第六十一話 元勇者は、残酷な真実を突きつける件について(仮)
――熱く無くなったってのは、明らかにフラグってるよな。
これで、なんだよ熱くないじゃんかー。
みたいなテンションで相手に近づくと、痛い目に合うってやつだ。
とはいえ、あれが全力の状態なら、さっき言っていた国ごと燃やし尽くしてしまうって言う言葉はどうなるんだ?
もしかして、ウソだったとか?
「この状態の俺は、身体が太陽となる」
「それにしては、さっきに比べて、随分と大人しくなったじゃねえか」
「ふん。姿に惑わされるやつほど、愚かなやつはいないな」
――さっきまで発光していたやつがよく言うよ。
まあ、あれも惑わすための一貫だったとするなら、立派なもので。
「じゃあ、来いよ。お前の太陽ってのを見せてみろよ」
「言われなくとも!」
ネリが俺に向けて手をかざす。
「黄金の罪!!」
彼の手からは、マグマにも似た火が俺に向かって襲ってくる。
それが彼の手から放たれた瞬間、空気中の水が蒸発するような音がした。
「お前は俺を怒らせた。正々堂々と戦いに望まず。策を弄した。それは罪だ!」
「策を弄したのはお前だろうが」
それに、正々堂々とは戦っている。
――特別な力を持っているやつは、いつもこうやって視点がずれる傾向になるよな。
それに、勇者みたいなやつは、なまじ大変な目にあったりしながら、生き残っているから、変なプライドがあったり、自分は神から認められているとか思ったりするから嫌なんだよな。
烈火の焔が俺に襲ってくる。
ここで、流気法を使って、それを交わしたいところなわけだけど、ネリのやつも同様の力を持っているってことは、相殺される可能性があるな。
となると、力で敵の攻撃を制することがベストなわけだけど。
――面倒だ。
ということで、俺は相手の攻撃を避けた。
しかし、もちろんその攻撃は追撃が来る。追撃機能があることは、さっきの戦いで織り込み済みだ。
「罪は清算しないと、消えない!!」
「なら、お前の罪も清算しないとな!」
俺はネリに向かっていく。このまま、あの焔をできればネリにそのままぶつけてやりたい。
――ちょっと弄ればできるかもな。
「飛んで火に居る夏の虫だな」
とネリは俺を見てうれしそうに言う。
そして、今度は両手を俺に向けてきた。
「黄金城の大砲!!」
ネリの両手から、黄金に輝く砲台が出現する。
「これは、三大神撃の一つ! 神の天撃と同等かそれ以上の攻撃力のある攻撃だ! お前には防げない。攻撃の有効範囲も百八十度。逃げ場もないぞ!!」
なんか聞いたことがある攻撃名だな。
まあ、別にどんな攻撃だったとかは、大事ではないしいいか。
「くらええええええええええええええええ!!」
と言い、ネリの両手から間抜けに出ている黄金の砲台から黄金に輝く砲撃が彼の言葉通りに放たれる。
――確かに直撃コースではあるな。
だけど、それは俺が馬鹿みたいに直進すればの話しだろ?
俺は転移魔法を発動する。
「無駄だ!!」
ネリの言葉が俺に届く。
「お前の魔法陣は、燃え上がり消滅する!」
ネリの言葉通り、転移魔法陣は、発動と同時に燃え上がった。
――なるほどね。
これは一本取られた。
――とか言うかボケ。
俺は、再度魔法陣を発動させる。
今度の魔法陣は燃え上がることはないため、俺はそのままその場から転移して、ネリの背後を取った。
ネリはまだ俺の存在に気が付いていない。
まあ、正々堂々とか言われたから、気が付くまで見ておこう。
しばらくして、砲撃が止んだ。
「はは!」
と第一声。
「軽く消し飛んだか! 馬鹿なやつだ! 俺を怒らせなかったら、こんなことにならなかったのにな!」
「本当だよ。お前がこんな姿にならなかったら、俺はもうちょっとマシなやつだとお前を思うことができたのにさ」
ネリは首が取れるんじゃないかと思うほどの速さで、後ろを振り返り、俺をその驚きの瞳で捉えた。
「な、なに!?」
「転移魔法陣は燃えたはずでは? ってか?」
肩をすくめる。すくめざるを無い。
「お前は俺がお前の攻撃の前で余裕な顔をしている時点で、いや、汗一つかいていない時点で気が付くべきだったんだよ。俺がお前の熱の影響を受けないように周りの気温を調整しているってことに」
ネリの力で最も強力で、特質すべきところは、その温度だ。彼の攻撃を前にするだけで、その熱に当てられ、普通の生物ならば燃え上がってしまう。
その証拠に、結界の中は火の海となっている。
水分をも、酸素をも燃やすその力は対面するだけで相手を殺す力がある。
「つまり、魔法陣を発動する場所だけ調整すれば、魔法は使えるし、術式をちゃんと操作すれば、魔術も行使できるってわけ」
「そ、そんなことが……」
「できるから前に居る」
俺の言葉に、ネリは信じられないという顔をする。力を行使している人間にはわからない利点が、あの鎧の姿にはあるわけだ。
――力を全力で出したことがほとんどないからこその、ミスだな。
なら、本当に目に見える結果を見せてやろう。
「後ろを振り返ってみろよ」
「その手にはのらないぞ!」
「安心しろ。攻撃なんてしない。なんなら俺がそっちに行ってもいいぞ?」
と言って、俺は先ほどの位置に転移した。
ネリは、振り返り俺を視界に収める。
「なにが狙いだ」
「馬鹿だなー。まったく。ちゃんと見てみろよ。結界の中の土地はお前の攻撃でこの通り荒地だ。荒地って言うか死地だな」
「当たり前だ。俺の攻撃はすべてを燃やし尽くす。今頃、先ほどの砲撃が……」
と、ネリが言葉を詰まらせた。
――やっと理解したか。
確かに、俺が今立っている場所には生物が生まれることすらできないだろう。だが、俺の後方百メートルほどを過ぎると、途端に様相が変わる。
綺麗に青々と茂った草草がある。
つまり、結界から外はまるで無事だというわけだ。
それは、ネリの渾身の攻撃が、俺が適当に作った結界に負けたということを示している。
「ありえない……」
絶句。とまではまだ行かないらしい。
「あり得たからこその、この状況だろう? 理解しろよ。皇帝様」
「ふ、ふざけるな!」
弱者らしくネリは声を荒げた。
「お前は偶々守りという意味で強力な力を持っているだけだ。守りの力があるだけでは、俺のことは倒せないぞ!」
――おお、なんてすばらしい方向の転換だ。
よっぽど、認められないらしいな。
「つまり、俺には、攻撃力はないって云いたいわけだ?」
「あるわけがない! お前からは威圧感もなにも感じないからな!」
「ふーん」
じゃあ。やったりますか。
俺は足をちょいと踏み込む。
一瞬で、ネリの前に到着すると、そのままの勢いを使い、顔面に拳をめり込ませてやった。
ネリは反応することもできなく、鼻血を噴出しながら、結界の端は飛ばされ、結界にぶつかって地面に落下する。
なにが起きたのかわからない。という顔をしながら、ネリは膝を付きながら、こちらを見る。
「確かに、お前の力は強大だな。高火力という意味ではだけどな」
微笑を向けて、見下ろす。
「すべての力を攻撃に注いでいるわけだ。だから俺の速さにも付いてこれない。今の見えなかっただろう? だけど、あの速さは最初にお前とであったときと同じ速さだ。つまり、今のお前はただの鈍重な的だってわけだ」
「う、ウソをつけ……!」
「そりゃ、今まで対峙してきた連中は、お前の攻撃から来る熱気にやられ、お前と、いやお前よりも身体が鈍くなっていただろうからな。今まで分からなかったんだろうけど、真実って言うのは案外残酷なものなんだぜ」
俺はネリに向かって歩いていく。
「ってことで、俺の拳を受けてみてどうだ? 俺の攻撃は効かなかったか? ちなみに、今のパンチは、半分くらいの力だ」
――リミット10でのな。
「お前は俺から圧力がないって言ってたな。そりゃないだろうさ。だって――」
前に立つと、ネリの瞳は小刻みに揺れる。
「圧倒的な力の差があるわけだからさ」




