第四十三話 元勇者は命乞いをする件について(仮)
俺とシャルは魔法陣を周りに組み込んでから、そのまま地図を頼りに、暗黒の森の暗黒と表現がされる所以の場所にさっさとたどり着いた。
ユリスとミアが居ればこうはいかない。
俺たちの速さに二人が付いてこられないからだ。
「こりゃ、まあ。禍々しさ全開だな」
「そう? こんなの大したことないと思うけど」
「お前を基準で語るなよ」
目の前には、これ以上の人間の歩みを許さないと森が言っているかのような、瘴気が漂っていた。
明らかに、そこまでと、そこからの一線が引かれていて、この奥に何かしらがあるのは明白であった。
「さっさと行くか。探知はできそうか?」
「まあ、余裕かな。でも、ちょっと気になることがあるわ」
「なんだ?」
「二体居るのよ。魔女が」
「場所は同じところか?」
シャルは首を振る。
「一人は近く。もう一人はちょっと先ね」
「それじゃあまあ、近くのやつから当たるか」
まあ、幼女だったらビンゴだな。
俺とシャルは自分の周りに浄化魔法を掛けて、瘴気からの攻撃を無効化して、中に入った。
瘴気満々の森林に入ると、目の前が真っ暗で何も見えなくなる。
流石は暗黒と表現されるだけはある。と思う。
これだからこそ、誰もがこの先に進んだ末に、戻ってこないのだろうな。
ここで一つ気が付く必要があるわけだ。
それは、この真っ暗な景色が真実ではないということだ。
誰もが陥ってしまう罠。
瘴気から身を守るために浄化能力を駆使するのは常套手段であり、魔物以外はそれ以外の身を守る手段はない。だからこそ、誰もが浄化魔法を使うわけだが、それだけで誰もが満足してしまう。
浄化魔法が聞くのは瘴気などと言う負の力に対してのみだ。
つまり、通常の魔法や魔術による幻影や幻術系に効くわけではない。要は、浄化魔法をしていても、そう云う攻撃に対しては無力な人間でしかなというわけだ。
俺は、目を一度閉じて開きなおした。
その瞬間、視界が広がり、暗黒の世界は終わりを告げる。
隣のシャルを見ると、シャルも同様にして幻術から逃れていた。
そして、今の俺たちが居る場所には、すでに瘴気は立ち込めていない。
――結局は、大事なところを見落としていただけってことだ。
瘴気が周りに張り巡らされているだけで、中にも立ち込めていると勝手に勘違いをしていたにすぎないし、視界が暗くなることを瘴気の作用だと思い込んでいたわけだ。
戦いに置いて最もやってはいけないことは、本質を見誤ることだ。
敵が誰で、何と戦わないといけないのか、それを見極める必要がある。
その視点は誰にも誘導されてはいけない。
「これはまた」
進むとびっくりだ。
先ほどの草原もかなり美しいものだと思ったが、この深層部の景色はまた一段と格別なものだった。
そして、驚くべきことは、
「めっちゃ妖精居るやん」
「言葉が変よ。ヒカル」
「あ? ああ、悪い」
小さな湖に、その周りに咲いている花々。
そして、その周りにこちょこちょと飛び回り妖精たち。
要は、この瘴気の中は妖精の世界だったというわけだろう。
一匹の妖精が俺たちに気が付いて飛んできた。
「あなたたちはなにもの?」
「ああ、ちょっと人に会いに来たんだよ。俺たちはただの無害な一般人だ」
「ふーん」
と妖精は興味津々な顔をして俺たちの周りを飛び回る。
「あなた冴えない顔してるね」
「…………」
――俺はどの種族でも冴えない顔をしているらしい。
心で血の涙を流している俺を誰か慰めてくれ!
「人間が来たのは久しぶりだわ。遊ぼう!」
こりゃ困ったな。
と思う。
妖精のお願いはできるだけ聞いておいたほうがいい。なぜなら彼らはとてもわがままな性格をしているからだ。一度彼らに嫌われでもすれば、いろいろと邪魔をしてくることとなる。それこそ魔法や魔術が上手く発動しなくなったりするものだ。
俺はシャルを視線を合わせた。
「わかったよ。遊ぼう。なにして遊ぶ?」
「殺し合い」
瞬間、目の前の妖精が一瞬にしていなくなった。
全身の悪寒がめぐる。
――ちっ! 油断した!!
あれは、人工妖精か!
気を抜いたせいで、全身に拘束系の黒魔術が掛けられていることに気が付く。
――身体が動かない!
シャルを見ると、シャルも同様であった。
「まさか、この森に入ることができる者が居るとは思わなかった」
声が聞こえてくる、と同時に目の前に一人の人物が現れた。
嫌な予感は的中ってか?
目の前に現れた男は、フードをしていて、顔にはよくわからない仮面をしている。
声音からして男だと思われる。
――この世界の裏か。
突然のラスボス登場は、俺としては歓迎したくはないところだ。
「お前たちはここで消えてもらう。踏み入れてはいけないところに、土足で入り込んでしまった自分を恨むんだな」
仮面野郎は、右手をこちらに向けた。
その右手に禍々しい魔力が集まっていく。
それは俺たち二人を簡単に包み込むほどの大きさとなる。
「デリート(消去)」
それが、俺たちのほうに放たれる。
――ああもう! 面倒臭いことになった!!
俺は魔力を強めて、一瞬で拘束を解く。
シャルもすでに拘束を解いており、どちらとも動ける体勢だ。
「どうする?」
「これくらいなら私が取り込めるけど?」
「いや、万が一ってのがある。とりあえず」
俺は転移魔法を発動した。
そして、二人の位置座標を仮面野郎の目の前に移動させる。
目の前に仮面野郎が見えた。
「そう焦るなよ。黒魔術師」
「ほう? 我らを知っているのか?」
――!?
瞬間、俺は自分が吹き飛ばされていることに気が付いた。
顔の頬に遅れて痛みが走り、口の中が切れていることや、鼻血が出ていることにも気が付く。
――マジか。
「ヒカル!?」
と、シャルが叫んだ後、シャルが仮面野郎との戦闘に入る。
もうシャルも、手は抜いていない。
だが、それでも、見たところ、シャルのほうが押されているように見えた。
――ああ、面倒くさいなあー。
と、俺はゆっくり立ち上がる。
流石は黒魔術師ってところか。
肩を二・三度ならし、俺も戦闘に加入するために、加速した。
俺はシャルの攻撃を避けた直後の仮面野郎の顔面に向けて、高速の拳を放つ。
しかし、その拳を仮面野郎は背を反り避けると同時に、俺のがら空きとなっている腹に向けて、カウンターのパンチを入れる。
俺は痛みに身をよじる。
そんな俺に仮面野郎は回し蹴りを放ち、俺は飛ばされた。
また、背中から木にぶつかる。
頭を打った。
――イッタイなあ!
今度は俺の隣にシャルが吹き飛ばされてくる。
「おいおい、お前、本物を見せてやるとか言ってなかったっけ?」
「本物が何時も優勢になるとは限らないのよ」
まあ、確かにそうか。
って、まともなこと言ってんじゃねえよ!
相手は俺たちのほうを見ながら、こちらがどう動くのか見ているのか静観していた。
それはありがたい、ということで、俺はゆっくりと立ち上がる。
それにしても、正直言って予想外の強さだ。
おそらく、単純な力比べという面では、あの元勇者とかよりも強いはずだ。つまり、早速ラスボス登場! という展開というわけである。
嫌だって言ったのに!!
「お前、今の状態であれに勝てるか?」
「今の?」
「ああ」
「そうね。勝てないと思う」
「だろうな」
俺もだよ。
正直言ってまったく勝てる気がしない。
そして、こういうときに取るべき行動は一体何か。
――簡単だ。
「逃げるか」
「賛成ね。だけど、本命はどうするの?」
「明日になればあの黒魔術師もここには居ないだろう。入り口近辺にいたってことは、もうこの瘴気に包まれた一帯から出るつもりだったんだと思うぞ。つまり、明日になれば大丈夫だ」
「なるほどね」
問題は、どうやって逃げるかだな。と思っていると、
「貴様たちは、転生者だな?」
と仮面野郎が聞いて来た。
「だとしたら?」
「なるほど。だからこその強さか。だが、正直大したことはないな」
「だと思うよ」
まあ、無難に逃げると言えば転移で逃げることが得策だよなあー。
だけど、ここでミアたちのもとへ逃げたとして、もしもこいつが転移を辿ってきたりでもすれば、それはそれでとても厄介なことになるわけだ。
できれば厄介なことを起こしたくはない。
「この森に入ることができるのは、転生者くらいだ。お前たちの目的はなんだ?」
「特にないよ。ただ迷いこんだけだ」
って言う言い訳は通じないですかね?
「迷子になる歳とも思えないが?」
通じなかったよ、くそ野郎。
「こうみえて以外に馬鹿なんですよ僕ら、あはは」
適当に会話を繋ぎながら必死に逃げる算段を考える。
しかし、いくら考えても力技的に逃げることくらいしか考え付かなかった。
――ちょっと命乞いでもしてみるか?




