泡沫夢幻 ~ねぇ、アタシの事をどう思ってるの?なぁんてねッ、冗談よ冗談!って、エっえッ!?急にどうしちゃったの?~
「二人掛かりでも勝てないとはな。」
項垂れている二人のうち、
口を開いたのは雷龍であるが、
その表情は態度とは裏腹にサッパリした感じを出していた。
「まぁ、踏んでる場数が違うからね!」
カレラは二人を相手に勝てた事に内心、
ホッとしているもののそれを顔に出さない様に、
飄々とした表情で雷龍に返している。
そんなやりとりをしていた所に、カレラのデバイスは着信を知らせて来たのであった。
「うん、そう、分かったわ。それなら直ぐに戻るからちょっと待ってて。」
カレラは着信相手にそう伝えると、
二人の方へと視線を送り、
「ルミネが目覚めたから、帰るわよ」と言の葉を投げたのである。
「ルミネ、ちゃんと寝れた?」
カレラはルミネからの着信の後、
二人を連れ転移魔術を行使し、
ホテルの部屋へと転移したのであった。
そして転移後、直ぐに自分達の寝室へと急ぎルミネに声を掛けたのである。
尚、転移魔術初体験の雷龍と乱龍は呆気に取られていたと言うのは余談である為、置いておく事にする。
「心配かけましたわね。もう大丈夫ですわ。」
ルミネは寝室に入って来たカレラに言の葉を紡ぎ、
着替えたら寝室から出る事を伝えると、
カレラは「じゃあ、二人と一緒に待ってるわ」と言って寝室を出ていったのであった。
「お待たせいたしましたわ。」
カレラとの会話の後、
数分もしない内にルミネは寝室から出て来て、
昨日の時計塔にて何が起こったのか話し始めたのである。
「私が調べた結果だと、一階から最上階までの間には、終わりの始まりに関わる様なモノは無かったですわ。」
ルミネは率直に調査結果を話していた。
そしてその話しを聞いて、
ルミネ以外の三人は眉を顰め、
先ず口を開いたのは雷龍であった。
「樹龍様が調べて下さった座標に間違いなどあるハズもない!」
雷龍は憤りとも付かない感情でルミネに向かって言の葉を投げ、
それに対してカレラは何かを閃いたのである。
「ねぇ、雷龍、言ってたわよね?外観と中身が違うって。それだったら、時計塔の中身は時計塔本来の場所にあるのかしら?」
カレラは閃いた内容を紡いでいくが、
雷龍は魔術の事は絶望的にからっきしの為、
カレラが言わんとしている事はあまり理解出来ていなかったと言える。
「その可能性は考えておりませんでしたわ。」
カレラの閃きに対して、
ルミネも驚きと共に言の葉を紡いでいく。
「でも、確かに、時計塔の最上階の更に奥に、時間と空間が固定されている場所がありましたから、その可能性はありますわね?」
ルミネは自分が最上階で見付けた微かな歪みから繋がるその先を思い出していたのであった。
-・-・-・-・-・-・-
「思った以上に変な場所に出ましたわね?」
ルミネは最上階にあった歪みを手繰り寄せ、
半ば強引に自分の転移術式と掛け合わせると、
扉を開いたのであった。
「ここは、時計塔の中なのかしら?それとも、、、。」
ルミネは何かしらの不思議な違和感を感じるその空間について考察しながら調査を開始して行く。
その空間は、
視界が歪む様な違和感を覚えさせる場所であり、
そもそも、
廊下や壁といった概念が欠如しているかの如く、
様々なモノが浮んでいたのである。
よって、
ルミネも地に足が着いていないと言える。
「流石に「変」過ぎて何から調べればいいのか分からなくなりますわね。ただ、この空間に浮かんでいるモノは一体、幾つあるのかしら?」
ルミネは自分の周囲を見渡し、
浮かんでいるモノの数を数えていくが、
数十、数百にも及ぶ数をカウントするだけで、
頭が痛くなりそうなのであった。
「それにしても、この空間は、時間と空間を固定でもさせているのでしょうかしらね?」
ルミネは独り言を呟きながら、
周囲に浮かんでいるモノを一つ一つ調べており、
それらのモノ一つ一つが、
ルミネから見た時に何も共通点の無いモノ達であった事だけは理解出来ていた。
それから幾許かの時間が流れ、
半分くらいまでそれらのモノを調べ終わった時に、
ルミネはふと、
自分の服がほつれている事に気付いたのである。
「えっ?まさか?!これは、ヤバいかもしれませんわね。早く、ここから逃げないと!」
ルミネの服は、
ただの布で作られた生地を縫い合わせたモノではない。
普通の布にルミネの魔力糸が縦横無尽に編み込んであり、
本来の布とは比べ物にならない程に強度が上げられているのである。
そんな服がほつれたのであった。
「根拠は分かりませんが、魔力が分解でもされているとでも言うのかしら?」
ほつれた服から急遽出せた結論はその程度であったのだが、
これ以上ここに居ては危険と察知するには充分であったと言える。
その為、
ルミネは調査もほどほどに終えると、
この場から退散する手段を考えて行くのであった。
ルミネは取り急ぎ、
転移魔術を試してみたのだが、
上手くマナが練れず、
自身のオドで試してみても、
魔術が発現しなかったのである。
「魔術が使えない?でも、私の不可視化はまだ成立しておりますわね?」
ルミネはそこに矛盾を見付け出すと、
様々な角度から解決策を模索していくのであった。
「と、まぁ、時計塔の中はこんな感じでしたわ。」
ルミネは時計塔での出来事を詳細に話していたが、
カレラはどうやら消化不良を起こした様子で、
「結局、どうやったら出られたのよ!」とルミネに言の葉を紡いだのである。
「流石に私もダメかと思ったんですわ。でも、本来なら消えてるハズのモノが残っていましたの。」
ルミネはカレラの消化不良を助けるべく、
再度、時計塔の中での出来事を話し始めたのであった。
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ルミネは策を模索し、
手当り次第に試してみたのだったが、
どれも上手く成功しなかったと言える。
その為、
仕方無くこの空間の破壊すら試みたのだったが、
そもそも魔術が成立しない空間に於いて、
魔術戦闘に特化してると言えるルミネが、
何も出来ないと言う事は言うまでもない。
「不可視化が残っている以上、全ての魔術が使えないワケではなさそうですのに、攻撃も転移も、自身に対する強化ですら使えず、、、。魔術が使えない空間と言われればそれはそうなのでしょうけど、でもそれならば、なんで不可視化だけ残っているのかしら?」
ルミネは呟き、
その呟きに対する新たな疑問が芽生えた事で、
徐々にこの空間の真意が分かってきた様な気がしていたのである。
「いえ、違いますわ。不可視化も、私の服の魔力糸も、ここに入ってから付けたワケではありませんわね。それに、これだけの時間、不可視化が継続している理由もオカシイですわ。」
ルミネは一つの気付きから徐々に究明が進んでいったと言える。
「それでしたら、残された結論は一つですわね!」
ルミネは自分の仮説を証明するべく、
自分が来た方向へと踵を返すと一目散に向かったのである。
文字通り地に足が着いておらず、
焦りからか足取りがおぼつかなくなりながらも急ぎ向かったのであった。
「やっぱり、ありましたわ!本来ならば失くなっているハズですのに。」
ルミネがおぼつかない足取りで向かった先、
それは、
最初にこの空間にルミネが入る為に開いた、
転移魔術の扉であり、
本来ならば消えているハズのモノがそのまま残っていたのである。
ルミネが出した結論とは即ち、
『この空間に入る前に成立した魔術は空間拡張と、時間固定の影響からか、この空間がマナ/オドを分解するまでの間、その魔術は存在し続ける』
といったものであり、
その仮説はルミネの目の前にある扉に拠って証明された事に等しいのであった。
そもそも転移魔術は、
片道通行分のマナ/オドを編む事で術式が成立しており、
通行が成功した段階で、
編まれたマナ/オドが消える事から、
転移魔術の術式(転移陣や、扉等)も消えるのである。
だが今回は、
この空間へと通行したにも拘わらず扉が残っていた事から、
そもそも通行の際に失われるハズのマナが失われておらず(空間の影響でマナの分解は徐々に行われている)、
要は、
転移が成功していない若しくは、
転移が行われていないのと同じ状態を保っていると言う事になるのであった。
「おそらく、この扉を潜れば、元の場所に戻れるハズですわ。」
ルミネは決意とも取れる独り言を呟くと扉へと足を掛けたのである。
「しゅんッ」と音が立ち、
扉を潜ったルミネは時計塔の最上階に、
あの空間に入った場所に立っていたのであった。
「だいぶ服もボロボロになってしまいましたわね。それに、この場所で不可視化が解けるのも厄介ですから、さっさとこの中からお暇いたしましょうかしら?」
ルミネは自分の服が先程よりも更にボロボロになっている事をまじまじと見て、
早めにこの場から立ち去ろうと決めたのである。
そこで、取り急ぎ塔から少し離れた場所へと転移する事にしたのであった。
「朝、、、ですわね。あっ!いけませんわ!夜には帰ると約束いたしましたのに、でもま、仕方ありませんわよね?所で今は何時かしら?カレラはきっと寝ていますわよね?ならば、起こさない様に帰るといたしましょうかしらね。」
ルミネは朝日が登り始めた空を見上げ、
無事に塔から抜け出せた安堵もあって自問自答と言う名の独り言を呟いていた。
「それにしても、大分、オドを消費していますわね。本来であれば、あの程度の魔術行使でここまで減るとは思えませんから、あの空間の力、、、のせいかもしれませんわね。」
ルミネは少しばかりフラついていた。
あの地に足の着かない空間での感覚とは違い、
正真正銘、
地に足が着いているにも拘わらず、、、である為、
それは偏にオド消費による影響であると考えられる。
「ふわあぁ。ここまで、オドが減ると、異様に眠くなるのでしょうかしら?凄く眠いですわ。そうしたら、独り言はこれくらいにして、ホテルの部屋に戻るといたしましょうかしら?」
ルミネは自身の身体を襲う眠気とだるさ、
そしてフラつきから早く解放されたいと願い、
扉を開くとカレラが寝ているであろう寝室の隣の部屋へと転移したのであった。
「と、まぁ、あの空間が何なのかは分かりませんけど、以上が、私が時計塔で見た全てですわ。」
ルミネは満足気でありながらも、
どこか口惜しさを臭わせながら言の葉を紡ぎ終えていた。
「その空間ってのが、気になるけど、その空間に様々なモノがあったって言ってたじゃない?何か映像とか画像は残って無いかしら?」
カレラはルミネが分からなかったその空間についての手掛かりを探そうと、
別の方向から切り口を見付けようと考えていた様子であり、
それに応じたルミネは、
「私のデバイスに記録されているもので良ければありますわ」と応えたのであった。
「えっ、ちょっと、コレ!?」
ルミネから渡された映像を見たカレラは、
唐突に驚きの声を上げたのである。




