夢幻泡影 ~人生って儚いわよね?無縁仏って墓無いわよね?ヌーディストって履かないわよね?って、何を言わせるのよッ!!~
「我に何かをさせようと言うのだな?」
雷龍はカレラのウインクを受け取ると徐ろに言の葉を紡いでいた。
「えぇ、そうよ。だから、最初に謝っておくわ。」
カレラは雷龍の紡いだ言の葉に対して奇妙な事を言うと頭を下げたのであった。
「アタシの勝手なお願いなんだけど、貴方には罪を背負ってもらいたいの。」
カレラが言おうとしている事の真意を、
その場にいる三人は誰一人として分かってなどいない。
「明日、時計塔を破壊するのは貴方よ。そしてそれは、人類を全て敵に回すのと同じ事で、そうなれば貴方の事を倒す為にハンターが派遣される事になる。」
カレラは神妙な面持ちで言の葉を紡ぎ、
雷龍は半ば呆れたような表情でそれに応じたのであった。
「何を言うかと思えば、、、。我が従うのは我が国の法であり、人間達の国の法などではない。そして、たとえハンターが何人向かって来ようとも、我を倒せるハンターなど、我には一人しか心当たりはない。」
雷龍は神妙な面持ちのカレラを励ます様に言の葉を紡いでいく。
「もし仮に我を倒す事の出来るハンターが我に向かって来た時は、遠慮なく闘わせてもらうし、その時は手加減などせぬようにな!」
雷龍はどこか晴れやかな表情でカレラに向かって言の葉を紡ぎ、
カレラはその言の葉を受け取ると屈託の無い笑顔で「えぇ」と返したのであった。
「それじゃあ、明日の詳細を説明していくわね。」
・ルミネと乱龍はエリック・スチュアート救出の為に早朝より時計塔に潜入。
→早朝を選んだ理由として、
もしも仮に研究室群が時計塔内部にあった場合、
早朝であれば研究者や時計塔の見物客などに被害が出るのを最小限に食い止められる為。
・ルミネ達は時計塔に潜入後、出来るだけ早く封印指定の空間に侵入しエリック・スチュアートを救出。
→オドの分解速度を考えると多少の時間は平気だが、
何かあるとその後の行動に差し支える為。
・エリック・スチュアート救出後は速やかに時計塔を脱出。
脱出後、ルミネはエリック・スチュアートを隠蔽したままホテルへと帰還し、エリックを目覚めさせない事。
乱龍は時計塔を脱出後、ホテルへと戻らずに本日の午前中に腕試しをした場所まで来る事。
→エリック・スチュアートが封印指定された理由が分からず、
エリーゼが「エリックは人が変わった様だった」と言っていた事から今も尚、
操られている可能性が残る為。
・乱龍到着後、雷龍は人化を解き単身でロンドン国内で暴れる事とするが、その際は極力被害を抑えて暴れる事。
→古龍としての雷龍の姿は以前、
神奈川国上空に現れた時に、
そしてカレラに連れられて公安へと降りた際に「ミュステリオン」のネットワーク上に上がった為、
知られている可能性が高く、
人化した姿では「雷龍がやった」と認識されない為。
・暴れている雷龍とカレラが戦闘を開始し、その結果、時計塔が破壊されるという事。
→今回の最大の鍵となる作戦。
「カレラが壊した」と認識されない為に打つ芝居。
・時計塔破壊後、結果はどうであれ雷龍は戦線を離脱し乱龍の元へと移動する事。
→長居するとハンターへの依頼が入る事で時計塔周辺にハンターが集まり、
民間施設や人家にも被害が出る可能性がある為。
・以上を以って、二人の任務は終了とし、後は自分達の国に戻り報告を行う事。
→古龍の二人は「遣い」として樹龍が遣わしただけであり、
成り行きで今回の任務に当たってくれていた為、
そろそろ潮時と思われる為。
11月13日、AM5:30 終わりの始まりまであと38日
日の出まではまだ時間があり、
空は帳が降りてまだ暗く、
空気は身を芯から冷やす程に冷たい時分。
魔獣がまだ闊歩する街の中を二人は時計塔に向けて歩を進めていた。
昨日のカレラの作戦では早朝の日の出と共に作戦の実行を謡っていたのだが、
カレラが行ったブリーフィングの後、
状況は一変したのであった。
-・-・-・-・-・-・-
「えっ?!それ、本当なの?」
カレラの元に掛かってきた通話。
それはマムからであり、
マムからの知らせはカレラの顔を緊張に包んでいったのであった。
「分かったわ。それなら、早い内にこっちを片付けるから、そうしたら一斉に攻撃を始めてもらえる?その際は連絡入れるから宜しく!」
カレラが通話を終えるとその表情は険しく、
鬼気迫っていると言っても過言では無い様子だったのである。
「どうしたんですの?」
ルミネはカレラの表情に居た堪れなくなり、
言の葉を紡いでいったが、
その紡がれた言の葉にカレラは少しだけ緊張を解すと、
マムから聞いた内容をその場にいた三人に告げたのであった。
「各地の設備が起動を開始したみたいなの。そしてそれに伴って、魔獣が設備の周辺に群がり出したって。昼間でもお構いなしにね。」
カレラが告げた「マムからの言葉」は異常さを物語っている。
魔獣は種類にもよるが、
基本的には夜行性であり、
昼間に活動するタイプの魔獣は少ないと言える。
それが昼夜問わず群がっているのであればそれは異常事態若しくは、
意図的だと言わざるを得ないのであった。
「通常では考えられませんわね?もしそうであれば、テイムされている可能性が高いのでわなくて?」
ルミネは考えられる範囲で可能性のある発言をしたが、
世界の各地に配置されている設備にそれだけの数のテイムした魔獣を配置するのは、
困難と言うか、
至難と言うか、
不可能ともカレラは考えたのだが、
一方でルミネはそれしか可能性が無いと考えたのである。
「流石にテイムした魔獣って言うよりは、ミーミルが使った装置による方法の方が可能性としてはありえなくない?」
カレラは確証は無いのだが頭の片隅に引っ掛かっていた事を言葉にしていた。
「それこそ可能性が無いのではなくて?あれは魔獣と言うよりは、魔族を憑依させたレッサーでしたでしょう?レッサーを魔獣とするのには抵抗がありますわ!」
ルミネはカレラの意見に対して真っ向から反論を出すと、
カレラもカレラでそれを受け入れられず舌戦の応酬となっていったのである。
「所でカレラは何故、テイムを無理だと考えたんですの?」
ルミネは平行線を辿るカレラとの舌戦に対して多少なりとも嫌気が差した事も相俟って、
その根本とも呼べるモノを聞き出そうとしたのであった。
「えっ?だって、テイムするなら、一人で同時に数百体を操るのは難しいでしょう?」
カレラが放った言の葉に対して、
ルミネは驚いた表情をしたのだが、
カレラには何故ルミネが驚いているのか皆目見当も付かないと言う感じであったと言える。
「カレラ、何で首謀者が一人だと思ったんですの?世界各地に首謀者と協力関係を結んでいる者がいるかもしれないとは考えなかったんですの?」
ルミネは率直な疑問をカレラに対して投げ、
その疑問を受けたカレラは「ハッ」とした顔をすると直ぐに考え込んでしまったのであった。
「確かにルミネの言う通りだわ。何で、アタシは敵が一人だって思ったのかしら?」
カレラは一人、
頭の中で思考を巡らせるが、
その最中「ズキッ」と頭が強烈な痛みを発し、
頭を両手で押さえ込んだのであった。
「カレラッ!大丈夫ですの?!」
突然苦痛に顔を歪め頭を押さえ込んだカレラに対して驚いたのはルミネであり、
カレラの近くへと急いで近寄ったのである。
「ルミネ、アタシ、まだ何かを忘れてるみたい。何かとても大事な事を忘れてる。未来から帰ってきて、全ての記憶を取り戻したと思ってたのに、一体何を忘れてるんだろう?」
カレラは強烈な痛みに因って苦悶の表情を浮かべながらも言の葉を紡いでおり、
ルミネはそれを見て居た堪れなくなりカレラの頭を抱きかかえる様に抱き締めたのであった。
「ルミネ、ありがとう。もう、大丈夫よ。」
カレラはルミネに抱き締められ、
多少なりとも息苦しさを感じていたのだが、
礼を言うとルミネは心配そうな顔をしたまま自分の席へと戻っていった。
「まぁ、そういうワケだから、明日の開始時刻を早める事にしたから、各自、それまでは出来るだけ睡眠を摂って身体を休めてね。」
カレラは三人に対して言の葉を紡ぎ、
変更した開始時刻を伝えるとブリーフィングはお開きとなったのである。
ルミネと乱龍は時計塔の前まで来たが、
まだ暗いこの時分に時計塔の扉が開いているワケもなく、
一緒に来た乱龍は「どうやって中に入るのか?」と心配な心持ちであったと言える。
ルミネは乱龍の心配を他所に、
粛々と不可視化の魔術を編むと、
乱龍の心の準備などお構い無しに魔術を発動したのであった。
そして二人の身体が徐々に消えていく最中、
ルミネは乱龍へと自分の魔力糸を繋げたのである。
突然の事に驚いている乱龍に対し、
ルミネは「それが無いと、お互いにお互いの事が認識出来なくなりますわ。だから外してはいけませんわよ!」とだけ伝えたのであった。
ルミネの言の葉の意味を理解した乱龍はルミネに対して、
「コクッ」と頭を縦に振ったのを合図にする様に不可視化は完了したのであった。
「確か、前回私が使った魔力糸が、時計塔の中に残ってたハズですわよね?」
ルミネは時計塔の入り口の前でブツブツと独り言を話しており、
乱龍はそれに対して何も言わず、
ただただ黙ってルミネの後ろで突っ立っていたと言える。
ルミネは少しばかり時間を掛け、
時計塔の中に残留している自身の魔力糸の痕跡を探っていくのであった。
「やっぱり、カレラの言う通り、時計塔の中に研究室群は無いみたいですわね。」
ルミネは自身の魔力糸の痕跡を追い掛けた結果、
多少悔しそうな表情をしながらも位置を特定すると、
そこへ向かう為の転移魔術を展開していったのである。
「さ、行きますわよ!」
ルミネは術式を編み終わり、
扉を展開すると後ろで突っ立っている乱龍に向け言の葉を紡ぎ、
乱龍はまたもや「コクッ」と縦に首を振ると二人は扉を潜っていったのであった。
作戦は順調に進んでいく。
ルミネと乱龍は予定通り最上階まで到達すると、
最上階の「歪み」から封印指定の空間へと向かう扉を開き、
ルミネは一日ぶりに封印指定の空間に潜入したのである。
「案外思ってたより時間が掛かってるわね?」
カレラはぼやいていた。
ルミネと乱龍が時計塔に向かってから直ぐにホテルを出て、
待ち合わせ場所に向かったワケでは無いが、
それでもそこに着いてから既に一時間近くは経過してると感じていたのである。
神奈川国と比べて日の出は比較的遅く、
それまでロンドン国の空気は重く非常に冷たい。
前にデバイスにインストールしたソフトウェアのお陰もあって、
カレラはそこまで寒さを感じる事は無いが、
雷龍はデバイスを持っているワケでは無い為、
「寒さへの対策はどうしているのだろう?」
「そもそも古龍とは言え、龍種が爬虫類に分類されるのならば寒さには弱いのでわ?」
などと様々なくだらない事を色々と考えており時間潰しをしていた。
一緒に来たハズの雷龍はカレラの側にいるワケでもなく、
待ち合わせ場所を縄張りにしていたと思われる魔獣と戯れている。
その為、
話し相手もいないカレラは誰に聞かせるでもない独り言をただただ虚空へと漏らしていたのであった。
時間の経過と共に東の空が徐々に明るくなり、
魔獣が姿を消し始めた頃、
雷龍はカレラの元へと戻り、
それから更に少しばかりの時間が過ぎた頃に、
東の空を駆け、
こちらに向かって来る姿が二人の目に映ったのである。