プロローグ 前世の記憶
「くそ、俺は必ずお前を倒し、世界を救う!」
「ふん、貴様にそれができるかな? 我の力は、すでに貴様の倍以上だ。世界の混沌が我に力を与えてくれる。貴様の仲間もすでにみな倒れた。それでも戦いを続けるというのか?」
「当たり前だ! 俺は勇者、あきらめることは許されない。ここで引き下がれば、お前による支配がまた広がるだろう。そんなことはさせない!」
「ふふふ……。いいだろう。ならば来るがいい! 若き勇者よ!」
勇者は、魔王に向かっていく。
二人がいる場所は、魔王城、ここまで来るまでに、勇者はたくさんの仲間を失い。大切な人も失った。
だが、それでもたどり着いた場所だ。相手は、自分よりも強大な力を持っている。それでも、魔法使い、剣使い、村娘、執事、銃使い、弓使い、ゴブリン、町医者、盗賊、山賊、海賊、首領、その他もろもろの人々の助けでここまで来ることができた。
それに対する感謝、みなの期待に答えるためにも、ここで、自分があきらめるわけにはいかない。
勇者は聖剣を振りかざし、魔王に向かっていく。相手の巨体は、勇者の倍以上、その姿の全貌はまだ見えていない。
魔王も魔剣を振りかざし、二人の剣が衝突する。二つの刃による衝撃波はものすごく、魔王城の正室は、それだけで、悲鳴を上げる。
「そんなものか! 勇者よ!!」
「くっ!」
勇者は、鍔迫り合いに敗れ、後方に飛ばされる。
だが、すぐに、次の攻撃を仕掛ける。
魔王は、勇者の攻撃を軽くいなす。
「どうした? 先ほどの威勢はどこへやらだぞ?」
「まだ!」
勇者は、剣の構えを変える。剣を体の前で立てて、まるで、祈るようなポーズだ。
「人々の声よ。我に聖なる守護を与えたまらん・・・」
勇者の周りに光の精霊が集まり。衣となって勇者を包み発光した。
「まだ、それほどの加護が受けられるというのか?!」
「人々の想いをなめるなよ! 例え、人類が最後に一人となったとしても、その想いは必ず悪を討ち滅ぼす力となる!」
勇者は、魔王に向かって、閃光一線、最速の突きを放つ!
魔王はそれを、なんとか、魔剣の腹で防ぐ。
「くうううう!」
「吹き飛べ!」
魔王は、勇者の攻撃の威力を抑えきれずに、吹き飛ばされる。そして、後方の壁に激突した。
「なっ!」
そのとき、大きな黒いローブによって隠されていた魔王の姿が露わになる。
「我をここまで追い詰めたのは、歴代の勇者の中でも貴様が始めてだぞ! 誇るがいい! この姿を見たのも貴様が始めてだ! この姿を見ても貴様は我を殺すことができるか?」
魔王がそういい、白い歯を見せる。
そこに見えるのは無垢な少女のそれである。
「……貴様が、どんな姿であろうが・・・。俺のやることは変わらない! 魔王を倒す!」
「ならば来い! 我、世界を混沌の闇へと誘う者なり、世界の絶望よ、我の力となれ……」
魔王の周りに、世界の悲鳴、恐怖が集まっていく。そして、魔王はそれをほお張った。
「何!?」
魔王の体の傷がみるみるうちに直っていく。
「我は、世界に不幸な人間がいる限り、無敵だ!」
魔王は、手を勇者に向けて、そこからどす黒い魔弾を放つ。
勇者はそれを剣で受け止める。が、今度は勇者が後方に飛ばされた。
「ぐはっ!」
勇者が壁に衝突して、膝を着く。
「はははははは、やはり、お前には我は倒せまい!」
「まだだ!」
勇者は、立ち上がる。
「俺は必ず。お前を倒す!」
そして再度、体勢を整え、剣先を魔王に向けて構える。
「我、世界の幸福を願わん者、恐慌の元となるものを打ち滅ぼさん!」
勇者の力が急激に上がっていく。それを見て、魔王は微笑んだ。
「これで、正真正銘最後というわけか・・・」
勇者が構えている剣の剣先に小さな光の塊が出現する。そして、それを魔王に向かって突き出す。
「我、世界に破滅と混沌をもたらさん者、生きとし生ける者、みなに平等という名の不幸を!!」
魔王も剣先を勇者に向ける構えを取る。剣先に黒い塊が出現した。そして、それを勇者に向かって突き出す。
「スター・ショック・バーストー!!!!!」
「ダーク・エナジー・ストリーム!!!!!」
両者の剣から放たれた攻撃が、二人の間のちょうど中間距離のところで、衝突する。凄まじい衝撃音、衝撃波が起こる。
「「はあああああああ!!!!」」
その衝撃で、魔王城は崩れていく。
世界の命運はこのとき決まった。
ボロボロボロ・・・・。
原型のとどめていない魔王城で、一人が、一人を見下ろしている。
「はは、まさか、こんなことになろうとはな……」
立っている者は、勇者、倒れているものは、魔王だ。
「俺の勝ちだ……」
「ああ、そうだな。我の負けだ」
「ひとつ聞いてもいいか?」
「何だ?」
魔王は、勇者に視線を向ける。
「どうして、こんなことをした? どうして、世界を混乱に陥れた? 俺にはどうも……」
その問いに、魔王は微笑む。
「これから、我が言うことを貴様がどう思うかはわからないが、最後の褒美に本心を語ろう」
勇者は黙って先を待つ。
「我は世界が、好きだ。幸福を願っている。だが、どれだけ正義を貫こうとしても、大きな光には、大きな影が付き物だ。我はその影を消したかった。ただ。それだけだ・・・」
「だから、自分が大きな影、闇になり、自分が倒されることで、すべてを光で照らそうとしたのか?」
「……」
魔王は勇者の問い掛けには答えない。だが、その代わり、やさしい笑顔を勇者に向けた。
「さあ、早く、我に留めを刺せ、いつ我が復活するかわからんぞ?」
「……わかった……」
勇者は、魔王に近づき、膝を着いて、魔王の心臓の上に、折れた聖剣を突きたてる。
「後の世界は頼んだぞ。勇者よ」
「ああ、任された……」
勇者は一気に、剣を下ろす。
「これで、すべてが終わりか」
勇者は、崩れかけの魔王城で、建物の隙間からわずかに見える空を眺めて言う。
茜色の綺麗な空だった。
「いや、まだ、やることはあるか……」
魔王にこの後の世界のことを託された。これから、自分は魔王の思いも背負わなければならない。正直、重い。だが、それが勇者の役割ならば、惜しみなく力を発揮しよう。そして、世界に幸福をもたらしてみせる。
ドコン!
そのとき、勇者の頭に激痛が走り。視界が消え、勇者は意識を失った。
なんとなく、思いついた話を書いてみました。
他にも何個も連載しているので、こちらの更新は遅くなると思いますが、がんばります。