第十一話 元勇者は婚約者に名乗り出る件について(仮)
その晩、俺は軽く残りの婚約者候補たちからの攻撃を逃げ切って、一日目が終わった。
予想通り、二日目は、残りの全員のサバイバル方式、なんやかんやあって、なぜかこれまで失格となった一日目のメンバーも参加できるという謎ルールが適用されたことにより、総勢52人となったわけだった。
流石にそこまで予想をしていなかった俺だが、こちらとしては貴族様様だと、逆に感心の気持ちが出てくる。
――やるときはとことんやるのは、いいことだよ。
中途半端にされて、こちらが逆に被害を被るのはよくない、それならば向こうにはそれなりに納得に行く道を作ってあげるくらいはしてやる。
「ごめんなさいね」
朝食を一人、自分の控え室で食べていると、部屋の中にユリスとミアが入ってきた。
俺の部屋が個室となった理由は、彼女が謝る理由の一つが要因となっている。
「本当だよ。俺としたら、まったくもってやりたくないことばかりだ」
相手が珍しく弱気な態度を取るので、俺は少し嫌味を言ってやることにした。
――たまにはお灸を据えるときもないとな。
「この借りは大きいぞ?」
「わかっているわ」
神妙な顔をしてユリスが答える。
その感じが少し、俺としては調子を狂わされた。
――もっと、あたふたする感じを予想していたんだけどな。
おそらく、今のユリスがお嬢様としての威厳を備えた状態ということなのだろう。
ある意味、彼女としては、今回の騒動がどう収まるかによって、彼女だけでなくオリビア家の行く末も決まってくることになっているのだからな。
そう考えると、彼女に対して同情の気持ちがわいてくる。
貴族の中でも本当の栄華を極めることができるのはその中でもほんの一握りの人間である。ユリスの今の現状がそれをとても物語っているし、彼女の状況を知ってからだと、最初、学園で出会ったときのあの不遜な態度も少し納得できる。
立場が危ういからこそ、威張って自分を大きくみせようとする。
それは、平民だろうが下民だろうが、貴族だろうが変わらない人間の性質なのだ。
――はあ、本当はこういうことを考えたりとかしないで生きたかったんだけどな。
スーバースローライフまでの道のりはまだまだ前途多難であるということなのだろう。
「冗談だよ。ユリス」
自然とやさしい声が漏れる。
「お前の状況を知ったのはまあ、仕方なかったことだ」
「ええ、だけど本当はここまで巻き込むつもりはなかったのよ」
「そうなんだろうな」
でなければ、あんなウソを付くことはしなかっただろう。
なんとも、優しい性格だが、とてもわかりづらいのは確かだ。
「まあ、クソ貴族どもの妨害がここまで過激になって、それにここまでわかり易く出てこられたら、仕方ないって、だから、まあそう落ち込むなよ」
「べ、別に落ち込んでいないわ!」
「はは、そんだけ元気があれば十分だろ。まあ、適当にお前は観戦でもしてくれてたらいいよ。観戦はできるんだろ?」
「ええ、それは相手からも了承を得たわ。まあ向こうとしても、こちらに対しての監視の意味もこめてでしょうね」
「俺が一人で戦わないかもしれないって考えてるってことか。なんとも、愉快な頭脳をしているねー」
俺は昨晩のガイルとの会話を思い出す。
◇◆◇◆◇◆
「婚約者、ですか……」
まあ、これに関しては予想をしていたことなので、特に動揺なんてものがあるわけではない。
だから、脇汗や手汗がものすごく出ているのは、おそらく俺の基礎代謝が通常の人間の数十倍、いや数百倍あるからなのだということなのだろう。
――やべー、なんか知らないけど、やべー。
「はは、まあそう気おわないでくれ。別に、本当に君がユリスと結婚するわけじゃないよ」
「つまり、ユリス様がこの人だという人を見つけるまでの、言うなれば要らぬ虫がお嬢様に付かないための防虫剤的役目というわけですね」
何か言っている言葉が、その通りなのだが、少し変な感じになっている気がしないでもないが、まあ、いい。
少し体温が高い気がする。風邪でも引いたのかもしれない。
「まあ、そういうことだね」
ガイルは少し俺の言葉に眉をひそめてから言う。
「どうだい? 引き受けてくれるかい?」
「引き受けるも何も、私には拒否する権利はないのでは?」
「はは、君がその立場の通り、ただの従者だったら確かにそうだろう。だけど違うだろう? それにもしもただの従者だったら、娘の婚約者にはしないよ」
「はあ……」
「君には、もちろん拒否する権利はある。何せ、基本的には君は部外者だ。家のいざこざ、しかも貴族通しの争いに関わらせるべきではない。だけど、私たちには君を頼るかもしれないのもまた事実。だからこれは従者に下す命令などではなく、ユリスの友達としての君に対する頼みごとだと思ってくれたらいい」
ガイルの言葉が、すでに俺とユリスの関係を看破しているものだ。関係というか、俺の彼女に対する態度と言ったほうがいいだろうか。
――まあ、入学式で派手にやらかしてるな。調査すればわかることか。
これはシャルを再度一度、怒鳴りつける必要があるなと思いながら、ガイルと目を合わせる。
「もしも、私がその頼みごとを拒否した場合、どうするのですか?」
「そうなれば、まあ、ユリスにはどこかの貴族の人間と結婚してもらうか、オリビア家が高級貴族から落下するかだな」
「戦うおつもりで?」
「娘の幸せを願わぬ父親はいないだろう? そのためなら一族の地位くらいくれてやるさ。まあ、この気持ちを最熱させてくれたのは君だがね」
「…………」
俺はここで盛大にため息を漏らしたいところだった。
ガイルという人間、いや、彼なのか、もしくは彼を実質的に操っている人物。
俺は彼の隣に座るマンイを見た。
彼女からは得たいの知れない何かを感じる。
――別に嫌な感じではないけど、敵に回すと厄介そうだな。
俺はふっと微笑む。
「ガイルさん」
そこであえて、呼称で呼ぶ。
ここからは対等な人間として接するという意思表示だ。
緊迫した空気感が漂う。
「あなたも人が悪いですね」
「そうかな?」
「俺としては、せっかく仲良くなったユリスの家が没落するのは、少々忍びないですよ。俺がそう考えるのは、まあ予想が立つはず。俺のことはしっかりと調査をしているわけですからね」
「悪い男ではない。とはわかっているつもりだ」
「初めからこうするつもりだったんですね? 俺の実力をマンイさんに確かめさせて、実力が納得できるものなら、俺にすべてを投げるつもりだった」
「託す、と言ってもらいたいところだがね」
「ご冗談を、ここまでが……」
そこでユリスを見る。
彼女の前でしても良い話なのか……。
「まあ、経緯は別に何でもいいです。結局は俺がどうするかが一番重要なんでしょ?」
「そういうことだな」
一口、紅茶を飲んだ。
「俺がその頼みごとを引き受けて、オリビア家を高級貴族として存続させることができたとしたら、報酬はなんですか?」
「君が望むものを、できるかぎり用意しよう」
俺は微笑む。
「没落寸前の貴族が良くいいますね」
「それくらい重要なのだよ」
「俺がユリスから聞いていた最初の報酬、あれは本当ですか?」
「畑の土地と、人員だったかな?」
「そうです」
「もちろん、あれにプラスアルファ何か用意しよう」
「あれだけで十分です」
「それ以上は望まないということか?」
「はい、その代わり、今回の最後までの筋書き、ある程度書き換えてください」
俺はガイルではなくマンイを見て言う。
「どうするのですか?」
マンイが答えた。
俺は口角を上げる。
「簡単です。俺が明日、その婚約者騒動に、婚約者候補として参加します。あれはもともと誰もで参加できる方式だった。構わないでしょう。もしも相手がダダをこねたらそこは、相手をそちらで承諾させてください。そうですね。俺が魔力を使わないって言う条件が継続なら、おそらく承諾してくれるでしょう。流石に魔力なしの相手に負けて言い訳はできない。最後に言うよりも、最初から宣言しているほうが公正感がでるでしょう?。」
「ですが、相手はさらなる条件を突きつけてくるかもしれませんわよ?」
「人数が増えるくらいなら別に構いません、行動制限もある程度は許容範囲です。それともう一つ、モニターによる観戦の許可をお願いします。そしてそれを知り合いの公正な聖騎士に同時に見てもらってください。後で何か言われないようにね。これくらいはできますよね?」
俺の言葉にマンイは口を押さえた。
「わかりました。手配しましょう。ですが、ここでもししくじることがありましたら、そのときはわかっていますよね?」
「ええ、まあ。大丈夫です」
「では、そのようにします」
◇◆◇◆◇◆
そんなこんなな出来事があったから、俺は不正や提案などができない、されないように個室に隔離されていたわけだった。
「俺としては、畑が手に入って人員が手に入るなら、何でもやるんだよ。それにお前が高級貴族のままじゃないと、学園でいろいろと面倒くさそうだしな」
「まったく畑馬鹿ね」
「何をいってやがる。畑で取れた野菜が世界を作っているんだからな?」
俺は朝食を終えて、立ち上がって、ドアへと向かう。
「まあ、見とけって、すぐ終わらせるから」
ユリスの頭を通りすぎるときに軽く撫でてやる。
子供をあやすのは得意なほうだ。
――さてと、久しぶりにやりますか。




