第六話 元勇者は脅される件について(仮)
「えっと、とりあえず大丈夫ですか?」
「え、ああ。多少身体の硬直はあるが、大丈夫だ」
「それはよかった」
聖騎士の三人は無事に意識を取り戻した。
正直、メデューサの呪いを解いたのは初めてなので、彼らがどの程度まで元に戻ったのかはわからないが。
だが問題はここからである。
「ところで聞きたいんだが、どうして我々はこんなところに? 先ほどまでそちらのお嬢さんの玄関にいたはずなんだが……」
オールバック聖騎士が聞いてきた。
そう、できればここで早くお引取り願えるならありがたいのだが、そうもいかない。もちろん彼らはこの状況に少なからず混乱をしているだろう。
なぜなら、いきなり景色が一辺したわけだからだ。本人たちの感覚では瞬間移動したに等しい。
「いやあ、実はですね……」
俺は必死に頭を働かせる。
――ああ、駄目だ。何も思いつかない。
「シャル! 説明して差し上げろ!」
俺は最終手段。匙を投げるを発動した。
だが、よくよく考えればシャルが現況なのだから俺はがんばったほうだ。最後くらいは自分で尻拭いをしてもらわないとな。
「えっと……」
シャルの顔はおもしろいくらいに変形している。
そして、俺の顔をその面白い顔で見てくる。もちろん俺を笑わそうとしているわけではなく、助けを求めているが、それを俺は無視してそっぽを向いた。
――せいぜい頭を使え!
俺はただただ畑に戻りたい気持ちしかないのだから。
「実はですね。お三方は魔物討伐による疲れからいきなり意識を失ったんです」
――は?
「私は、もう驚きました。でも、お三方はあの聖騎士様たち。おそらく多忙につぐ多忙での中での魔物との戦闘で身体は悲鳴を上げていたのでしょう。そこで幸い、私は回復系魔法が使えましたので、一番自然力が満ちているこの場所でお三方に回復を、まことに勝手ながら行わさせていただいていた次第でございまして……」
シャルが、時には涙を目に浮かべ、時には表情暗く申し訳なさそうに、最後に懇願するような表情で言った。
――こいつ、やりやがる。
「え? ああそうでしたか」
流石に魔物とは戦闘はしていないし、そこまで身体も疲弊していななどとはこのシャルの名演技と少しの催眠系の魔法が合わされば言えない。
なので、聖騎士の三人は明らかにおかしい話を受け入れるしかなかった。
「お三方! もうお疲れのようですから、今日のところは王都のほうにお戻りになってください」
俺はこの流れに乗るために、すぐに言う。
普通なら、この村で少し休んでくださいと言いたいことろだが、こんなやつら置いておいたらまたシャルが何を考え出すかわからない。
――さあ、帰れ!
「お三方、まだ帰るのは早いですよ」
そのとき、シャルが不適な笑みを浮かべて三人を引き止めた。
そう言うシャルの姿を見て俺は確信した。
――間違いない。こいつ、また面倒なことを思いついたに違いない。
シャルはこれから真犯人でも突き止める名探偵かのような雰囲気をかもし出す。
元魔王のくせに……人間的に馬鹿のくせに……。
「大事なことを忘れています」
シャルは探偵さながら俺たちの周りを回り出す。
なんだこいつ。絶対に調子に乗ってる。馬鹿くそあほくそ元魔王が。
そしてシャルが俺と聖騎士たちの間に割って入ってきた。
「大事なこととは?」
「どうして、このヒカルが木彫りの家紋と私の家の家紋を同じだと言ったのでしょうか?」
――こいつ!
「それは……。なぜなんだ?」
そこで、シャルの片方の口角が上がった。
俺は、ここですべてを悟った。シャルが何を考えているのかもすべてだ。
くそ、どうする? 流石にもう強烈な催眠を掛けることはできない。だが軽いものではこの状況を打破することは不可能。八方塞だ。
そんな俺を尻目にシャルはまだ探偵を続ける。
「簡単な話ですよ。彼はわざと嘘をついたんです」
「どうしてそんなことをしたんだね?」
オールバック聖騎士の語気が強くなる。
彼らはプライドが高い。だから平民風情の、しかもこんな外れの村に住んでいる若者が自分たちに嘘をついたというだけで抑えられない感情を抱いているのだ。それがシャルの狙い。
「いやいや、ちょっと落ち着き――」
俺は、なんとかこの流れを止めようと声を発する。
――おいおいマジかよ。
が、そこであることに気が付く。聖騎士とシャルを囲むようにして結界が張ってあることにだ。
つまりシャルと俺の間にその境界線があるわけだ。
この結界は外と内の音を隔絶するもの。これは自分たちだけの話をしたいときや周りがうすさいときに使われる結界で、そこまで高難度のものではない。
しかし、流石元魔王。なんの詠唱もなしにしかも俺に気づかれることもなく。さらには完全に音を遮断している。
つまり、俺の声は聖騎士には届かないというわけだ。
この結界を破壊することは可能だ。
だが、少しばかり派手なことをしなければならない。それにこれは複合結界であり。無理に中に入ろうとしたり破壊しようとすればトラップが発動する。
俺は別に大丈夫なのだが、そのトラップが万が一聖騎士にでも向けば彼らはひとたまりもないだろう。ここまで巧妙にするとは、伊達にこの世界に来てから元魔王のくせに、その名に不釣合いな修行を10年以上して来たわけ賜物だな。
しかし、相手は世界を救うとは言っているが元魔王。何をするかわかったもんじゃない。
これが終わったら、必ず仕返しをしてやる。と俺は心に誓った。力での仕返しではなく。恥ずかしいと思うことをしてやろう。
聖騎士たちをある意味人質に取られた俺は、成すすべなく。彼らの会話を聞いているしかなかった。
「簡単な話ですよ。彼は聖騎士が嫌いなんです。この青年ヒカルはね。エリートが嫌いなんですよ。だから嫌がらせをしてやろうって魂胆だったわけですね」
「それは本当かね?」
おいおい。これ絶対やばいやつだよ。オールバック聖騎士の目立つおでこに怒りの血管が浮き上がってるよ。ってか、ちょっと若いのに頭後退してね? かわいそうに。
シャルは、いい感じに軽い香水系の催眠を相手に掛けている。これはさほど精神に影響がなく。相手の話を真に受けやすくするものだ。
こんなものに軽く掛かるとは、この聖騎士がどれほどの階級なのか知らないが大したことないな。というか、もしこの聖騎士がかなりの立場の人間だったら少し心配になるよ。この国は大丈夫なのか?
そこで結界が急に解ける。これで俺と聖騎士の会話が可能となったわけだが、今それは歓迎できない。
「どういうことなのかね? 私たちを騙したというのは本当かね?」
オールバック聖騎士は今にも俺に切りかからんと、腰に下げている剣に手を触れながら聞いてきた。どんな脅し方だよ。情緒不安定かよ。
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