもしれん。」
雷龍は自分が仕出かした結果に正直焦りを覚えていた。
だが、
やってしまった事実は変えようが無く、
ロンドン国全域が燃えたワケではないので、
なるべく被害は起こしていないと自己弁護をした上で更なる雷を落とす事を考えたのである。
被害を最小限に留める為に、
被害が起きた地域に再び同じ事を、、、と考えたのであった。
自分を支点に半径100m圏内と言えど、
同じ事が再度行われれば、
突然の轟音と共に火災へと発展し、
起きがけで着の身着のままで逃げ出して来た住人達は今度は雷に撃たれる事になる、、、と、
雷龍は考える由もなく、
二度目の雷を落とす準備をしたのである。
「何をしてるんだあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
雷龍が二度目の雷の準備に取り掛かった矢先、
先程の轟音までとはいかないが、
それに近い程の怒鳴り声が響き、
雷龍の脳天目掛けて強烈な蹴りがキマったのであった。
「どどおぉぉぉん」強烈な蹴りを見舞われた雷龍は体勢を崩し、
自身が起こした火災に因って燃え盛っている建物へとよろめきながら突撃し、
その直後、
再び強烈な蹴りを受け取り、
燃え盛っている建物を薙ぎ払う形で弾き飛ばされたのである。
雷龍は一体全体何が起きたのか理解出来なかったが、
自分に対してこんな事が出来るのは一人しかいないと思っていた為、
芝居とは言え決闘が始まったと言う事だけは理解出来たのであった。
「ぎゃああああああぁっス!!」
雷龍は自分を弾き飛ばしたであろう者の方を向くと雄叫びを上げ、
睨みを利かせていた。
そして再び雷を呼び、
その相手へと無尽に放っていく。
「やっぱり上位種だけあって、なかなかヤるわね!」
雷龍で火災を鎮火させようと企んだ張本人のカレラは自分へと向けて放たれて来る雷を躱しつつ、
雷龍との距離を詰めて行くと今度は雷龍を背後へと回り込み、
雷龍の背に向けて強烈な蹴りを入れたのである。
そして雷龍は再び弾き飛ばされ、
時計塔へと熱い体当たりをしたのであった。
雷龍は時計塔を背に、
「しめたッ!」と考えていた。
このままカレラによってサンドバッグにされ続けられるより、
早く目的を終わらせて撤退しなければ身が保たないと感じたからである。
そこで雷龍が取った作戦は、
時計塔の裏手へと回り込み自身とカレラとの間に時計塔を障害物として置き、
障害物越しにブレスを放つと言うモノであった。
その結果、
雷龍の渾身のブレスは時計塔を木っ端微塵に消し去り、
カレラへと強襲していく。
だが、
カレラもカレラで雷龍の行動を予測しており、
雷龍が放ったブレスを躱せば街に被害が出る為、
かつて自身のひいおじいちゃんから貰ったアダマスのガントレットをデバイスから取り出すと、
そこに魔力を込め雷龍のブレスに対して真っ向から勝負を挑んだのであった。
古龍の切り札とも言えるブレスに対して、
神界の宝具とも言えるアダマス装備によるサシの攻撃vs攻撃は、
どちらかの火力が勝る方が勝利と言う単純なモノであり、
「攻撃が最大の防御」を地で行く展開となったのである。
ブレスとアダマスがぶつかり合い、
二つの力の余波は周囲を徐々に更地へと変貌させていく。
建物の中には逃げ遅れた人がいたかも知れないが、
ブレスを野放しにすれば、
それ以上の被害が出る事は明白であった為、
こうなる前に逃げてくれた事を祈りながらも、
全力でブレスに対して挑んだカレラであった。
二つの攻撃の余波が最高潮に達し、
余波は光を放ち高温の熱線となって周囲に広がっていく。
そして、
二つの攻撃は徐々に内包するエネルギーを失い次第に収束していったのである。
「我がブレスと互角とはな。流石と言うべきか。あの手に嵌めたガントレットの力だけとは思うまいが、それ以上の力を他にも持っているのであれば、闘っても敗北しかあるまいな。」
雷龍は渾身のブレスを防ぎ切ったカレラに対して、
称賛と共に、
全力で闘っても勝算は皆無だと考え、
心の中で呟いていた。
一方でカレラは雷龍のブレスと力比べをしている最中、
時計塔の揺らぎを探っていた。
「時計塔が本当に封印指定の空間ならば、雷龍のブレスで破壊出来ているハズがない。おそらく、壊れたのは見せかけの時計塔のハズ」と考えたからであり、
古龍の最大火力であるブレスと力比べと言う、
下手を打てば自身の生命すら危うい中、
意識を向けていた先は違う所という、
生命知らずな行動そのものであったと言える。
そして、
そんな行動の結果、
時計塔があった辺りに確かに揺らぎを感じ取ったのであった。
「あれね!!出来れば、この力比べの余波で破壊したかった所だけど、変に結界でも張られているのかしら?この状況で破壊出来ていないなら、後、アタシに打てる手は一つしかないッ!」
カレラは余所見をしながら、
見つけ出した結果に残念な心持ちであったが、
今を逃せば、
人間界での罪を全て被ってくれる事に了承してくれた「雷龍」と言う存在を失う事になる為、
二つの力がぶつかり合っている最中に詠唱を始めたのである。
「我が手に集え、紅き炎よ。我が手に集え、蒼き水よ。我が手に集え、翠緑の大樹よ。我が手に集え、鮮黄の大地よ。我が手に集え、金色なる果実よ。我が内なる全ての力よ、一つに混じりて我が敵を討たん。」
カレラが始めた詠唱、
それは即ち、
この場で使えば下手をしなくても封印指定の対象になり兼ねない、
あの魔術であり、
自身の身の保証と世界の安寧とを天秤にかけた結果とも言える。
「我が手に集いし大いなる力よ、空虚なる微睡みに揺蕩う力よ。我は力を開放せし者。我は全ての力を打ち消す者。我が力と成り、我が意を以って、その力を解き放たん。」
カレラが編み込んだ魔術はカレラが得意とするアルティメット・シリーズの中でも特異な部類に入る魔術であった。
カレラは編み終えた魔術を放つタイミングを計っていく。
一方で、
雷龍はカレラの元に集う、
膨大なマナの矛先が自身に向けられていない事を悟りつつも、
向けられている場所は自分の僅か数m先の虚空であり、
それが発動されれば自身の生命が尽きる事を理解していた。
今のカレラに、
雷龍に対して自分の意思を伝える術は無い。
だが、
自分の編み終えたマナに雷龍が気付いてくれていると信じて、
そして、
自分が真に狙っている場所を雷龍が悟ってくれていると信じて、
カレラは魔術を放ったのである。
「アルティメット・クロノス!!」
カレラの指先に生じた虹色の珠はカレラの最後の詠唱によって放たれ、
その声と共に雷龍は全速力で空へと駆け上がって行く。
「雷龍、間に合って!」
カレラは心の中で盟友に対して叫び、
カレラの放った魔術は雷龍がいたその数m先でその力を発現させていったのである。