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短編小説

頬に、手に、胸に



 激しい雨が通り過ぎて、新しいノートを数冊、買いました。


 持って帰って開くと、優しいクリーム色。新しいインクで綴ると、罫線をはみだして、言葉たちが勝手にあっちこっち向いて、困ってしまいました。自分勝手な言葉たちは手間がかかって。けれど彼らと一緒にいると、とても楽しい。きっと言葉たちは、綴ってくれた人のことが好き。青い文字が機嫌良く笑っています。


 窓を大きく開けて、空を仰ぎました。冷たい風が入ってきます。


 灰色の雲が渦を巻いて。晴れていなくても、空を見上げると心が開きます。灰色の雲は、灰色の思い出だけではなくて、湿り気の多い空気も運んできて、同時に、雨上がりの空に見た優しい虹色の思い出も、虹を見ていたあなたの優しい声も、横顔も、微笑みも、泣き顔も、叫ぶ姿も、喜びも、悲しみも、この胸のときめきも、思い出させてくれて。


 風は、まだ強くて、街路樹のクスノキが揺れています。家路を急ぐたくさんの人たち。温もりのある食卓を目指して、ひとりでも、ふたりでも、さんにんでも、あたたかな光の下で食事をする幸せを思う幸せ。


 夕暮れの風に吹かれて、頬に、手に、胸に、風を受けて、雲の隙間の、鮮やかな桃色の空に目を奪われる幸せ。


 遠くの空を見上げているあなたの幸福を願って、風に吹かれて、優しい夕空に包まれて過ごす幸せ。


 今日の日記に『幸せ』と書く、小さな幸福。







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― 新着の感想 ―
[良い点] とても感受性が豊かでそれを文章で表現出来ているのがすごいと思いました。
2019/06/07 21:27 退会済み
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