第七話 元勇者は深読みをする件について(仮)
「いや、それは……」
「本当です! 彼は常々私に聖騎士なんてくそくらえだ。やってらんねえ。てやんでえ! 必ずあいつらに恥をかかせてやる! と言っていました。そのための協力者も見つけたとも言っていました」
――このくそ魔王!
俺がいつもくそくらえだと言っている相手は聖騎士ではなく。お前だ!! この世から永遠に抹殺してくれようか。今の俺ならできる気がする。ってか、てやんでえってなんだよ!
「協力者?」
「はい。おそらくその家紋を作った人だと思います」
オールバック聖騎士は手に持っている木彫りの家紋を見る。
ここでシャルはこの聖騎士どもに、俺が最近魔物を刈っている聖騎士に所属していない人物と裏で繋がりがあると思わせたいわけだ。
こいつ、どうしても俺を勇者の道に引きずりこみたいらしい。
「ほう?」
オールバック聖騎士は剣を柄から抜き。俺の首元にスッと当てる。
「一緒に王都に来てもらおうか」
俺は思った。これは命の恩人に対する今世紀始まって以来の最大の恩知らずだと。
「ちょっと落ち着いてくださいよ。ね? このくそったれビッチ野郎が言っている言葉が本当かどうかなんてわからないじゃないですか?」
「いや、彼女の正しさは証明されている」
「は?」
「なぜなら、彼女は美しいからだ!」
――はあ?!
こいつ何言ってんの? あほなの? 聖騎士って書いてあほって読むの?
「っと、ではなく。あれだ。この家紋が君の証言と違っていたからだ」
――もう遅せえよ!! お前には見えないかもしれないけど、後ろのお前の部下の二人も若干引いているよ!
「いやいや、それはちょっとした勘違いですよ。ほら、俺馬鹿だからさ」
「ええい。往生際が悪い。いいから。来るか。来ないのかどっちだ? まあ後者を選択した場合、貴様の首はもれなく飛ぶがな」
オールバック聖騎士は嫌らしい笑みを俺に向けてくる。
もうこいつら逆に魔物に殺されたほうがいいんじゃないか?
はあ、面倒なことになった。
「わかりましたよ。行けばいいんでしょ行けば」
「ふん。最初からそう言えばいいものを」
聖騎士はまだ剣を戻さない。
「念のため、手を拘束させてもらう」
オールバック聖騎士は一瞬俺から目を離す。
「ここだ!」 と俺は一気に三人の意識を刈り取りに行く。まあ、簡単だ。軽く首のほうに手を当てるだけ。今回は魔術系を使わないから精神に異常もきたさないだろう。後で、記憶改ざんはさせてもらうけどな。そうだ。シャルに散々な目に合わされた記憶にしてやる!
俺は一瞬で聖騎士の背後に移動した。
俺の手刀が、相手の首元を捕らえる。
――ちょっと死んどけ!
「!!」
だが、その手刀は寸前のところで俺の手首が握られ止められる。
俺は手首を握っている人物に対して怒りの表情を向けた。
こんなことをできるのはこの場で一人だけ。
――シャル、お前!
――甘いわね。私がそれを許すとも?
――ここまでして、俺に世界を救わせたいのか?!
――私は傲慢なのよ、元魔王だけにね!
そこで聖騎士の目が俺が元居た場所に戻ろうとする。俺はすぐにそこに戻った。
強風がその場だけに巻き起こる。
「うお! 風が凄いな。貴様! 後ろを向け!」
俺は後ろ手に腕を縛られた。というか手錠をされた。
ここではシャルが居るから、こいつらを無力化できない。流石にあいつの目を掻い潜るは至難だからな。そこまで疲れたくはない。
――よし! 道中でやるか。
「あの、私も付いていってもいいですか? 犯罪者となっても幼馴染なので心配で……」
俺がいつ犯罪者になったのかは後でじっくり教えてもらいたいが、その提案は全力で阻止しなければいけない。
「おいおい、シャル。俺は――」
「いいだろう。付いて来い」
――はあ? 何言ってるの? 聖騎士さん?
完全にオールバック聖騎士はシャルのことを好いている。王都に連れて行ってから、必ず手を出すつもりだ。いいのか! そんなことで! 聖騎士さんよう!!
ああ、駄目だ詰んだ。
俺は肩をがっくりと落としながら、聖騎士に付いて行く。そして俺の手首に付けられているものが魔力制御装置であることに気が付く。おそらく魔物に対して使うつもりだったものだろう。まったく、俺は魔物かっての。
俺は俺の横をにやにやと締まりの無い顔をして歩くシャルに軽蔑の視線を送った。
本来ならこの元魔王様にこの手錠は付けられるべきなのだ。この人がすべての元凶ですよ聖騎士さん! すぐそこにあなたたちを石に変えてしまった人が居ますよ!
「これでやっと、一歩前進だね」
シャルは俺の耳に小さくつぶやくようにして言う。
耳に掛かる吐息がなんかあれだった。
「はあ」
大体幼馴染が連行されている状況で口角が上がっているやつってどうなのよ? うん、最低だよね。
「おい! 早く来い!」
「……さーせん」
高台から、村の入り口にまで来る頃にはすでに空が茜色に染まりかけていた。
「乗りたまえ」
目の前には馬車がある。馬の数は二匹、人が乗る部分はかなり大きめだった。なんとも、小さな村に似つかわしくないものだと思った。
オールバック聖騎士ではない二人の聖騎士が先に乗り込み。次に俺が乗らされる。そして次に残りの二人が乗り込んできた。向かいに二人は座るが、さりげなくオールバック聖騎士はシャルの隣に座っていた。この広さならそこに座らないでもいいだろうに。
俺はというと、二人の聖騎士に挟まれている。お前らもこの広さならそこに座らないでもいいだろう! 暑苦しいわ! と言いたい気持ちもあったが、なにぶん連行されている身なので受け入れるしかない。
「おいシャル。お前おじさん達はいいのかよ?」
「ええ、高台に行くときにヒカルと小旅行に行って来るって伝えたわ。後で荷物も送ってもらえる」
「は?」
俺は絶句した。
高台に行くときということは、つまりまだ俺が連行される前ということだ。そして聖騎士が石化状態からまだ開放できるかどうかわからないときの話だ。
――こいつ。全部仕組んでやがったな!?
シャルは俺を見て微笑する。
それは、俺の考えていることを肯定するものだった。
最初からおかしいとは思っていた。大体七百年なんて数字がでてきたことがそもそもおかしかったんだ。そこでまず最初にシャルの言葉を疑うべきだった。
やられた。最近のかわいい天然幼馴染キャラのせいで、こいつが元魔王ということをすっかり失念させられていた。いや、かわいくはないな。憎たらしいの間違いだ。
今回に関しては敗北を認めざるをえない。正直に賛辞を送ろう。
だが、今回だけだがな。俺は必ずあの田舎村に帰ってみせる。そして農業をするんだ。
「君は、あれかね? 好いているやつなどはいるのかね?」
そんな俺の気持ちを余所に、オールバック聖騎士が目の前でシャルを口説き始めた。
おいおい、聖騎士様は節操がございませんな。
だが、おもしろい。このままシャルがこの将来その金髪が違う意味で光沢を見せるであろう頭のやつと結ばれるようなことになれば、一生笑って暮らせるだろう。ここは一つ彼に協力してやるか。
これから少し更新遅くなります。すみません!
お読みいただきありがとうございます。
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