頬に、手に、胸に
激しい雨が通り過ぎて、新しいノートを数冊、買いました。
持って帰って開くと、優しいクリーム色。新しいインクで綴ると、罫線をはみだして、言葉たちが勝手にあっちこっち向いて、困ってしまいました。自分勝手な言葉たちは手間がかかって。けれど彼らと一緒にいると、とても楽しい。きっと言葉たちは、綴ってくれた人のことが好き。青い文字が機嫌良く笑っています。
窓を大きく開けて、空を仰ぎました。冷たい風が入ってきます。
灰色の雲が渦を巻いて。晴れていなくても、空を見上げると心が開きます。灰色の雲は、灰色の思い出だけではなくて、湿り気の多い空気も運んできて、同時に、雨上がりの空に見た優しい虹色の思い出も、虹を見ていたあなたの優しい声も、横顔も、微笑みも、泣き顔も、叫ぶ姿も、喜びも、悲しみも、この胸のときめきも、思い出させてくれて。
風は、まだ強くて、街路樹のクスノキが揺れています。家路を急ぐたくさんの人たち。温もりのある食卓を目指して、ひとりでも、ふたりでも、さんにんでも、あたたかな光の下で食事をする幸せを思う幸せ。
夕暮れの風に吹かれて、頬に、手に、胸に、風を受けて、雲の隙間の、鮮やかな桃色の空に目を奪われる幸せ。
遠くの空を見上げているあなたの幸福を願って、風に吹かれて、優しい夕空に包まれて過ごす幸せ。
今日の日記に『幸せ』と書く、小さな幸福。