第四十話 元勇者は、言葉を失ってしまう件について(仮)
お米を箸を使って口に運ぶと、とてもほくほくで、口の中にお米の香が広がった。かみ締めると、中からお米の甘さがにじみ出てくる。
素直に言おう。
「おいしいな……」
流石は王都の中で一番の農家が作ったお米。
こんなことを認めるのは癪だが、完全に俺が作っているお米よりもおいしいな。
――とりあえず、目指すのはこのおいしさか……。
とはいえ、要らぬ味さへなければだけどな。
「どうだい?」
「ん?」
ユージンが興味津々で聞いて来る。
とんだ白々しさだな。
「まあ、大したことないな」
あ、見栄はったっちゃったよ。
まあ仕方ないよね。男だから。
「まあ、うん。これくらいなら、後数年すれば、俺がこの王都の専属農家になるのも時間の問題かな」
「へえ、それはすごいね」
ユージンと目が合う。
すると、彼は微笑んだ。俺も一応微笑んでおく。
ユージンは、そのまま俺の隣に座る。
「残念、君ならそう言うとは思ってたけどね」
「なら、俺は期待に添えたわけだ」
つまり、薬が俺に効かないということを確かめたわけね。
といっても感触的に、この薬の効果が本格的に効いてくるのは、おそらくこれから数時間後ってやつだろう。まあ、俺はもう自身の魔法で薬自体を分解したから大丈夫だけど。
多分、薬の内容としては、死に至らしめるほどのものではなく、痺れや睡眠効果的なものだろう。
端的に言うなら、米には薬が混ざられていた。
――目的がどんなものであれ、あまり良い気はしないな。
「あまり、変なものはこれから入れないでくれると、俺としても普通に暮らせるんだけどな」
俺は、独り言を言う。
「小ざかしいことは、これだけにしておくよ」
「そうなることを期待している」
ユリスたちは俺とユージンの会話を不思議そうな顔をして聞いていたが、特に説明をすることでもないので、そのまま普通の食事が続行となった。
もくもくと食べながら驚いたことが一つ。
それは、ユージンの食事の量がとても少ないことだ。
まるで、女性のような食事量に、ツッコミを入れたくなるが、まあ、食事量なんて人それぞれ、そこまで気にすることのものでもないことだとは思う。それにそれを言い出すと、シャルはどうなる、となる。あ、やつはサルか……。
「ねえ、ユージン。あなたの目的だった聖騎士の生活を見るってやつは、達成できたの? 今日は道場しか見てないけど」
ユリスが聞く。
俺としては今回の目的が、
―-目的が俺とマリンダを会わせることだった。
ということなのか、気になっていたので、彼女にしては良い仕事をしたと思った。
聞き耳を立てながら、食事をする。
「ん? ああ、まあ大体はね。ユリスは、人の素の姿が出るときっていつだと思う?」
「え?」
質問が返されたので、ユリスは驚いた顔をした。
「そうね……。寝ているとき、かしら?」
それはお前、素は素だが、明らかに質問の意図をくめていないだろう。と俺は笑いそうになる。やはり、ユリスは残念な子という結論に至ってしまう。
ユージンは、そんな俺の気持ちとは打って変わって、とても優しそうに首を振った。これがモテる男の姿か、学んでおこう。
「違うよ。ミアはどう?」
「そうですねえ……。もしかすると、食事をしている姿、とかでしょうか?」
「正解だ」
ユージンが微笑む。
流石はミアだと、俺は無駄にテーブルの下でガッツポーズをした。
「どれだけお淑やかに、どれだけ品位があるようにみえても、食事をしている姿でその人が暮らしてきた環境がわかる。まあ、これは外観としよう。それを見る上でも食事はとても良い状況なんだよ。だけど、人って言うのはそれだけじゃないよね?」
「ええ、もちろんよ」
ユリスが言う。
お前がそれを言うのか、とも思うが、彼女も成長をしているのは事実。出会った頃を考えるとびっくりする発言ではある。
ミアも隣でうれしそうであった。
「そういう意味だと、内面は食事には現れないんじゃないかしら?」
「どうして?」
「ユージンが言ったでしょう? 食事の作法などで品位が現れるって、つまりそれは外観は見えるけど、内面は見えないってことじゃないの?」
「外観は見えるけど、内観は見えないとユリスは言いたいわけだね?」
「ええ、普通そうでしょう?」
ユリスの発言にユージンは、数度頷く。
「確かに、そうだ。一見するとね」
「気になる言い方するじゃない」
ユリスが口角をにやりと上げた。
「食事をしているときの話し声や、内容。またそのときの雰囲気というものや、他人に対する態度。これを良く見ると、内観、つまりその人物の内面というものが現れるんだよ。例えば、肉を良く食べる人は血気盛んな面があるとか、こんな大衆が集まる場所で大声で話す人間は他人を思いやる気持ちがないとか、食事を載せたトレーをぞんざいに扱う人物は、自分の地位が高いと思っている人間であるとかね」
ユージンは回りを見ながら言う。
「まあ、これはすごく単純な言い方ではあるし、偏見でもあるとは思うけど、私はこういう見方で見える人間の本質みたいなものは、あながち的外れではないと思っているんだ」
「ふーん」
ユリスは鼻を鳴らした。
「まあ、わからなくもないけど……。それも繕えるものだと思うのよねえ」
「意識をしている場所ではね」
ユージンは、微笑む。
「ここの食堂は確かに高級な食堂ではある。聖騎士が大勢を占める場所でもあるしね。でも、聖騎士の中にも家柄という意味では差があるんだ。この施設は聖騎士の中でも、まだ年数の短い人間が多く居る場所。つまり、様々な人間がここに来ることになる。だからこそ差が見えるわけだね。この意味はわかる?」
ユージンの問いかけに、ユリスは首を捻った。
数秒考えている顔をしてから、彼女は首を振る。
それを見て、
「ヒカルはどうかな?」
とユージンが聞いて来た。
俺に振ってくるなよ、とため息が出た。
仕方がないなあ……。
「無意識って言うところに、人間の素って言うのは出る。そして無意識まで洗練されていないものは、所詮は本物になりきれてない偽者だってことだろ?」
「流石は、ヒカル。すばらしい」
「そりゃ、どうも」
別にお前に褒められてもうれしくともなんともねえよ。
「どういうことよ?」
ユリスがまったくもって納得できない、という顔をして聞いて来る。
おいおい、これは俺が説明しないといけないのか?
と思っていると、そこはユージンが口を開いた。
「つまり、様々な聖騎士、特に地位の高い家柄の人間からすると、この食堂って言うのは簡単に言うと気をあまり使わないで良い場所であるってことなんだよ。要は無意識で行動する場所になる。そして、その無意識こそ人間の本質が出てくる場所。私はそれを見たいわけなんだ」
「ふーん。そう」
とユリスは聞くと、適当に頷いた。
彼女からすれば、おそらく、そこまで深く聞きたい内容でもなかったのだろう。それこそが、ユリスが貴族、しかも高級貴族であるという証である。
「ってことは、シャルはもうアウトだな」
シャルは俺の言葉を聞いて顔を上げた。
その顔には、様々な料理の汁などが付いていた。
――まるで、子どもだ。いや赤ちゃんに近いか……。
威厳などどこにもなかった。
そんなシャルの顔を、ミアが優しく拭いてあげている。
「いや、彼女には逆に好感を持てるよ」
「は?」
あんぐり開く口。
「だって、この場所で、誰が彼女みたいな態度を取ることができると思う?」
「そりゃ、居ないだろうけどさ」
「つまり、素を隠さないすばらしさが彼女にはあるんだよ」
「………………………………………………………………」
絶句。
確かにそうかもしれないが、
――限度があるだろうよそれは。




