第三十八話 元勇者は、ストレスを溜め込んでいる件について(仮)
はたして、今ここで自分がすべき正解とはなんなのか、本音で話すことが正解となるとか、それとも逆に、適当に貴族に対して媚びるような言葉を放つことが世界になるのだろうか。
魔眼を使えば、ここでの正解はすぐに導き出すことができる。
相手の考えていることを覗くことだって簡単だ。
しかし、相手はそれなりの実力者だ。俺がこれまで出会ってきた普通の人間の中で最も強力な人間といえる。
つまり、魔眼が見破られるという可能性も一パーセントほどある。
特にこんな近距離で使うことは忍ばれる。
――そもそも、あまり使わないでおこうって、決めたばかりだしなあー。
ってことは、俺のすばらしい思考によって正解を導き出す必要性があるということだ。
俺はマリンダと数秒見つめあうこととなる。
どうやら、俺の発言を律儀に待ってくれているらしい。
なんと健気な娘だこと。
はあ、仕方ないか。
そもそも、ユージンも居るんだ。
俺の普段の態度から、俺がそもそも、一般の貴族と呼ばれる連中に好印象は持っていないことはばれているわけだから、ここで繕うことは逆に駄目だろう。
俺は息を鼻から静かに吐いた。
「正直でいいんですね?」
再度確認しておく。
「ああ、正直だ」
自然と肩が上がった。
「今の貴族についてどう思う。というのに明確に答えることは厳しいですね。なにせ、貴族といってもすべての人が同じであるわけではありません。良い印象を抱く人も居れば、まったくもってクソ野郎だと思う人も居ますから、
だけどまあ、それでもどう思うかを聞かれて答えるとしたら、この国の行く末が心配にはなって居ますかね」
「ほう?」
と、マリンダは感心したようにうなった。
「詳しく頼めるか?」
「そんなに、内政のことなどがわかるわけではないので、詳しくはと言われると厳しいですね」
「いや、そういうことではなく、どうしてそう思うに至ったのか。についてだ」
マリンダの目が鋭くなった。
「簡単です」
ここからの発言は非常に危ない橋を渡ることになる。
しかし、まあ、いいだろう。
たまにはこっちとしてもストレス発散をしたいところであるし、最悪の展開はすでに起こっている。今更、気にするところもないだろ。
なんとなく、投げやりになって来ている気がしないこともないが、まあいいや。
――投げまくってやる!
「学園に居る貴族が駄目なやつばかりだからですよ」
マリンダの目が俺に続きを促す。
「はっきり言って、あの学園の貴族の中に、政治を上手く回すことが出来る人間も、聖騎士としてこの先、国を直接的に守ることができる人間も居ないですし、今後、そうやって成長するとも思えないです。理由は簡単、どいつもこいつも、自分の地位に胡坐をかいているからだ」
「では、どうして現状として国が回っている?」
「簡単ですよ。従者です従者。彼らが必死に主のために、裏方の仕事をしているからでしょう。といっても、もちろん力のある貴族も居るとは思いますよ。それこそ、戦闘と言う面ではマリンダ様は強力な力を持っているし、そこにユージンは、他の貴族とは違い、優秀だと思います。それに、議会に居る超高級貴族の人間もおそらく優秀だ。
つまり、この国は、数少ない優秀な人間によって回っている。ということなのだと思います」
「じゃあ、優秀ではない貴族の存在は国として、いると思うか?」
「さあ」
俺は微笑む。
「そういうのに関しては口を噤ませてもらいますよ。後々、面倒事に巻き込まれるのは嫌ですから」
「はは、まったく、掴めない男だな」
マリンダは、満足そうな顔をした。
「まあ、他にもいろいろと個人的に聞きたいことはあるが、最後に一つだけ、質問をさせてくれ」
「なんなりとどうぞ」
「どうして、地位を欲しない」
「どういう意味ですか?」
聞き返してはいるが、正直、あまり真剣に聞いていなかった。
「お前の指摘は正しいと私は思う。それだけのことがわかっていて、そして、それだけの力があるんだ。どうして、地位を得て、改革をしようという考えにならない?」
「簡単な話しです」
そう、とても簡単な話しだ。
「俺は、スーパースローライフを過ごしたいからです!!」
ドン!!
とは言えないので、別のことを言います。はい。
「俺は、俺の力をそこまで過信していないからですよ。俺は確かに力を持っているのかもしれない。だけど、それはただの力だ。それだけでは何かを救うことはできません。それに、その単純な力でさえ、別に特別他から秀でているわけではない。こんなことを言うと語弊があるかもしれませんが、マリンダ様さえ倒せない。所詮そんなものだからですよ。個人でできることには限界があります」
「なるほど。個人では限界があるということか」
「まあ、そうですね」
――圧倒的な力があるのなら、別だ。それこそ、本当に圧倒的な力。
マリンダは何か俺の発言に納得したらしく、
「わかった。今日は時間を取らせて済まなかったな!」
とハツラツとして言った。
結構適当に言っても、大丈夫だったみたいだ。
もしかすると、俺って政治家とかが向いているのかもしれない。演説とか得意かも。
――まあ、絶対になりませんけどね!!
俺が目指すのはスーパースローライフ。それのみだ!
◇
マリンダから解放され、俺は道場に舞い戻ってきた。
とはいえ、俺が戻るときには、すでに訓練のほとんどは終わっており、残っているのは、ユリスたちと、数人の人間だけであった。
そして、隣にはユージンが居る。
「お前、どういうつもりだよ?」
嫌味たらしく微笑んでいるユージンに聞く。
「まあ、まだ、教えることはできないかな。とりあえず、今日私としてはとても有意義な日になったよ。ありがとう」
「つまり、何も言えないって?」
「そうなるかな」
「俺を厄介事に巻き込むなよ?」
「………………」
隣でユージンは顔で、「さあ?」という風に微笑んだ。
大体の予想は付いている。
――はあ……。どうやって予防したものか。
「もう用事はいいの?」
ユリスが聞いてきた。
どうやら、興奮は収まっているらしい。
てっきり、マリンダと会話をしたことを詰め寄られるかと思ったが、普通のユリスだった。
「まあな」
「なにを話したの?」
「それはユージンに聞いてくれ、俺は質問の意味がよくわからなかったからな」
とユージンに目をくれてやる。
それに彼は「え?」という顔をしていたが、これくらい我慢しろ。お前の仕事だ。と思った。
「そう。まあ、それは後でみっちりきっかりヒカルに聞くとして」
みっちりってきっかりヒカルにって、俺の発言聞いていました??
「食堂でご飯を食べましょう。さっき道場に居る人たちに聞いたら、道場に参加した人は無料で食べることができるらしいわよ」
「お前は払えよユリス」
「どうしてよ?」
「お前は訓練してないだろ? それに貴族なんだから金持ってるだろ?」
「どうしてよ!」
「いや、だから訓練してないから」
「…………だったらヒカルもよね」
少し考えて、ユリスが得意気に言ってくる。
「はあ?」
「だって、ヒカルも訓練はしていないじゃない。模擬戦はしたけど、あれは演舞みたいなものだったわけだし、訓練じゃないわ」
「いやいや、ちょっと待てよ」
と、俺とユリスは言いあいをしながら、食堂までたどり着いた。
「よし、わかった。とりあえず、今回は互いに無料で食べることにしよう。道場に入るための試験は合格したわけだからな」
「そうね。それがいいわ」
という結論になる。
――というか、貴族なら無料に拘るなよ。
どうしてか、最近、ユリスの感覚が、俺に近くなってきている気がしてならない。
そのくせ、家の改造とかには大金を使うわけだから、意味わからん。
とか思っていると、本当に大きな大きな大食堂の中に入った。
―-は?
その食堂に感想を持つ前に、目の前に居るピンクの髪の毛の人物に全員の目がいった。
「あ、ひきゃる。ざきにごひゃんだべてぇりゅわよ」
訳すとこうだ。
「あ、ヒカル。先にご飯食べてるわよ」




