磨揉遷革 ~この世は良くなって行くと思う?それとも逆?アタシ達の未来を考えると前者が良いけど、なるようにしかならないわよね!~
「何をそんなに驚いているんですの?」
ルミネは自分の見たモノのどれが、
それ程までにカレラの事を驚かせているのか分からず、
不思議な気分でいたのであった。
そして古龍種の二人は、
のっけから会話に付いていけていない為、
そもそもの話し、
会話に参加する気がない様にも見えていた。
「これは、おそらくだけど、十中八九、過去の遺物として封印指定されている技術よ!」
カレラは不思議そうな顔をしているルミネに言の葉を紡ぎ、
「過去の遺物?何処かで聞いた記憶がありますわ」と、
ルミネはカレラに返すに留まったのである。
「あの時、ブリーフィングの時に、埼玉国の要塞がどうとか言ってた時に、過去の遺物という言葉が聞こえた気がするぞ?」
ルミネの疑問に応えたのは、
会話に参加する気が無いと思われていた雷龍であり、
それによってルミネは、
「そう言えばそうでしたわね」と返していた。
「そうね。あの埼玉国の機動要塞も封印指定のシロモノで、ここに映っているのも、同じ位、危なっかしいモノってコトよ!」
カレラはルミネに対して言の葉を紡ぐが、
そもそもの話し、
過去の遺物やら、
封印指定と言われた所で、
ルミネにはその知見が無く、
早い話し「それがどうした?」という事なのである。
その為、
頭に「?」が生えたルミネに対して、
カレラは先ず、
色んな説明をしていく事にしたのであった。
封印指定とは大きく分けて四つあると言える。
一つ目に制御出来ない魔法の論理及び構築された術式、または、それに準ずる魔術。(=災禍を齎す魔法)
二つ目に使用者が限られる、固有の力を解析した事によって生じた魔術及び、それらの術式。(=不可侵領域)
三つ目に人類の発展を阻害する可能性の高い技術/発見/発明や、現段階の人類では有効に使えないであろう技術/発見/発明。(=過去の遺物)
四つ目に、上記三種のいずれかを犯罪に使用した者。(=禁忌の執行者)
「それじゃあ、カレラも封印指定なんですの?」
ルミネは意地悪気にカレラに対して言の葉を紡いでいた。
「そ、そんなコトはないわよ!」
意地悪なルミネの質問にカレラは少しばかりしどろもどろになりながらも返答していくが、
条件だけを見れば、
カレラも封印指定される側に片足を突っ込んでいると言っても過言ではないのである。
「要するに、ルミネが見てきたこれらのモノ達は、それこそ国の最重要機密で、門外不出じゃないとその国にとっても周辺諸国にとっても、ひいては人間界全体にとっても困るモノってコトよ!」
カレラは話しをすり替えようとして強引に纏めた感はあったが、
ルミネからのそれ以上の追求は無く、
言の葉を更に紡いでいく。
「あの空間が、封印指定の置き場って事に間違いは無さそうだけど、そうしたら、終わりの始まりは何処から始まるのかしら?」
カレラが紡いだ言の葉は至極当然と言える。
何故ならば、
ルミネが見てきたモノ達は封印指定され、
厳重に保管されていると言っても過言では無く、
例え、
あの空間に終わりの始まりを齎すモノがあったとしても、
容易に取り出す事は疎か、
装置であれば起動させる事も難しいと断言出来るからである。
「もうちょっと考える必要がありそうね。」
そしてこれが、カレラの出した結論であった。
全てのピースが出揃っていない状況で判断を誤ればそれこそ早計だからであると言えよう。
「そうだ、別件なんだけど、時計塔の中でこの人を見た記憶はない?」
カレラは本題が行き詰まった事で、
気分転換も兼ねてエリーゼから請け負った依頼について、
ルミネに確認したのであった。
「えぇ、おりましたわよ?」
ルミネはカレラから見せられたエリックの写真を見て、
少しばかり思考を巡らすと同一人物と思しき人物の記憶を呼び覚ましたのである。
「どこにいたの?どこかの研究室?」
カレラはルミネからの返答を受け取ると、
質問を繰り返していったのだが、
ルミネから返って来た応えは、
カレラを驚愕させる程の解答であったと言える。
「なかなか見付からないわね。」
カレラと雷龍、乱龍の二人はロンドン国内の図書館へと来ていた。
所謂、探し物と言うヤツである。
カレラ達が滞在しているホテルの比較的近くにある大倫図書館と名付けられたその図書館は、
ロンドン国内だけでは無く、
世界中から魔術関連の蔵書や論文などを集めており、
魔導工学の大家としての格式を、
国を挙げて高めようとしているのが一目で分かる施設となっている。
そんな図書館に足を運んだカレラ達であったが、
目的の論文は三人掛かりでかれこれ二時間近く探して未だ見付かっていないのであった。
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「どこにいたの?どこかの研究室?」
カレラはエリックの事をルミネに聞いた時の事を思い出していた。
「いいえ、ここですわ!この端に映っていますわ!正面からの映像だと、あと数分後に出て来ますわよ?」
ルミネはカレラが見ているデバイスの映像の端を指差しており、
ルミネが話している内容に驚きを隠せてなどいなかったのである。
「ここって、封印指定の空間?確かに、映っているけど、小さくてよく見えないわね。」
カレラは目を凝らしてよく見てみたが、
画面の端にちょびっとだけ映っている者の姿を正確に把握する事は難しく、
ルミネの言った通りに映像を早送りして確認する事にしたのであった。
「えっ!?そんなッ!なんで、ここに?!」
カレラは明らかに動揺しており、
それはルミネにも明確に感じられていた事もあって、
その結果、
「その人が誰かは分かりませんが、封印指定される程の犯罪者ってコトですわよね?」と、
ルミネは結論付けたのである。
「アタシが聞いた限りじゃ、兼ねてからの研究の功績が認められて、時計塔で研究してるって、、、。」
カレラはエリーゼが言っていた事を思い出していた。
「最近になってから帰って来ていない?封印指定の空間?でも、なんで?」
カレラは思考回路をフル回転させ、
解答を導き出そうとしているが、
パズルのピースは埋まっておらず、
推論と仮説と希望的観測を代用して無理矢理にでもピースを埋めようとしたのだが、
結局の所、
パズルは崩壊したのであった。
「仕方無いわね。このまま考えていても埒が明かないわ。今日の残った時間は調べ物をしましょう!」
カレラは完成しなかったパズルを完成させるべく、
ピースを探す事を本日の目標にしたのである。
何故ならばそれが、
終わりの始まりに関わると、
カレラのハンターとしての勘が伝えていたからであった。
「雷龍と乱龍の二人はアタシに付いてきて!一緒に調べ物を手伝ってちょうだい!」
カレラはただその場に居合わせただけと言われても過言ではない二人に声を掛けたが、
その事に対して、
少しばかり不服そうなルミネの事をカレラは見据えると、
「ルミネはオドをちゃんと回復させる為に、今日はゆっくり休んでいてねッ!」と言の葉を紡いだのである。
「アタシの勘だと、今日の調べ物がちゃんと終われば、明日から忙しくなるハズだから、、、。」
カレラはどこか鬼気迫る様な表情をしており、
ルミネはそれ以上何も言えず、
「分かりましたわ」と言うのが精一杯であった。
三人がホテルの部屋を出て行くと、
ルミネは一人「見ただけで、私のオドが減っている事に気付くモノなのかしら?」と不思議そうに呟いていた。
「それで、何を探せばいいのだ?」
ホテルの部屋を出て、
大倫図書館に向かった三人は道中、
特に何も段取りをしていなかった為、
雷龍と乱龍の二人は、
「何を調べるのか?」「何を探すのか?」が、
全く分からずにおり結局の所、
大倫図書館に到着するまで分からず終いであったのである。
カレラが段取りを取らなかった理由として、
自身の頭の中で、
組み上げた仮説を肯定する思考と、
否定する思考が入り乱れており、
その結果、
未だに結論が出ておらず、
徒らに時間を食い潰していた事に起因している。
「そうね、もう既に、何が正しくて、何が間違っているのかが分からなくなって来ているから、手当り次第といきたいけど、そんな時間は無さそうだから、二人は『エリック・スチュアート』って人が書いた論文を探してくれるかしら?」
時刻は刻々と夕暮れへと向かっている。
大倫図書館は、
一般客向けの解放を魔獣が徘徊し出す刻限までと定めており、
カレラとしては、
ハンターライセンスを提示すれば最終刻限の20:00まで入館していられるのだが、
雷龍と乱龍の二人はライセンスを持っていない為、
時間が差し迫っていると言えるのであった。
そして三人が入館して二時間が過ぎ、
一般客の退館を促すメロディが流れ始めた時、
乱龍が一冊の論文をカレラに差し出したのである。
カレラは乱龍から論文を受け取ると、
二人に「先にホテルに戻ってて」と指示を出し、
その場で論文を読み耽る様に没頭していくのであった。
カレラがその論文を読み終え、
その内容を理解するまで一時間と掛かっておらず、
その後カレラは引用文献など、
論文中に出て来た文献を漁ったのである。
そして20:00の最終退館刻限を迎えた時、
カレラは切羽詰まっていたと言える。
カレラの頭の中で、
大体のパズルのピースは埋まっており、
おおよその絵は完成していた。
だが、
“WHY”が唯一見えて来ておらず、
それ故に胸を掻き乱すような不快感に苛まれていたのであった。
カレラは不快感に押しつぶされそうになりながらも大倫図書館を出ると、
たった一人、
もう既に帳が降りていた闇に溶け込むように歩を進めて行ったのである。
「こんこん」
ドアをノックする音が聞こえた。
時間は21:00を回った辺り。
こんな魔獣が闊歩している時間に出歩いている者は大抵、
腕に自身がある者か、
犯罪者か、
若しくはその両方であろう。
その為、
ドアをノックされた所で容易に開ける事などするハズもなく、
況してやドアに近付く事すらしないのは至極当然の事であった。
ただ、この時のエリーゼは少し違っていた。
何故ならば、
咄嗟にエリックが帰って来たと感じたからであり、
そのせいもあって玄関のドアへと駆け寄ったのである。
ただ、そうであったとしてもドアを開ける事はせず、
ドアの前で「誰?エリック?」と声を掛けたのであった。




