第十六話 元勇者は着実に地位向上を計っている件について(仮)
聖錬学園のKクラスでは、基本的に従者は一般の授業では主の側に立ち、主を警護するのが常だ。
そして、貴族のみが受けられる特別な授業となると、従者はある程度自由となり、基本的にはその時間帯は自分たちで己の力を向上させるために努力することとなる。
だが、俺は現在ユリスの正式な婚約者という立場になっている。
それはつまり、将来は高級貴族の主となるかもしれない立場というわけだった。
だからこそ、俺をこのままユリスの従者としておいても良いのかということになり、オリビア家が俺に準貴族としての爵位を授けることを決めた。
準貴族とは、将来的にはその一家の家族となることがわかっているものが授かるもので、基本的には普通の貴族と変わらない立場となることができるものだ。
違う点は、貴族が持っている特別な権利などがなく、またその他の雑多な用事に顔を出す義務がないという点だった。
つまり、他の貴族と対等な立場ではあるが、貴族としての義務や権利を持っていない存在だ。
俺としてはこれは予想をしていない出来事だった。
準貴族なんて称号は知らなかったし、そもそも聞く限りでは貴族よりも良い立場な気がしてならない。
――何着実に地位向上してしまってんねん!!
俺は今、ユリスにその説明を受けていた。
「それで、朝私たちが呼ばれた理由は、ヒカルの学園での扱いをどうするかってことについて話し合いをするためなの」
「俺の立場?」
「そう、オリビア家が正式にあなたを準貴族として迎え入れるのは、まだ先の話しよ。用意とはその他諸々のことをする必要があるから、早くても一ヶ月は掛かる」
それはまあ、お忙しいことで。
「だけど、これは正式に決まったこと、だから、ヒカルをその一ヶ月の間、学園でどう扱うのか、ってことね」
「ふーん」
「あまり興味ないみたいね」
ユリスが不機嫌な顔をして言う。
「いや、まあ、そんなこともないけど」
――そんなこともあるけど。
「その、俺的に準貴族の立場って、いらない義務とかないなら、それだけで普通の貴族に比べたら良い立場だと思うんだけど」
「それは、あんたが、特殊な立場だからよ」
「え?」
「普通、貴族って言うのはね。そういう義務を全うしていることに優越感を感じるの、崇高な義務をこなすことで、精神までのが崇高になると思うのよ」
「お前も、そうだったってことだな」
「うるさいわね……」
ユリスは少し恥ずかしそうにする。
「それに準貴族って言うのは、貴族に対して同等の立場となっているけど、平民に対してもそうなのよ」
「ふーん。権利がないって言うのはそういうことか」
「そう」
ユリスが頷く。
「だから、普通の貴族として幼い頃から育ってきた私たちからすれば、準貴族なんて中途半端な存在は、認める気持ちにはならないの」
「はあ……」
――その中途半端な存在にしようとしているのは、そりたの家では?
「なら、どうして俺をそんな立場にするんだよ?」
「そ、それは……」
ユリスが口ごもる。
「準貴族となりますと、貴族だけが受けることができる授業を受けることができるようになります」
ユリスの隣で、俺とユリスの会話を聞いていたミアが口を開いた。
「そういう権利はあるのか」
「はい、学園での扱いは貴族と同等になりますので、基本的にユリス様とヒカル様は二人で行動することが多くなります」
「え、ああ、そうなるのか」
ミアの言葉からは二人の部分がとても強調されているように思うのは、俺の気のせいだろうか?
「ま、まあ、一応対外的に考えると、ヒカルにはそれなりの教養を付けてもらはないと駄目なのよ!」
ユリスが慌てて言ってくる。
こいつは、俺と話すとき、急にテンションがおかしくなる傾向がある気がするが、俺の気のせいだろうか?
――正直、とても面倒くさい。
まあ、貴族に対していちいち言葉を選らんで話さないでも済むという状況になるのは好ましいことではなる。
だけど、そんな称号を頂いてしまったら、俺の目指す先がさらに遠くなってしまう感じがするのは、おそらく直感というやつだ。
――そして俺の直感は悪いときだけ良く当たる。
「で、最終的に俺の処遇はどうなったんだよ?」
「それが、ちょっと変なことになったのよね……」
俺は首をかしげた。
◇◆
学園の教室にて、俺は入り口の前で待機をしていた。
自然と口からはため息が出てしまう。
ユリスから語られたこれからの俺の学園での一ヶ月間の処遇は、彼女の言う通り、変なことになっていた。
「転校生が来るの」
ユリスが言う。
「転校生?」
「そう、なんでも私たちの同年代で、その強すぎる強さから、学園への入学を免除された子が一人居るんだけど、その子が突然学園に通うことになったらしくて、その子が今日来るらしいわ」
「それはまた、同年代と戯れたくなったのかね」
「さあね。そんな人間なら、最初から聖騎士になろうとは思わないと思うけどね」
「なら、家の事情ってやつか?」
「転校生は私と同じ高級貴族よ。オリビア家と違っての古参の家。何か困っているとは思えないけどね」
――高級貴族ってそんなに多いものなの?
何かしらのオンパレードと同じ展開な気もしないではないが、聖騎士になろうとすると、それはそれで触れ合うことになる人種なのかもしれない。
まったく、最近であったゴキブリの数より、高級貴族との出会いのほうが多いってどういうことかね?
「で、問題は、その彼女が従者を一人も連れてこなかったことなのよ」
ユリスは真剣な顔をしていた。
「いくら強いといっても、従者をつけないなんてことは、普通許されることじゃないわ。それくらい高級貴族の人間は自分たちの命を大事に思っているの。それに、古参の高級貴族の人間なら、その考えかたは強いはずだわ」
「…………」
「それは学園としても、同じ。高級貴族の人間を一人にして、何かあれば責任問題になってしまう」
――ああ、これは何か来るやつだわ……。
まあ、ここまでくればある程度は予測に付く男、それが俺だ。
「だから、学園は、ヒカル様をちょうど良い人間だと判断したのです」
ミアが言う。
「もしかしなくても、俺がその転校生の従者として付くってことになるやつだね?」
「はい、その通りでございます」
ミアが軽く頭を下げた。
「それって、俺はその転校生に付き従わないといけないってこと?」
「はい」
「まあ……、こんなこと二人に言っても仕方ないけど、それと準貴族になる俺との関係が良くわからないんだけど……」
明らかに貧乏くじであると感じる。
「平民出の人間を高級貴族につけることはできない。だけど、教師や講師が側につくわけにはいかない。護衛会社を頼ったとすると、信用ができない。だけど、素性がはっきりしていて、さらに準貴族の称号をもらえることが決まっている人間なら、一応の体裁は整うことになる。つまり、別にヒカルのことなんて、考えてないのよ」
ユリスは少し怒りを覚えているように見えた。
「まったく、人の従者を勝手にこき使ってくれるわね!」
――なんだ、そういう怒りなのか……。
もしもそんな言葉を言うなら、婚約者をという言葉に、従者を変換して言ってもらいたかった。
――それくらいのご褒美くらい貰っても良いだろう。
まあ、ご褒美かどうかは怪しいところではあるが。
「まあ、わかったよ。そういうことなら、仕方ない。とりあえず一ヶ月、俺が耐えればいいんだろ?」
「そうだけど……」
「一ヶ月経った後はどうするんだ?
「それは、その間に、相手に従者をつけるように交渉するって言ってたわ」
果たして、その交渉が上手く行くのかね?
まあ、そんなやり取りがあって、俺は一ヶ月間、転校生の従者となることになった。
特に従う理由もないのだが、婚約者騒動で目立ってしまった分、ある程度従ったほうが良いだろう。
それにこれ以上、俺がいろいろと力を使うことは、世界の秩序的によろしくないだろう。
あまり超常的な力は使うべきではないんだ。
――これまで結構使っているとか言う言葉は聞かない。
そのとき、俺はその転校生が男なのか、女なのか、知らないなと気付く。
――まあ、気分的には女子がいいけど、面倒なのは嫌だから、男子のほうがいいかな。嫌なやつだったら、催眠掛ければいいし。
すぐに先ほどの思いを裏切る気持ちが出てしまうのは、ストレスのせいだろう。
そのとき、目の前から一人の人物が歩いてくる。
その人物の姿を確認すると、相手がズボンを履いていたので、男だと俺は判断した。
相手は目の前に来ると、口を開く。
「やあ、久し振りだね」
笑みを携えてそういってくる人物。
「お前……」
俺はその人物のことを知っていた。




