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6話 王様はのじゃロリっ子

「よくぞ参った勇者よ! 我が民のため、我と共に魔王と戦ってくれ!」


 王城の入り口に着いた途端、アキさんが謎のポーズを決めながら良い声で謎の発言をする。


「……とお嬢様は開口一番おっしゃると思いますが、冗談ですので真に受けてはいけませんよ?」


 朝から馬車に揺れること数時間。街からは割と離れていたのか、着いた頃にはすっかり日が昇りきっていた。


「実は以前から仰っていたのです。一度こういうセリフを言ってみたいと」

「え、それって私たちに言っても大丈夫なんですか? ネタバレとかそういうのじゃ……」

「問題ありません。お嬢様はそういう事も含めて面白……可愛らしい方ですから」

「はあ……」


 アキさんの発言にいまいち要領を得ないまま、俺たちは王女様の居る部屋へと向かった。


 ◇


「よく来たのじゃ勇者よ! わらわの民のため、わらわと共に魔王と戦ってくれ!」


 小さな身体を大きく動かし指さしポーズをした王様の、たいそう可愛らしい声が城の中に響き渡る。まるでバーン! とかビッシィ! とか効果音が聞こえてきそうだ。


 うわあ、これがデジャビュってやつか……。


「わ、本当におんなじこと言ってる」

「ポーズもバッチリ決まってますね」

「ん? わらわ何か間違えたかの。おい、お主がエマじゃろ? 何とか言うのじゃ」


 王様がまさかの"のじゃロリッ子"で、しかも本当にアキさんの言うとおりにポーズまで決めるなんて。

 色んな意味で衝撃を受けた俺は、口をポカンと開けたまますっかり硬直してしまっていた。


「あ、あれ? エマ? なんで返事をせんのじゃ。あ、ひょっとして真に受けておるな? くくく、残念じゃがこれは冗談じゃぞ……。お、おい? 魔王なんておらんからな? たまにデッカいモンスターが襲ってくることはあるが、それ以外はいたって平和じゃぞ? お、お~~い聞いておるのか~~……?」


 王様が酷く狼狽している。……もしかしてアキさん、これを狙ってわざと事前に教えたな?


「ははーん、なるほどそういうことか。流石アキさん、良い趣味してるね」

「もったいないお言葉にございます。そういうアニス様こそ共感していただけているようで」

「にひひ、慌てる女の子って可愛いもんね」


 いつの間にか意気投合しているアニスさんとアキさん。

 ……この二人だけは絶対敵に回さないようにしようと心から思った瞬間だった。


 ◇


「まったくお主というやつは! おかげでわらわが恥をかいたではないか!」

「申し訳ありませんお嬢様。つい口が滑ってしまって。お詫びにお昼はお嬢様の大好きなオムライスをお作り致しますので」

「む……ならば許そう。わらわは心が広いからな」

「ありがとうございます」


 オムライスという言葉に、ピンクのリボンで結ばれた水色のツインテールが可愛らしく揺れる。

 のじゃロリっ子な王様は、随分ちょろ……寛大な人だった。


「さて……今更じゃが自己紹介をせねばな。あの様子からして、エマはわらわを見たのは初めてかのう?」

「あ、はい。女性の方が現国王だとは知っていたのですが……。まさか私と同い年くらいの方だとは思いもしてませんでした」

「うむ! わらわこそ齢十八にして、このランス共和国の現国王を務めるノエル・マリアンデール・ランスじゃ! 気軽にノエルと呼んでくれて構わんぞ」


 これまたババーンと音が聞こえてきそうなほどに、胸を張って答えるノエル。失礼ながら、その胸はぺたんこだった。


「は、はじめまして、エマです。よろしくお願いしますノエル様」

「アタシはアニスっていいます。エマが不安そうにしてたので付いてきました!」


 ……そういうことは恥ずかしいので出来れば言わないでいてほしかった。


「改めまして、アキです。お嬢様直属のメイドを務めております」

「うむ、これで一通りの紹介は終わったかの。……さて、まずはエマにアニスよ。今日は朝からわざわざ呼びつけたりしてすまんのじゃ」

「あ、いえ。私としてもずっとモヤモヤしながら過ごすよりは、今日お話を聞けた方が良いかなと思ったので」

「アタシもただの付き添いですし、アハハ」

「そう言ってもらえるとわらわとしては助かるのじゃ」


 ノエルは俺たちの言葉をニコニコしながら聞いていたが、やがてその表情が真剣なものに変わる。


「……では、前置きもこれくらいにして、エマも気になっていることであろう本題の魔法について話を始めるとするかの」

「は、はい」

「ふむ……なに、そんなに緊張せんでもよい。じゃが、ここはあえて単刀直入に言うとするかの」


 ノエルはコホン、と可愛らしい咳払いをして言った。


「エマよ。お主の身体が光ったことが魔法と関係あることは、ハッキリ言って間違いない」

「……!」


 ──その言葉に、俺だけでなくアニスさんやアキさんまでもが驚愕していた。

 ノエルはそんな俺たちを見て「まあ落ち着くのじゃ」となだめるように言う。


「話はこっからじゃ。そうじゃな……。エマ、お主はこの世界についてどの程度知っておる?」

「え……世界について、とは?」

「なに、簡単なことで構わん。この国の事でもなんでもよい、お主が知っていることを話してみよ」


 いきなり話が変わって少しとまどったが、ひとまず俺は頷き、頭に浮かんだことを話し始める。


 この国、すなわちランス共和国は、俺の住んでいた家の周りだけでなく、国全体が、川や湖があったり大きな草原が広がっていたりと非常に自然豊かである印象をたびたび受ける。

 それだけでなく、街中は大勢の人に溢れその活気も凄く、暮らしていて楽しい素晴らしい国だと思っている。つくづく俺は自分がこの世界に転生されたことに感動を覚えていた。


 ノエルはそれを聞いて嬉しそうに頷く。


「実際に国民からそういった事を聞けるのは嬉しいのう。……確かにエマの言ったとおり、この国は自然豊かじゃ。じゃが、その理由は風土によるものだけではない。分かるかの?」

「はい、それはこの国というか、この世界が平和そのものだからですよね」


 そう、俺はこの異世界に来てから、一度も"戦争"というものを見たことがない。

 それはこの世界には魔王なんていう悪の親玉が存在していないから、ということだけでなく、国同士での大規模な争いですら見たことがない、という事もだ。

 だからこそ、この国はこれほどまでに綺麗な国土を保っているのだろう。


「その通りじゃ。今のわらわの代どころか、もっと先代からこの平和は続いていると聞いておる。無論平和な世界など、いきなりポッと現れるわけではない。かつてはそれこそ魔王のような存在が居て、滅亡の危機に瀕したこともあるらしい」


 ん……?

 俺はその話を聞いてどこかひっかかりを覚えた。かつては滅亡の危機にすらあったこの世界が、今ではすっかり平和なものとなった。


 じゃあ、いつ誰がどうやって、この世界を平和にした──?


「あ! も、もしかして……」

「既に知っておったか。お主が想像している通り、この世界を平和に導いたのは……」

「本に書かれた、かつての魔法使い……」

「そうじゃ」


 思わず俺はアニスさんと顔を見合わせる。

 確かにあの本には「魔法使いがその力を使い平和をもたらした」と書かれていた。ノエルが嘘をついているとは思えない。

 つまり、あの本に書かれていたことは全て本当の事だという事になる。

 

 そしてそれは、同時に俺が身体が輝く存在……すなわち魔法使いであることを意味しているわけで……。


 "魔法使いは、力を使う際にその全身が光り輝くことから、その姿はまるで太陽のようであったと言われている"────。


 ◇


「お主らが読んだ本は恐らく随分と薄いものじゃろ。あれは魔法使いの功績を語り継いでいくために、一般の民にも読みやすいよう書かれたものなのじゃ。そのせいか今じゃおとぎ話のような扱いを受けておるそうじゃがな」

「……はい。アタシもまさか、あの本がそんな凄いものだったなんて思いませんでした」


 アニスさんはノエルの話を少し申し訳なさげに聞いていたが、ノエルはさほど気にした様子ではなかった。


「まあ時代の流れというものはそんなものよ。さてエマよ、これで先ほどわらわが間違いないと言った理由が分かったかの?」

「はい……。あ、いえ、あの……」


 一方で、俺は未だに動揺を隠せないでいた。

 俺が、魔法使い……。


「……ふむ。まあすぐに納得するのは難しいじゃろうな。どれ、やはりわらわが見本を見せてみるかの」


 その言葉に、先ほどと同様、俺たち3人が同じタイミングで驚く。

 

 気付けばノエルは既に立ち上がり、彼女の指にはめてある新緑色の指輪が見えるよう手を前に伸ばしていた。

 そしてその指輪に向かって彼女が叫ぶ。


「発現せよ、精剣クリーピングタイム!」


 彼女の声が部屋に響いたと同時に、なんとその指輪が輝きだした。あふれ出る光は瞬く間にその姿を変え、レイピアに似た一本の細い剣となる。

 

 その光景に圧倒された俺とアニスさんは、ただ黙ってその剣を見つめる。


「実際に使ってみるのは今日が初めてだったんじゃが……随分カッコいいのう! もっとはようから試してみるべきじゃったな」

「あの、お嬢様……。その剣はいったい」

「そうか! アキにもこの剣、いや指輪については何も言ってなかったのう。驚かしてすまんのじゃ」

「いえ、それもそうなのですが……。これは魔法なのですか?」

「正確には魔法ではないらしいがの。……しまった、コレを見せる前に魔法についてもう少し詳しく話すべきじゃった。おいお主ら、大丈夫か?」


 声をかけられ、我に返る俺とアニスさん。


「……すまんな、少し話を急ぎすぎたようじゃ。今度はちゃんとゆっくり説明するからよーく聞くのじゃぞ」

「は、はい」


 いったん深呼吸して心を落ち着けてから、俺は説明を請う。その声はなおも震えていた。


「お、お願いします」

「うむ。では始めるぞ。よいか、そもそも魔法というのは、この世界に無数存在する、"精霊"の力をもって発現すると言われておる。そしてその力が発現する際に、精霊は光を発する。かつての魔法使いやエマの身体が光って見えたのはそのせいじゃろう」


 実際に身体が発光していたわけではないようだ。何故か俺は少しホッとする。


「さらに精霊は、選ばれた者にしかその力を与えない。じゃから魔法使いの存在も非常に稀有なものなんだそうじゃ。しかしその一方で、今わらわが見せたように精霊の力が込められた宝具を使う事によって、間接的にじゃが魔法を発現させることもできる。それが我がランス家に伝わる、精剣クリーピングタイムじゃ」


「精霊……。それに、精剣クリーピングタイム……」


 ノエルは再び指輪の形になったクリーピングタイムを手渡してくる。

 受け取った俺のその手は震えていた。


「はめてみるのじゃ。お主なら容易に発現させられるじゃろう」

「私が、これを……?」

「そう心配そうな顔をするでない。……わらわはな、お主の身体が光ったと聞いたとき、真っ先に魔法の事が思い浮かんだ。だからお主とすぐにでも話がしたかったのじゃ。じゃが、それはわらわが王だからでも、宝具の持ち主だからでもない。お主に安心してもらいたかったからなんじゃ」

「安心、ですか……?」


 その言葉と共に、指輪を持つ俺の手をギュッと握るノエル。


「そうじゃ。急に身体が光っただの、魔法だのと言われて不安になるのは、何もお主に限った話ではない。そこに居るアニスだったとしてもそれは同じことじゃろう」

「は、はい! そう、かもです。だからアタシも、出来るだけエマが不安にならないようにって……!」

「うむ。アニスは本当に心優しい良き友人なのじゃな」

「え、えへへ……。ノエル様に褒められちゃった」

「ノエル様、アニスさん……」


 そうだ、俺の心は、身体が光り輝いたあの瞬間から、掴みどころのない不安に浸食されていた。

 今日魔法の話を聞いて、その不安が表に出てきてしまった。だから俺は今こんなにも震えているんだ。


「お主は、かつての魔法使いの偉業のことを考えて、より不安に感じたのじゃろう。"自分がそんな力を手に入れてしまったとしたら、これからいったいどうなってしまうのか。ひょっとして自分にも同じような使命があるのだろうか"、とな。……わらわは、お主が抱えるであろうそんな不安を取り除いてやりたかった」


 ノエルの声は優しげで、聞いていて安心感を覚えるもので。

 彼女が18歳という若さで国王に就任している理由が分かった気がした。


「エマ。わらわはな、精霊というのはこの世界そのものの"宝"じゃと思っておる。これが何を意味するか、分かるかの?」


 精霊が世界の宝と言うのなら、その精霊の力を発現させた俺はというと……。

 ノエルはニヤッと嬉しそうに笑い、言った。


「もしどんな事が起こっても、わらわが命を賭けてお主を守ってやるから安心せい! ということじゃ!」


 彼女がさらに強く俺の手を握った、その瞬間。

 クリーピングタイムが、先ほど以上の発光を見せた。


 その光は、俺の心に漂う不安を全てかき消すように、しばらくの間煌々と輝き続けた────。


 ◇


「今日は本当にありがとうざいました! なんとお礼を言ったらいいか……」

「お礼を言いたいのはわらわのほうじゃ。よく勇気をもってわらわの元に来てくれた。そんなお主じゃから精霊はその加護を与えたんじゃろうな」

「いえ、私にはそんな……。私が今こうして晴れ晴れとした気分でいられるのは、ここにいる皆さんのおかげです。ノエル様、アキさん、そしてアニスさん……。皆さん、本当にありがとうございます!」


「む、なるほどのう……。アニスがエマをあれだけ可愛がる理由が分かったわい」

「ですよねですよね!? この子ったらホントにもう純粋で可愛くて!」

「私も先ほどから感動で涙がとまりません」


 俺の言葉に三者三様の反応を示す。そんなに変なセリフだっただろうか?素直な気持ちを言っただけなんだが……。

 あとアキさんはなんでそこまで泣いてるんだ。もらい泣きしそうになっちゃうじゃないか。


「あはは……。そ、そういえばノエル様、魔法の事は……」

「そうじゃ、それを言うのを忘れておった。ひとまずは内密にしておいたほうが良さそうじゃな。それと、すまんがこの件はわらわに預からせてもらえんかのう。何か良からぬ事が起こるというわけでもないんじゃろうが、一応な」


 ノエルはこの国の王様だ。立場の強い彼女に任せた方が何かあった時に俺としても安心できる。


「はい、それはもちろん。私も出来る限り、力を発現させないようにしますね」


 なんでも魔法は、というか精霊の力が発現するきっかけとなるのは、一説によれば使用者の感情によるらしい。ナンパに襲われたあの時身体が光ったのも、おそらく感情が高ぶりすぎたせいなのだろう。


「うむ。そうしてももらえると助かるのじゃ。あ、それとじゃな……」


 ノエルはそこで言葉を切ると、ツインテールを揺らし俺のそばに近寄り──。


「わらわはな、お主がたいそう気に入った! 今後はアニスだけでなく、わらわも頼ってくれて構わんぞ!」


 まるで花が咲いたような笑顔を向けてくる。そのあまりの可愛らしさに俺はついドキドキしてしまった。


「は、はい! 私も、ノエル様に会えて良かったです! 今後ともどうかよろしくお願いします!」

「うむ! こちらこそなのじゃ!」


 ……こうして俺が巻き起こした魔法騒動は一旦解決し、今日を通してこの世界の事をより知る事が出来た。

 おかげで気分良く帰れるぞ、今日はグッスリ寝られそうだなどと呑気なことを考えていた俺の横では。


「む~。エマってひょっとして女の子たらしなんじゃ……。でもこんな素直で可愛い女の子はみんな好きになって当たり前な気も、いやでも……。う~!」

「あ、あの、アニスさん? なんででずっと私の方を見ながら唸ってるんですか……? なんかちょっと怖いんですが……」

「なんでもな~い~!」


 何か気を損ねるようなことをしてしまったのだろうか?

 アニスさんのように心が読めるわけでもない俺は彼女に気を取られ、先ほどまで考えていたことなどすっかり頭から飛んでしまっていた。


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