第十一話 元勇者は力を出す件について(仮)
「まあ、一人で剣術とか――」
「ふん。そんなことはどうでもいい。どれほど貴様が私の予想外の行動をしようとも、私と貴様の力の差が埋まることはないのだからな」
オールバックめ、俺の話を途中でさえぎりやがって。
相手は今、自分の力に酔っている。ということは本来の力よりもかなり今が異常だということだ。
だから、俺の剣技に対してもそこまで警戒をしていない。いや、もしかしたらそれを見抜けるほどの目を持っていないのかもしれないけど。
しかし、これは好都合だ。これなら、少しくらい力を出してもばれないだろう。
問題は、なぜか、相手の力がどんどん上昇していっている点か……。
「再度、行かせてもらうぞ!」
オールバックが俺に高速の突きを放ってくる。
――こいつ、もうタガが外れて俺のこと殺す気じゃねえか! さっきもし俺が殺されそうになったら止めるとか言ってたやつは、外野でギャーギャー言ってるだけだし、どうなってんだよ!
俺は相手の突きを、身体を後ろに引きながら反転させてかわす。
オールバックはそこで急停止して、突きの状態から、剣を俺の方向に振ってくる。このままでは俺の体が真っ二つになってしまうので、その斬撃を飛んでかわす。
「飛んでかわすとは愚の骨頂!」
オールバックは振り切った剣に力を入れるためにした両手持ちから片手に持ち替えて、余った片手を握り締める。そこから飛んで逃げ場のなくなった俺の顔面に対して鉄拳を放って来た。生身の身体で普通に食らえば確実に重傷を負うレベルの攻撃だ。
俺はそれを両腕でガードして防ぐ。そのときに強化魔法でばれないように腕を強化した。
ドガッ!
相手の拳が俺の腕にぶつかる。
「くっ!」
俺は見事にそこから、かなり吹っ飛ばされた。
そして地面に「ズザー」という音を立てながら倒れこんだ。
――よし、作戦成功だ。
俺は見事にできるだけ損傷がないように一撃を受けることができた。先ほどのパンチの衝撃により、鼻血が出している。負傷の度合いとしては低いが。一旦、降参してみるかな。
「も、もう駄目です。身体が動きません。降参です。俺の負けです……」
できるだけひ弱で、本当に勘弁してくれという声を出す。
「駄目だ」
「え?」
オールバックは俺に近づいてくる。
「貴様はまだぴんぴんしてるじゃないか。五体満足で終えれると思わないことだな」
俺は他の聖騎士も見た。
彼らも止める気はないらしい。といっても彼らが本気で止めようとしても止められるかどうは怪しいが。
要は俺の体が見るも無残にならないと気が済まないということだ。
――はあ、めんどくさいな。
俺がまだ魔物討伐関連の関係者である可能性が高いから命が見逃されているわけだが、命があれば何をしてもいいというわけじゃないだろうに、こいつらにとっては一般人の、しかも俺みたいな田舎者の命なんて最悪消えても構わないってわけか。
まあ、理解はしていたが、まさかここまで相手がくそ野郎だったとはな。
相手の力はさらに上昇していく。だが、それに伴い。俺には相手の力の正体がわかってきた。
俺はシャルを見る。やつは口を小さく細やかに動かしていた。
――増幅強化魔法か。
まったく、そこまでして俺に戦って欲しいのかね? ほんと元魔王様の考えることはわからないよ。
「まずは両手から貰おうか」
――ああもう!
こんな状況だと俺の中にある勇者の心が疼いてきてしまっている自分に気が付いた。
相手が魔王の援助を受けているというなら多少力も出していいのではという思いが湧き上る。
オールバック聖騎士が、離れた位置から一瞬で俺の目の前に移動してきた。
そして、俺の右腕に向けて斬撃を振り下ろして来る。
俺は持っている折れた剣を軽くその斬撃に向けて合わせるようにして動かした。
相手の剣と、俺の折れた剣が交わる。
相手の腕が振り下ろされ俺の手が振り上げられて、ガキ! という音がした。
「ば、馬鹿な!」
「これでお揃いだな。まあうれしくないけど」
オールバック聖騎士の剣は、見事に真っ二つに折れていた。飛んでいった剣先が、相手の前に落ちて地面に突き刺さる。
「何をしたああ!」
「うるさいよ」
相手が折れた剣の先を俺に向けて突き刺してくる。それをこちらも折れた剣でなぎ払い。相手のがら空きとなったわき腹に、余っている左手で軽く触れてやった。
刹那。
相手が軽く数百メートル吹っ飛んでいく。
――あ、やべやりすぎた。
吹っ飛んでいったオールバックは地面を転がっていき、空気抵抗と摩擦で止まる。
周りにいる二人の聖騎士は、飛んでいく姿を視認することはできず。もう遠くで伸びてしまった自らの隊長を見ることしかできなかった。
さてと、ここからどうするかが問題だ。つい力の加減をミスってしまった。久しぶりに力を使うとこれだから大変だな。
先ほど、俺が使ったのはこの世界の力と、前の世界の力を合わせたものだ。
前の世界の力である自らの魔力を直接使う部分と、こちらの世界の力である魔力によって使う自然力の部分を合わせて相手のわき腹に当てただけだが、かなりの威力が出てしまった。
実は魔力と自然力は単体で使うよりも合わせたほうが威力が上がることを俺は知っていた。
ならどうしてその事実を俺が知っていて、俺がこの世界の力を使うことができるかというと、この世界も来る前に使ったことがあるからだ。これはシャルも知らない事実。
「えっと、びっくりしたあ。まさか力の暴発で勝手に吹っ飛んでいくなんて、ラッキー。あはははは」
「いったい、何が・・・」
立会人の聖騎士は状況の整理に必死だ。
もう一方の騒いでいた聖騎士は唖然として固まっている。
どうしたもんかなと思っていると、シャルが俺に近づいてきた。
「流石、元勇者ね。でも私、あの力見たことないんだけどなあ」
「うるせえ、お前のせいでとんだ面倒ごとに巻き込まれて俺は心底嫌気がさしてるんだ」
「そんなこといって、結構楽しそうに戦ってたわよ」
「誰か楽しいか!」
「ふふ」
シャルがうれしそうに笑った。こいつ、ふざけやがって……。
この元魔王様に対していろいろと思うところはそりゃ多々あるわけで、言葉だけでは言い表せない気持ちでいっぱいだが、ここは我慢してやろう。後できつい仕返しをしてやる。はいこれ決定事項。
「とりあえず。お前この状況をどうするつもりだ?」
「私が考えてないとでも?」
「ってことはやっぱり、ここまで全部がお前の思い通りってことかよ」
俺はため息をついた。
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