伏竜鳳雛 ~野にいる優れた人材だなんて、アタシの事をそんな風に思ってたのね!え?勘違いも甚だしい?い、言ってくれるじゃない!!~
「で、あそこが終わりの始まりの一発目で良いのよね?」
カレラは片手にサンドイッチを持ち、
それを美味しそうに頬張りながら雷龍へと話し掛けていた。
「カレラ、お行儀が悪いですわよ?」
食べながら話し掛けているカレラに対して、
ルミネは紅茶を口に含みながらカレラの事を窘めているが、
その視線はカレラが雷龍に問いを投げている場所に向かっている。
「うむ、あそこが樹龍様が仰っていた座標の場所だ。」
カレラに問われ雷龍は応えているが、
その手にはナイフとフォークが握られており、
オアズケをされた犬の様に、
視線は目の前のシェパーズパイへと注がれていた。
乱龍はと言うと、黙々と目の前の皿に山盛りに置かれているフィッシュ・アンド・チップスを食している。
深夜にロンドンに到着し、
約10000kmもの飛行距離を踏破?走破?飛破?した結果、
ベッドを与えられたカレラは、
朝方ルミネが起こしても起きず、
結果として昼前にやっとこさ起き上がると、
天気も良かった事から目的地のよく見えるテムズ川の畔にあるカフェのテラス席でブランチとなったのである。
「そしたら、どうやって攻めようかしら?そもそも、アレって、この国のシンボルでしょ?破壊しちゃかなりマズい気がするのよねぇ。」
カレラが向ける視線の先にある物はロンドン国のシンボルとも言える時計塔であり、
ロンドン国の最重要国家機密がゴロゴロとある研究塔なのであった。
「流石にアレを破壊していいか?なんて、この国の元首には聞けないし、、、。マムが協力要請しているとは言え、最重要機密の宝庫に入れてくれるとも思えないし、、、。」
カレラは頭を抱えたい気持ちでいっぱいだったが、
それよりも先ず、
久方振りのまともな食事でお腹をいっぱいにしたい気持ちで、
独り言を呟きながらも、
リスの様に口いっぱいにサンドイッチを頬張っていったのである。
ルミネは小言を言った所で変わる気配の無いカレラに対して、
ただただジト目で睨む事しか出来ないのであった。
「カレラ、そうしたら、私が中の様子を見て参りますわ。あそこの研究塔の中の何処かに、終わりの始まりの原因を作ってる施設か設備があるのでしょう?」
ルミネの提案は適材適所の最適解であるとカレラは考えており、
それがルミネの口から言われた事でカレラはルミネの提案を二つ返事で承諾したのであった。
カレラの承諾を得られたルミネは「今日の夜には戻りますわ!」と言の葉を紡ぐと、
意気揚々と時計塔に向かって行ったのである。
「ねぇ、雷龍、聞いてもいい?」
ルミネがカフェから時計塔に向かい、
自分の食事も無事に終わり、
お腹が満たされたカレラは、
雷龍に向かって話し掛けていた。
雷龍はまだシェパーズパイに舌鼓を打っているが、
そんな事はカレラにとってお構い無しの様子であったと言える。
「我等はただ、樹龍様の命に拠って協力してるに過ぎない。そして、そもそも我等は人間達と馴れ合うつもりも無い。」
律儀にも食べながら話す事をしない雷龍は、
切り分けたシェパーズパイをフォークに刺し、
口元の手前で止めた状態で、
カレラに対して恨めしそうな視線を向け、
言の葉を紡いでいる。
「そう?話しを聞かせてくれるなら、ミートパイもあるけど、食べたくない?」
カレラは口角を上げ、
ちょっとだけ悪い顔をしながら、
雷龍に対して良く言えば提案しているが、
これは悪く言えば餌付けである。
「ま、まぁ、我等とて、馴れ合うつもりは無いが、作戦が終わるまでは共に行動するワケだから、コミュニケーションは大事だろうと考えなくも無い。」
カレラは思ったよりも餌付け、、、じゃなく、
提案が順調にいった事に満足を覚えると、
ウェイトレスにミートパイとブラックコーヒーを注文し、
店員は笑顔でそれに応えると店の奥へと下がって行ったのであった。
「でさぁ、古龍種って誰でも人化出来るワケ?」
雷龍の了承が得られたカレラは疑問に思っていた事を口にしていた。
カレラが今まで遭った古龍種は討伐してきたモノも含めると(一般的なハンターと比べて)少ないとは言えず、むしろ多いとも言える。
だが、カレラが討伐してきた古龍種達がもしも人化出来たのなら、
もしも話し合う事が出来ていたら、、、と考えると「違う結末もあったのではないか?」と、
ライヤと闘りあった事で思ったのである。
「解答を優先すると、それはNoだ!全ての古龍種が人化する事は出来ない。」
雷龍はそう言った。
カレラは内心ほっとした気持ちでいたが、
カレラの一つの質問の解答が得られても、
雷龍のミートパイはまだ届いていない。
「成り立ての古龍種はまだ本能を理性が制御出来ぬ獣。それ故に人化は出来ない。」
カレラの目には雷龍は手持ち無沙汰の様子で、
空いた皿の上に置かれているナイフとフォークを用いて、
カチャカチャと遊んでいる子供の様に見えていた。
「そうなんだ?でも、そうしたら、理性が本能を抑えられたら人化出来るってコト?」
カレラは雷龍の手持ち無沙汰を目で追い掛けながら、
自分は一足先に運ばれて来たコーヒーの香りを楽しみつつ言の葉を紡いでいく。
「階級、、、とでも呼ばれているかも知れんが、それで説明してやろう。」
雷龍はカレラの視線が自分の手元に注がれている事を悟り、
その遊びを辞めるとカレラを見据えて言の葉を紡いでいったのである。
「己の力を増し、本能の赴くままに暴れていられるうちは、古の下位から中位と呼ばれるモノ達だ。そこから更に時を重ね、更に力を増し、自分の適性の格が上がり、理性が本能を上回ると上位となり、人化を採る事が出来る様になる。」
雷龍はミートパイが運ばれて来るのを今か今かと待ちつつ、
カレラに向かって言の葉を紡いでおり、
雷龍が紡ぐ言の葉を聞いているカレラは、
ふむふむと思いながらも次の質問を模索していたのであった。
「適性の格って、無属性も含む属性ってコトよね?雷龍や乱龍は複数の属性龍でしょ?でもそうしたら輝龍や樹龍は一つの属性しか使えないのに、それでも最上位ってコトなの?」
カレラは意図せずにその名を口にしていたが、
雷龍はその事に不興を買った様子で、
瞬時に機嫌が悪くなったのをカレラは見逃さなかったのである。
「確かに我等は複数の属性を操れるが、単一属性を極められた方達には遠く及ばない!それ故の最上位なのだ!そして、最上位の方々に複数属性を操れるモノはいない。それ程までに単一の属性を極められた方々なのだ!」
カレラは雷龍の言わんとしている事が分からなくは無かったが、
光と闇を含む全属性を最大限操れるカレラにはそれは言い訳にしか聞こえなかったとも言えるのだが、
それを言ってしまえば雷龍の自尊心を傷付け、
これからの関係が悪くなる事を恐れ自重したのであった。
「でもそうしたら、雷龍は最上位を目指してないってコト?」
カレラは雷龍の自尊心を傷付けず、
それでいて且つ、
雷龍の考えを聞こうと模索した結果の言の葉を紡いでいく。
「アヤツの事は知らんが、、、。」
雷龍はただ黙々と五皿目となる山盛りフィッシュ・アンド・チップスを平らげている乱龍に対して少しだけ視線を送ると、
「目立つ事をすれば、風龍の様になり兼ねんからな」と告げたのであった。
「風龍って、あの風龍?でもそうしたら、風龍は上位種なんだから人化出来たのよね?」
カレラは自分が倒したかつての強敵を思い出していた。
「風龍は、我等が兄弟の末っ子だったのだがな、目立ったばかりに最上位の敵対派閥に目を付けられ、自我を喪失させられた挙句、人間界で暴れたばかりに、輝龍様に因って屠られたのだ。」
カレラは危うく口に含んでいたコーヒーを、
雷龍に向けて吹き出す寸前までいき、
必死に耐えていたのであった。
何故ならば、お解りだと思うが、ツッコミどころが満載だったからである。
「輝龍様に因って屠られたその躯はついぞ見付けられなかった。人間界のハンター共の餌食にでもされたのであろうな。」
カレラは更に耐え忍ばなければならない状況にその身が置かれた事を理解していた。
ここで「アタシが風龍を倒した」とでも言おうモノなら古龍一頭、
若しくは、
二頭同時に襲われる可能性すら見えたからであり、
そんな事をすれば、
終わりの始まり以前に、
自分自身の終末になり兼ねないと感じたからである。
「桑原くわばらクワバラ、、、。」
カレラは心の中で呟いており、
そのお呪いが通じたかの様に、
カフェの中からウェイトレスがミートパイを持って来たのであった。
ウェイトレスの手によってミートパイは雷龍の前に置かれ、
カレラは雷龍に「どうぞ」と言うと雷龍は喜んでいる犬の様に、
ナイフとフォークでミートパイを切り分けると口に頬張っていったのである。
「あ、あの、、、。」
本来であればウェイトレスは配膳を終えると店の中に戻っていくものとカレラは思っていたのだが、
このウェイトレスはどうにも違う様子で、
カレラの前に立っており、
そして、
カレラの事を見詰めながら、
どこかモジモジする様に何かを言いたそうな感じがカレラにはしたのであった。
「他の注文を聞いてくれるの?それとも、アタシに何か頼みたい事でもあるのかしら?」
カレラはモジモジしているウェイトレスに対して、
自分から言の葉を紡ぎ、
それに応じる様にウェイトレスは「後で、時間を頂けますか?」と返したのである。
「うぅん、やっぱりここは完全なる研究機関ですわね。」
ルミネは不可視化の魔術を自身に掛けた上で一人、
時計塔に潜入すると一階から調査を開始し唸っていた。
調査と言っても、
勝手に部屋に入れば不可視化を採っていても何かしらの警報に引っ掛かる恐れがある為、
自身のオドを細長く放出した魔力糸とも言えるルミネ謹製の魔術によって、
廊下にいながらにして、
各部屋の調査を行っていったのである。
そして国家機密の塊の様な研究機関である時計塔の調査は、
ルミネにとって、
垂涎を抑えられない程のご褒美とも言える調査なのだが、
一階の各部屋の調査を終えた段階でルミネは非常に不満であったと言える。
「モノ足りませ、、、ごほんッ!ここにはホシはなさそうですわ。次に行くのが正解ですわね。」
表向きには終わりの始まりの拠点の調査でありながら、
裏向きである自分の欲求を満たす事を主たる目的としてしまったルミネの快進撃が始まったのである。
ルミネは一階から二階、二階から三階と、次々に調査を終え、
更に更にと上の階層を制覇していく。
そして、上階に行けば行く程に機密性は増し、
ルミネはさらに垂涎を抑えられなくなっていったのだが、
最上階まで登り詰めた段階で、
終わりの始まりの拠点と思しき場所は見付からず、
ただルミネの知識欲求のみが満たされていくと言う、
矛盾した成果を上げたのである。
「やっぱりここは、外観と中身の空間の領域が異なりますわね。まぁ、その根本の空間拡張の術式も見られましたし、私としては目的のコトを忘れてしまいそうになりますわ。」
ルミネの研究者としての性に火を点けた、
時計塔の探索は手詰まりと思えたのであったが、
最上階の最奥にルミネでなければ気付けない程の微かな歪みをルミネは発見したのであった。
「これはッ?!この先に何かありますわね?でもここが最上階だとすれば、この先は何処に繋がっているのでしょう?」
ルミネは多少なりとも気掛かりな感じに囚われながらもその歪みを手繰り、
最上階のその先へと向かう事にしたのである。
「お疲れ様でした。店長お先に失礼します。」
ウェイトレスとしての仕事が終わり、
着替えて店主に声を掛け店を出ると、
視線の先にはカレラが立っていたのであった。
「時間通りね!えっと、エリーゼさんだっけ?それで、アタシに頼み事って何かしら?」
カレラはブランチを終えると、
雷龍と乱龍を連れ店を後にし、
雷龍と乱龍には時計塔周辺の調査を依頼し、
自分は街を散策がてらウェイトレスのエリーゼの仕事あがりまで時間を潰していた。
「本当に来て下さって、あ、ありがとうございます!」
エリーゼはカレラが本当にいてくれた事に感激し、
感謝を垂れ流しながらも、
カレラと話しをする為に、
流石にさっきまで自分が勤めていた店に入る事には抵抗があった事もあってモジモジとしていた。
エリーゼの様子を見兼ねたカレラはエリーゼを誘い散策の際に見付けた他のカフェへと入っていくのであった。
「そう言えば、名乗ってなかったわね?アタシの名前はカレラよ。それで、アタシに頼み事って何?」
カレラは緊張やら様々な感情が入り混じったエリーゼの気を緩めようと笑顔で言の葉を紡いでいるが、
エリーゼの緊張が解れる様子はなく、
更に険しさを増してしていったのである。
「あの、カレラさんはハンターなのですか?」
エリーゼの問いにカレラは「えぇ、そうよ」と返すと、
エリーゼは真剣な表情になりカレラに話しを切り出していくのであった。
「実は、恋人のエリックが帰って来ないんです!」
カレラはどことなく拍子抜けした気でいたが、
特に表情に出すわけでもなく、
エリーゼが話しやすい様に合いの手を入れていく。
エリーゼの話しによれば、
恋人のエリックとは同棲しているらしいのだが、
ある日を境に人が変わった様になったのだと言う。
元々エリックは、
魔術の研究者として研究機関に勤めており、
今年に入ってからは時計塔の研究室に入ったのだと言う。
兼ねてより研究していた魔術の功績が認められ、
国の機関である時計塔に入れて喜んでいた様子なのだが、
その頃から人が変わった様になり、
家に帰ってくる事が減ったのだそうだ。
それまでは毎日必ず帰って来ていたが、
時計塔に入ってからは連絡も無いまま二日経っても帰って来ず、
長い時は一週間近くも帰って来なかったと言う。
「浮気を疑った事もありましたが、それで口論になったりするのも嫌だったので、黙って帰って来るのを待ってたんです。」
エリーゼの目には薄っすらと涙が浮かんでいる様にも見れる。
「それが最近はまったく帰って来なくなり、もう一ヶ月近く経ちます。それで思い切って時計塔に連絡を入れたんですけど、「家族でもない赤の他人には教えられない」と断られてしまって。」
エリーゼはそこまで話すと、
自身の手で顔を覆うように泣き出してしまったのであった。
カレラは当惑した様子ながら、
ハンカチをエリーゼに差し出すと言の葉を紡ぎ出したのである。
「アタシは時計塔の関係者じゃないけど、時計塔を調べる様に依頼を受けてるの。だから、そのついでに、時計塔に貴女の恋人のエリックさんがいるかどうかを調べてあげるわね。それでいいかしら?」
カレラは少しだけ嘘を交えながら、
エリーゼに対して言の葉を紡ぎ、
カレラから得られた返答にエリーゼは満足した様な表情になり、
「お願いします」と返したのであった。
「それじゃ、エリーゼさん、連絡先を教えてくれる?」
カレラはエリーゼに軽く連絡先を聞く事にした。
どうやらキナ臭さが無いとは言えないが、
正式な依頼として公安やギルドを経由しているワケでは無い為、
表立って「依頼」と言う形は取れないからである。
「アタシは暫く、この先の「ウォルドーフ」っていうホテルの502号室に滞在しているから、何かあればそこに来てくれてもいいし、いなければフロントに伝言を入れてくれればアタシの所に届くから。」
カレラは自分のデバイスに搭載されている通信番号を教える事は考えていなかった。
その為、非効率だとは感じていたのだが、
自身の所在地を明らかにした上で、
エリーゼの所在地を尋ねたとも言える。
「これが連絡先です。」
エリーゼは綺麗な英文の筆記体で紙に自身の住所を書いてカレラに渡すと、
「今日と同じくらいの時間までなら平日はあのカフェで働いてますから、カフェに来て頂いても大丈夫です!」と言の葉を付け足したのである。
「それで、あ、あの報酬はいくらお支払いすれば?」
エリーゼはそれが非常に心配だった。
エリックが帰って来ない事も重なり、
借りている部屋の家賃やらの様々な支払いは、
カフェで働いている収入だけでは心許無いと思っていたからである。
「いいわよ、気にしなくて。さっきも言ったけど、飽くまでも「ついで」よ。だから、時計塔にエリックさんがいれば教えるし、いなかったらそれも伝える。でも、エリックさんを探しに時計塔に行くワケじゃないからね!」
カレラはエリーゼにそう伝えた。
正式な依頼として受けられない為の口実とも言えるが、
それでも尚、
エリーゼは納得し兼ねると言った表情を見せていた為、
「それなら、今度、貴女のカフェに行った時にサービスしてねッ!」と付け加えたのであった。
「それで、そのエリックさんの写真とか持ってない?流石に名前だけじゃ、調べるのも大変だしね!」
カレラは更に付け加えるとエリーゼにウインクをしたのである。




