お父さん頑張ります!
お父さんが頑張る話。
今回は・・・まあ、あらすじ通りです。
では、そうぞ(  ̄ー ̄)ノ
「あらら、遂に出ていったか・・・」
仕事から家に帰るとまだ5才の娘の藍那が出迎えてくれたが、その手には『離婚届』と書かれた紙と書き置きらしきものが握られていたのをみて俺はそう呟いた。
もちろん、これは娘との離婚届ではない。
俺には同い年の妻の真理子がいたが、彼女は浮気性で外で俺以外の男を取っ替えひっかえしていたようだったので、いつかはこんな日が来るんじゃないかと思ってはいたが・・・
「藍那。ごめんな。」
俺は思わず藍那の頭を撫でる。
正直なところ、真理子に関しては半分どうでもよかった。
そもそも、付き合ってた頃から何度も浮気されていて、その度に「別れようか」と告げればとたんにすがりついてくる始末。
そんなことを何度も繰り返して気がつけば真理子にゴリ押しで結婚させられ、子供が出来てしまった。
藍那も最初は俺の子供なのか疑ったが・・・うん。間違いなく俺の子供だと思えた。
検査もしたら確実ではあるが、何より藍那の顔立ちは幼い頃の妹にそっくりで俺の家系の遺伝子を間違いなく持っていた。
だからこそ、俺は藍那を可愛いと思い大事に育ててきた。
おっぱい以外のことは大抵は俺がやったくらいだ。
真理子は・・・なんていうかおっぱいはあげてたけど、藍那が夜泣きするともの凄い迷惑そうな顔で布団を被り直すので、早々に当てにするのはやめた。
でも、やっぱり母親には違いないから出ていって寂しいだろうと思い俺は藍那にそう謝ったのだが・・・
「だいじょうぶだよ!だって、あのひといなくてもなんにもこまらないよね?わたしね。おとうさんがいっしょならへいきだよ。」
強がってると本来なら思うような台詞。
でも、考えてみたら確かに真理子いなくても別に何の問題もないわ。
だって、家事全般は俺がすべて引き受けているし、藍那の保育園の催しものやお迎えも全部俺だし、町内会の集まりも俺しか出ないし、仕事も俺は働いてるけど、真理子はほとんどニートみたいな生活しかしてなかったし・・・あれ?よくよく考えると負担が減ったのか?
真理子がやっていたことと言えば男漁りか、友達と遊ぶか俺に甘えようとするかで、ほんとに何にもやってなかったよな?
「そ、そうか・・なあ、藍那。お父さんと一緒にお祖母ちゃんの家に引っ越しても大丈夫か?」
「うん!おばあちゃんだいすき!それにおとうさんといっしょならどこへでもいけるよ!」
「そうか・・・じゃあ、引っ越そうか。」
藍那の祖母で俺の母親は、真理子の素行の悪さを気にしていてずっと別れた方がいいと言ってくれていたので、離婚したと話した時には大変喜ばれた。
藍那とともに実家に戻ってもいいかと尋ねれば、「いいわよ~」とあっさり了承してくれた。
まあ、母親は孫の藍那のこと大好きだからな。
一応、時期が時期だったので、藍那の保育園卒園をしてから引っ越すことになった。
実家に戻ってからの生活は途端に楽になった。
料理は俺の方が出きる・・・というか、昔から俺が作っていたので、母親も藍那も俺の飯がいいと言って聞かないので俺が毎食作っている。
娘いわく、「おとうさんのりょうりはせかいいちだよ!」で、母親いわく、「修一の料理がいいの~」らしい。
母親は別に料理が出来ないわけじゃないが・・・なんていうか、7割の確率で何らかの失敗をおこして料理が不味くなったりする。
具体的には、塩と砂糖を間違えたり、醤油とコーラを間違えたり、一匙のはずが、袋ひとつ使ったり・・・母親の天然さ加減が二次元の領域の出来事を起こすのはもはや数えるときりがない。
その他の家事は、分担で時々藍那も手伝ってくれる。
うちの娘マジでお利口さん。
小学生になった藍那の行事には俺と母親がよく参列した。
ただ、意外と容姿が若いというか童顔な母親は今年50歳になるはずなのに、今年で30歳になる俺と並んで夫婦に見えるくらいに若いらしく、最近行事で学校に行って初対面の人に「親子」ですと答えた時にはだいたい同じような驚愕の表情がもらえる。
まあ、俺が童顔気味なのもその要因の一部なんだけど・・・
あと、あまり吹聴してなかったはずなのに我が家の事情が回りの人に知られてたのには驚いたな・・・
藍那がそれで虐められてないか心配だったけど、むしろクラスの中心的な存在になってるらしく、藍那の友達の子供に会うと「あの藍那ちゃんのお父さんなんですか!凄いです!」と何故か尊敬された。
娘よ・・・お前は何をやったんだ・・・
あと、親切な他の保護者の人が気にかけてくれたり、俺と同じようにシングルマザーの保護者の人にも「今度一緒に飲みましょうか」と気を使ってもらったりしたので、意外にも実家での生活は順調だった。
ただ、そういう話を家ですると、娘からは「お父さん!騙されちゃダメだよ!」と強く否定されて、母親からは「あら~。うちの息子はモテモテね。」と引っ掛かる言い方をされた。
みんな恐らく純粋な好意から言ってくれてるのに・・・
藍那が中学生になってから、実家の隣の空き家に新しく引っ越してきた人達ががいた。
柳澤さん親子だ。
柳澤さんは、藍那と同じ中学生の娘が一人と小学生の娘が一人いるシングルマザーらしく、俺と同じバツイチだ。
柳澤さんの家の中学生の娘の桜ちゃんは藍那の部活の先輩にあたるらしく、よく家にも遊びにきた。
その際に頻繁に桜ちゃんの妹の花梨ちゃんも一緒に遊びにきてくれて、二人は俺と母親によくなついてくれた。
そんなある日のことだった、いつものように遊びにきた二人と一緒に母親の棗さんが訪ねてきたのは。
「いつも娘がすみません・・・」
そう言って申し訳なさそうにこちらをみていた棗さんに俺は笑顔で気にしないで欲しいと答えた。
それから、何度か棗さんは我が家を訪れて、いつの間にか夕飯を一緒にとるようになった。
棗さんも、ヒモだった夫に浮気されていて出ていかれたらしく、似たような境遇の俺と棗さんは自然と仲良くなった。
棗さんの娘の桜ちゃんと花梨ちゃんもこの頃、「おじさんがお父さんだったらいいなー」と言ってくれるくらいなついてくれた。
藍那は最初は棗さんを快く思ってなかったようだが、ここ最近は、「お父さん!私、棗さんみたいなお母さんが欲しい!」と言ってくれるほど棗さんにもなついてくれたり、母親も「新しい娘が出来たみたい~」と言って嬉しそうだ。
棗さんはバツイチだが、俺より5才年下で若くして結婚して子供を作ったらしく、とても2人の子供がいるとは思えないほどに若々しい。
何より、容姿も整っており、全体的に母親に近いタイプのおっとり美人な棗さんに俺は惹かれていった。
とはいえ、俺なんかと棗さんが釣り合うかはわからないので、俺はその気持ちを密かに隠していた。
そんな俺と棗さんの関係に変化が起きたのは、気持ちに気づいてから暫くしてのこと。
会社からの帰宅途中だった俺は家の前に棗さんがいるのを発見して声をかけようとしてから、目の前に男が立っているのをみて足を止めた。
二人の間にはなにやら険悪な雰囲気が出ていて、いつもはおっとりしている優しい棗さんが怒りを顕にしてその男を睨み付けていた。
男は棗さんに怒鳴ってからかっとなったのか思いっきり手を振り上げて棗さんを殴ろうと・・・
「なっ!」
「えっ・・・修一さん?」
したところを俺が間に入り拳を受け止めた。
「ほい・・・よっと。」
「ぐっ・・・!」
俺はそのまま合気道の要領で相手を地面に叩きつけて、手を捻りあげた。
男はそれに苦悶の表情を浮かべていたが、俺はそれには構わずに男に冷ややかな視線を向けた。
「何だかわからないけど、女性に乱暴しようとするのは許せないよな。」
「しゅ、修一さんどうして・・・」
「あ、棗さん。大丈夫でしたか?」
俺は笑顔で棗さんに聞くと棗さんは戸惑いながらも「ええ・・・ありがとうございます。」と答えた。
俺はそれによかったと胸を撫で下ろすと、男は俺の下で怒鳴りだした。
「なんだよテメェは!夫婦の会話に邪魔すんじゃねぇよ!」
夫婦?
俺は棗さんに顔をむけると気まずそうに「元夫です・・・」と答えた。
元夫ってことはこいつが例の・・・
「棗さんの言ってたヒモ男か。てか、離婚したんでしょ?なんでまた棗さんの前に姿を出したわけ?」
「テメェには関係ないだろ!」
「棗さん。まさかとは思いますが、復縁を望まれたりしましたか?もしくはお金を出せとか?」
棗さんはその質問に驚いた表情を浮かべたあとに小さく頷いた。
「さっき、家に帰ってきたら玄関にその人がいて・・・復縁しようって・・・拒否したら、ならお金だけでも出せと、さもないと娘が酷いめに合うぞと脅されて・・・」
「なるほど。ちなみに棗さんは復縁したいわけ?こんなダメ男と?」
「それは・・・」
男のことを気にしているのか視線は俺と男の間を行ったりきたりする。
そんな棗さんに俺は優しく言った。
「大丈夫ですよ。何があっても守ります。だから、正直に答えてください。」
「修一さん・・・私は・・・」
棗さんはそこで毅然とした態度で言った。
「私は復縁したくありません。二度と会いたくない。やっと手にいれた子供との幸せを奪わないで!」
「なっ・・・棗!テメェ!・・・が!」
ハッキリと意思を示してくれた棗さんに笑顔を向けた後に俺は男の手を捻りあげて冷ややかに言った。
「答えは出ただろ?なら諦めろ。」
「ふざけんなよ・・・!誰が・・・!」
「ふーん。そうか。なら、棗さん。やっぱり“あれ”使った方がいいですよ?」
「そうですね。」
不思議そうにこちらをみていた男に俺は言った。
「棗さんはな。お前に従っていた間に色々証拠を集めていたらしいんだ。例えば子供への虐待の映像とか、妻へのDVの様子。あとは・・・愛人との逢瀬の様子とかな。」
「なっ・・・・!出鱈目だ!」
「実はな、さっきまでの様子も記録してあるんだわ。最近の小型のカメラは便利でなー。それで・・・どうしますか?棗さん?」
真っ青になってる男から視線をはずして棗さんをみると彼女は少し迷ってからしっかりと男をみた。
「今後、私たちにもし近づいたら今度は容赦しません。すべて警察や弁護士に相談します。」
「棗さんは優しいね。て、ことだから今後棗さんたちには近づくなよ?あと、棗さんや娘になんらかの危害があったら俺が変わりにすべてを告発するからそのつもりで。データの複製はいくつもあるしね。まあ、その前に危害を加えたら・・・」
「ひっ・・・・!」
俺は男の手を離して胸ぐらを掴むと、眼光を鋭くして睨み付けた。
「今度は殺すから。」
その一言で男は脇目もふらずに逃げ出した。
情けないやつめ。
「修一さん助けていただいてありがとうございます。でも、どうして・・・」
男が去った後に棗さんは不思議そう訊ねてきた。
理由か・・・
「棗さんが困ってそうだったから、助けたかったんです。」
「そう・・・ですか。ありがとうございます。」
少し残念そうな表情の棗さん。
俺は、久しぶりに体を動かしたせいなのかわからないが、この日はどうやら冷静ではいられなかったらしい。
だからこそ・・・
「本当は、棗さんだから助けたかったんですけどね。」
「えっ・・・・?」
言わずにいるつもりであったことを言ってしまった。
俺は真っ直ぐに棗さんの目をみて言った。
「俺、棗さんのことが好きなんですよ。」
その一言に棗さんは呆然とした後に徐々に顔を赤くした。
「えっ、えっ、な、い、今なんて・・・?」
「棗さんのことが好きなんです。その・・・異性として。」
「どうして・・・」
「最初は、俺と似たような境遇のあなたに興味が出て、仲良くなってからは棗さんとの時間が心地よくて、いつも笑顔なあなたに可愛いと思ってからは、あなたの一人で頑張る姿に一緒に歩みたいと思ったからです。もちろん、棗さんが嫌なら拒否してください。でも、俺はあなたと夫婦に・・・いえ、あなただけではなく、桜ちゃんや花梨ちゃんとも家族になりたい。俺はあなたの大切な家族にも愛情がわいてしまったのです。だから・・・」
俺はいまだに呆然とする棗さんの手を取って言った。
「柳澤棗さん。俺と結婚してください。」
その一言に棗さんはしばらくしたあとに涙を流した。
「うれしい・・・修一さんも私と同じ気持ちだったなんて・・・夢みたい・・・」
「棗さん・・・じゃあ。」
「はい。」
棗さんは涙を拭ってから笑顔を浮かべて言った。
「修一さん。私をあなたのお嫁さんにしてください。私もあなたが・・・出会った頃から大好きです。」
「棗さん・・・」
「修一さん・・・」
俺と棗さんは互いに抱き合って、そっと・・・唇をあわせた・・・。
しばらくして、互いに気恥ずかしく思いながらも、俺と棗さんは娘と母親に報告することにした。
棗さんの娘の桜ちゃんは「お母さん良かったね!私もおじさんがお父さんになってくれてうれしい!」と言ってくれて、花梨ちゃんは「おじさんがお父さんなの?やったー!」とはしゃいでいて、俺の娘の藍那は「ようやく棗さんをお母さんって呼べるよ!お父さんのことお願いします!」と言って元気に言ってくれて、母親には「あらあら!修一ったらようやくね~。棗ちゃんが娘になって、桜ちゃんと花梨ちゃんが孫になるなんて素敵ね!」と言って興奮していた。
みんなからは盛大に祝われて俺と棗さんは気恥ずかしくも嬉しかった。
新しく、娘になる桜ちゃんも花梨ちゃんも俺のことを早速「お父さん」と呼んでくれて、可愛い娘に早くも俺は陥落した。
棗さんも、藍那のことを可愛がってくれていたので、「お母さん」と呼ばれて嬉しそうだった。
藍那と桜ちゃんと花梨ちゃんが姉妹になるのも、嬉しく、みんなで「お姉ちゃんだー」とか「可愛い妹!」と言ってはしゃいでいたので問題ないだろう。
母親に関しては、孫達を前よりも可愛がって、新しく義理の娘になる棗さんも可愛いと言って大切にしてくれた。
棗さんも、母親との仲は良く、最近では二人で出掛けることもあるようだ。
しばらくして、棗さんは俺と本格的に籍を入れて、家も我が家に引っ越した。
最初は俺が隣にと思ったけど、母親が「寂しいわ~」と言って聞かないのでしばらくは実家で暮らすことになった。
棗さんは嫌がるかなと思ったけど、母親のことも好きらしく、快くOKしてくれた。
棗さんは仕事をやめて、専業主婦として家にいて家事や子供たちの面倒を母親と一緒にみてくれた。
俺ももちろん、時間のあるときは手伝ったり、料理は交代で棗さんと作ったりしている。
お昼は棗さんの手作り弁当の機会が増えて、同僚には「可愛い嫁の手作り」とのろけている。
しばらくして、棗さんが俺の子供を妊娠したと聞いた時には舞い上がるほどに嬉しかった。
みんなで新しく家族の誕生を心待ちにして、そして、産まれたのは女の子と男の子の双子の赤ちゃん。
先に産まれたお姉ちゃんの女の子は百合と名付けて、弟の男の子は一樹と名付けた。
我が家の住人は二人の末っ子を大層可愛がって、やがて、桜ちゃんが高校を卒業して就職したり、藍那が好きな男を連れてきたり(何を吹き込まれたのかその男は俺を尊敬の眼差しでみて義父として慕ってきた)、花梨ちゃんがバスケの才能を開花させてスポーツ推薦で都市部の学校へ行ったり、大きくなった双子が偉いイケメンと美少女になってモテまくったりして、さらに新しく子供ができたりしても、俺と棗さんは新婚夫婦のように仲良く暮らせた。
途中で、まあ元妻の真理子が訪ねてきて一波乱あったりはしたけど・・・それはスルーで。
やがて、結婚した子供たちが孫を連れてきたり、娘夫婦や息子夫婦、孫にやたらと俺と棗さんは好かれたりして少し大変な時もあったが・・・幸せな人生だった。
お読みいただきありがとうございます。
今回はお父さんが頑張る!な話でした。
実際に頑張ってたか?まあ、男で一つで娘を育てましたから(途中から母親と棗さんも入ったけど)
藍那はかなりのファザコンですが、後にマザコンにもなります。
桜ちゃんと花梨ちゃんは、マザコンからのファザコンありです。
実は主人公さん以外とイケメンさんなのですよ(;゜∀゜)鈍感なので気づいてはいませんが・・・
棗さんも割りと初期から主人公に好意を持ってたり・・・
そのあたりは別で書ければ書きたいかな?
ではではm(__)m