第二十四話 元勇者は昔を懐かしんだ後、平穏をぶち壊される件について(仮)
「賭けを行おう」
――俺が絶対に勝つことができる賭けを!
「それに俺が勝ったら、諦めてくれ」
「私が勝ったら、泊めてくれるというわけだね?」
「ああ」
俺が絶対勝つけどね!
「どんな賭けなんだい?」
俺は道の先を指差した。
「あそこに十字路があるだろう?」
「うん、あるね」
「そこの十字路の両脇から出てくる人の性別を当てるってやつだよ」
「二つを当てるってこと?」
「そういうことだ」
これだけでは、ユージンが乗るかどうかがわからない。
今の俺がすべきてことは、ユージンが絶対に自分に有利だと思うことである。
「そこで、俺がどっちもの性別を当てることができたら、俺の勝ち。どちらかでも外せば、お前の勝ちだ」
俺の言葉を聞いて、ユージンは眉を上げる。
「魔法でも使うのかい?」
「いや、それだと賭けの意味がないだろう? 俺は魔法は一切使わない。なんらな、俺に魔法制御装置でもつけてくれればいい」
「随分と自信があるんだね」
視線がかち合う。
「自信とかねえよ。賭けだって言ったろう? お前だったら、俺が魔法を使用したかどうかってことをちゃんと見破れるはずだ。流石の俺でも、魔法や魔術を使うときの微量な魔力の漏れを、お前ほどの実力者の前で隠し立てはできねえよ」
まあ、できるけどね。
――だが、念のために魔力は使わない。
もちろん魔眼も使用しない。
魔眼に関しては、通常時は俺は使用しないように最近はしている。
理由としては、俺が現状、こんなことになっている原因であるユリスの婚約者争奪クソみそ低底戦のときに、自分の身体のなまりを感じたからだ。
あのときも魔眼は使用してはいなかったが、できれば必要に迫られない限り、使わないでおこうと思った。
――大体からして、そもそも使わないといけない場面なんてないんだけどな。
では、どうっやって、俺が左右から十字路に出てくる人物の性別を当てようというのか?
「そこまで君が言うのなら、私はそれを信じようじゃないか」
よし、乗ってきた。
「よし、なら、タイミングはお前に任せる」
俺は、十字路に視線を移す。
「お前が今だと言ったタイミングから、最初に出てくる左右の人物の性別を俺が言う。それでいいか?」
「ああ、構わないよ」
ユージンは、微笑んだ。
とても余裕な顔をしている。
まあ、この賭けに関しては、こいつに不利な点は一つもないし、負けたとしても、ただ宿に泊まるだけである。
つまり、全面的にすべての条件が不利なのが俺だってことだ。
俺は気を感じる。
だが、あくまでも俺が勘で当てたというように偽装しないといけないので、目は十字路に向けて細めておく。
流気法。
俺が使える魔力もなにも使わないで済む技。
どこぞの世界であった技を俺なりに改良したものだ。
そして、今もその改良を進めているわけである。
男女から発せられる気には違いがある。
つまり、俺はその気の違いを感じ、十字路から出てくる人物の性別を当てようとしているってわけである。
簡単ではない。
だけど、俺には自信があった。
俺は、ユージンからの合図を待つ。
今左側に居る人物はまずは男であり、その次に女だ。
そして、右側は男と女の二人組みの後ろの女が居る。
この二人組みというのは悩みどころだ。
どちらが先に姿を現すかというところのタイミングを計らないといけない。
俺は集中力を高めた。
――ん?
そのとき、十字路の場所ではないが、気が乱れ始めるのを感じた。
とてつもなく嫌な予感しかない。
「今だ」
そのときユージンからの合図の声がする。
俺はその気の乱れは気にしないことにした。
今はこちらに集中だ。
「左から男、右は女だな」
左は確定だろう。
だが、右に関しては若干の不安がある。
それでも、今の状況としては女が男を引っ張っていっているところであるので、突然男が出てくるわけはないだろう。
なぜか、少し緊張している自分が居た。
なんというか、ギリギリとまでは行かないまでも、もしかすると負けるかもしれないという不安が、少し心地が良い。
昔を少し思い出した。
不謹慎かもしれないが、ギリギリのバトルに勝ったときはよかった、と思うと同時に達成感を得ることができる。
それは、勇者時代も魔王時代も同じだった。
そして仲間との歓喜の宴。
――まあ、今は負けるような勝負はしたくないけどな!
そのとき、気が激しく乱れる。
――なんだ!?
そして、その気の乱れを起こしている物体が、左側の道から超高速で十字路に向かってきていた。
――おいおいおい、なんだよ!?
そのよくわからない塊は、このままでは左側の男性が十字路に見えるか、見えないかのタイミングで突入してきそうな速度であった。
もしかすると、という可能性がある。
俺はさらに気を感じるのに集中した。
それでも何が起こっているのか理解ができていない。
しかし、なんとか男性のほうが先に出てきそうである。
――ちょっと安心だ。
それに、よくわからない塊ということは、人ではない可能性が高い。
どちらかと言えば獣性の高い気だ。
おそらく、牛とかイノシシとかの暴走した動物の類だろう――いや、サルかもしれないな。
――ふう、焦らせやがって。
まあ、どちらにしても今の賭け事とは関係がないはずだろう。
「賭けがどうなるか楽しみだね」
どうやらユージンは純粋に賭け事を楽しんでいるようで、いまだに余裕な表情をしている。
残念ながら、不正をしてしまっていて申し訳がないな、と思いながら、だが、俺の平穏を守るためには仕方のないことなんだ。
と心の中で釈明をする。
タダでさえ、俺の農村でのスーパースローライフをシャルというクソザルによって邪魔をされてしまったわけだ。
それに貴族どもにも、散々邪魔をされた。
それによる利益ももちろんあったが、これからはできるだけ揉め事は勘弁。
――理解してくれよ……。
「お、まずは一人正解だね」
右側の二人組みが出てきた。
俺の予想通り女性が先に出てきた。
これにより、俺の勝利はほぼ確定だろう。最後の不安要素が排除されたわけである。
しかし、人生そんなに甘くないようだった。
「は?」
俺はつい声を出してしまう。
「どうしたんだい?」
「い、いや……」
明らかに、猛獣の気が膨らんでいた。
そして、その気はさらに加速をはじめ、明らかにその気のほうが先に十字路に出てくるのは確定だった。
――いやいや、落ち着け。あれはただの動物だ。
不安がさらに襲ってくる。
なんというか、知っているやつが出てきそうな気がしてならない。
だが、俺にはエルフやドワーフみたいな知り合いはいないはずだ。
そもそも、そう言った種族は魔族に分類されたりするから、出てくるとして魔族ということになる。
――ん? 魔族??
ちょっと待て、そういえば魔族みたいなやつが居た気がするぞ?
ほら、あの前世からの付き合いで、俺の平穏無事な生活をはちゃめちゃにして来る野郎が居たじゃないか。
――ああ、なんだ。あいつのことかあー。
なんというか、誰なのかということがわかると、頭がすっきりした。
これが俗にいうところのアハ体験なのかもしれない――え? 古い??
――って……そうじゃねえええええよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
と思ったときにはすでに遅かった。
「ん? 何か出てきたね。でも、あれはどっちだろう?」
ユージンが暢気に言う。
そういわれた人物は、十字路を曲がり、超高速でこちらに近づいてきた。
そうだ。
そうだったよ。
俺の平穏を壊すのは、いつだってお前だったよ!!
「ヒカルーーー!!」
なにがうれしいのか、笑顔でシャルが俺の名前を呼んだ。
俺は、構える。
相手は女性ではない。
ただのサルだ。
そう、俺の女性に手は出さないというポリシーは変わらない。まったく変わらない。
「熱、さがったあああー」
「だらあああああああああああああああああああああああ!!!」
俺は隣のユージンの「あ、女性なんだね」という俺の敗北宣言を聞きながら、飛び込んでくるシャルの喉元にに超絶ラリアットを暮れてやった。
サル野郎は、「ぐへ!!」と言って、地に落ちた。




