碧落一洗 ~突然雷が鳴って雨が降ってくる事よね?それは青天の霹靂?これはその後の事?ま、まぁ、分かってて言ってるのよ!~
「今、戻ったのか?我等は先に夕食を頂いたぞ?」
カレラは日が暮れた事もあり、
エリーゼを護衛がてら家まで送ってから、
滞在しているホテルに戻ってきた所で、
雷龍と乱龍に出くわしたのであった。
「そう?それなら、先に調査報告を貰おうかしら?」
カレラはエリーゼと入ったカフェで特には何も食べなかったのだが、
ブランチにたくさん食べたせいかお腹は空いておらず、
先に報告を受けるべく、
二頭の古龍を部屋に招いたのである。
「あれ?ルミネはまだ帰って来てないのね?夜には戻るって言ってたのに。」
カレラが雷龍達を招いて502号室の部屋の扉を開け中に入ると、
そこにルミネの姿は無く、
昼前に部屋を出た時と同じ光景が広がっていたのであった。
「それじゃあ、時計塔付近の調査結果を教えてくれるかしら?」
カレラはベッドに腰を下ろし、
雷龍と乱龍は近くにあった椅子に座り、
それから口を開いたのはやはり雷龍だったのである。
「時計塔から数10km圏内に、異常なマナや、装置、設備の類は確認出来なかった。」
雷龍から齎された結果は、
カレラが仮説を立てていた内容と概ね予想通りだと言える。
カレラの仮説の中で、
時計塔はおそらく先駆けであり、
それが成功した後に放たれる光が本命なのではないか、、、と。
更に付け加えると、
それらが本命であるならば、
本命の付近には予備の設備を置いておくだろう、、、と。
「それと、時計塔も見てきたが、あれは一言で言えば「変」だな。」
カレラはその言葉に正直驚いていた。
雷龍と乱龍が如何に古龍種とは言え、
敵の勢力圏と思われる場所に不可視化もせずに乗り込むとは思ってもみなかったからである。
「えっ?!ちょっと、それ、どういう事?」
その為カレラは、
動揺を隠せずにそのまま言の葉を紡いでしまい、
その紡がれた言の葉を雷龍は“WHAT”と受け取ったのであった。
「つまりは、一般の建物とは違うと言う事だ。」
雷龍はカレラの言の葉に返答をしたが、
カレラが聞きたかったのは、
“WHY”である為、
話しに食い違いがあるのは当然であると言える。
「いやいや、そうじゃなくて、二人は不可視化が使えるの?」
カレラは自分が放った言の葉の齟齬を理解した為、
雷龍が応じた言の葉のその前の会話に戻したのであった。
「不可視化?何を異な事を。使えるワケがなかろう?」
雷龍は魔術が使えない事を誇る様にカレラに言の葉を紡いでいた。
「それじゃあ、どうやって時計塔を見たって言うのよ?」
カレラは雷龍の話したよく分からない解答に頭が混乱する思いだったが、
激高する事無く飽くまでも冷静に言の葉を紡ぐカレラであった。
「ただ、単純に空からこの目で見ただけさ。」
雷龍のこの言葉でカレラは悟ったのである。
純粋にただ、目がいいと言う事を。
「空から、、、まぁ、敵には見つからん様にだいぶ離れた所からだがな。だが、見た所、あそこは外見と中身が違うのであろうよ?」
雷龍はカレラに対して言の葉を紡ぐ。
「外見と中身が違う?」
カレラは雷龍の言った言葉の意味が分からなかったが、
齎されたその言葉から憶測を立てていくのであった。
「人間界の建物には、必ずと言っていい程、窓があるだろう?だが、あの時計塔の窓からは部屋の中が何も見えなかった。」
雷龍がそこまで言の葉を紡いだ時、
カレラの憶測は確信へと変わっていったのである。
「魔術的な結界って所かしら?まぁ、国家機密の研究塔からの情報漏洩が窓の外からなんて、シャレにならないものね。」
カレラは冗談めかした言の葉を紡ぐが、
そんな中に一人で飛び込んだルミネの事を少しばかり心配していたのであった。
「ルミネ、遅いわね。」
「あの魔族の令嬢ならば、遅れを取るとは思わないが?」
雷龍はカレラの呟きに対して、そう応えたのである。
「えっ?雷龍、今、なんて?」
カレラは驚愕とも言える表情を取っていたと言える。
「遅れを取るとは思わないが?」
雷龍はカレラの質問のままに応じるが、
「その前!」とカレラに間髪入れずツッコまれた事で、
「魔族の令嬢ならば?」と返したのである。
「な、なんで、アンタが、ルミネが魔族だって知ってるのよ?」
カレラは再三に渡り、
雷龍の口から出た「魔族」という言葉に、
驚愕に続き動揺にまで襲われた状態で、
言の葉を紡いだのであった。
「確かに、ルミネの身体はヒト種を模しているが、魂の形、色合いまでは変えられん。我等は龍種、それくらいは見抜けて当然!朝飯前よ!!」
雷龍は胸を張って誇らしげにカレラに対して言の葉を紡いでおり、
その言葉からカレラは爺にルミネを初めて見せた時や、
未来で樹龍の加勢に来たルミネを見た時の反応などを思い出していたのである。
そのせいもあり、妙に納得したカレラであった。
「だが、魔族と言えば、今回の作戦会議をした場所、あの場にいた魔族と神族の放つ重圧もなかなかのモノだったな。我等が国で会議の時に輝龍さ」
「雷!喋りすぎだ!」
雷龍の紡ぐ言の葉を静止した者は乱龍であり、
初めて聞く乱龍の声にカレラは先程とは違った驚きを感じたのであった。
「乱龍?アナタ、喋れたの?!」
カレラの驚きは結果として、
非常に変な質問になって飛び出したのである。
「いつもは単純に話さないだけだ。話した所で、カロリーを消費するだけだからな。無駄にカロリーを消費すれば、主を守る戦いに於いて、、、」
それを切っ掛けに乱龍の意味の無い語りが暫く続き、
カレラでは乱龍を止める事が出来ず、
雷龍はただただ申し訳ないと言った表情をカレラに向けていたのであった。
「よって、我等が兄弟の中で、一番寡黙を貫いているのである。」
乱龍の語りが終わるまでかれこれ30分以上も続き、
その語りを無理やり聞かされていたカレラも雷龍も色々な意味で疲弊させられたのである。
「や、やっと終わった、、、。」
カレラは安堵の表情を作り、
心の中では喜びとも言える呟きを漏らし、
今後、
乱龍には脚力無言を貫いて貰おうと固く誓ったのであった。
そんな三人のやりとりがされていったワケだが、
夜が更けても尚、
ルミネはホテルに帰って来なかったのである。
11月12日、AM6:00 終わりの始まりまであと39日
結局、深夜になってもルミネは帰って来なかった。
雷龍と乱龍の二人はあの語りの後で直ぐに自分達の部屋へと帰って行き、
カレラは部屋に一人、
ルミネを心配しながら待っていたのだが、
シャワーを浴び、
軽めの夕食を摂り、
時間を幾ら潰してもルミネが戻って来る気配は無かったのである。
流石のカレラも心配になり、
デバイスの機能を使い、
ルミネの探索を試みたのだが、
ルミネの持つデバイスは検索に引っ掛からなかったのであった。
「もう、何処に行っちゃったのよ?夜には戻って来るんじゃなかったの?」
カレラはそう呟きながら、深い眠りに落ちていったのである。
翌朝、カレラは窓から差し込める朝日によって目が覚めた。
隣のベッドにはルミネの姿は無く、
乱れていない寝具が昨夜はルミネが帰って来なかった事を物語っている。
「ルミネを探しに行かないとダメかしら?」
カレラは今日の行動予定を白紙に戻した上で、
新たに行動予定を立てる事にしたのであった。
そんな矢先、部屋の扉が微かな音を立て、開いたのである。
「ルミネ!」
カレラは扉から響く微かな音を聞き付け、
扉に視線を動かすと其処にはボロボロになったルミネが立っており、
慌ててベッドから飛び出たカレラはルミネの元へと駆け寄ったのであった。
「遅く、、、なりました、、、わ。」
ルミネは自分の所へと駆け寄ってくるカレラを見詰め、
覇気の無い言葉を紡ぐと、
カレラに向かって倒れ込み、
そのまま寝たのである。
そんなルミネの様子に「えっ?」と声にならない声を上げ、
倒れ込んだルミネを抱きかかえたカレラは、
戸惑うばかりであったと言える。
「と、言うワケで、ルミネが目覚めるまで何も出来ないので、行動予定は立て直しになったんだけど、二人は何かしたいコトはある?」
ルミネを寝室のベッドの上に寝かせるとカレラは二人の部屋を訪ねたのである。
「先ずは朝食が食べたい。」
カレラはどこか抜けている様な雷龍の発言に、
本心からツッコミを入れたい気持ちで山々だったのだが、
まぁ、それはさておき、
寝ているルミネは暫く起きないだろうと考え、
カレラは二人と共にホテル内のレストランへと向かったのであった。
「それにしても、よく食べるわね?レストランのウェイターもウェイトレスも青褪めてたわよ?」
カレラは朝食を食べ終わった二人を連れ、
二人の部屋に入ると開口一番二人に皮肉を言ったのである。
「人間達の国にはこうも美味いモノが多いとは知らず、ついつい美味故に食べ過ぎてしまうのだ。」
雷龍は饒舌なまでに「食」に対して褒めちぎっている様にも聞こえるが、
乱龍は雷龍とは正反対に寡黙であった。
だが、口を開いた乱龍の破壊力をカレラは重々承知しているので、
同じ愚を犯さない様に心掛けていたのであった。
「さて、今朝方、時計塔に潜入していたルミネが帰って来たんだけど、時計塔の中で何があったのか聞けなかったから、起きるまで時間を潰す必要があるんだけど、何かあるかしら?」
カレラは朝食を摂り、
ご機嫌になっている様子の雷龍に向けて、
言の葉を紡いでいた。
「探りを入れるのは、後は時計塔だけなのだろう?それならば、一つ提案があるのだが?」
「どごおぉぉぉぉおん」「ぎいぃぃぃいん」「ががっ、だんっ、どごすっ」爆発音、金属音、打撃音、ここは戦場かと思える程に様々な音がオンパレードで鳴り響いていく。
雷龍はカレラから「何がしたいか?」と聞かれ、
素直に「腕試し」と応えたのであった。
理由付けとしては、
「共に今回の任務に当たる上で、どの程度の戦闘能力なのかを互いに知っておいて損はないだろう」と言う事を趣旨とした乱龍の意見であり、
その趣旨を理解するまでにはやはり、
乱龍の語りが加わった為、
それなりの時間を要したのは言うまでもない。
カレラと雷龍は「腕試し」をするまでにかなり疲弊させられていたとも言えるが、
気を取り直すとカレラは先ず、
ルミネに置き手紙を認め、
その上で、
二人を連れて外に出たのであった。
カレラは何処で腕試しをするか迷っていたが、
雷龍から昨日の探索の際に見付けた場所の提案を受け、
その場所へと向かったのである。
結果から言うと、
カレラは半神半魔のフォームを取る事は一切せず、
その状態で雷龍に圧勝し、
続く乱龍にも圧勝したと言える。
だが、流石に雷龍と乱龍の二人掛かりで連携を取られた際には圧勝とは言えず、
辛くも勝利した感じであった。
ただし今回の腕試しは、
二人は人化したままという条件の元に行った為、
龍種最大の火力を誇るブレスは使えなかったと言える。
カレラもまた、
半神半魔のフォームや、
各種魔石などは使わず、
自身の体術、魔術、剣術などで闘った為、
フェアと言えばフェアだったのだが、
二人掛かりも勝つ事が出来なかった古龍種達は肩を落とし、
しょぼくれて、
一切合切のやる気を無くした犬の様に項垂れたのであった。




