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始まりと戦闘とマナと研究者 ν

「ここは、どこかしら?」


 暗い世界で1人の少女が呟いていた。

 周囲に建物は一切見えず、見慣れない草木や花が暗い世界にも拘わらず見受けられる。しかしどれも()()()()()()()()色彩を放ちその形は異形だった。


 空に陽の光はなく、一面の暗闇だが()っすらと良く分からない何かが光っていて、周囲の様子がこれまた()っすら見える程度だ。


 そうまるで月と星だけの灯りしかない深夜の様だと言えば伝わりやすいかもしれない。


 然しながら記憶がある限りではそんな時間帯に出歩いてなどいない。



「武器はある。デバイスもある」

「デバイスがあるなら…」

「デバイスオン、暗視モード」


 少女は夜目に慣れていない事もあって手探りで自分の身体を触り装備を確認していった。そして自分の武装とデバイスがある事を確認すると、デバイスの機能を使ってこの暗い世界の全容を確認する事にした。



きーーーん


「えっ?!うそッ!」


 少女が出した命令に従って甲高い音を立てつつデバイスが起動していく。だがデバイスが暗視モードを起動させると、今度はそこに一瞬で明る過ぎる世界が広がっていった。


 当然の事ながら少女は困惑した。加えて言うならば慣れつつあった夜目も再び失った。



 周囲が暗い状態でも星1つの明かり程度で充分過ぎるくらい周囲を認識出来る暗視モードだ。だが何故か空も大地(世界)も植物でさえも自らが発光していて明る過ぎるくらいの光量がそこにはあった。

 要するに()()()()()()()()()()()()くらいに鮮明としている情景が、一瞬で広がったのだから当然困惑もする。



「何これ!?デバイスが壊れた?!」


 状況が掴めない。理解が追いつかない。思考回路はオーバーヒート気味。

 そんな中でやっと絞り出せた言葉であった。


 結果として少女は暗視モードを1回切ることにした。そして無情にも再び世界は暗闇に包まれていった。



 困惑が困惑を呼び様々な考えを錯綜(さくそう)させながらも少女は、現状の置かれている状況を冷静に考えていく。


 然しながら結論には至らず状況を打破する事も叶わず、途方に暮れる直前で事態は急速に動いていった。



「殺気?!」


 少女は自分の後方から自分に向けられた殺気を感じ取っていた。


 当然の事ながら状況は決して良いとは言えない。否、むしろ悪い。

 悪過ぎるくらいだ。


 デバイスの暗視モードでは目も開けられないくらい明る過ぎて戦闘どころではない。

 暗視モードを切れば暗過ぎてそれはそれで戦闘どころではない。

 夜目に慣れれば多少変わるかもしれないがそれもさっき失われた。だが一方で少女は殺気を機敏に感じ取り、戦闘態勢に入ってからの行動は実に冷静だった。


 少女は自身のデバイスの機能を探索モードに切り替えると目として使う事(暗視モード)を諦めた。使い物にならない自身の目も周囲の状況把握に使う事を止めた。


 要はデバイスを探索モードにして、敵の位置情報を自身の目で追う事で自分と敵との距離感を取ろうとしたのだ。

 限りなく不安定な闘い方だがその両手には少女の愛剣とも言える大剣(グレートソード)ディオルゲートがしっかりと握られていた。

 自分の直感と感性と感覚、更には愛剣を信じているが故の戦闘方法だと言える。



 殺気はゆっくりと近付いてくる。感じ取れる数は全部で5つ。等間隔で扇状に横に広がっている。

 自分の事を包囲するつもりなのかもしれない。


 自身の目で現況を把握するよりもデバイス上にある光点を追うのは煩わしかったが現状に於ける最善はそれしかなかった。



「先に仕掛けるべきか、それとも…」


 相手の姿形が分からない以上先制の有利を取るべきかどうかは一種の賭けだ。だがその矢先に殺気の内の1つが速度を上げ、真っ直ぐに自分目掛けて向かって来るのがデバイス上に示されていった。



「速いっ?!」


 驚きの声を漏らすのと同時にデバイスからアラームの音が()()()()()()鳴り響いていく。

 少女はその音に負けじとその手の中にある愛剣の柄を強く握り締めていった。



ひゅんっ


 空気を切り裂く音が響いていく。然しながら少女の愛剣にもその重さが伝わる腕にも手応えは全く無かった。



 少女は向かってくる殺気に対し正対し愛剣を低く構えると深呼吸した。

 少女の瞳が見詰めるデバイス上の光点が、自分と重なる段階で半歩左斜め後ろにステップ取る。

 これまでの戦闘に於ける経験や戦闘能力(センス)といったもので攻撃を躱し(たと思っ)てから愛剣を横に()いだ。だが虚しくも愛剣は空を斬っただけだったようだ。



「くッ!」

「あのタイミングでこっちの剣撃は当たらないのに、向こうは当ててきた?!」

「ちゃんと視界がハッキリしていれば…」


 少女は(うめ)き声を漏らした。何故ならば右の肩口に鋭い痛みが奔ったからである。そして少女は口を(とが)らせ納得がいかない感じといった表情だ。


 暗闇で相手の存在をロクに確認出来ず、タイミングを合わせても斬る事が出来ない相手。


 これが視認出来る状態であれば事態は収束に向かっていたかもしれない。だがこの危機的状況に於いてはタラレバの話をしても意味がない事は百も承知だった。



 現状で後方の4つの殺気は止まっている。

 それは先に攻撃してきた殺気のみが自分の前に()()()()()()()という事を示していた。


 先のすれ違いざまの一撃の後で敵は追撃してこなかった。

 まぁよく見えない為に実際は全く分からないが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「追撃が来ないなら」

「えっ?これは一体どういう事なの?」

「傷が…ない?!」


 少女は自身に付けられた傷口に手を当て手探りで傷の度合いを確かめる事にした。今は戦闘中だが傷の度合いによって大剣(グレートソード)が振れなくなり武器の変更を余儀なくされるからである。


 だが結果として困惑する事になった。



 確かにさっき右の肩口に鋭い痛みを感じた。そして今も鈍い痛みを感じている。

 なのに傷は無い。



「これはどういうコト?」

「アタシは一体何と闘っているっていうの?」

「そもそも、ここは一体どこなんだろう?」


 傷口のない切り傷。そう形容する事しか出来ない痛みが右の肩口にある。

 もう意味が分からない。全く理解出来ない。


 少女の困惑は更に困惑を呼んでいった。そしていくら困惑しても今の危機的状況に変わりは無い。



 再びデバイスがアラームを鳴らす。それは自分に相対(あいたい)している殺気が自分に近寄ってきている様子を示している。


 少女は咄嗟に考えを巡らせると愛剣での攻撃を止める事にした。それ故に愛剣を大地に突き刺すと自身の両の掌にマナを集めていった。



「えっ?!」


 何回目かの困惑。こんな短時間で困惑し過ぎと言える。だが決して情緒不安定になっている訳ではない。

 思考回路が理解出来ないコトだらけに()()()()()()()()()()()である。



 少女は剣での攻撃を諦め魔術を使うべく掌にマナを集め始めたのだが普段と勝手がどうにも違う。

 マナが集まり過ぎている。(いや)、むしろ集まり過ぎて暴走を()()()()()()


 それは少女を中心にしてマナが暴風を巻き起こし、マナの竜巻が発生していたとも言える。だが自分が竜巻の中心にいると言う混沌(こんとん)とした状況の中でも少女は実に冷静であった。



「やっぱり、ここは地球じゃない。地球ならこんなにマナは濃くないし、こんな暴走するまで集める事は出来ない」

「それを前提にするなら、この場所は…敵の正体は…闘う方法は…」


 そして少女は現状の積み重ねから考え1つの可能性を見出すに至った。



 この状況に殺気の主は困惑していた。

 突然狙っていた獲物を核とする様にマナの竜巻が発生したからである。これでは不用意に近付く事も出来ない。


 近付けば竜巻に巻き込まれ()()()()()()()()()()()()本能が告げていた。従って今は機会を(うかが)うことしか出来無いのであった。



追尾する(セミタ・ルクス・)光の槍兵(マイルズ・ハスタム)・24(ミリテス)


征聖光槍(サンクトゥス・ハスタ)!」


 少女は魔術を詠唱した。いや、こんなのは本来ならば詠唱したうちに入らない事は理解している。だが、これだけマナが暴走しているのだから略式でも充分に構わなかった。



 少女の周囲にあった膨大なマナはその魔術(力ある言葉)に従い光の槍兵の姿を形造っていく。こうして形造られた光の槍兵達は、少女に殺気を向けていた()()()()に襲い掛かっていった。



 少女と相対していた殺気の主。そして少女と距離を取り様子を窺っていた4体全てが、魔術(力ある言葉)によって生み出された光の槍兵に抵抗する事なく槍で貫かれ霧散していった。


 役目を終えた光の槍兵は虚空(こくう)へと光の余韻を残し消えていく。こうして辺りは再び静寂の暗闇に包まれていった。



「ふぅ。なんとかなったわね」

「でも、これからホントにどうしよう?」

「ねぇ、誰か教えてよーーーッ!」


 少女はひとまず去った危機的状況からの解放に安堵し、その場に()()()()()へたり込み座っていた。

 そして助けを求めていた。




「何か途轍(とてつ)も無い力の波動を感じますわ」


 神殿の様な静謐(せいひつ)な空間に(たたず)む1人の少女は、遥か遠方で起きたマナの竜巻を機敏に感じ取っていた。


 赤と蒼のオッドアイの瞳。腰にまでかかる銀色の髪。透き通る程白くキメが細かい肌。たわわに膨らんだ双丘に今にも折れそうな腰の線。身に纏っているのは蒼味がかった銀色のドレス。ほっそりとした手には大きな宝石の付いた銀色の杖。


 スタイルが良く整った顔立ちの美少女とも言えるこの少女は、この場所で魔術に関する研究を行っていた。

 そんな時の出来事であった。



 彼女はこの国の貴族・ルネサージュ伯爵家の当主の娘。名前をルミナンテ・ウル・ルネサージュと言う。通称はルミネだ。



 貴族の娘として生まれた彼女は若い内から魔術に於ける才覚を示し、その才能はこの国の王に一目置かれる程であった。そして王から一目置かれた結果父親より、ルネサージュ城の中にある蔵書の閲覧並びに私室兼研究室が与えられた。


 要は恵まれまくった研究者…と言った感じである。



「お父様の領内は、この国の中でも確かにマナが濃いのですけど、先程の波動は自然発生したモノとは考え難いですわ。」


 ルミネは自身が感じ取った波動に対して「何故起きたのか?」の結論を出そうと自問自答していく。



「様子を見に行きたいですわね。でもこの城から出るにはお父様の許可が必要になりますし、どうしましょうかしら?」


 ルミネは自問自答した結果「今すぐに現地に行ってみたい」とそんな衝動に駆られていた。それは研究者故の(さが)みたいなモノとも言える。

 拠って見た目からは想像もつかない程にお転婆だった。


 だが彼女は研究者である以前に貴族の娘なのである。歳の若い貴族の娘がひょこひょこと城の外に出て良いハズがない。あるワケは当然ない。

 それは当たり前の事だ。


 だからこそ無断で外出した事が知られれば父親からの叱責(しっせき)(まぬが)れない。そればかりか下手をすれば私室兼研究室を取り上げられた上に自室に幽閉され監禁さえもあり得る。

 そんな事は断固反対願い下げだった。



「こうなったら、とっておきを使う事に致しましょう」


 ルミネは言の葉を紡ぐと手に持っていた杖で空中に陣形を描いていく。ルミネは詠唱の言葉を発する事もせずに自分が描いた陣形からルミネそっくりの人形を出現させていった。ルミネは自分そっくりの人形の眼を見て小さく言の葉を紡いでいく。


 するとその言の葉を受けた人形はルミネに対して頷くとドレスの両端を軽く持ち上げ足を軽く曲げ行儀よく礼をしていた。



「これから、わたくしはちょっと出掛けて参りますわ。わたくしが戻って来るまでの間に何かありましたら、わたくしの代わりに対応して下さるかしら?」


「かしこまりました。マイ・マスター」


 ルミネは人形に指示を出し人形は普段のルミネが()()()()()仕草や行動をしていた。



 ルミネは魔術の才能に恵まれていた。

 攻撃や回復、補助だけに留まらずその他のありとあらゆるジャンルの魔術まで身に付けていった。それは基本属性に囚われず無属性でも同じだった。


 更に使う事の出来る基本属性は()()()()()()でありこの国、否、この世界で唯一全ての属性を使う事の出来る者と言えた。



 ルミネが作った人形は自分と全く同じ基本性能を持った魔力製素体(ホムンクルス)である。魔術レベル的にはオリジナルを超える事は出来ないがそれでもある程度までは行使する事が出来る。


 更にはその素体にルミネの精神を一部定着させている事からよっぽどの事がなければ偽物と見抜かれる事がないという逸品だ。



「さてと、わたくしの身代わりは人形に任せましたので、わたくしは早速、向かうと致しましょう」


 ルミネはウキウキした様子で言の葉を紡ぐと()も楽しみと言いたげな表情で再び杖を掲げ空中に陣形を描いていく。描かれた陣形は姿を変えるとルミネが通れるサイズの扉へと変化しルミネはその扉を(くぐ)り中へと入っていった。



 ルミネが扉に入るとそこにあった扉は何も無かったかの様に小さな光の粒子の余韻を残して消えた。




「さてと、これからどうしようかなぁ?」

「さっきは思わず大声で「誰か教えてー」って叫んじゃったけど、今思うとこんなワケの分からない世界で助けに来る人って大抵ヤバいと思うのよね…」

「だから誰も来なくて正解っちゃあ正解なんだけど、アタシはこれからどうすればいいのかしら?」

「ってかそもそもの話しがなんでここにいるんだっけ?」


 少女は突然襲って来た危機的状況から一旦は回避出来たが不安でいっぱいだった。だからその不安から()()()()でも目を逸らす為に独り言を話している。

 それはごく自然な事なので怪しい人ではない。


 然しながら、かと言って今の状況が決して絶対安全と言えるワケではない。更に言えば疑問が多々積もっている状況に、正直なところ迷っていたし参っていた。


 そして結局のところ、()()()()()()どこにも行くアテが無いから一歩も動こうとしなかったとも言い換えられる。



 行くアテが無いだけならともかく()()()()()()()()()()()()()()()()()()目も当てられない。


 どっちに転んでも結局の所、何も出来ないのだ。結果として少女はうろちょろする事なく先程戦闘があった所に寝転がって呟くしかする事がなかったのだ。




 目は多少慣れたが遠くまで見る事はやはり叶わない。実際に手が届く距離くらいしかはっきりとした視界は無かった。


 先の戦いにおける傷(?)の痛みは少し緩和され引いてきている気がする。だが流石にここで装備を外し着ている服を脱ぎ傷の状態を確認する事は(はばか)られた。

 それに野外で露出するほど破廉恥ではないし羞恥心が無いワケではない。

 それは暗かろうと夜だろうとなんら変わらない。



「アタシ、これからどうなるんだろ?」


 解決策を見出す為の思考は止めずに続けているが先行きは全く()って不透明かつ不明瞭。従って口から漏れたのはどうしようも無い不安だけだった。



 少女の口からどうしようも無い不安が漏れ出した丁度そんな時にデバイスは何かを察知し少女に告げていた。



「ちょっとどういう事?近くに何かが突然現れた?敵?!それとも、また誤作動?」

「まったくこんな時に。ゆっくりのんびりさせてくれないものかしら?」


 少女はデバイスの誤作動であって欲しいと思いながらもデバイスは壊れていない事を願っていた。しかし「のんびりさせてくれないものか?」と言いながらも状況を改善される事を祈っていた。

 自由気ままに気分屋な性格と言えばちゃんと伝わると思う。


 然しながら全く危機感がないワケではない。

 拠って突然現れた何かが敵である事も想定に入れると、身体のバネを使って素早く起き上がっていく。更には身を低くして、倒した状態で地面に置いてある大剣(グレートソード)の柄に手を当て不測の事態に備えていった。



ひゅうッ


 細い隙間を風が抜ける様な音がした後で少女から僅か数メートル先の位置に光る扉が現れていく。



「扉?何かが出て来るの?ワケの分からない所での戦闘はもう懲り懲りよ?」

「でも、扉ってコトは魔術よね?転移系の魔術かしら?それなら魔獣なんかよりはよっぽど話しが通じると思ってていいわよねッ!」


 少女は不測の事態に対応できる陽に身体を強張らせずに適度に緊張状態を作っていく。しかし、緊張感を身体に(はし)らせていた少女は、扉から蒼く輝く銀色のドレスを着た場違い感満載の女の子が出て来たのを見た。


 よって拍子抜けしたというのは言うまでも無い。



「あれ?おかしいですわ?先程の波動が起きていた位置に正確に転移したハズですのに、何も無いなんて…」

「あら?いいえ、違いますわね、隠れていらっしゃるのね?そこに1人いらっしゃいますものね」


 ルミネは身を低くして隠れている少女を正確に捉えた上で少女の方を見詰め、()()()()()()()()()言の葉を紡いでいた。



「見られてる?どうやら、見付かってる…のね。それにしても、なんていう強力な魔力、身体から溢れ出す程のオドなんて見た事がない」

「貴女、何者なの?」


「わたくしの名前はルミナンテ・ウル・ルネサージュと申します。先程、この辺りでマナの強力な波動を感じ、調査の為、ここまでやって参りました」

「貴女様はここで何が起きたのかご存知ですか?ご存知でしたら、教えて頂けませんか?」


 ルミナンテと名乗った少女はおっとりとした口調で言の葉を紡いでいるがその瞳は真剣さを(たた)えている。

 少女から見た感じでは「自分よりは若そうに見える」と思った。だが、誰かが見比べてくれたなら正反対の意見が出るコトだろう。



 然しながら少女は正直なところ抜けた拍子が更に抜けた感じがした。


 今まで見た事もない転移の魔術で現れたかと思えば、自分と同じかちょっと下くらいの年齢っポイ女の子だった事。


 しかも膨大な魔力を持った女の子が丁寧な口調でさっきのマナの暴走を調べに来たなんて言われれば、もう1つ2つ拍子が抜けても()()()()()()()


 そもそもの話、この世界が少女が()()()()()()()()()()()()()の話ではあるが…。



「戦闘しに来たってワケじゃないのよね?飽くまでも調査なのよね?」


「えぇ、そうですわよ。それは先程申し上げた通りですわ」


 少女はルミナンテに対して念を押す事にした。とは言え、これだけ膨大な魔力を見せ付けられれば、言質(げんち)を取る事が本当に意味がある行為なのかは定かでは無いが…。


「ここがどこだってもう、どうでもいい。大体の見当はついてきているし、あそこまでの魔力を見せつけられれば…」

「抵抗するだけムダってモンだわ」


 少女は半ば諦めていた。

 もし仮にここで戦闘にでもなれば十中八九自分は負ける。それは少女の今までの経験則から求められた解答だった。

 だけどそんな言葉(弱音)は敵かもしれない相手には聞かせられない。

 だから心の中だけで呟いていた。



「まぁ!貴女様はこの世界の方では無いのですね?そうしたら人間界でしょうか?聞くところによる、ヒト種の方なのでしょうか?感じた事のない波長だから、全く分かりませんでしたわ」


 ルミナンテは心の中で呟いていた少女の「呟き」に対して合わせるように言の葉を紡いでいた。



「心を読んでる…の?」


「失礼かとは思ったのですが、異種族の方とお会いするのは初めてでしたし、何か起きてしまうと大変な事になりますので、ご容赦頂けませんか?」


「何かって、例えばこういう事ッ?」


 少女は挑発する様な言葉を投げると突如として愛剣でルミナンテに向かって斬り付けていく。だが本当に斬るつもりは一切無くて飽くまでもそれは「フリ」であり避けなくても寸止めにするつもりではあった。



「なんで?避けようとすらしないなんてッ!」


「貴女様から殺気を感じませんでしたわ。それにわたくしは戦闘に来たのではありません。先程申し上げました通り、ここには調査に来たのですわ」

「それでも、貴女様がどうしても闘いたいと仰るのでしたら、お相手になりますけど?どうなさいます?」

「まぁ、斬れない剣では闘いにすらなりませんけどね」


「えっ?!今、なんて…?」


 ルミナンテはその顔に微笑を浮かべながら、少女に対して言の葉を紡いでいた。


 純粋に微笑を浮かべている様にも見えるがルミナンテの口から紡がれている言の葉は非常に物騒であり得体の知れない恐怖を少女は感じ取っていたと言える。



「やめておくわ。それよりもルミナンテさんだっけ?貴女がアタシに聞きたい事があるように、アタシも貴女に聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」


「ええ、構いませんわ。大体察しが付きますけど、異世界に突然召喚?それとも迷い込んだ?まぁ、どちらでも大差はありませんわね。とは言っても勝手の分からない世界に()()()()()()のでしょうから、当然と言えば当然の事ですものね」

「あと、わたくしの事は、ルミネと呼んで頂いて結構ですわ」


 ルミネはそう言うと杖を掲げ空中に陣形を描いていく。そして何も無かった虚空に扉が現れていったのを少女は()()()()()見詰めていた。



「転移魔術?!しかも、詠唱もなしに?貴女、本当に一体何者なの?それと、その扉でどこに連れて行ってくれるのかしら?」


「こちらへどうぞ。中で話しを致しましょう。ここで話しをするのも何かと効率が悪いですし、貴女様の今の状況では視界が()()()()と悪いでしょうから」


 ルミネは少女に向かって言の葉を紡ぐと、少女の了解を得ないまま先に扉を(くぐ)り中へと入っていった。


 少女は多少、否、かなり不本意な感じがしたのだけれどもそれ以外に選択肢は無かった。

 要するに有用な情報をくれるであろうルミネが先に行ってしまった事は、「後に付いていく一択」以外の選択肢を失くされたのも同然だった。




「何、ここ?」


「ここはわたくしの研究室ですわ」


 少女が扉に入ると見知らぬ部屋に出た。天井が高く丸い。

 部屋の中心には白く少し高めの台座があり、その上には人頭大よりも一回り大きいくらいの透明な石が浮かんでいる。


 そして、部屋は全面蒼い光沢を抱えたガラス張りだった。


 更に付け加えるならば先ほどとは打って変わって()()()()()()()()()()()


 少女は視界が良好な事に驚き辺りを見回していると部屋の奥にある通路から足音が響いているのが聞こえた。それは奥から誰かがこちらに向かって来ているのを意味している。

 少女は警戒していたが部屋にやってきたその姿は少女を絶句させた。



「おかえりなさいませ、マイ・マスター」


「誰かが、ここに来ましたか?」-「いいえ」

「わたくしの事を呼ぶ者がいましたか?」-「いいえ」

「特に変わった事は何かありましたか?」-「いいえ」

「仕事は進みましたか?」-「研究に於いて、経過観察が必要な物はそのままにしております。後、蔵書から3冊、必要かと思い持って参りました」

「椅子を持ってきて頂けるかしら?」-「はい」


 2人のルミネの会話が終わると、もう1人のルミネが椅子を2脚持ってきて相対する形で置いた。そしてもう1人のルミネは再び部屋の奥に戻っていく。



「聞かれる前に話しておきますね。あの子はわたくしが外出する為に作った魔力製素体(ホムンクルス)ですわ。わたくしはお父様の許可無しに外出する事が出来ませんので、何かあった時の為の布石(ふせき)として今はあの子がいます」

「多少用事を申し付けましたので、その用事が終わり次第、あの子は消えますわ」

「あと今のは、貴女様の心を読んだワケではございませんので、お気を悪く為さらないで下さい。あの子が出てきた時の貴女様の表情から読み解いた結論ですわ」


 少女はルミネの話の切り出しに対して「また心を読まれたのか?」と思っていた。だが、それを口に出す前に否定された事で顔がむず痒くなり両手で顔を「ぱんッ」と(はた)いていた。


 ルミネはその光景を不思議そうに見ているだけだった。



 ルミネが再び杖を掲げ空中に陣形を描いていく。すると2つの椅子の間にテーブルが現れていった。

 テーブルが現れると奥に下がっていた魔力製素体(ホムンクルス)のルミネがカップとポットを持って歩いてくるのが少女の目に映った。


 魔力製素体(ホムンクルス)のルミネはポットから液体をカップへと注ぎ少女とルミネの前へそれぞれ置いていく。


 置かれた2つのカップは赤味がかった透明の液体で満たされていた。


 その後魔力製素体(ホムンクルス)のルミネは再び奥へと一旦下がったが、再び少女の前に現れた時には両手に本を3冊持って出て来た。



 少女がその本を受け取ると魔力製素体(ホムンクルス)のルミネは光の微粒子となって余韻を残しながら霧散して消えた。

 少女は目の前で起きた事の意味が分からず目を白黒させるだけだった。



「お座りになって下さいな。紅茶を飲みながらお話しを致しましょう」


「あ、あの、この本は?」


「その本は貴女様に必要な物ですわ。今ここで読んで頂いたいても構いませんし、今、読まないのでしたらお貸ししますので後で読んで頂いても構いません」


ぺらっ、ぺら…


「残念ながら、アタシには読めない文字ね」


「左様でしたか。それでしたら、その本に書いてある事を多少抜粋してお話し致しますわね。その後で、あの場所で何が起きたのかお聞きしても?」


「えぁ、分かったわ」


「それでは先ず、この世界についてお話し致しますわね」


 その言の葉を皮切りにルミネからの話が始まったのである。


・ここは、人間界では無い事。

・ここは、「魔界」と呼ばれる世界である事。

・ここに住まうモノは、アストラル体である事。

・召喚された時の少女は、マテリアル体である事。

この世界(魔界)から元の世界(人間界)に戻る方法は、()()()()()事。



 少女は当惑した様子ではあったが、ルミネから聞いた話しで幾つか納得がいく解答を得られた気がしていた。


何故、向かってきた殺気を切れなかったのか?

何故、傷口のない怪我を負わされたのか?

何故、デバイスが明暗反転したのか?

(など)である。


 だが、何故気付いたら「魔界」にいたのかは皆目見当もつかなかった。



 話しの中でルミネは、ここに住まうモノはアストラル体だと言っていた。それが指し示している事は「物理が通用しない世界」と言う事を示している。



 少女が持っていた愛剣はその刃に魔力を(まと)わせなければ()()()()だ。その為に精神体であるアストラル体を切る事は叶わなかった。


 然しながら、そのアストラル体からの攻撃はマテリアル体に対して傷を付ける事は出来ないが、少女は攻撃を受けた結果少女のアストラル体に()()()()()()()という事を指し示していた。


 アストラル体の世界にマテリアル体で召喚された事から少女のマテリアル体の五感は正常に()()()()()()と言う事も明らかになった。


 更には元々マナが薄い人間界で科学技術と魔術から成立した魔導工学によって作られたデバイスは「マナの濃い「魔界」に於いて()()()()()()()()」と言うのが結論だったのである。


 そこで、少女はふと疑問に思う。「何故、この空間は視えるのだろうか?」と。


 それにそういえば()()()()()和らいでいたとは言えここに来るまでは確かに痛かった()()()()()()()()()()



「疑問、気になる事、これからの事、少しは解決致しましたか?それと、先程の扉を(くぐ)って頂いた際に、貴女様のマテリアルとアストラルの関係性を少し変えさせて頂きましたわ」

「その際に肩に怪我があるようでしたので、勝手かとは思いましたが、修復もさせて頂きましたの。お身体に違和感は御座いませんか?」


 少女は口に出そうとした矢先にルミネからその「疑問」に対する解答を告げられ、またもや心を読まれた気がして少し憂鬱な気分になっていた。



「さて、貴女様がお聞きしたい事は、一通り終わりましたか?それでしたら、わたくしから幾つかお聞きしても?」


「えぇ、何かしら?アタシに応えられる事なら」


「ありがとうございます。ですが、わたくしが貴女様に聞きたかった事は、大体のところ結論に達したようでございますわ」

「なので、わたくしの立てた仮説に対して、違っている事があれば、その都度訂正をして頂けますか?」

「貴女様は比較的、好戦的な方とお見受けしますが、良識はある方だと思いますわ。そして、肩口にあった傷の具合から察しますと、恐らく貴女様が何者かに狙われた…といった事による戦闘行為だと考えましたの」

「そして、その戦闘の結果、強力なマナの波動を(もたら)した。と、いったところでしょうか?」


 少女は「好戦的」と言われ多少ムッとした表情が顔に出ていたが最後まで聞くと渋々ながら黙って頷いていった。



「ルミネさん、貴女は研究者だと言っていた。アタシが起こしたマナの暴走を研究するつもりなの?アタシよりも強い魔力を持っている貴女達にとって、それは重要な事なの?」


「貴女様の疑問は分かりますわ。我々魔族(デモニア)は体内に膨大な魔力を(たた)えていて、それを使って魔術を行使致しますわ」

「そして、その膨大な魔力は短時間の戦闘ではほぼ使い切る事が出来ませんから、マナを取り込み力とする貴女様達の闘い方とは根本的に違いますの」


 ルミネはそこまで言うと言の葉を紡ぐのを1回止めた。


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