第三十話 元勇者は100の世界を持つ件について(仮)
「いったい、何が起こったというんだ……」
「簡単な話だ。ただ手で握りつぶした。それだけだよ」
「は?」
まあ、シルバーの気持ちもわからなくはない。
相手から奪った力で渾身の一撃を放ったのに、それが片手で止められたんだからな。想像すらしていなかった出来事だろう。
しかたがないから、俺は説明をしてやることにする。
「お前が千年のときをいきる勇者なら、俺は百の世界を転生してきた勇者なわけだ。つっても、俺は常に勇者だったわけじゃないんだけどな」
「百の世界……だと……?」
「ああ、そして、お前が奪った力は俺の前の世界の分、つまり一つの世界の分だけってことだな」
「っということは…、後九十九もこれほどの力がるというのか……」
「まあ、そうなるな」
「ふふふふふふ、はははははは、ならそれだけの力も奪わせてもらおう!」
シルバーが右腕を突き出してくる。
「それはお勧めしないな。死ぬぞ? まあ、その前に無理だけどな。リミット1」
俺の魔力は急激に下がる。
「いったい、何が……」
「俺は万が一お前みたいな敵と遭遇したときのために、自分の力にリミットを掛けててな。だから、そのリミットが掛かってるとそれまでしか力が使えない。つまり、お前も奪えない」
「ならば!」
シルバーが、俺に向かってくる。
そしてシルバーが斬撃を俺に飛ばしてきた。どれも加護の力を最大限に利用したもので、この学園を一振りで破壊するほどのものだ。
それを俺はすべて寸でのところで交わす。
「その状態で始末するか、力を出現させた瞬間、また強奪すればよかろう!」
「いやいや、強奪とか勇者が言ったらだめだって」
俺は気の流れを読み切り、シルバーが飛ばしてきた斬撃を逆に腕にまとって、放つ。
シルバーが飛ばしたものと、俺が放ったものがぶつかり、衝撃波と共に相殺された。
「何!?」
「こういうのは別に能力じゃないからな。体に染み付いたもんは奪えねえだろ?」
「ならば!」
魔力系を飛ばすのは不利と見て、シルバーが近接戦闘を仕掛けてくる。
これなら、自身を魔力で強化できない俺に不利とみたらしい。
―甘いな。
俺は気を操り、高速で重いシルバーの攻撃を軽く流し、シルバーを子供のようにあしらってやる。
「いったい、どうなっている!」
「千年生きて来ても、歩んできた死地の数が違うんだよ」
俺が最初転生させられた場所は百年続く戦争が続いている世界だった。
その世界では俺が前世で獲得した力など無に等しく。一から鍛えてその世界を救った。それこそ毎日が死と隣り合わせの世界だ。
―今思えばあの世界が一番つらかったなあ。
「くそう! こうなったら、王都を消し去る規模の攻撃を放てば、流石に受けきるしかあるまい!」
まったく、えげつないことを考えるもんだ。自身が作ったエデンとかいうのを破壊する危険性がある攻撃を放つなんて、すでにお前がこの世界の害だよ。ほんと、勇者が老害になったら駄目でしょ。
―はあ、仕方ない。すぐ終わらせるか。
「リミット10……」
俺は世界を十個開いた。
俺の体に無限といってもいいほどの魔力が流れ込む。
「はは! 無駄だ! 奪わせてもらう! ハック(強奪)!!」
だが、その瞬間シルバーが血しぶきを吐き、床に膝を着いた。
「だから言ったろ? 死ぬぞって、お前じゃ受けきれねえよ。お前の魂じゃな」
「くそ……。だがいいのか? 貴様はそれほどの力を持っているかもしれんが、向こうの元魔王は今頃、彼女が殺してしまっているかもしれないぞ?」
「それはねえよ」
「何?」
だって、あいつは俺に世界を三十も開けさせたやつだからな。一世界であれほどの力は異常だ。本当に化け物だよ。
「あいつも、力隠してたからな。それよりも自分の心配しろよ。もう詰みだぜ?」
「ふん。私はここで死のうともまた転生できる。いずれまた貴様を倒すために姿を現そう」
俺は心の中で頭を抱えた。
―お前の生きる趣旨変わってもうてるやん! ってか、もう姿みんでええわ!
「ふう。こんなときのために覚えておいてよかったかな」
俺は、シルバーに手の平を向けた。
「我、安らかな眠りを汝に与えなむ」
「貴様……何を?!」
「うん? ああ、魂を行くべくところに送る魔法、俺修道院にいた世界もあってさ。神父さんやってたんだ。これは全世界共通の力だろ?」
「や、やめろ!!」
先ほどまでの威勢はどこへやら? シルバーが急に焦りだす。
シルバーの周りに全方位魔法が現れた。
「わ、私は!」
「まあ、向こうで神様にキツイお説教でも受けてくれよ。な? あの人結構怖いけど、ガンバ」
「う、うわああああああ!」
魔方陣が発光して、シルバーを光が包んだ。
シルバーが一頻り苦しんだ後、彼の体から、白い魂が抜けて、それが天に昇っていった。
「さてと、シャルのほうにも行ってみるか」
俺は、シャルの魔力を感知する。
―なんだ。下か。
「アクティベート」
俺は、時空間転移魔法を使ってシャルのところに飛んだ。
「って、お前やりすぎじゃね?」
「あれ、ヒカルじゃない。そっちは終わったの?」
「ああ、まあな。勇者様は天に召されていったよ」
俺はシャルの対面に目をやる。
そこには、壁にめり込んだミアがいた。なんとも無惨な姿である。
「上手くリミットはずせたみたいだな」
「うん! まあ、私はまだリミット2までしかないけどね」
シャルが今まで使っていたものはあくまでもこの世界で鍛えたものだ。
だから前世で使っていた魔力などはまだ使っていなかった。つまり、いくら畏怖の力を奪ったところでシャルの力が弱まることはほとんどなかったわけだ。
「それにしても、ヒカルの思った通りだったわね。相手の能力も全部言い当てるなんて流石じゃない」
「別になんでもないさ。俺もシルバーと同じなんでも見る眼があっただけだ。しかもこれは魂に刻まれた能力だからな。あいつの能力でも見ることも奪うこともできない」
まあ、まさかの未来予知に入られるとは誤算ではあった。
でも、対面してそれは全部視ることができたので、問題はなかった。
千里眼の本当の能力を使うにはリミットを3は開けないといけないので、それまでは気が付かなかったというわけだ。
だから、俺は相手に気づかれないように、魔力を使わない世界を開いてリミットを3にして相手の中身を視たわけだ。魔力さえ上がらなければ向こうにはリミットをはずしたことはばれないと判断したからなわけだが、見事にそれが上手くいった。
「それで、どうするの?」
「この魔王さんにも行くべきところに行ってもらうよ。ミアは返して欲しいしな」
「え? ミアが魔王じゃないの?!」
俺はミアに近づく。
「こいつらの転生の黒魔術は不完全なんだよ。本当は転生してるわけじゃなくて、人格を乗っ取っているだけ、つまり精神作用系の魔術だ。だから、ミアとしての人格は残っているし、普段は本当のミアが表に出ていたみたいだからな。特にユリスの従者のときはそうだと思うぞ」
俺はシルバーに行ったときと同様のことをする。
ミアの体光に包まれ発光しだした。
そのとき、ミアが意識を取り戻した。まだ人格は魔王だ。
「あの人は……?」
「綺麗に天に昇ってったよ」
「そう。私は地獄かしらね」
「さあ、向こうが地獄で、あんたが天国かもよ?」
それを聞いて魔王は微笑んだ。
そして、ミアから黒い魂が飛び出し天に昇っていく。
「さてと、いっちょ上がりかな」
俺はミアの体を起こしておんぶした。
―多分ユリスが心配してるだろうな。
まあシルバー学長のほうは、大丈夫だろう。ただ、あの人は普段から勇者だったみたいだから、実際の人格がどんななのかはわからないけどね。
俺たちはその後普通に家に戻ったのだが、後日、また聖騎士たちが家にやってきた。
そして、俺は裁判に掛けられることになった。
あの名もなき勇者、(聞き忘れたため)たちが残した偽装により俺は窮地に追い込まれるが、ユリスや復活したミアの尽力、決定的な証拠がないことなどから、不起訴となり無事に開放された。




