遅咲きのライラック
「ねえ、、、大丈夫なの?」
その“声”が確かに聞こえる。
一人暮らしには少しばかり広い部屋の隅。僕は釈然としない意識の中、その投げかけに応える。
如何に返したのか、その直後ですら想起するのに時間を要する。
「そうこたえるのは、余裕がない証拠だよ。
私知ってる。何度も聞いてきたもの。」
その声色が徐々に特徴を帯び、締め切った部屋の暗がりに佇む彼女の輪郭に焦点を合わせる。
五月蝿い 1人にして欲しい
わかってるそんなことは そうやっていつも僕を責めるのか
原因を話して何になる わかってるつもりになるな
形にならない言葉は堂々巡り、胸を締め付け息苦しくなるだけだ。
吐き出す煙草の煙にため息をのせ、いっそ、胸の内を伝えられたらどんなに楽だろう。
そんなありもしない妄想に耽る自分。感傷に浸ること自体に一種の快感を覚える。
「世間でいう堕落とはまさにこのことだと思わないか?」
その煙を面と向かって受け、少しも顔色を変えない彼女。
その長い黒髪は適度に乱れ、絹糸のような艶を帯びていた。
正座をしてこちらをまじまじとこちらを見つめている。
(無駄に姿勢がいいのは相変わらずか、、、)
顔は俯いたまま、一瞥して見て取れる彼女の“姿”。意味のない観察だと肩を落とす。
「ーーーリラ。その態度そのものが、君の嫌いなところなんだ。その自覚が芽生えて、目に見えて変わるま
で、僕は君の望むようにはなれない。」
頑なな彼女がこの後どんな言動をとるのか、察するのは容易い。
彼女はもう、僕の中にしか存在しなかった。
僕だけに見せていた人格は呪いとなって身体を蝕む。
これは僕に組み込まれた周期病の一端。
唯一の脱出口である救いの手はやってこない。そこから抜け出さない限り。
(仮初めでもーーーー)
まずはシャワーを浴びるところから始める。
そして彼は、振り出しに戻るためだけに重い腰を上げた。
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執筆中、ずっと病んでた。